幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.4 魔書

キズだらけのネプギアの口にヒールグラスを何本か流し込んでから、ロムちゃんとネプギアを連れてディールちゃんが走っていった方に急ぐ。

 

「確かこっちの方に逃げたはずよ!」

「うぅ…ラムちゃんひどいよ…うぇっぷ…」

「し、仕方ないでしょ! わたし回復魔法あんまり得意じゃないんだから!」

 

ロムちゃんをおんぶしながらついてくるネプギアが一気にヒールグラスを飲まされて具合悪そうだけど、そんなのまで気にしてるよゆーはない。

また連れていかれる前に、連れ戻さなきゃ…!

 

そう思いながら暫く走り続けていると、誰かが争っているような声が聞こえてきた。

声のしたほうに向かってみると…なんか黄色くてでっかくて、長い舌を出してるぬいぐるみみたいな奴と、あいつ……エストがいた。

 

「…どういう事よ」

 

ネプギアが「ちょっと様子を見てみよう?」と言ってきたから、物陰からエスト達の様子を見てみる。

なんかあいつ、怒ってるみたいだけど…

 

「アククク! どうもこうも、この幼女には"素質がある"と言ったであろう?」

「そんなもん、知らないわよ」

 

気味悪い笑い方をするぬいぐるみ。

よく見てみるとそのぬいぐるみは、舌に誰かを巻き付けていた。

あれは…ディールちゃんだ!

 

「いいから、返せ!」

「アクククク! できるならしてみるがいいさ」

「何を…ぐっ!?」

 

と、そこで怒ってるっぽいエストが、ぬいぐるみに向かって攻撃しようとする。

けど、途中で地面が光ったかと思うと、エストは地面に膝をついていた。

 

「どうしよう、なんか取り込み中っぽいんだけど」

「暫く様子見てみる…?」

「でもディールちゃん明らかに捕まってるし…」

 

物陰に隠れつつネプギアと相談。

ほんとは今すぐにでも飛び出してディールちゃんを助けたいけど…ロムちゃんとの戦いでわたしもけっこーしょーもーしちゃってるし…

 

「この幼女をぺろぺ、捕獲したら反発するだろうことなど想定済み。幼女の考えなどお見通しということだ。アーッククククク!!」

「ぐ…何、したの…!」

 

ふらふらしながらも立ち上がるエスト。

…なんだろうさっきよりもなんか…怖くなくなった?

 

「何、ちょっとした封印術式の一種。これで今までのような強力な力はそう易々と振るえんという事だ」

「チッ、端っから用意してたってわけね…」

「アクク、そういう事だ。さて、それでは吾輩はこの幼女を献上せねばならんのでな」

 

そう言ってぬいぐるみはディールちゃんを捕まえたまま下がり始める。

…って、ディールちゃんが連れてかれる!

 

「あっ、ラムちゃん!?」

「こらー! アンタ! 待ちなさいよ!」

 

我慢しきれなくなって、わたしはネプギアを置いて飛び出した。

 

「んん? おお、新たなる幼女! だが悲しきかな、今は相手をしている暇がないのだよ」

「うるさいなんか気持ち悪いやつ! ディールちゃんを返しなさいよ!!」

 

そいつに見られた瞬間なんだか寒気がして、思わずそう叫びながら魔法で氷を飛ばす。

けど、それは相手に届く前に、上から降ってきたなにかでかき消された。

 

「あれは…キラーマシン!?」

 

降ってきた何か…ロボット? みたいなやつを見て、ネプギアが驚いたような声を上げた。

そう言われてみるとなんか沢山見た覚えがあるわね、こいつ。

 

「相手はこやつがしてくれるであろうよ。ではそこな二人の幼女達よ、さらばだ!」

「ま、待ちなさいっ!」

 

そしてぬいぐるみみたいなやつは、キラーマシンに任せてどこかに消えてった。

ディールちゃんが、連れていかれちゃった…

 

「ハイジョ シマス。ハイジョ ハイジョ ハイジョ…」

「ああもう! 鉄くずの分際で…そこの候補生!」

 

エストが後を追おうとするけど、その場に残ったキラーマシンに邪魔をされている。

すると急にこっちを向いてわたし達を呼んできた。

候補生って言ったし、わたし達よね。そもそもわたし達以外に人いないし。

 

「な、なによ!」

「手を貸しなさい!」

「はぁ!? なんでアンタなんかに!」

 

突然に、しかも命令みたいな言い方をされて、思わず言い返す。

そもそも、ネプギアとか吹っ飛ばされてたし。敵だもん。

 

「あの変態にハメられて、前程の力が出せないのよ! そもそもわたしが死んだところでこいつはこの街かアンタらを襲うわよ!」

「む…」

 

そう言われると、あれがキラーマシンならそうなるかもしれない。

 

「…ラムちゃん。助けて、あげよう…?」

「えっ…ロムちゃん?」

 

どうしようかと考えていると、ロムちゃんがネプギアに支えられながらもそう言ってきた。

それはそれとして…どういうこと?

 

「…もしかしてロムちゃんまだ洗脳解けてない?」

「と、解けてるよ…。…ね、ラムちゃん、お願い…」

「む、むむむむ…っ」

 

ロムちゃんのお願いは断りたくないのと、ネプギアとは違ってめーかくに敵なアイツをあんまり助けたくないのがぶつかってますます悩む。

うー、どうしよう…

 

「ね、ねぇ、ラムちゃん。悩むのは良いんだけど…」

「なによネプギア、今ちょっと考え中なんだから黙ってて」

「いや、その考えてる相手がすごくピンチだよって…」

 

そう言ってネプギアが指差した先。

エストがキラーマシンに追い回されていた。

 

「うわあああああちょっといつまで時間かけてるのよ手を貸すなら早く貸しなさいよバカ!!」

「ちょっ、逃げ回って街壊さないでよ!」

「無茶言うんじゃないわ!?」

 

とにかくあいつは早く止めないと街がどんどん壊れちゃいそうだし…むー、仕方ない。

 

「ロムちゃん、あとネプギアも。戦えそう?」

「…! う、うんっ! がんばる…(ぐっ)」

「私も…大丈夫だよ!」

 

確認するようにそう言うと、ロムちゃんもネプギアも準備万端って感じに自分の武器を構えていた。

 

「じゃあまずはロムちゃん、一緒に!」

「うん…!」

 

そしてまずはロムちゃんと二人並んで、力を合わせてたくさんの氷の塊を魔法で作り出し、キラーマシンに向けて打ち出す。

 

「ネプギアっ」「ネプギアちゃん…!」

「任せて! やああああっ!!」

 

ロムちゃんと同時にネプギアの名前を呼ぶ。

ネプギアはビームソードを構えながらその氷塊と一緒になって駆け出して、キラーマシンを切り付けた。

でも…

 

「っ、効いてない…!?」

 

一撃だけ切り付けたネプギアが驚いたような反応をしながら、素早く下がってくる。

というか、わたし達の魔法も効いてない…?

 

「ぜぇ、はぁ……お、遅いわよ…」

「ラムちゃん、これは一旦下がったほうが良いかも…」

「言われなくてもそう思ってたから! いちじてったーい!」

「え、ちょっ、ま…」

 

どうしようもないと感じて、ネプギアに言われるまでもなく一旦逃げて隠れる。

息を切らしているエストも一緒に。

 

「はぁ…ひぃ…ふ、封印さえくらってなければぁ…」

「ちょっとあんた! 何よあいつ! なんか攻撃効いてないっぽいんだけど!」

「そりゃ、そうよ…はぁ…あれは、封印されてたキラーマシンとは…ふぅ…違うもの…」

「どういうことよ!」

 

わたしがそう聞き返すと、ぜぇぜぇとしながらエストは話を続けた。

 

「あれは、キラーマシンの改造版で…物理攻撃も魔法攻撃もカットする、特殊なシールドを張ってるとかって…聞いたわ」

「しーるど…?」

「それって、どうしようもないんじゃ…」

 

ロムちゃんが首を傾げて、ネプギアは困ったような顔。

しーるどってのはよくわかんないけど、とりあえず攻撃が何も効かないってことね。

……どうしろってのよ!

 

「…………どうにかできないことも、ないけど」

 

そんな時、エストがぼそりとそう呟いた。

 

「倒せるの?」

「まぁ。…ただ、わたしの事、信用できないでしょ」

「うん」

「ら、ラムちゃん…」

 

エストの言葉に即頷くと、ロムちゃんに悲しそうな顔をされた。

だって…こいつの場合あの時とは違うし…

 

「あんたは完っ璧敵側だったわけだし。ネプギアとか吹っ飛ばしたりぶっそーな事言うし、当然でしょ」

「……「でも」…?」

「…ロムちゃん達のこと、あの変態から守ってくれてたんでしょ。だから、ちょっとだけならしんよーしてあげるわ」

 

そう言うと、エストとロムちゃんの二人に驚いたような顔をされる。

 

わたしがそう感じたのは、ロムちゃんのエストを見る目を見てのこと。

…ネプギアの時と同じような感じだったし、だからまたそういう事なんだろうなって、思ったから。

 

「ラムちゃん…!」

「………そう」

「…?」

 

…なんだろう、今なにか言った…?

 

「み、みんな! もうすぐキラーマシンがこっちまで来ちゃうよ!」

「…あなた、あの本持ってたわよね」

「え? あ、ディールちゃんの?」

「そう。それ、出して」

 

キラーマシンの様子を見ていたネプギアの慌てたような声に、エストはそんなことを言い出す。

何をする気かはわからないけど、どうにかできないこともない、って言ってたわけだし、言われた通りに本を取り出す。

…どこにしまってたのか? ネプギアがもってるあれ…Nぎあ? みたいな感じだけど?

 

「…時間がないから、今からあなたを『仮登録』させてもらうわ」

「かり…え、なに?」

「説明してる余裕はないから、勝手にするけど」

 

そう言いながらエストは、わたしの持つ本に手をかざす。

 

「……コード認証。登録設定……対象を仮登録……認証中、この動作には数分かかります……」

「ちょ、ちょっと? え? なに!?」

「どう、なってるの…?(おろおろ)」

「な、なんだろう、既視感があるような…」

 

すると急にエストが機械みたいな喋り方になって、ロムちゃんと一緒になって慌てる。

ネプギアは何か気になってるみたいだったけど…っていうかもうあいつがすぐ近くまで来てるのにっ!

 

「………認証終了。対象『ホワイトシスター ラム』を仮登録…」

「な、なんなのよ、もうっ!」

「もう良いわ! あとはそれに魔力を込めながら指示して!」

 

それ? それって、これ(本)?

なんて戸惑ってるうちにもうキラーマシンがすぐそこに…

…ああもう! どうにでもなれ!

 

「や、やっちゃえ、エスト!」

 

疑ったりとかしてる時間もなかったから、言われた通りに本に魔力を込めて叫ぶ。

すると、なんだか身体から力が…魔力が抜かれるような感覚。

 

「…了解よ」

 

それと同時にエストがしゅばっ、と跳んで、両手をばちばちとさせながら構えた。

 

「…消し飛べ!」

 

そしてそのままキラーマシンに向かって、物凄い音といっしょに電撃を放った。

 

「「「きゃあっ!?」」」

 

それがキラーマシンに効いたかはともかく、とうぜんそんな大きな音と光を出されたらわたし達もびっくりするわけで。

三人揃って悲鳴をあげる。

べ、別にわたしは雷が怖いとかそういうんじゃないからね、いきなりおっきな音鳴らされてびっくりしただけだから。

 

…って、それは置いといて、今大事なのは突然の雷で半泣きでぷるぷるしているロムちゃん…でもなくって。や、ロムちゃんは当然可愛いんだけど。

そうじゃなくて…

 

「…ふぅ、防げる許容ダメージをオーバーすればこの程度…所詮は過去の遺物か」

 

パンパンっ、と手を払いながらこっちに戻ってくるエスト。

その後には…さっきまで全然攻撃が効かなかったはずのキラーマシンが、動きを止めて煙を出していた。

 

「……あれ」

 

あまりの威力の魔法にぽかんとしていると、急にぐらっと視界が揺れて、

思わず地面に座り込む。

 

「ら、ラムちゃん…!?」

「だ、大丈夫!?」

「う、うん、なんかちょっとくらってしただけ…」

「まぁ、最初はそんなものよね」

 

心配そうに駆け寄って来るロムちゃんとネプギアと、こうなると知ってたような口ぶりのエスト。

…もしかしてわたし、騙された?

 

「言っておくけど、詐欺とかじゃないからね。要はあなたの魔力をお借りしただけよ、メガミサマ」

「魔力?」

「そ。道具が自分の意思で力を行使するのはとっても大変なの。でも、誰かに使ってもらうのならそうでもないから」

「ま、待ってください。それじゃ、あなたは…」

 

その説明にネプギアが何かに気づいたようにそう言うと、エストはくすりと笑った。

 

「そう、女神レッドハートって言うのは嘘。わたしは──」

 

 

 

 

「わたしの真名は『魔書グリモワール』。あんたの持っているその本よ」

 

 

 




~パロディ解説~
・やっちゃえ、エスト!
fate/stay nightより、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの台詞「やっちゃえ、バーサーカー!」
ゲイムギョウ界で聖杯戦争が起こるとしたら、マスター適正が高いのは誰になるんでしょうね? そもそも女神達はサーヴァント側でしょうか。

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