幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.3 相対! ホワイトシスターズ

フィナンシェちゃんの案内で向かった避難所でミナちゃんとも再開したわたしとネプギアは、早速なくなったシェアを少しでも集めるために行動を始めた。

逃げ遅れた人たちを助けて避難所まで送り届けたり、食べ物とか資源を届けたり…そんな感じ。

 

そんなことをしてたらすぐ場所がバレるんじゃ…と最初は思っていたけど、フィナンシェちゃんが、

 

「そう言うと思いまして、ラステイションから良い物を借りておいたんです!」

 

って言いながら、すてるすなんとかって道具をわたし達に渡してきた。

どういう仕組みかはよくわからないけど、こーかがくなんちゃらっていうので少しの間だけ透明になって見えなくなるんだーとか。ほんとに少しだけだけど。

色々思うことはあったけど、とりあえず帰る時はそれを使ってどうにかバレずにこそこそと活動をして、結果的にそこそこのシェアを集めることが出来た。

 

で、なんでシェアを集めてるか?

これはネプギアがプラネテューヌの教祖と連絡を取り合った時にこんな話があって…

 

 

『ロムさんが洗脳されてしまったのは、恐らくシェア不足による弱体化が原因と見て良いかと。でなければ、女神がそう容易く洗脳なんてされるはずがありません』

「じゃ、じゃあシェアを集めればロムちゃんは元に戻るのね!?」

『いえ、それだけではきっと洗脳状態は解けないと思います。それに相手側がシェア回収を見過ごすとも思えませんし。…ですが、一度に多量のシェアを与えれば、或いは…』

「…あっ、シェアクリスタルですね!」

「シェアクリスタル…なるほど…」

 

 

って事で、わたし達はあいつらに邪魔されないうちにぱぱーっとシェアを集めて、やっとしぇあくりすたる?とか言うのをなんとか二個作り出すことに成功したわけ。

逃げ遅れたりした人たちを助けたり…ぶっし?を運んだり、わたしも色々頑張ったんだから。

 

「…すみません、今のシェアではこの大きさと個数が精一杯で…」

『いえ、この状況ですからそれでも充分ですよ』

「さっすがミナちゃんね!」

「あ、ありがとうございます…」

 

もちろん、他のみんなも頑張ってたわ。

フィナンシェちゃんは秘密の抜け道教えてくれたり、ミナちゃんは避難してる人たちのお世話したり、こうしてシェアクリスタル作ってくれたり。

…ネプギアもまぁ、頑張ってたわね。でもまだ認めてなんてあげないし!

 

「それで? わざわざわたし達の努力を全カットしたんだから早速助けに行って良いの?」

「ラムちゃんそんなメタな事言ったらダメだよ…」

 

えーだって事実だし。

 

『…どうやらアイエフさん達の方も、教祖の協力のお陰でゲイムキャラに力を貸してもらえたようですので、先行という形になりますが…』

「そんな、あまりにも危険すぎます! この子はまだこんなに幼いのに…」

 

いすとわーるって奴は行っても良いみたいなことを言ってるけど、ミナちゃんが反対してきた。

…まさかここまできて置いていかれるなんてことにはならないよね?

 

『ですが…そうなるとネプギアさん一人で先行してもらう形にするしか…』

「…私、やります。アイエフさん達が来るまで様子を見れば良いんですよね?」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! わたし行かないなんて一言も言ってないし!」

 

話の流れがよくない方に流れてるような感じがして、咄嗟に割り込むようにして言う。

 

「…ラム。貴女はまだ…」

「自分の国の事なのに、わたしはお留守番でネプギアだけに任せるのなんておかしいじゃない! いくらミナちゃんがダメって言っても行くから!」

「わがまま言うんじゃありません!」

「っ…お、怒ったって変わらないもん! ミナちゃんのバカ!!」

「あっ、ラムちゃん!?」

 

わからず屋のミナちゃんに頭に来て、そのまま部屋を飛び出す。

 

 

もういい、こうなったら、わたし一人で行くだけだもん…!

 

いつまでも子供扱いするミナちゃんと、いつも頼りにされているネプギアに腹が立って、

さりげなく持ってきた二つのシェアクリスタルをポシェットにしまいながら、わたしは一人で教会へと向かった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「こ、のぉ! どきなさいよッ!」

 

街の中なのに沸いてくるモンスターを魔法でふっ飛ばしながら、教会の方へと向かっていく。

もちろん、あんまり街が壊れないように気を付けながら。

 

ほんとなら女神の守護の力で街の中にモンスターが入らないようになってるんだけど…

たぶん、ルウィーのシェアが減っちゃったのと、もしかしたら街の中から直接モンスターを出されたらだめとか、そういうのなのかもしれない。

ネプギアがそう言う、モンスターを出す道具をあいつら…マジェコンヌのやつらが使ってるって言ってたし。

 

「それにしたって、多いって…!」

 

群がってくるモンスターを風の魔法で巻き上げて、空中で爆発させる。

あんまりザコにかまってたら、教会に着くまでにバテちゃうよ…!

 

そんな時だった。

 

「きゃあっ!」

 

突然、空から氷の塊が目の前に降ってきて、しりもちをつく。

咄嗟に一歩後ろに下がったから当たらなかったけど…危なかった…

直撃してたらと考えて背中がぞわっとするのを感じながら、氷が降ってきた方を見上げる。

 

そこにいたのは、

 

「……」

「ロム、ちゃん…!」

 

変身した姿の、気味の悪い目でわたしを見つめている、ロムちゃんだった。

とうぜんだけど、洗脳は解けてない…よね…

 

「…ふぅん。戻ってきたんだ」

「…っ」

 

そして、黙ったまま地上に降りてきたロムちゃんの隣にもう一人。

グリモちゃん……いや、ディールちゃんだ。

 

「……一人?」

 

そう言って、見回すように周りを見るディールちゃん。

なんだろう、誰かを探しているように見えるけど…

 

「そうよっ! ルウィーの事なんだから、わたしが一人でどうにかするために来たの! ネプギアの助けなんて必要ないのよ!」

「………」

 

無表情なままのディールちゃんにそう言いながら、ちらり、と片手でポシェットの中を確認。

…シェアクリスタルは、ちゃんと二つある。あとはどうにかこれを…

 

……どうするか聞く前に飛び出してきちゃった…

 

「……手間が省けるついでに、大人しく捕まってくれるともっと助かるかな」

「そ、そんなの嫌に決まってるでしょ!」

「…そうだよね。一応、聞いてみただけ…」

 

ディールちゃんの言葉にすぐ嫌だと答える。

すると、そんなディールちゃんの言葉と同時にまた氷塊が飛んできて、それを後ろに跳んで避ける。

 

「…無理やり、つれてく、だけ」

「そうなる、よね」

「「(くすくす)」」

 

二人並んでなんか気味悪い感じにくすくすと笑うディールちゃんとロムちゃん。

っていうか声が似てるから並んで喋られるとどっちが喋ってんだかわかりにくい。

でも、どうにかするなんて言ったけど…どうしよう。

 

「ラムちゃん!!」

 

そんな時、とつぜんわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「っ…ネプギア…」

「よかった、なんとか追いつけて…」

 

わたしを呼んだ声──ネプギアは、変身した姿でわたしの隣に降りてくると、あんしんしたようにほっと息をついていた。

 

「…なんで来たのよ」

「何でって、ラムちゃん達を助ける為に決まってるよ」

「別に助けてなんて言ってないし」

「だったら。勝手に加勢するだけ、かな?」

「むぅー…」

 

思わず突き放すような事を言っても下がらないネプギアにむっとしながらも、どこかであんしんしているわたし。

ほんとうはこんな事じゃなくて、ありがとうとか、助かる、とか、他に言う事あるはずなのに…

 

…って、そんな事してる場合じゃ…っ!

 

「うわ、わっ!」

「わぁっ! い、いきなり!」

 

急に氷塊と鉄のトゲが飛んできて、咄嗟に避ける。

やっぱり、戦うしかないの…?

 

「ら、ラムちゃん! シェアクリスタル、持ってるよね!」

「だったらなによ!」

「ならよかった! 使うにはまず弱らせないと効果が薄いって聞いたから、辛いかもしれないけど…っ!」

 

言い終わる前に、ディールちゃんがネプギアに斬りかかって会話が中断される。

弱らせる……嫌だけどそれしかない、のよね…

ディールちゃんはあっちにいったから、わたしはロムちゃんを…

 

 

……迷ってる時間はない、よね。

 

「プロセッサユニット、セット!」

 

目の前のロムちゃんを見据えながら、わたしは女神化する。

わたしが、ロムちゃん達を…助けるんだ!

 

「装着完了! …行くよ、ロムちゃん!!」

 

やっぱりあんまり力が出ないけど…それでも、やらなきゃ…!

 

「…アイスコフィン」

 

早速わたしを氷漬けにしてこようとするロムちゃんの魔法を、横に飛ぶようにして避ける。

わたしがいた場所がガキンッ、と凍りついて、ロムちゃんはさらにアイスコフィンを連続で唱えてくる。

そこら中からたくさん現れた氷の棺の間をすいすいっと抜けてから、わたしは杖を構えた。

 

「こういう使い方もあるのよ! …アイスコフィン、シュートっ!!」

 

そう言って、杖を掲げて自分の頭の上に氷の塊を作って、それをロムちゃんに向けて放つ。

 

「っ…」

 

当然、ロムちゃんはそれを避けるけど…それが狙い!

 

「そこよっ! デトネーション!」

「っ!? きゃぁっ…!」

 

ロムちゃんが氷塊を避けるのを見た瞬間、杖を振って避けた先の空間を無属性爆発魔法で爆発させて吹っ飛ばす。

ふふん、攻撃系の魔法だったら、ロムちゃんにだって負けないんだから。

 

「……エクス、プロージョン…!!」

 

ただ、ロムちゃんもそれくらいでやられるわけはなくて、

くるんっと空中で一回転して持ちこたえると、すぐに次の魔法を放ってきた。

 

「あ、やばっ…ぐぅ…っ」

 

逃げようにも魔法の発動速度と範囲のせいで間に合わなくて、咄嗟に障壁を展開して受けてダメージを減らす。

 

「ふぅ……ひっ!?」

 

おかげでダメージは少なく済んだけど、続けざまに氷の剣が飛んできてわたしの頬を掠めた。

い、今死んだかと思ったわ…

 

なんて当たらなかった事に一安心してる暇なんてなくて、次々と氷の剣がわたし目掛けて飛んできた。

 

「うわっ、わ…わわっ!」

 

何本も飛んでくる氷の剣になんとか当たらないように避け続けるけど、やっぱりというかなんていうか、まだシェアが回復し切って無かったせいでそろそろ限界…

…こうなったら、変身が解ける前にロムちゃんをやっつけるしかない。

 

杖に魔力を集めながら、休みなく飛んでくる氷の剣を避けて避けて、わたしはロムちゃん目掛けて飛んでいく。

 

「っ…あぅっ…ま、負けるもんか!」

 

時々剣が掠ったりして痛いけど、止まらない。止まるわけには、いかない。

 

そうしてロムちゃんの目の前まで近付いて、ちょうど魔力チャージも終わって杖先がバチバチとスパークし出す。

 

「…くっ!」

「当たらない、よっ!」

 

ロムちゃんがわたし目掛けて杖を振り下ろしてきたけど、それをひょいっと避けて後ろ側に回り込んで、杖先をロムちゃんの首元に近付ける。

 

「ごめんね、ロムちゃん…!」

 

そう一言小さく呟いて、わたしは杖からバチッ! と電撃を放った。

 

「あぐぅ…っ!」

 

するとロムちゃんは電気でびくんっと震えてから、そのまま地面に倒れた。

前に、すたんがん?っていう電気がバチバチなる道具を首にやって気絶させてる本を読んだことがあったから、それっぽい事を真似してみたけど…うまくいった、みたい。

 

なんて一息ついた時、ロムちゃんが倒れて女神化が解けるのと同時にわたしの女神化も解ける。

限界ギリギリだったってわけね…危なかった。

 

「…ロムちゃん」

 

シェアが少ないのに無理をしたせいでちょっと身体がだるいけど、倒れたロムちゃんの傍まで行ってロムちゃんを抱き起こす。

そして、ポシェットからシェアクリスタルを取り出して……どうやって使うんだろ。とりあえずかざせばいいよね。

取り出したシェアクリスタルをロムちゃんの前にかざすと、シェアクリスタルが光り出して…

 

「……ぅ……ラム、ちゃん…」

 

ロムちゃんがうっすらと目を開けてわたしの名前を呼んでくれる。

目も…変な色じゃない。うまくいった…?

 

「っ…ロムちゃん!」

 

ロムちゃんが元に戻って、わたしは思わずロムちゃんをぎゅーっとする。

よかった…本当に、よかった…

 

「ごめんねっ…助けるためでも、ロムちゃんに痛い思いさせて…ごめんね…!」

「ううん、だいじょうぶ、だよ。ラムちゃんのおかげで、助かったんだもん……ありがとう、ラムちゃん」

「ロムちゃん…っ」

 

えへへ、と小さく微笑むロムちゃんに、思わず泣いちゃいそうになる…けど。

まだ、終わりじゃない。

 

「……後は、あっちね」

 

そう、助けなきゃいけないのは、ロムちゃんだけじゃない。

…あっちはどうなってるだろう。と思って、わたしはネプギア達の方に視線をやった。

 

「う、くっ…!」

「…………」

 

状況は…ディールちゃんがたくさんの剣を飛ばしたり、剣で斬ったりで、

ネプギアはそれをひたすら防いでいた。

多分、良くない流れ。

 

「ちょっとネプギア! 平気なの!?」

「うぅ…少し、辛いかも…っぐ!」

「……余裕、だね?」

 

いくらなんでも見てられなくて思わず声をかけると、結構疲れてるような感じ。

……というか、ディールちゃんが休みなく攻撃し続けてる…?

 

「………あなたさえ、いなければ…!」

「え…? きゃあっ!」

 

ディールちゃんがなにか呟きながら下がったかと思うと、いきなりネプギアのいる場所が爆発した。

なんだろう、ディールちゃん…なんか、怖い…

 

「ラムちゃん…」

「あ、ロムちゃんっ?」

 

と、大分楽になった様子のロムちゃんが、声をかけてきた。

 

「ラムちゃん、お願い…あの子…ディールちゃんを、助けて、あげて…!」

「え? それどういうこと…」

「お願い…」

 

そうお願いしてきたロムちゃんは、なんだか悲しそうな、辛そうな顔をしていた。

……よくはわからないけど、でも、元々止めに来たんだ。ディールちゃんも何とかしなきゃ…

 

ロムちゃんに「ちょっと待ってて」と言って、ネプギア達の方を見ると、いつの間にかネプギアがピンチになっていた。

 

「うぅ…」

「…」

 

ネプギアは地面に倒れていて、そこにディールちゃんが剣を持ってゆっくり近づいていく。

このままじゃ、ネプギアがやられちゃう…

止めなきゃ…止めなきゃ!!

 

「ディール、ちゃん!!」

 

わたしは急いでネプギア達の所まで走って行って、ディールちゃんの前に立ち塞がるようにして名前を呼んだ。

 

「……どいて」

「どかない! なんで、こんな事するのよっ!?」

 

すごく低くて冷たい声に震えそうになるけど、ぐっと堪える。

わたしの言葉に、ディールちゃんは何も答えない。

 

「…邪魔するなら、先に…!」

「っ…!」

 

そして邪魔をするわたしに向かって、ゆっくりと剣を振り上げるディールちゃん。

…こんなの、こんな事…

 

「…こんな事、もう、やめてよぉっ!!」

「……っ!」

 

泣きそうになっちゃいながらそう叫ぶと、ディールちゃんの動きが止まった。

 

「………"ラム、ちゃん"…?」

「…………えっ?」

 

ただ名前を呼んだだけ、わたしの名前を、普通に。

それだけのこと。ディールちゃんが来てからも何度も呼ばれていたから、普通な事の筈なのに。

 

どうしてだろう、今の感じ…まるで……

 

「……ぁ…ぁ、あああぁああああああ…っ!!」

 

わたしが戸惑っていると、ディールちゃんがカラン、と手に持っていた剣を落として、突然悲鳴を上げる。

そしてそのまま、わたし達に背中を向けて走っていく。

 

「あ、ちょ、ちょっと!」

 

逃げ出したグリモちゃんを追いかけようとするものの、まだ本調子じゃないロムちゃんとボロボロのネプギアを置いていくわけにもいかなくて…

 

とりあえず急いでネプギアのキズを治して追いかけないと!

そう思ったわたしは、急いで倒れてるネプギアの口にヒールグラスをたくさん流し込んで元気にしてから、ディールちゃんの後を追いかけた。

 

 

 




-ネプペディア-
・すてるすなんとかって道具
ゲーム メタルギアソリッドシリーズに登場するアイテム ステルス迷彩の事。
あれ、ゲーム的にはプレイヤーに見えるようになってますが、実際は完全透明になってるんでしょうかね…?

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