幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
Act.1 落された白の国
『ルウィーが、犯罪組織に…占拠されました…!』
「………ぇ?」
――――――――――――――――
…なによ、なによ、それ。
「……嘘よ、そんなの、絶対嘘よ! バカにしないでよ!!」
「ちょ、ちょっと、落ち着きなさいって」
「落ち着いてなんかいられないわよ! だって、だって…」
ルウィーが、乗っ取られた。
それだけでも、ショックなのに、こいつは、このイストワールとかいう奴は、嫌なことをまた言った…!
なんで、どうしてよりにもよって…!
「なんで、ロムちゃんがそんな奴らと一緒になって、暴れただなんて嘘、つくのよっ!!」
「だから暴れんじゃないってば! 倒れたらどうするのよ!」
「そんなの知らないわよ!!」
『…申し訳ありません、まさかルウィーの女神候補生と一緒にいるとは…』
「い、いえ、タイミングが悪かっただけですよ」
そいつが言うには、ルウィーを乗っ取った悪い奴らの中に、ロムちゃん……ホワイトシスターがいたとかで。
そんなの、ロムちゃんがそんなことするなんて信じられない、信じたくもない!
「でも、今の話…本当なんですか?」
『…はい。私も最初は犯罪組織が偽りの情報でシェアを下げようとしているのだと思っていたのですが、調べてみた所…』
「…嫌な予感は大当たり、か。はぁ、やれやれね」
『…ラムさんの体調不良は、おそらくルウィー占拠でのルウィーシェアの低下が原因かと思われます』
「けど、どうにかしないとまずいよね、これ」
周りでなにか話をしてるけど、そんなのを気にしている余裕は今のわたしにはなかった。
…ああ、そうだ。そうよ、こんな奴の言う事なんか、全部デタラメ。
それを、確かめる為にも…
「……プロセッサユニット、
「えっ?」
そう小さく呟いて、光を身に纏い、女神化する。
具合は悪いままだけど、そんなこと、言ってられない!
「と、突然の変身ですぅ!?」
「ちょっとあなた! なにする気よ!」
いきなり女神化したわたしを見て、部屋にいたやつらが騒ぎ出す。
けど、そんなのには構わず、グリモちゃんの本を持って部屋の窓の方へと移動する。
「…アンタまさか!」
「わたしは、そんな奴の言う事なんか信用できない。だから、自分で確かめに行く!」
「そんな、ダメだよラムちゃん! 身体だってまだーー」
ネプギアとユニも止めようとしてきたけど、わたしはその前に開けた窓から飛び立つ。
そして、今までの道を戻るように、飛んでいく。
リーンボックスを出て、海の上を通って、ラステイションを通り過ぎて、
目指す場所は、一つだけ。
「ロムちゃん…グリモちゃん…!」
ロムちゃんがいる、グリモちゃんもきっといる、ルウィーに向かって。
……けど、本当はわかってた。
身体の調子が悪かったのは、シェアが無いからだって。
「…っあ…!」
だから、そんな状態での女神化なんて、長く持たないことだって、本当はわかってた。
でも、それでも、無理をしてでも、二人に会いたくて…
「……っ…!」
女神化が解けて、飛行能力を失ったわたしは、そのまま真っ逆さまに落ちていく。
――ああ、わたし、このまま死ぬのかな。
二人と離れ離れになって落ち込んでたわたしを放っておかなくて、二人を探すのも手伝ってくれたユニ。
自分達もやる事があるのに、手伝うって言ってくれたネプギア。
そんな、優しくしてくれた人達のことも考えないで飛び出した、バチが当たったのかな。
ごめんね、ロムちゃん、グリモちゃん……
「あぶない!!」
「っ!?」
そのまま落ちて地面にぶつかると思ってぎゅっと目を瞑っていたら、そんな声が聞こえてふわりと身体が浮遊感に包まれる。
恐る恐る目を開けてみると、目の前にネプギアの顔――正確には女神化したネプギアだけど――があった。
「ふぅ…な、何とか間に合ってよかった…」
「…な、なんで、あんたがここにいるのよ」
違う、それも気にはなってるけど、そんな事を言いたいんじゃない。
お礼、言わなきゃいけないのに……
「なんでって…それは勿論、ラムちゃんを助ける為だよ」
「助ける為って…あんたは別にやることあったでしょ?」
「あはは…うん、そうなんだけど…ラムちゃんの事、放っておけなくて」
むすっ、としながらわたしがそう言うと、ネプギアは苦笑いしながらそう言った。
………。
「…変なヤツ」
「え、え? 変?」
「それより、置いてきたやつらはどうする気よ」
「あ、そうだった! 一度連絡取らないと…ラムちゃん、一度降りるよ?」
「…あんたまで何も言わずに来たの…」
そんなネプギアに呆れるように言いながら、考える。
わたしはネプギアの事、あんまり好きじゃないし、だから嫌な風に言ったりしてたのに。
どうしてネプギアはわたしの事、助けに来たんだろう。
「……ねぇ。なんで、助けに来たの?」
「え? だってわたし達、同じ女神候補生でしょ? なら、候補生同士助け合わなくちゃ」
「助け合う…」
「うん! それに、わたしはもうロムちゃんもラムちゃんも、お友達だって思ってるから」
言ってから「あ、だ、ダメだったかな…?」と不安そうな顔をするネプギア。
…友達、かぁ。
「……まぁ、考えといてあげるわ。ロムちゃんはどう思ってるか知らないけど」
「ほんとっ! よかったー」
「それより連絡しないの?」
「あ、そうだった。ちょっと待っててね…」
まぁ、ロムちゃんてばネプギアの事気に入ってるから、迷ったりしないで良いよって言いそうだけど。
そんな事を考えながら、仲間と連絡を取るネプギアを眺めていた。
――――――――――――――――
『…はぁ、そういう所はネプ子そっくりなんだから…』
「あ、あはは…すみませんアイエフさん」
『いいわよ、別に。どの道放っておける事態でもない訳だし、幸い教祖も協力的だから、ゲイムキャラの方は私達に任せておきなさい』
横でネプギアの通信を聞いていた感じ、本物の教祖は助け出せてたらしく、ゲイムキャラ?の方はその人が協力的だからどうにかなりそう、だとか。
「あ、そういえばユニちゃんは?」
『ああ、あの子なら、自分の国が心配になってきたって言って一度ラステイションに戻るって言ってたわ』
「そっかぁ。…あれ? それだとプラネテューヌもちゃんとしないと危ないんじゃ…」
『そこはイストワール様がどうにかするって言ってたし、大丈夫だと思うわ。…とにかく、二人で行かせるのだって本当は止めるべきなんでしょうけど…行くからには無茶するんじゃないわよ』
『そうです! 怪我しないように十分気をつけるですよ、ギアちゃん!』
「…はい、わかりました」
そこでネプギアは通信を終わらせて、端末をしまった。
「…別に、わたしは一人だって平気だし、ついてこなくったって」
「それはダメだよラムちゃん、それにもう決めた事だから」
「…頑固なやつ」
真面目な顔でそういうネプギアを見て、なんとなくもう何を言ってもここでぶっ飛ばしてもルウィーに行きそうだな、なんて感じて、それ以上は何も言わなかった。
「そうだラムちゃん、身体の方は大丈夫?」
「? あ、ああ、うん。ちょっとだるいかも…」
聞かれてそういえば途中で変身が解けて落っこちたんだったと思い出す。
…多分、変身が解けちゃったり、身体がだるいのは、ルウィーで大変な事が起きてシェアが下がってるせい。
……なんとか、しないと。
「ラムちゃん」
「っ…な、なによ」
「ラムちゃん。一人で背負いこまないで? 私じゃ頼りないかもだけど、頑張るから…ね?」
「……」
手を握りしめて考えを巡らせていると、横からネプギアがそう言って来た。
頼りない…なんてことは、無い、けど…うぅぅー、胸がもやもやする!
「ふんっ、ついてくるからには頑張ってもらわなきゃ困るわよ」
「あはは、そうだね」
ぷいっと顔を背けながらそう言うと、何故か笑うネプギア。
…むー、何がおかしいんだか。
………
「じゃあ、ラムちゃん」
「……」
「…行こう。ルウィーを取り戻しに」
「……うん」
こうして、わたしとネプギアの二人は、ルウィーに向かって進み始めた。
……今度こそ行くから、待っててね…ロムちゃん、グリモちゃん……
「…どうやら来るみたいね、女神候補生が二人程」
ルウィーの教会内にて、
少女が端末を操作しながら、目の前の影に向かって言う。
「アクククク! そうか! …それで?」
「………一人は子供。この前捕まえてきた候補生の片割れ。あともう一人は、プラネテューヌの候補生」
「もう一人の幼女キター! …いらんおまけがいるようだが」
「あんた、ほんっとそればっかね」
"幼女"という単語を口にしながら騒ぎ立てる黄色い影を見て、少女は心底呆れたような顔をする。
なお、"幼女"が好きな黄色い彼としては、目の前の少女もその対象なのではあるのだが…
「……何よ、言っとくけどわたしに手ぇ出したら殺すからね」
「何、吾輩もそれくらいは弁えているとも」
「…ガン視しても殺すわよ」
「ヌオオ! なんと容赦のない! …だがそれが良い!」
「……もうやだわたし帰りたい……」
彼と共に行け…そう命令した上の者を恨むようにぶつぶつと呟きながら、少女は端末の操作をやめて後ろを振り返る。
「…だ、そうよ。ディール」
「………」
そう言った少女の視線の先には、手枷と首輪をつけられて地に膝をついている、別の少女。
ディールと呼ばれた彼女は、虚ろな表情で俯いたまま。
「うーん、捕まえてからずっとこの調子ね、つまんないの…ね、あんたもそう思うでしょ?」
「……はい、ご主人様…」
溜め息を吐き、今度はディールの隣に立つ、またまた別の少女にそう声をかけると、今度は返事が返ってきた。
「……ねぇ、この洗脳術作ったのあんたでしょ? このご主人様ってのどうにかなんないの?」
「ならん! そもそもそれは吾輩が幼女にそう呼ばれながら幼女達をぺろぺろする為のものなのだ! 何故主人が吾輩ではない!?」
「あんたなんか主人に設定したらそういう碌でもない事するからに決まってるでしょ!」
「おお、殺生な! ならばエストよ、少しだけでいいからぺろぺろさせておくれー!」
と、黄色い影がその巨大な口から長い舌を伸ばし始めた。
「ぎゃー!! キモい! くんな! に、逃げるわよ!」
「…はい、ご主人様」
「ええい、あんたも自分で歩きなさい、よっ!」
「逃げないでおくれー、アクククク!」
「死ねロリコン!」
不気味に笑いながら舌を伸ばしてくる影に向かって少女は罵声を浴びせながら、二人の少女を連れて部屋から逃げ出した。
「…さて、幼女と邪魔者を迎え討つ準備をせねばな」
三人の少女が部屋から出ていくと、急に真面目な声色で影――トリック・ザ・ハードは呟いた。
「…しかし、幼女をぺろぺろできないのは辛いが…幼女に罵られるのも悪くはないな…ふぅ」
どこまで行っても変態なヤツであった。