幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.3 道分かつ海

ラステイションの女神候補生、ユニちゃんと一緒に港の船を管理しているおじさんと話をして、なんとかリーンボックス行きの船に乗せてもらえたわたし達。

 

「わーっ! すごい景色ー!」

「すごい…!」

 

慣れない船の揺れに戸惑いながらも、ロムちゃんとラムちゃんなんかは大はしゃぎで。

そんな二人を、わたしはユニちゃんと一緒に眺めていた。

 

他のお客さんが乗ってないように見えるのは、さすがに危険な海に一般人を出すわけにはいかないからだとかで、船員の方は自動航行の船だからいないらしい。

だから今、この船にはわたし達だけしか乗っていない。

 

「なによ、結局見た目通りの子供じゃない」

「はは…まぁ、そうかもですね」

「…アンタはアンタで子供らしくなさすぎない?」

 

はしゃぐ二人を見ながらそう言うと、何故かじとっとした目でそんな風に言われてしまった。

 

「というより、はしゃぐ余裕がないだけですよ。…戦いに慣れてる訳じゃないですから」

「その割に、昨日はアイツらのことぼっこぼこにしてたじゃない」

「あれはわたしの力じゃないですよ…」

 

言いながら、ずっと手に持っていた本…グリモワールを見る。

そう、今のわたしはこれのお陰で二人についていけてるに過ぎなきわけで。

…女神化も現状、これがないとできないし。わたし個人の実力なんてものは…

 

「なにシケた面してんのよ。そんな調子じゃやられちゃうわよ?」

 

俯きながらそんなことを思っていると、やれやれと言った様子でユニちゃんがそう言う。

そうだ、いつ出くわすのかもわからないんだから、落ち込んでる場合じゃ…あれ?

 

「……なんか、凄い勢いで曇ってきてません?」

「ん……そういえば、海も荒れて…変ね、さっきまで晴れてたと思うんだけど」

 

ユニちゃんと二人で急な天候の変化を不審に思っていると、突然船が大きく揺れ始めた。

 

「うわ、わっ…」

「ちょっ、荒れすぎでしょ!」

 

ぐらぐらと揺れる船の上で、倒れないようにバランスを取る。

 

「な、なにか来てる!」

 

そうしていると、ラムちゃんが荒れる海を指さしながらそう叫ぶ。

その先を見てみると…海の中に何かがいるみたいだ。

つまり…

 

「お出ましってわけね…」

 

ユニちゃんがそう言った直後、ざばぁぁぁん! と海の中から巨大な竜のようなモンスターが姿を現した。

 

「うわわわわ!」

「ひゃぁぁ…!」

 

モンスター…海竜の登場に驚いた二人が船から落ちないように、わたしがロムちゃん、ユニちゃんはラムちゃんの手を引いて下がる。

海竜は半身を海から出しながら咆哮すると、獲物を見つけたと言わんばかりの目でわたし達を見た。

 

「海にも竜種っているんですね…」

「言ってる場合じゃないでしょ! 構えなさい!」

 

まさか竜だとは思ってなくて思わずそんなことを呟いていると、いつの間にか取り出したのかライフル銃を構えたユニちゃんがそう叫んだ。

その言葉にわたし達もそれぞれの得物を構える。

 

「ちょ、ちょっと! こんなやつの攻撃喰らったら船が沈んじゃうんじゃないの!?」

「船は頑丈だから攻撃受けても心配ないとは聞いたけど、アタシ達まで耐えられるとは限らないんだから、当たるんじゃないわよ!」

「言われなくたって当たりたくなんかないわよ!」

 

ぎゃーぎゃーとこんな状況でも騒ぐ二人は放って置いて、わたしはさっきから小さく震えているロムちゃんに声をかける。

 

「ロムちゃん、大丈夫?」

「っ…う、うん…だいじょう、ぶ…」

 

きっ、と海竜を見据えながらそう言うけれど、目には涙が溜まっていて、やっぱり震えている。

そんなロムちゃんを落ち着かせようと、そっと肩を抱き寄せる。

 

「わ…ぐ、グリモちゃん…?」

「…怖いのはロムちゃんだけじゃないから、大丈夫。それに、みんなで力を合わせれば、きっと勝てるよ」

「ぁ…」

 

落ちつかせるように優しくそう言って。

なるべく自分が怯えているのを表に出さないように、手が震えないように。

 

「だから、大丈夫」

「…うん」

 

完全に怖くなくなった、という訳ではなさそうだけど、幾らかはマシになったみたいで。ロムちゃんはぐっと杖を握り直した。

…わたしも、気合入れないと。

 

「来るわよ!」

 

ユニちゃんのそんな言葉に顔を上げると、海竜がこっちに向かって水弾を放ってきた。

 

「これくらいなら!」

 

それほど威力のある攻撃じゃないと見たわたしは、グリモワールを浮遊させて右手に魔力を篭める。

そして左手で前に鋼の盾を生成しつつ、右手で宙に複数の円盤を創って飛ばし、別の方向に飛んでいく水弾を落とす。

 

この魔法は、わたしが女神だって言うことを思い出した時に一緒に思い出した、火氷雷風のどれでもない、属性魔法とは違うもの。

似たような魔法に投影魔法っていうのがあるけれど、わたしは見た目から鋼魔法と呼んでいる。

 

「よーし、こんどはこっちの番よ! ロムちゃん!」

「(こくり)」

 

海竜の攻撃を無効化すると、ラムちゃんとロムちゃんが前に出て魔法を詠唱し始めた。

 

「って、アンタ達なんで前に出るのよ!?」

 

ダンッ、ダンッ、とライフル銃を撃ちながら、ユニちゃんが叫ぶ。

負ける気はないけど、あまりわかってない相手を前に術者が接近するのは確かに良くないかもね…

 

「アイス…」

「…コフィン!」

 

なんでことを思ってる間に、二人は大きな氷の塊を生み出して、海竜に向かって放っていた。

アイスコフィンってああいう使い方もできるんだ…

 

氷の塊は海竜の頭に直撃し、海竜は鳴き声を上げて怯んだ。

 

「よーっし、命中!」

「(きりっ)」

 

相手を怯ませた事に気を良くしたのか、二人は敵の目の前にも関わらずハイタッチを交わす。

当然、そんな一撃を喰らって相手が黙っているはずもなくて…

 

「バカッ! さっさと下がりなさい!!」

『グギャアアアアアッ!!』

 

手痛い一撃を貰って激昴した様子の海竜は、口にエネルギーを溜め始める。

けれど、まぁ…二人が前に飛び出した時からこんな感じになる事は予想できてたから…

 

足に魔力を集中させながら姿勢を低くし、甲板を蹴って一気に二人の近くまで駆ける。

そして二人を庇うように前に出て防御障壁を展開するとほぼ同時に、海竜はその口から水のレーザーを発射した。

 

「く…っ」

「「グリモちゃん!」」

 

背後から聞こえる二人の声に反応する余裕もなくて、弾き飛ばされないように踏ん張りながらレーザーを防ぎ続ける。

レーザーは見た目通りというか、こうやって受けるだけでも相当な威力だということがわかるほどに、重い。

 

「喜んでないで、さっさと下がりなさいっての!」

「あ、わ、わかってるわよ!」

 

ありがたいことに、会話する余裕のないわたしの代わりにユニちゃんが二人を下がらせてくれたみたいで。

背後から二人の気配がなくなったのを確認すると、わたしは障壁の向きを変えて水レーザーの軌道を逸らしながら、大きく飛び退いた。

 

「はぁ、ふぅ…」

「ぐ、グリモちゃん、大丈夫…? ごめんね…」

 

三人のいる辺りまで下がりつつ息を整えていると、ロムちゃんが心配しながら謝ってきた。

まぁ、多少なり文句がないって言うと嘘になるけど…

 

「うん。二人が無事なら、大丈夫」

 

そう口にした言葉も、本当の気持ち。

だって、わたしはわたしを助けてくれた二人を護るためにいるんだから。

 

「グリモちゃんは…大丈夫みたいね」

「でもここからどうするのよ」

 

ロムちゃんと一緒にラムちゃん、ユニちゃんの所まで下がりながら、海竜を見る。

相手はどうあっても逃がすつもりもないみたいだし、無理に逃げようとしてもこの海の荒れようだとそれも難しい。

 

だとしたら、倒すしかないんだろうけど。

 

「んー、よーし、それなら…えいっ!」

 

そこで、ラムちゃんがなにか思いついた様子で光を纏い始めた。

つまり、女神化。

 

「ラムちゃん、何する気?」

「ふふん、アイツの周りを飛び回ってカクランしてやるのよ!」

「飛び回ってって…アンタね、この天気の中飛ぶっていうの?」

 

ドヤ顔でそう言うラムちゃんに、ユニちゃんがそう突っこんだ。

 

ユニちゃんの言ったとおり、海の荒れ具合に呼応してか今の天気は最悪で。

風も強いから、この中を飛ぶって言うのは普段と比べてかなり難しそうだ。

 

正直、普通の飛行すらまだ慣れてないわたしはこの中を飛ぶ自信はない。

 

「ふん、怖いならそこで見てればいいわ。ロムちゃん、行くよ!」

「え、え…!? う、うん…」

 

変身するといつも以上に強気になるラムちゃんは、わたし達(多分ユニちゃんに向かってだろうけど)にそう言って飛んでいってしまう。

そして呼ばれたロムちゃんも、一瞬戸惑いながらも女神化して、ラムちゃんの後に続く。

…ロムちゃん、あんまり乗り気じゃなさそうだったけど、大丈夫かな。

 

「ちょっとアンタ達! ああ、もう! アンタんとこの教育どうしてるのよ!」

「えっ、あっ、す、すみません…」

 

ロクに意見も聞かずに飛び去ってしまった二人に怒った様子のユニちゃん。

怒りの矛先をこっちにむけられて、思わず謝ってしまった。

 

「え、ええと、ひとまず、わたし達はここから援護しながら弱点を探すべきかな、と…」

「わかってるわよ、ったく!」

 

怒鳴りながらもライフルを構えて援護射撃を始めるユニちゃん。

女神化はしないのかな、と思ったけど、嵐の中で飛びながら狙い撃つのは難しそうだし、そういうことなのかも。

 

「とは言ったものの、弱点あるんですかね…。ユニちゃん、ウィークバレットとか使えたりしません?」

「んなもんある訳ないじゃない!」

 

まぁ、そんな都合の良いものはないよね……ん?

海竜の周りを飛び回る二人を狙う水弾を円盤で切り落としながら観察し続けていると、海竜の顎の下辺りに何かがついているのが見えた。

なんだろう…何か機械というか、装置っぽいけど…

 

「ユニちゃん…」

「アタシにも見えた。明らかに変なものが付いてるわね」

 

ライフルのスコープを覗きながらそう答えるユニちゃん。

やっぱり…あれは一体何なんだろう。すごく怪しいけど…

…となれば…

 

「あれ、撃ち抜けます?」

「あのくらい…って言いたいところだけど、ちょっと難しいわね…一瞬でも動きが止まれば何とかなるかもしれないけど」

「…一瞬、動きを止めればいいんですね?」

 

それを聞いたわたしは、ユニちゃん答えを聞くまでもなく1歩前に出て、大きく息を吸う。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん! どうにかして、そいつの動きを止めて! 一瞬でもいいから!」

 

そして二人に届くよう大きな声をだして、言葉を伝える。

わたしの言葉が届いたのか、二人が頷いたのが見えた。

 

「ユニちゃんにはそのままチャンスを窺っていてほしいんですけど…いいですか」

「ホント、子供らしくないわよね、アンタ…ま、いいわ、任せておきなさい」

 

何故か一瞬変な目で見られたけど、そう言ってスコープを覗きながら構えるユニちゃん。

あとは…みんなが動きやすいように援護するだけ!

 

「はああっ!」

 

両手を前に突き出して、今まで以上の魔力で複数の円盤を創り出し、別々に放つ。

数が多い分制御も大変だけど、それでもやるんだ。

 

「やぁあっ!」

「くらいなさいっ!」

 

縦横無尽に飛び回りながら、息ぴったりな動きで魔法弾を放つロムちゃんとラムちゃん。

そんな調子で三人で攻撃を続けると、堪らなくなったのか海竜が大きく怯んだ。

…今なら!

 

「ユニちゃん!」

「わかってる…! ……そこよっ!!」

 

相手が怯んで動きが止まったのを見て後ろに叫ぶと、待ち構えていたユニちゃんが狙い澄ました一撃を放つ。

その弾丸は寸分の狂いもなく飛んでいき、そして……海竜についていた機械を貫いた。

 

弾丸を撃ち込まれた機械は、煙を上げながらバチバチと火花を出して、小さく爆発してしまった。

 

『ギャ、グオオオオオオ!!』

「わっ! こ、こいつ暴れだしたわよ!」

 

弾丸が貫通したのか、それとも機械がなくなったからなのか、咆哮しながらのたうち回るように暴れる海竜。

そんな海竜を見て、ラムちゃんは退避するように高度を上げていた。

 

 

 

――この時、暴れる海竜を見て二人にすぐ戻るように言うべきだったのかもしれない。

 

 

「ひっ…きゃぁあっ!」

 

 

そうすれば、ロムちゃんが……暴れる海竜のヒレで海にたたき落とされたりなんてしなかったのかもしれない。

 

 

「ロムちゃん!?」

「っ…ここからでも間に合わない…!」

 

 

荒れ狂う海に落ちていくロムちゃん。

 

悲鳴を聞いたラムちゃんが反応したけれど、あの場所からじゃ、遠すぎる。

 

 

「…っ!!」

 

 

そんな状況になって、わたしの身体は考えるよりも先に行動を始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと!? 何する気よ! 待ちなさい!」

 

弾かれたように駆け出し、迷い無く船べりに上がるグリモを見たユニは、ハッと我に帰るとその行為を止めようと叫ぶ。

 

が、反応するのが遅かったのか、それとも彼女に迷いがなかったからか、

ユニの声は届く事はなく、彼女は手に持っていたものを投げ出してそのまま荒れ狂う海へと飛び込んでいってしまった。

 

「冗談でしょ…」

 

あまりの出来事に思わずそう零すユニ。

海竜は既に海中へと姿を消していたが、撃退の犠牲はあまりにも大きい。

 

「…ロム、ちゃん…グリモ、ちゃん……?」

 

そしてこの状況は、この場にいるもう一人の少女にとっても、過酷な現実であった。

 

大切な姉妹と大切な友達。

二人が消えていった海を呆然と見つめていたラムは、突風に煽られながらも二人の後を追うかのように海に向かって飛翔し始める。

 

「待ちなさい!」

 

だが、海に突っ込もうとした彼女をブラックシスター――女神化したユニが止めた。

 

「離してっ! ロムちゃんが! グリモちゃんがぁっ!」

「わっ! ちょ、落ち着きなさいよ!」

 

そう叫んですぐにも振り払おうとするラムを、ユニはなんとか羽交い締めにして抑え込む。

女神化しているとはいえやはり魔法使いということもあってか、いくらもがいてもユニの拘束からは抜け出せない。

 

「離してよ…はなしてってばぁ…!」

「今離したらアンタも海に飛び込もうとするでしょ! そんな事したってアンタまで戻ってこれなくなるだけよ!」

「だって、だってぇ…っ!」

 

ユニに羽交い締めにされたまま船の上まで引っ張られるラム。

そうしている内に次第に暴れる力が弱まって行き、涙声になり始める。

 

甲板に着地する頃には最早暴れる気力などなく、ユニが腕を離すとその場に崩れ落ち、嗚咽を漏らしていた。

 

「うぅ…なんで…なんで、こんなことに…っ…うぁぁあああ…っ!」

 

とうとう涙を堪えきれず、泣き出してしまうラム。

そんなラムを、ユニは黙って見つめていた。

 

「(本当に、急展開すぎるわよ…)」

 

一見冷静に見えるユニだったが、いくら出会った日が浅いとはいえ目の前で起きたことに動揺を隠すので精一杯で。

心の内でそう呟きながら、ただ泣きじゃくるラムを見つめることしかできずにいた。

 

 

いつの間にか嵐は去り、甲板に残されたのは二人の少女と――1冊の本。

 

活気が消えても、心無い機械の船は障害が消えた事により設定された目的地へと進んでいく。

 

乗員が減ったことなどお構い無しに、進み続ける――

 

 




~パロディ、用語解説~
・ウィークバレット
オンラインゲーム ファンタシースターオンライン2より、クラス「レンジャー」が使用できる特殊弾スキルのこと。撃ち込んだ対象の部位に与えるダメージをアップさせる効果のある弾丸。
最近PSO2やってないのであまりよくしりませんでしたが、今ではかなりの弱体化を受けて使用率が下がったとかなんとか。

・海竜
パロディになるかは苦しいところですが、元ネタはトトリのアトリエより、船で海に出た際に戦うことになるボス フラウシュトラウト。
奴で詰まって周回したりして対策したのは私だけではない、と信じたい…


・鋼魔法
その名の通り、鋼物質を操る魔法。
塊にして、刃状に放ち物理タイプの攻撃ができるという。
また、武器や盾状にして使う錬成術といったことも可能。

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