幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
あれから街を色々と歩き回ってからメガミホテルで一夜を過ごし、次の日。
「ホテルで一夜をって、なんかやらしー」
「…知ってる? そういう風に考えちゃう方がやらしいんだよ?」
「ラムちゃん、やらしー…」
「なんでっ!?」
「いんらんぴんく…?」
「ロムちゃん!?」
「まってロムちゃん、誰に教わったのそんな言葉」
そんなやりとりをしつつ、
わたし達は本来の目的地であるリーンボックスへ向かう為に、ラステイションの港に来ていた。
っていうか、眠い…
「ふぁ…」
「眠い…(こしこし)」
「ロムちゃんもグリモちゃんもだらしないわね、早くリーンボックスに行ってあいつらよりもたっくさんシェア集めるんだから、我慢して!」
「「えー…」」
「えーじゃ、なーいっ!」
いつも通りの元気で怒るラムちゃんを見て、朝でも元気だなぁ…なんて考えていた時だった。
「ちょっと、どういうことよ!」
どこからか聞いたことのある怒鳴り声が聞こえてきて、思わず声のした方を見る。
そこにいたのは……昨日男に絡まれていたあの人だ。
またなんか揉めてるみたいだけど…
「ですから、船自体は親切な方々の助力もあってなんとかなったものの、今度は航路にモンスターが…」
「それはもう聞いたわよ!」
…あぁ、なんかまた面倒くさそうなことが…しかも今度はわたし達にも関係のある…
そう考えて小さくため息を吐きながら言い争いの場に近づくと、あっちもわたしに気付いた。
「あっ、アンタは昨日の…」
「はい、昨日ぶりですね、えっと…」
そこまで言って、そういえば名前知らないな、と言葉を詰まらせる。
「そういえば名乗ってなかったわね。アタシはユニ、昨日はまぁ、助かったわ」
「ユニさん…ですか。いえ、あの人達が見るに耐えなかっただけなので、お礼はいいですよ」
「…昨日から思ってたけど、アンタ結構容赦ないわね…」
思ってた事を正直に言ったらなんだか引かれた。
あんな人達に容赦なんていらないと思うけどなぁ。
「ねぇ、グリモちゃん、誰よコイツ」
「…あのねラムちゃん。初対面の人に向かってコイツはどうかと思うよ…」
女神なんだしもう少し言葉遣いに気をつけてほしい…ユニさん顔引き攣ってるよ…
ちなみにロムちゃんはラムちゃんの背に隠れている。
「えーっと…昨日、二人がアイス屋さんに向かった後、たちの悪い人達に絡まれてて…その時ついお節介を焼いて知り合った人」
「ふーん」
なおも態度を変えないラムちゃんにハラハラしつつ、ユニさんの方に向き直る。
「それで、改めて…わたしはグリモ。こっちの二人はわたしがお世話になってる友達のラムちゃんとロムちゃんです」
「あぁ…つまりその二人が旅行者AとBってことね」
「はいです」
そういえばそんな風に言ってたな、なんて思いながら頷く。
わたしとユニさんしかわからないであろうやり取りに、二人の方は首を傾げていた。
「にしても…ちびっ子三人で旅行ねぇ…」
「む、何よっ。わたし達は強いんだからね、小さいからって甘くみないでよ!」
「はいはい…」
むすーっとするラムちゃんを適当にあしらうユニさん。
そこで、ラムちゃんの背中に隠れていたロムちゃんがおどおどしながらもユニさんに話しかけた。
「…さっき、怒ってた…?(おどおど)」
「怒ってた? アタシが?」
「ああ、ほら、わたし達が来る前にユニさんなんか怒鳴ってたじゃないですか、それのことじゃ?」
「あぁ……っていうかアンタ…グリモだっけ? その、ユニさんっていうのやめなさいよ、子供に敬語使われるのってなんか変な感じするし」
「子供扱いしないでってばー!」
がーっと怒ったラムちゃんを見て、こう何度も割って入られちゃ話が進まないと思い、そっとロムちゃんにラムちゃんを抑えるように伝える。
「ロムちゃん離して! アイツぶっ飛ばせない!」
「ら、ラムちゃん落ち着いて…」
ラムちゃんは猛獣かなにかなの…なんて思いながら、こほんと咳払いをしつつユニさんに向き直る。
「ええっと、ダメでした?」
「礼儀正しいのはいいと思うけど…アタシとしては普通に話して欲しいってだけよ」
「ん…わかりま…わかった、ユニ…ちゃん」
ユニちゃんにそう言われて、言葉遣いを改める。
たまに敬語はいらない、って人に会うこともあるから、変えることに特に抵抗なんかはなかった。
「ちゃ、ちゃん? …まあいいや。それでアタシが何してた、だっけ。…こんなことアンタ達に話しても仕方ないかもしれないけど、リーンボックスに行きの船が出てないって言うのよ」
「え?」
そしてユニちゃんの次の言葉を聞いて、思わず顔を顰める。
船が出てないって…
「えー! わたし達もリーンボックスに行く所だったのに、なんでよー!?」
「困る…」
横で話を聞いていたロムちゃんとラムちゃんも困り顔。
リーンボックスは島国だから、地上から向かうルートが海路しかなく、さらにその船はここラステイション港からしか出ていない。
だから、船が出てないとなると向かう手立てがないことになる。
女神化できるなら飛んで…とも思われるけど、二人はまだ海を越える程の長距離飛行はできなかったはず。
「船が出ない理由とかは?」
とはいえ理由もなしに止められてるはずもないと思ったわたしは、ユニちゃんにそう訊ねる。
「なんでも、リーンボックスに向かう海路に凶暴なモンスターがいるとかって話みたいね」
「…ふむ」
ルウィーの外をあまり知らないわたしとしては、海にもモンスターくらい普通にいるんじゃないか、と思った。
けど船が止まるってことはそれだけ危険なモンスターなんだろう。
「なーんだ。だったらやっつけちゃえばいいだけじゃない」
「あのねぇ、相手は海に陣取ってるのよ? その辺にいるようなのみたいには行かないの、わかる?」
「な、なによ! 子供扱いして!」
「ふん、見た目通りのお子様じゃないの?」
睨み合うユニちゃんとラムちゃんをスルーしつつ、考える。
正直言うと、わたしもラムちゃんと同じことを考えていたけれど、やっぱり海上戦となると相手の方が圧倒的有利らしい。
だからってここまで来て足止めを食らうのは、面白くない。
「…討伐隊とか、出てるんですか?」
「え? ああ、一応出てるっちゃ出てるみたいだけど…あまり上手くは行ってないみたいね」
「……グリモちゃん、もしかして」
ロムちゃんはなんとなく察したみたいで、怯えた視線を向けてくる。
「…わたし達で倒せれば、良いんですけどね」
「ちょっ、アンタまでそんな事言いだして…」
「幸いわたし達は三人とも遠距離戦は得意な方ですし。それに、困っているのはわたし達だけじゃないですから」
繋がりが海しかないのなら、これはかなり大きな問題だろう。
人もだし、物の流通だって途絶えてしまうし。
「そうよね! わたしたちは女神だもの、人が困ってたら助けなくちゃ!」
「…ちょっと待って、今女神って言った?」
わたしの言葉に喜ぶラムちゃんの横で、ユニちゃんが女神という単語に食いつく。
「そうよ! ルウィーの美少女女神候補生といえばわたし達ロムちゃんラムちゃんのことなんだから! そうとわかったらひれふしなさいっ!」
「ラムちゃん…突っ込みどころ多くて困る発言はやめよ?」
「ふーん、あんた達がねぇ…」
ラムちゃんのよくわからない偉そうな発言をスルーしながら、ユニちゃんはラムちゃんとロムちゃんをじろじろと観察するように見つめる。
「…よわっちそうね」
「ぶっ飛ばすわよあんた!?」
そしてバッサリ言い切るユニちゃんにまたまた噛み付くラムちゃん。
まぁ、見た目は子供にしかみえないもんね、わたし含めて。
「ま、少なくともアタシよりは弱いんじゃない?」
「ロムちゃん離して!! こいつ殺せないぃぃっ!!」
「ら、ラムちゃんっ…ぶっそうなこと言っちゃダメ…!」
とうとう杖まで出して向かおうとするラムちゃんをロムちゃんが止める。
というか、それより…
「"アタシより"って…ユニちゃんってもしかして?」
「そうね、ラステイションの女神候補生…それがアタシよ」
そう聞いてみれば、特に隠す様子もなく答えるユニちゃん。
こんなすぐにネプギア以外の候補生と出会うなんて…案外世界って狭いんだね…
「ふーん、あんたがねー…ネプギアみたいにお供連れてないの?」
「…アタシは一人の方が気楽だし、良いのよ」
「つまりぼっちってことね!」
「なんでそうなるのよ!」
ああ、もう、ラムちゃんが口を挟む度に脱線する…
「というか、アンタ達もネプギアと会ってるのね」
「うん…助けてもらった…」
「あんなやつ、いなくたってわたし達だけでどうにかできてたけど!」
相変わらずネプギアに対しては風当たりの強いラムちゃん。
単にロムちゃんがネプギアを気にするのが気に食わないだけだろうけど。
「大分話がずれたけど、わたし達は女神だから、普通の人が挑むよりはマシなんじゃないかな」
「…確かに、おね……守護女神が不在な今、海路を塞がれたままとかだと後々面倒そうね」
そう言って口元に手を当てて考え込む仕草をするユニちゃん。
少しすると、なにかを決心した様子で顔を上げた。
「いいわ。アタシもついていく」
「別にいらなむぐ「いいの?」」
「ええ、アンタ達だけじゃ心配だし?」
ラムちゃんが余計なことを言う前に口を塞ぎながら問い返すと、そんな風に言いつつも一緒に戦ってくれるという。
ユニちゃんの強さは知らないけど、女神候補生の味方が増えるのは心強い。
「助かります。犯罪組織もそこら中で悪さしてるし、今いる女神達で力を合わせないとだもんね」
「女神同士で喧嘩、ダメ…」
「「………」」
ロムちゃんの何気ない一言で、前にネプギアに個人的な理由で戦いを挑んだことを思い出して思わず遠い目をしてしまう。
なぜかユニちゃんもバツの悪そうな顔をしてたけど…
「むーっ! むぅーー!!」
「…あっ!」
暫く沈黙してから、ラムちゃんが苦しそうに暴れ始めて口を塞いでいたのを思い出し、パッと手を離す。
うっかりしてた…
「ぷはっ! し、死ぬかと思った…」
「ご、ごめんね、ラムちゃん」
「だ、だいじょーぶ…。ともかくっ、ついてくるんなら足引っ張んないでよね!」
深呼吸して息を整えながら、ラムちゃんはそう言いながらずびしっ、とユニちゃんを指さした。
「ふん、アンタこそ、いざ戦いになって怖くて泣くんじゃないわよ」
「泣かないし! わたしの強さ、見せつけてあげるんだから!」
強気同士なせいか、度々ぶつかるユニちゃんとラムちゃん。
そんな二人を見て早速不安になりながらも、なんとかなるかな…なんて考えながらわたし達は船を出してくれそうな人の元へと向かった。
「えっ、あの化物を倒しに行くだって?」
まずわたし達は、港に泊まっている船の近くにいた人に、航路に出るモンスターを退治するために船を出して欲しい、とお願いをしてみることに。
「はい。元々はリーンボックスに渡りたかっただけなのですけど、皆さんも困っている様子だったので、それならば…と」
「しかしだな、その出てくるモンスターとやらはどうやら結構やばいって話で…お嬢ちゃん達にはちと荷が重いと思うけどな…」
とはいったものの、やっぱり女子供という理由で難しい顔をされてしまう。
当然というか、ラムちゃんが噛み付きそうになったのはロムちゃんが抑えてくれたみたいで助かったけど。
「お願いよ。アタシ達、リーンボックスに行きたいの。だから…」
「しかし…ん? アンタ、もしかしてユニ様?」
と、難しい顔のままだったおじさんが、ユニちゃんの顔を見るなりそんな事を聞いてきた。
「え? えぇ、そうだけど」
「なんだ、それだったら話は聞いてるから、いいぜ、船をだそう」
するとさっきまでの様子が嘘みたいにあっさりとそう言った。
どういうことだろう。
「話って?」
「少し前に、教祖様から連絡があってな。恐らく候補生のユニがリーンボックスに行きたがるだろうから、船を頼む、と」
「教祖…ケイのやつね」
「まぁ、女神様の頼みだから船は出すけど、ヤツは必ず襲ってくる。戦うのを止めはしないが、無理だけはしないでくださいよ」
「ええ、わかってるわ。アタシだって、お姉ちゃんを助けるまでは死ねないもの」
なんだかよくわからないけど、ユニちゃんのところの教祖がなにかしていてくれたみたいで、船を出してもらえるみたい。
まぁ、それは良いんだけど…わたし達も乗っていいのかな。
「ところで…その子供達は?」
「あ、そうだった…えーっと、まぁ、アタシの連れ…みたいなもの?」
ユニちゃんの「アタシの連れ」発言にラムちゃんがむっとしていたけど、わたしとロムちゃんがじっと見つめていると不機嫌そうにしながらも大人しくしていた。
…なんていいながら、わたしも子供扱いされて少しむっとしちゃってたけど。
「女神様の連れ…ってことは、ただの子供じゃないんでしょうけども」
「あー…えっと…そ、そんなとこよ。だからこいつらも乗せてやって欲しいんだけど」
「うーん…」
難しそうな顔で腕を組み考え込むおじさん。
そんなおじさんを見て堪えきれなくなったのか、ラムちゃんが不機嫌顔で前に出る。
「もー! わたし達をその辺の子供と一緒にしないでよっ!」
そう言って何をするのかと思えば、突然空に向かって魔法の火の玉を放った。
「ちょっ…ラムちゃん! 街中で魔法は緊急時以外はダメって言われたでしょ! なにしてるの!?」
突然の事で一瞬惚けてしまいながらも、はっと我に帰るとラムちゃんを止めようと捕獲。
あまりに突然のことでおじさんはぽかんとしてるし、ユニちゃんは頭抱えてるし、ロムちゃんもあわあわしている。
本当になにしでかしてるのさこの子…
「離してグリモちゃん! 今からもっとすごいの見せつけてあっと言わせてやるんだから!」
「まだやる気!? ダメって言ってるでしょ、このっ!」
じたばたと暴れてそういうラムちゃんに、 びしっとチョップ。
するとラムちゃんは「あいたっ!?」と声を上げながら、頭を押さえて大人しくなった。
「もう…すみません、騒がせちゃって」
「ははは、面白いなお嬢ちゃん達。…わかった、いいぜ、船に乗っても」
「え…いいんですか?」
頭を下げて謝ると、おじさんは笑いながらそう言った。
いや、それは助かるんだけど…いいのかな。
「ただし、いくらあんな妙な事ができるからって無理はするなよ。危なくなったら女神様に任せて隠れるようにな?」
「は、はい…ありがとうございます…っ」
「(わたし達だって女神なのにぃ…っ)」
横から悔しがるような呟きが聞こえた気がしたけど気にしないでおこう。
こうして、わたし達はどうにか船に乗せてもらえることになり、ユニちゃんを含めた四人でリーンボックスへと向かう。
…ただ、途中に出ると言われているモンスターの存在が、拭いきれない不安としてわたしの中に残っていた。
〜パロディ解説〜
・ロムちゃん離して! アイツぶっ飛ばせない!
・ロムちゃん離して!! こいつ殺せないぃぃっ!!
ネットゲーム ラグナロクオンラインにて過去にあったらしい騒動内での台詞「お兄ちゃんどいて! そいつ殺せない!」から。
ちなみに作者は調べるまでfateのイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの台詞だと思い込んでいました…