幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Chapter 2:乖離するコネクション
Act.1 三人の旅立ちと新たな出会い


「三人とも、準備はしっかりしましたか?」

「ロムちゃーん、必要なもの持ったー?」

「うん、ばっちり…(ぐっ)」

「グリモちゃんはー?」

 

身支度をしていると、ラムちゃんの声が聞こえてくる。

 

お財布に携帯端末…すぐに取り出して使うようなものは肩掛けのポーチに。

それ以外の荷物は携帯端末の機能を使ってそっちにしまう。

 

後は…髪はいつも通りのサイドテールだし、メガネも持った、というかかけてる。

最後に魔道書を持って…これで大丈夫。

 

「うん、こっちもオッケー」

「よしっ。じゃあ準備完了ね!」

 

持ち物確認を終えて、二人と一緒に教会入口に並んで立つ。

この場にいるのはわたしとロムちゃん、ラムちゃんの他にミナさんとフィナンシェさんの姿が。

 

何があったのか、という事を説明すると、話は少し前に遡る。

 

 

 

「えっ? リーンボックスに行くですって!?」

 

あの日の夜から考えてた事が纏まったみたいで、ある日ラムちゃんがわたしとロムちゃんを率いてミナさんにそんな事を言い出したのが始まり。

 

当然、ミナさんは最初は反対した。

子供だけじゃ危ないとか、そんな風に。

 

でもなかなか引き下がらないラムちゃんにロムちゃんもラムちゃんが行きたいなら…と言い始め、わたしもラムちゃんを煽った手前今更ダメとも言えずに。

そこにまさかのフィナンシェさんの後押しも入り、結局折れたのはミナさんの方だった。

 

フィナンシェさん曰く、幼くても女神なんだから経験は必要、とかいう理由で渋々ミナさんが納得してくれた感じ。

 

 

 

で、行くからには準備はしっかりと…という感じで今に至った訳だ。

 

「いいですか? ご飯をしっかり食べて、ちゃんと歯を磨くこと! それから周りの人に迷惑をかけないこと! それから…」

「ミナちゃんそれもう何回も聞いたよー!」

「もう覚えちゃった…」

 

さっきから何度も繰り返されてる三人のやり取りを見て、思わず苦笑い。

ミナさんとしては教祖である以前に二人の保護者であるわけだから、心配なのも無理はないんだけどね。

 

「でも、いくらネプギア達もそうしてるからって、本当にわたし達まで国を空けて大丈夫なのかな…」

 

騒がしい三人を見ながら、ふと不安に思ったことを呟く。

そう、前にラムちゃんに提案した時は頭から抜け落ちてたけど、わたしは不安に思っていることがあった。

ただでさえ犯罪組織があっちこっちで問題を起こしているのに、今残ってる女神の二人が国を空けて大丈夫なのか、という事だ。

なんて考えていると、わたしの呟きを聞いてたのか、「大丈夫ですよ」とフィナンシェさんが声をかけてきた。

 

「あなた達の不在の間は、私達の方でどうにかしますから」

「どうにかって…それでもこんな状況だから心配だよ…」

「あら、グリモちゃんは私達教会の人間は信用できませんか? 私、悲しいです…」

「あ、いや、そんなつもりじゃ…!」

 

わたしがそう言うと、フィナンシェさんは悲しそうに目を伏せて、

そんな姿を見ておろおろしていると、にっこりと顔を上げて「冗談です」と言われた。

むぐぐ…嫌いって訳じゃないけど、わたしこの人苦手…!

 

「なんにせよ、大丈夫ですよ。それに、私達だって他の国には負ける気はありませんからっ」

 

いつも通りの様子で言われたその言葉の意味が一瞬わからなかったけど、すぐにあぁ、と理解する。

つまり、他の国だって女神不在で頑張ってるんだから、そこに負ける気は無い、という事なんだろう。

 

「そして女神としての礼儀を…」

「あーもー! このままじゃ日が暮れちゃうよ! ロムちゃん、グリモちゃん、行くよー!」

「う、うん…!」

「あ、こら! まだ話は終わってませんよ!」

 

ラムちゃんの声が聞こえて、まだやってたのかと思いながら、二人の後を追いかける。

っと、その前に…二人の元へ来てからくるりと反転。

 

「それじゃ、行ってきます!」

「「行ってきまーす!」」

 

ぺこりとお辞儀をしながらそう言えば、先を行く二人も振り返って同じようにぺこり。

 

「はい、行ってらっしゃいませ」

「怪我に気をつけるのよー! あ、知らない人について行っちゃダメですからねー!」

 

こうして、わたし達は初めて、ルウィーの外へと旅立つことになったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事があって、わたし達はフィナンシェさんの用意してくれたルートマップを頼りにこうしてラステイションまでやってきていた。

 

「ここが…」

「ラステイション! わー!」

 

目の前ではラステイションの街並みにはしゃぐ二人の姿。

初めてルウィー以外の国の街に来たんだから、はしゃいで当然なのかな。

かくいうわたしも一応初めての土地にワクワクしていた…んだけど…

 

「……暑い」

 

…わたしは一人、暑さでダウンしかけていた。

 

「グリモちゃん、大丈夫…?」

「確かに暑いわね、ルウィーは夏でも一年中雪積もってたからこんなに暑いなんて知らなかったわ!」

 

暑さで気怠げにするわたしを心配そうに見つめるロムちゃんと、初めての環境にはしゃぐラムちゃん。

なんで二人ともそんなに元気なんだろう…とわたしは終始不思議で仕方なかった。

 

ラムちゃんが言ったとおり、今の季節は夏。

さんさんと太陽が輝き、気温が高く暑苦しい季節だ。

ルウィー首都でずっと暮らしてたわたし達は夏は暑いなんて知らなかったわけで、わたしに至ってはこのざまである。

 

あ、ちなみにわたし達の服装だけど、流石にコートは脱いでいる。

そのため髪型を見ないと余計に誰が誰だかわかりにくくなってるけど……ああ、タイツが蒸れて気持ち悪い…

 

「それで、次はどこいけばいいんだっけ?」

「んっと…ラステイションについたら、一先ずその日はこの街のメガミホテルで泊まる…だって」

「りょーかい! ほらグリモちゃん、いつまでもぐったりしてないでいこー!」

「わ、わかってる…うぅ…」

 

はふぅ、と額の汗を拭いながら、元気に走るラムちゃんの後に続く。

 

「はい、お水…」

「あ、ありがと、ロムちゃん…」

 

いつの間にか買ってたのか、ロムちゃんから受け取った水を飲みながら。

…自分でもここまで暑さに弱いとは思ってなかった…

 

 

 

 

 

「メガミホテル…ここであってる?」

「うん、ここみたい…」

 

端末のマップ機能を頼りに目的のメガミホテルに到着。

チェックインとかの手続きは二人の代わりにわたしがやって(暑さでバテてたせいか受付の人に心配された)、鍵を受け取って部屋に向かう。

っていうか、それはいいんだけど…どう見ても子供三人しかいないのによく部屋取れたな…お金さえあればいいのか、ミナさん辺りが事前に連絡入れていたのか…多分後者だろうけど。

 

ミナさんはよく地味だとかそんな風に思われがちだけど、相当すごい人だとわたしは思う。

だって守護女神不在で、候補生が二人残ってると言ってもあの二人に執務とかはまだ難しいから、主要の物の殆どはミナさんが頑張ってるわけで(もちろんフィナンシェさん達他の人達も頑張ったり、わたしもできる限りの手伝いはしてるけど)

それでいて二人の面倒も見たりしてるから…相当苦労してると思う。

 

他の教祖の事までは知らないけど、ブランさんには戻ったらちゃんとミナさんに休暇とかを与えてあげてほしいな。

 

「ふかふかのベッドー!」

「…グリモちゃん、暑くてへとへとみたいだったけど、大丈夫?(しんぱい)」

「あうー、だいじょーぶー」

「ダメっぽいわね」

 

部屋に着くなり心配そうに聞いてくるロムちゃんに、ベッドにぼすんと倒れ込みながらそう答える。

もうね、今なんか長々とモノローグで語ったせいで余計に熱が高くなった気がする、オーバーヒートしそう。

とりあえずタイツは脱ごう…外出る時はふつーのソックスでいいでしょ…

 

「グリモちゃんつらそう…」

「あ、じゃあグリモちゃんの涼しい服でも買いに行こうよ! ついでに街の探検!」

「探検…!(きらきら)」

 

なんか二人が楽しげに話してるけど今のわたしにはそれに混ざる気力すらなかった。

あー、エアコンが効いてるのか知らないけど涼しい…もう今日はこのまま動きたくない…って、

 

「あ、あの、二人ともなんでわたしの腕を掴んで…?」

「さーグリモちゃん行くわよっ、れっつ探検ー!」

「おー…♪」

「聞いて!? っていうかわたし休みたいんだけど…わ、わかった! わかったから引きずらないでぇぇぇぇ…」

 

ようやく休める、そう思っていた時期がわたしにもありました。

 

 

 

「…それで、こんな暑い中連れ出してどこいくんですか…」

「グリモちゃん、敬語になってるよ…?」

 

頭上で燦々と輝く太陽を恨めしく思いながら口にした言葉は、自分でも気付かないうちに敬語(主に他人・不機嫌時のもの)になっていたみたいだった。

だって暑いんだもん…暑いぃぃ…

 

「もうやだぁ…おうちかえるぅ…」

「暑すぎてキャラ崩壊してる!?」

「ぐ、グリモちゃんそんなに暑いのダメなんだ…」

「と、とにかく早いとこお店行こうロムちゃん! このままじゃほんとにグリモちゃんが壊れちゃう!」

「うぁー、とけりゅ…」

 

最早暑さの事以外考えられずにいると、(多分)ラムちゃんとロムちゃんの二人に引っ張られてどこかへと連れていかれる。

ぼんやりと手を引かれるままについて行って少しすると、急に涼しい風がわたしの身体を包み込んだ。

あぁ、涼しい…

 

「生き返るぅ…」

「グリモちゃん、大丈夫…?」

「よかった、まだ壊れてないみたいね」

「人を壊れ物扱いしないでー…」

 

暫く涼しい空気のなかでクールダウンしてくると、ここはどこなのかを確認する。

ざっと辺りを見回した感じだと…お店、かな。それも洋服店?

 

「…ああ、そういえばわたしの服がなんとかって言ってたね」

「そーよ。暑がりグリモちゃんの為に着せか、涼しい服を選んであげるの!」

「今着せ替えって言いかけなかった?」

「気のせいよ」

 

あからさまに目を逸らすラムちゃん。それだとバレバレたよ…

わたしは着せ替え人形じゃない…って言いたいけど、この暑い中で行動するための服は必要かもね…

 

「でも、お金とかは?」

「……あっ」

「えと…ラムちゃんとふたりで出して、どうにか…」

 

あって…そこ大事だと思うけどなぁ。

 

「…まぁ、わたしの服なんでしょ? お金はわたしが払うよ」

「え、でも…」

「そもそもグリモちゃんお金持ってるの?」

「クエストとか手伝いで貰ったやつがね。…まぁ、あんまり高いのは無理だけど」

 

言いながら自分の所持クレジットを確認。

…うん、まぁ、洋服くらいなら買えそうかな。

 

「あ、でもわたしふぁっしょん? とかよくわからないから、その辺は二人に任せたいな」

「そう? なら選ぶのはわたし達にまっかせなさーい!」

「似合うやつ、探すね…(ぐっ)」

 

わたしがそう言うと二人はぱたぱたと小走りでお店の奥へ。

そんな二人を見ながら「あんまり走って迷惑かけないようにね?」と声をかけながらわたしも後に続く。

 

 

「グリモちゃんグリモちゃん! これどう?」

「う、うーん…可愛い、んだろうけど…ちょっと過激じゃない?」

 

「じゃあ、これは…?」

「これはこれで暑苦しそう…っていうか夏服なの? これ」

 

「ならこれ! ふりふりしててかわいいし!」

「…ねぇラムちゃん。確かにふりふりはついてるけど、わたしには水着にしか見えないんだけど?」

「じょ、じょーだんよ、じょーだん」

 

「じゃ、じゃあ、これ…」

「ロムちゃんまでふざけなくていいからね! っていうかなにそれ、布面積少なすぎない? …持ってきて恥ずかしがるならやめようよ!?」

「はわわ…(かぁあ)」

 

 

そんなこんなあったりもしつつ、なんとかわたしの夏服? が決まって購入。

で、今は早速その服に着替えているところ。

 

「グリモちゃんまだー?」

「もう少し待ってー」

「(わくわく)」

 

急かされながらも新しい服装に着替えて、念のため変なところがないかを確認してから試着室を出る。

 

「…どうかな?」

「「かわいいっ!」」

 

試着室を出てみれば二人から同時にそう言われた。

今のわたしの格好はいかにも夏って感じの白ワンピース。

流石にそのままだと肩が出ててなんか落ち着かない、という事で、その上から紺色のシャツを着ている。

 

「そ、そうかな。なら、これに…」

「…グリモちゃん、他の服も似合いそうだよね、今度着せ替えして遊ぶのも…」

「あ、楽しそう…」

「あの? 何の話を…」

 

なんか不穏な企みが聞こえたような…

 

「んーん、なんでもなーい! それより服はそれでいいんでしょ? 早く買って行こうよ!」

「ルウィー以外のおっきな街、初めてだから…(うずうず)」

「う、うん…そうだね」

 

早く早く、と二人に急かされながら、今着ている服を購入。

ついでに麦わら帽子も買ってそれを被りつつ、再び外へと。

 

「っていっても、探検って何するの?」

「んー、んー…てきとーに歩き回る!」

 

大分マシになったとはいえなるべく日陰を歩きながら、あまり期待せずに聞いてみれば案の定、ノープランだった。

まぁ、いいんだけど…

 

「…ホテルの場所忘れないようにね?」

「わかってるわよー!」

「ラムちゃん! あそこ、アイス屋さんがある…!」

「ほんとっ?! どこどこー?」

 

ロムちゃんが見つけたアイス屋さんに二人して駆け込んで行くのを眺めながら、本当にわかってるのかなと苦笑い。

 

「ちょっと! どきなさいよ!」

 

そんな二人の後を追おうとした時、どこからかそんな声が聞こえてきた。

なんだろう、と声のしてきた方を見てみると、少し目の付きにくい所で誰かが三人の男の人に囲まれていた。

 

「いいじゃんかちょっとくらい、なぁ?」

「「へへへ…」」

 

囲まれている女の子は三人の男の人を睨みつけるけど、三人は退く気は全くない様子。

ああ、これってあれかな、ナンパってやつ? しかもめんどくさそうな方の。

 

…どうしよう、見ちゃったしな…となればそのまま行くのは危ないから…

 

道の隅に移動しながら、メガネをしまって(ずっとしてたよ?)ぽん、と魔導書を手に。

あまり派手に騒ぎを大きくする訳にもいかないから…と。

 

「ちょっとだけお茶してくれるだけでいいからさぁー」

「嫌っ、離しなさいよ! いい加減にしないと…」

「お? いい加減にしないと、なんだぁ? へへっ…」

 

「──痛い目を見る事になる、だと思いますよ?」

「なんっぐへぇ!」

気付かれないように三人の内の一人の背後に立ちながらそう言って、相手の答えも待たずに身体を捻り思い切りの回し蹴りを放つ。

"魔法"の効果か、蹴られた男の人はそのまま近くにあったゴミ置き場まで吹っ飛んだけど…大丈夫かな、やりすぎた?

…ま、まぁ悪い人にはこれくらい痛い目みせなきゃダメだよね、うん。よしっ!

そう結論付けて顔を上げれば、驚いた様子の女の人と男の人一人、明らかに怒ってる様子の男の人が一人。

 

「な、なんだこのガキ!」

「…人が嫌がってるのに強要するようなのに、容赦なんか要りませんよね? っと!」

「げふぅ!?」

 

言いながら少し離れた場所のもう一人のお腹目掛けて拳を振るう。

すると闘気(って言えばいいのかな)がわたしの拳から放たれ、直撃した男の人はそんな声を上げて、そのまま前のめりに倒れ伏した。

 

さっきの蹴りもだけど、今わたしの身体には身体強化の魔法が掛かっている。

流石に何もなしで蹴っ飛ばしたって所詮子供の力だからね、こうでもして多少は強化しないと…ちょっと強すぎたかもだけど。

 

「ひ、ひいっ!? な、なんなんだよお前!」

「えぇ、見てわかりません? 通りすがりの、ただの子供です」

 

狼狽する残った男の人に、にっこり微笑みながらそう言う。

…大人を蹴り吹っ飛ばすただの子供なんて、自分で言ってないなって思った。

 

「こ、この…ガキの分際で調子に乗るなよ!」

 

仲間が一瞬で二人もやられたせいかはわからないけど、残った男の人はそう言って懐から何が光るものを取り出した。

男の人が取り出したのは、ナイフ。だけど、特に驚きはしない。

だって、ルウィーで読んだ小説に似たような場面があったし…

 

「うわー、子供相手にそんなもの使うんですか、大人気ないですねー」

「ちょっ、なんで煽ってんのよ! 逃げなさいって!」

「うるせぇ! 死ねやガキぃぃぃ!!」

 

蔑むように言った所で完全にキレている男はお構い無しに、そのままわたしにナイフをわたしに振り下ろそうとする。

絡まれていた女の子が逃げるようにと言っているけど…

 

「…胴がガラ空きです」

 

わたしは逃げずに、むしろ相手に近付く形で懐へと潜り込んで…

 

「たああっ!!」

「ごべっ!!」

 

そのままジャンプした勢いを拳に乗せて、アッパー。

わたしの拳は綺麗に相手の顎に直撃して、打ち上がった男の人はびたん! という表現がぴったりな具合で地面に倒れ伏した。

 

「…小さいからって甘くみないでよね」

 

ふんっ、と鼻を鳴らしながら気を失った三人を見てから、女の子の所へ。

 

「えっと…大丈夫ですか?」

「あ、アタシはなんともないけど…」

「ならよかったです」

 

女の子に怪我がないのがわかれば、そう言ってにこりと微笑む。

…ちょっとやりすぎた感が否めないけど…嫌がることする方が悪いんだもん。

 

「…アンタ、何者よ?」

「はい?」

 

はふぅ、と息を吐きながら強化魔法を解いていると、女の子が警戒しているような表情でそう聞いてきた。

何者、何者か…うーん、そうだなぁ…

 

「…ただの旅行者C?」

「なんで疑問形なのよ…しかもCって、AとかBもいるっていうの?」

「まぁ、はい」

「…こんなちびっこいのに旅行者ねぇ」

 

そう言って、宝石みたいな赤い色の目でじろじろと見てくる、黒髪の女の子。

 

「ちびだとか、子供扱いされるのはもう慣れてますけど、小さいからって甘く見てたらあれみたいな事になりますからね」

「わかってるわよ、目の前で見てたんだから…」

 

慣れてる、なんて言ったものの、それでもやっぱりそう言われるのはそんなに好きじゃない。

もしかしたら今不満顔だったかもしれないし。

 

「…って、そうじゃなくて、なによあれ?」

「はい?」

「アンタのどこにあんな力があるかって聞いてんの!」

 

どうにも女の子はどうしてわたしみたいな子供に大人を一方的に倒せるような力があったのかが気になるみたい。

うーん、魔法のこと話していいのかな。ルウィーから来たってわかっちゃいそうだけど。

…いっか。別に隠してるものでもなかったはずだし。

 

「んー…魔法っていえば伝わります?」

「魔法…って、ルウィーの技術よね。つまりさっきのは魔法だっていうの?」

「はい。と言っても一般的に知られてるような属性魔法じゃなくて、自分の能力を引き上げるタイプの補助魔法ですけどね」

 

わたしがそう説明すると、女の子はふぅん、とそんな反応をするだけだった。

…言うほど珍しくもないのかな、魔法…って

 

「…あっ、しまった二人のことすっかり忘れてた! す、すみません、わたしはこれでっ!」

「あ、ちょ、ちょっと!」

 

わたしはさっきまで一緒にいたロムちゃんとラムちゃんの事を思い出し、慌てて元いた場所に戻ろうとする。

すると、女の子がわたしを呼び止めてきた。

 

「な、なんでしょうかっ!」

「その…まぁ、結果的には助かったわ。…ありがと」

 

女の子は目を泳がせながら、ギリギリ聞こえるくらいの大きさでお礼を言ってきた。

うーん。あ、自分より小さい子に助けられるのって、複雑なのかな…

 

「はいっ、どういたしまして!」

 

そんな考えはすぐにやめて、わたしは笑顔でそう答えながら、二人の元へと戻るのでした。

あの子とはまたどこかで会えそう、そんな予感を感じながら。

 

 

 

 

 

「もうっ! グリモちゃんてばどこいってたのよ!」

「心配、した…っ(むすっ)」

「ご、ごめんなさい…」

 

ちなみに、二人には怒られました。




〜パロディ解説〜
・もうやだぁ…おうちかえるぅ…
ゆずソフトより、サノバウィッチの登場キャラ、綾地寧々の台詞から。
寧々といえば……おっと、この小説は健全なのでR-18な解説はできませんね。という訳で原作ゲームを調べる場合はご注意を。

・…小さいからって甘く見ないでよね
デッドオアアライブより、マリー・ローズの台詞。
ラムちゃんも似たような事言ってた気がしますが、格闘戦での勝利後なのでイメージ的にはこちらです。
ロムとラムの従者という点でなら、グリモもサーバントかも?

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