幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
Act.1 双子とわたし
結局、あれから自分の事や名前は思い出せなかった。
気がついたら今この場所にいた…それだけ。
本当に思い出せないのかと聞いてくる女の人に頷いて答えると、その人は何かを考えるように少し黙ってから、
「暫くここにいるといいわ」
と言った。
それからまだ状況がイマイチわかっていないわたしに、この人は色々と教えてくれた。
話によるとわたしは記憶喪失というものらしくて、自分の名前とかが思い出せないのはこれのせいで、治るかどうかはわからないみたい。
「…記憶が無いのなら、自分のいた場所も思い出せないでしょう? 傷もまだ治りきってない事だし」
そう言われてわたしは自分の身体に貸してもらったパジャマ越しに触れる。
まだまだちゃんと治るのには程遠いみたいで、触れるとズキリと傷が痛んだ。
もちろん、どうしてこんな大怪我を負ったのかもわからない。
「ともかく、今は大人しく安静にしていなさい」
そう言って、女の人は部屋を出ていってしまった。
部屋にひとりになって、改めて色々考えようとしてみる。
でも、やっぱりここで目が覚めてからのこと以外、何も思い出せなかった。
…思い出しても結局この傷が治るまでは動けないし、まずは大人しく治るようにしていた方がいいかな…
ぼうっとしながらそんなことを考えていると、ふと視線を感じた。
「じぃー…」
「(じぃっ)」
…なんか、見られてる…
しかもじぃーって発音してる…
不意に、片方の子と視線が合う。
「さっ!」
「(ささっ)」
隠れられた。…なんなんだろう。
そういえば、片方は目が覚めたときにここにいた、髪の長い女の子だったような…
…扉が少し開いているからか、向こうの二人の話し声が聞こえてくる。
「…あの子、起きてた」
「むぅ、寝てたらイタズラしてやろうと思ったのに」
「ラムちゃん、初めてお話する子にそんなことダメ…お話しに来たんでしょ…?」
「じょ、冗談よ」
会話が丸聞こえなのは言った方がいいのかな…
ともかく、色々聞いてきた女の人がいなくなってすぐ寝てなくてよかった…のかな?
暫くすると、恐る恐るといった様子で二人が部屋に入ってきた。
「ねぇ、あんた」
髪の長い方の子がわたしを指さしながら言う。
「…わたし?」
「そう、あんたよ」
わたしが自分を指さしながら首を傾げ問いかけると、そう答える長髪の子。
まぁ、指さされた方にはわたししかいないから当然だけど…わたしだけだよね?
なぜか変な不安を感じて思わず後ろを振り返る。うん、壁。
「何してんのよ?」
…何でもないです
「あ、あの……怪我、だいじょうぶ…?」
じとっとした視線を向けられて思わず俯いてると、もう一人の、髪の短い方の子がそう聞いてきた。
まだ治りきってはいないけど、痛み続けてる訳でもないので、こくりと頷いて返した。
「そっか…よかった(あんしん)」
「ふふん、わたしとロムちゃんにカンシャすることね!」
短い髪の子──ロムちゃん? が安堵しているよこで、長い髪の子がなぜか得意げにそう言ってきた。
なんでこのふたりに感謝? と不思議に思っていると、
「あのね…わたし達が大怪我して倒れてたあなたを見つけて運んできたの…」
と、ロムちゃんがその疑問を解消してくれた。
「…そうなんだ。…えと、ありがとう…」
「ふふん、それでいいのよっ!」
上半身を動かすときにちょっと傷が痛かったけど、わたしはふたりに向かってぺこりと頭を下げた。
すると髪の長い方──ラムちゃん?が見るからに上機嫌に。
…うーん、わかりやすい子。
「そういえば、あなた名前無いのよね?」
と、ラムちゃんが急にそんなことを言い出してきた。
無いというか、思い出せないんだけど…
「ラムちゃん、無いんじゃなくてわかんないだけだよ…?」
「結局はおんなじでしょ! とにかく、それだと不便だから、わたし達で名前付けたげるー!」
「あ…めいあん…(こくこく)」
なんだかふたりの方で話が進んでいる。
名前を付けるって…わたしはペットかなにかだと思われてるのかな…
まぁ、それはともかく確かに名前がないのって不便そうだし…変な名前じゃないといいな…
「ふふん。こういうのはこのラムちゃんにまっかせなさい! えーとねー……雪が降ってる日に見つけたから、シロ!」
…………えぇ……
「むっ、何よその嫌そうな顔は。ならそのまんまユキとかでも――」
「…あの、ね…? グリモちゃん、って…どう…?」
ノリノリで素晴らしく安直な名前を挙げるラムちゃん。
そこを急にロムちゃんに割って入られたからか、不機嫌そうな顔になっちゃった。
……それにしても、どうしてグリモなんだろう…? 思わず首を傾げる。
「んとね…倒れてた所に、これが落ちてたの」
そう言って、ロムちゃんは一冊の白い本を取り出す。
これは…なんの本だろう。これがわたしの倒れてた所に…?
「なにそれ? 変な本ー」
「うん…中身も真っ白なの…」
そう言って、わたしとラムちゃんにも見えるようにしながらぱらぱらと本を開いてくれる。
中身はロムちゃんの言った通り、どのページも真っ白だった。
「ふぅん。それで、なんでグリモなの?」
一通り白紙のページを見終えると、ラムちゃんがロムちゃんにそう聞いた。
「えっとね…この本を拾った時に、頭の中で声が聞こえたの。グリモワール…って」
「えぇー、なにそれ」
「わたしにもよくわからないけど…きっとこの本の名前なのかなって。それで、その名前から取って、グリモちゃん…どうかな…?」
ふむふむ…
頭の中で聞こえた声とか、どうしてわたしのいたところに落ちてたのかとか、気になるところはいろいろあるけど…
「……うん。良い、かも」
「うー。でもシロとかユキも良いと……わ、わかったわよ、だからそんな嫌そうな顔しないでよ!」
……どうやらわたしは考えてることがすぐ顔にでるみたい。
だって、流石に安直すぎるんだもん。
「それじゃ、あなたの名前はグリモね! ロムちゃんが決めてくれたんだからありがたく思いなさいっ!」
こくり、と頷いて了承。
「それと…きっとこれ、グリモちゃんのだから…返すね」
名前が決められたところで、ロムちゃんがそう言いながらわたしにその白い本を差し出してくる。
本当にわたしの物かはわからないけど…とりあえず、受け取っておこう。
「……ありがとう」
「…えへへ」
「むっ。とにかく名前もつけてあげたし、さっさと怪我治してよね! そしたらわたし達がルウィーをしょーかいしてあげるんだから!」
にこりと微笑みながら(実際できてたかはわからないけど)ロムにお礼をする。
なんか一瞬ラムちゃんに睨まれた気がするけど…と、それよりわたしの怪我が治ったらなにかするつもりみたい。
断る理由もないし、…どうせ断っても無理矢理連れてこれそうだけど。
「約束、ね…?」
ロムちゃんがそう言ってにこっと微笑む。
……この二人は、二人なりにわたしを気遣ってくれてるのかな。
「っとと、そういえばお姉ちゃんに頼まれごとしてたんだった! そういうことだから、早く怪我治しなさいよねっ!」
ラムちゃんの言葉に、わたしは頷いた。
「じゃ、またね!」
「…ばいばい、グリモちゃん」
別れの言葉を告げて部屋を出ていくふたり。
「………ありがとう」
そんなふたりの背中を見つめながら、わたしはそう小さく呟くのだった。
そんな約束からまた暫くして、
なんとか傷も治ったわたしは、約束通りふたりにルウィーを案内してもらうことになった。
と、言っても、ブランさん──あのわたしに色々聞いたりしてきた女の人の事。のお使いの片手間だけど。
外に出る用にブランさんから貰った、ロムちゃんとラムちゃん、二人の物と同じデザインの黒いコートを着てふたりの所に向かう。
ちなみに色は白とか黄緑とか紫もあったけど、なんとなく黒を選んだ。
…同じデザインのが何個もあったことには触れないよ。
「あ…」
「来たわねグリモちゃん!」
教会の入り口までやってくると、ふたりがこっちに手を振ってきた。
わたしはふたりの元へ小走りで向かっていった。
「その服…わたし達とお揃い…♪」
「なんていうか、グリモちゃんの服をちょっと変えたら、ロムちゃんそっくりになりそう! とにかく似合ってるわ!」
そうかな…
確かに目線も殆ど一緒で、違うのは髪の長さがちょっとわたしの方が長いくらい?
「まぁそれはいいとして、早速行っくよー!」
「おー…♪」
笑顔で手を頭上に突き上げるふたり。
ノリノリだなぁ……あれ? これわたしもする流れ?
「…お、おー…」
ラムちゃんから一瞬不機嫌そうな視線が来たのでふたりの真似をする。
あ、機嫌直った。よかった…
「よーっし! それじゃーしゅっぱーつ!」
「行こ、グリモちゃん…」
ふたりに手を引かれながら教会を出る。
ちょ、自分で歩ける、っていうか危ない転ぶ転ぶ。
「まずはー……」
そんな感じで、この日はふたりに案内という名目で一日中街を連れ回されたのでした。
〜パロディ解説〜
・二人と同じデザインの黒いコート
ルウィーブランドであるアイスコートの別カラーバリエーションであるブラックコートのこと。パロディと言うよりは元ネタ。モチーフはラステイションだとか。
原作既プレイで上記衣装を見たことがある方には伝わりやすいと思いますが、グリモのブラックコートはロム仕様の、インナーカラーが水色の物となっております。