幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
翌日、ルウィー教会の広間にて。
がすとから準備ができたから向かうとの連絡(昨日帰り際に連絡先の交換をしてた)が来て、広間に釜やらなにやら、簡易の錬金術一式が広げられていた。
「錬金術って本でしか見たことないから、楽しみだね、ロムちゃん!」
「うん…(わくわく)」
「錬金術、ですか。…噂には聞いてましたが、まさかルウィーの近くにその使い手がいたとは…」
準備を進めるがすとを見ながらそれぞれそんな事を言っていた。
そんな時、広間の入口から話し声が聞こえてきたかと思うと、ネプギアたちが姿を現した。
「失礼しまーす…」
「ネプギア。素材は?」
「あ、グリモちゃん。うん、ばっちりだよ」
そう言ってネプギアは取り出した携帯端末を操作して、素材を取り出す。
…プラネテューヌ製の携帯端末はコンパクトで便利そうだなぁ。ちょっと欲しいかも…
「…確かに、レアメタルとデータニウムですの。では、ゲイムキャラの修復を始めるですのー」
ネプギアから素材を受け取ると、さっそく作業に取り掛かるがすと。
さて、これで無事に直ればいいんだけど。
「ふんふふんふーん…ぐるこーんぐるこーん…」
「わぁ…ほんものの錬金術…」
「私も実物を見るのは初めてです…」
「混ぜてるだけにしか見えないけどすごーい!」
「混ぜ方にコツがいるんだよ、多分ね」
「お願い、直って…」
「ゲイムキャラさん、直るですかねぇ…?」
「直ってもらわなきゃ困るわよ、これでもう結構時間使っちゃってるんだし」
「がすとの腕は確かだから、大丈夫だよ!」
「ブロッコリーはあんまり知らないからなんとも言えないけど、がすとならやってくれるはずだにゅ」
「日本一とブロッコリーがそういうなら安心だね!」
そんな感じでがすとの作業を見守るわたし達。
にしてもあっちはホント人数が多いな…
「ぐるこーんぐるこーん…と。さいごにディスクのかけらをいれて…」
そう言ってがすとは、釜にゲイムキャラのディスクのかけらを入れて混ぜる。
それから少しすると、突然釜の中身が光り出した。
「…かんせいですの!」
がすとのそんな声を聞いて光が引いた場所を見ると、そこにはふわふわと中に浮くディスクが。
あれがゲイムキャラ…? つまり、成功したんだ。
「う…ここは…私は…?」
「わ、すごい! 本当に復活したよ!」
「流石はがすとだね!」
「これくらいおやすいごようですの」
上手くいった事に驚くREDと賞賛する日本一、そんな二人を見てがすとは得意げにしている。
錬金術ってすごいんだなぁ…
「ああ、本当にこんなことが…私が分かりますか?」
「ルウィーの教祖…? これは、どういうことでしょうか? 私はあの時、確かに消滅したはず…」
「そこにいる、錬金術士のがすとさんが直してくれたんですよ」
困惑した様子のゲイムキャラ…ホワイトディスクに、ネプギアが状況の説明をする。
…ディスクだから、表情とかが無い分何考えてるのか、感情が分かりづらい。
「そうですか、ありがとうございます。…ですが、私が一度消滅したという事は…」
「はい。キラーマシンの封印が解けてしまいました。急ぎ再度の封印を施さねばなりません。…あなたを物のように扱って心苦しくはありますが…」
「一刻を争う事態です。そのような気遣いは無用ですよ」
申し訳なさそうに言うミナさんに、そう答えるホワイトディスク。
「…ネプテューヌの妹。あなたに頼みがあります」
「はい、なんですか?」
「私には敵と戦い、打ち倒す力はありません。一人では封印の場へと辿りつく事も叶わないでしょう。…図々しい願いとは承知の上ですが、同行してはもらえないでしょうか?」
「全然構いませんよ。そのくらいはお安いご用です!」
と、そんなこんなで最後までネプギア達に頼る形になったみたい。
まぁ、一度キラーマシンと戦ってるし、封印場所も把握してるし、適役か。
「じゃあアタシ達も一緒に…」
「待つですの日本一。あんまり大勢でぞろぞろ行くのもどうかとがすとはおもうですの」
「えー、じゃあどうするのさ」
「ブロッコリー達はもしもの時の為に、待機してた方がいいんじゃないかにゅ?」
「そうね、もしもキラーマシンが出てきたりしたら街を守る人が必要だし、そうしてもらえると助かるわ」
そんな話し合いの結果。
ネプギア、コンパ、アイエフ、REDの四人がゲイムキャラと一緒に封印場所に向かい、ブロッコリー、日本一、がすとは待機ということになったみたい。
ずっと蚊帳の外だったわたし達はどうしようかなぁと思いながら、ふと横を見ると
「(うずうず…)」
「む…」
ついて行きたそうな目でネプギアを見つめるロムちゃんと、そんなロムちゃんを見てむっとした顔のラムちゃんが。
そんな視線に気付いたのかどうかは知らないけれど、ネプギアが「あ」と声を上げながらこちらに来た。
「もし良かったら、ロムちゃん達も来てくれないかな? 私達だけじゃちょっと心細いし…」
「…うん! わたしも…」
「まぁ、わたしとロムちゃんは特に拒否する理由も無いんだけど…」
ちら、と横目でラムちゃんを見る。
思いっきりネプギアを睨みつけてる…これはダメなヤツだ。
「ダメ! わ、わたし達は行かないわよ!」
「…え?」
「…ぁ、う…え、えーっと、その……そ、そう! わたし達はルウィーの女神候補生なんだから、街を守る為にここにいなくちゃいけないの! ね?グリモちゃん!」
ついネプギアに反発しちゃって後戻りできなくなったのか、しどろもどろになりながらもそう答えてわたしに同意を求めてくる。
いや、わたしに同意を求められても……
「ね!?」
「…は、はい、そうですね…」
結局ラムちゃんに気圧されて、思わず頷いてしまった。
何してるの、わたし…
「ほ、ほら! グリモだってこう言ってるし!」
「でも…」
「そっか、それなら仕方ないよね…」
「あ…」
残念そうにしながら引き下がるネプギアを見てしゅんとしてしまうロムちゃん。
で、そんなロムちゃんを見て「や、やっちゃった…」みたいな顔をするラムちゃん。
…はぁ、まったくもう。
「…えー、と。そうだ、確か冷蔵庫にプリンがあったはずだから、それでも食べよ、ね?」
「う、うん…」
「…(こくん)」
沈んだ様子の二人の背を押しながら、部屋の出口に向かう。
その途中でミナさんに「ごめんなさい」という意味を込めて小さく頭を下げつつ、わたし達はその場を後にした。
「…さて、ラムちゃん? 何か言いたいことはある?」
「うぅっ…」
冷蔵庫から三人分のプリンを持ってきつつ、ロムちゃん達の部屋に。
そして現在はラムちゃんを正座させてお説教中。
「まったくもう…で、どうするのさ。ラムちゃんだって全部ネプギア達任せは良くないってのは分かってるんでしょ?」
わたしがそう言うとこくりと頷くラムちゃん。
それならまだいいけど…
「じゃ、じゃあ…ネプギアちゃん助けに行っても、いいの…?」
「うー…」
そう言ってもまだ不満げな表情を浮かべている。
んー…それなら…
「…ほら、ネプギア達を助けるんじゃなく、街を守る為だと思えば」
「…そ、そうね、別にあいつを助けに行くんじゃなくって、ルウィーを守る為だもんね、うん…」
それっぽい理由を言ってあげると、ラムちゃんはそう言って自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟く。
で、ロムちゃんはというと…すごく嬉しそうな顔。
…うーん、流石のわたしもここまでネプギアの事を気にされると、複雑な気分に…
「それじゃ、早速行く前に…プリン食べちゃおっか」
「「うん!」」
今後の事を決めつつ、三人で「いただきまーす!」と持ってきたプリンを食べ始めた。
キラーマシン…
わざわざ封印なんてされてたんだ、きっと普段のクエストで戦ってるようなモンスターよりもずっと強い敵。
そんなの相手に戦うのなんて怖くない。…なんて言えば嘘になる。
その証拠に、杖を持つ手が小さく震えている。
「グリモちゃん、大丈夫?」
「震えてる…」
「う、ん……大丈夫。大丈夫…」
心配そうに声をかけてくる、ホワイトシスターに変身した二人にそう答える。
自分に言い聞かせるようにしながら。
「…」
「…?」
そんな時、突然ロムちゃんがぴたり、と寄り添ってきた。
「…怖い?」
「……うん」
「なら、いっしょ…。わたしも、怖い…」
怖いと言いながらも、少し無理矢理に笑顔を作りながら、でもね…と続けるロムちゃん。
「怖いけど…ラムちゃんと、グリモちゃんがいっしょだから…平気なの」
「そうよそうよ、わたし達三人が力を合わせれば無敵なんだから!」
そう言ってロムちゃんがわたしを勇気づけてくれて。
ラムちゃんもロムちゃんを真似るように寄り添いながらそう言ってくれて。
「…無敵は言い過ぎじゃない?」
「そんなことないわよ。ねーロムちゃん」
「うんっ、無敵だよ…?」
「そうかなぁ…」
そんなやりとりになぜだか思わずくすりと吹き出してしまい。
けれど、気付けば身体の震えは治まっていて。
「何笑ってるのよー」
「…二人と出会えて良かったなって、思って」
「ふぇ…?」
「もう大丈夫、ありがとう」
そう言って一歩前に出て、杖を握り直す。
「ネプギアちゃん、大丈夫かな…」
「むっ! あくまでルウィーを守るために行くんだからね! ロムちゃん!」
覚悟を決めて、進み始める。
――二人と一緒なら、もう怖くない。
「…よしっ。行こっか」
「おっけー! わたし達の実力を見せつけてやるんだから!」
「…頑張る」
こうしてわたし達は、ネフギア達の後を追って世界中の迷宮へと向かった。