幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.7 仲良し三人

「…遅い」

 

グリモちゃんから「ちょっと帰り遅くなる、ごめんね」なんて連絡が来てから結構経って、

わたしはまだお部屋で、ロムちゃんとグリモちゃんの帰りをひとりで待っていた。

流石に何もしないで〜、なんていうのはたいくつすぎるから、ひとりでおえかきしたり本を読んだりゲームしたりしてたけど、やっぱりひとりだとなんかつまらない。

 

「もう夕方…」

 

窓の外を見るともう空がオレンジ色。

いくら何でも遅すぎるよ。

 

「………」

 

わたし以外誰もいない部屋を見回す。

このお部屋、こんなに広かったっけ…

 

「…ううん、ロムちゃんが…ロムちゃん達がいないからよ」

 

ベッドに座って、膝を抱える。

…寂しい。

ひとりぼっちが、こんなに寂しかったなんて、知らなかった。

 

「…早く帰ってきてよ、ロムちゃん…グリモちゃん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

「ただいまー…」

「あら、グリモ、ロム、お帰りなさい」

 

教会に戻ってくると、ミナさんに出迎えられる。

ラムちゃんは…いないみたい。

 

「帰りが遅いから心配したのよ、どこへ行ってたの?」

「ええと、ちょっとアトリエに」

「アトリエ?」

 

ひとまず、出かけた間に起こったことをミナさんに伝えることに。

ネプギア達に会ったこと、ブロッコリーの紹介でがすとのアトリエに言ってきたこと、ゲイムキャラが直るかもしれないこと、がすとが少ししたら教会に来ること…

 

「…そう、そんなことが」

「はい。あと、アイエフがネプギアと別行動して敵の様子を探ったところ、数日後に襲撃しようとしてるって情報を得た

ようなので、ひとまず今日は身体を休めるべきだ、と」

 

まぁ、どっちにしろ時間が経てば経つほどキラーマシンが増えるわけだから、あんまり悠長な事は言ってられないとは思うけど。

 

「大体は把握しました。あの方々には改めてお礼をしなければね…」

「…他国の女神なのに、色々してくれてますからね。…と、それじゃわたし達は部屋に戻ってます」

「わかったわ。それじゃあ夕飯の支度ができたら呼ぶわね」

「はい。ロムちゃん、いこ」

「(こくり)」

 

ミナさんに一通りの報告を済ませて、わたしはロムちゃんの手を引いてふたりの部屋へと向かう。

ロムちゃんはまだ少し不安そうだけど…きっと大丈夫、だよね…?

…なんか不安になってきた。

 

「ラムちゃん、ただいま」

「た、ただいま……?」

「…あれ」

 

ロムちゃんと二人で部屋に入るものの、なんの反応もなし。

てっきり、「おっそーい!」とかって怒鳴られると思ってたんだけど…って

 

「…ラムちゃん、寝てる?」

「…の、かな…これは」

 

二人して部屋を見回すと、ベッドで横になっているラムちゃんを見つけた。

そーっと近寄って様子を見てみると、やっぱり寝てるみたいだった。

 

「待ちくたびれて寝ちゃったのかな」

 

なんて呟いて、ふと気付く。

…ラムちゃん、泣いてる?

 

「……やだ…ロムちゃん……ひとりに、しないで…」

 

つぅ、と頬に一筋の涙を流しながら眠るラムちゃん。

双子で大事なロムちゃんがどこかに行っちゃう夢でも見てるのかな…ええと、ひとまず…

 

「ラムちゃん、起きて」

「起きて…」

 

ロムちゃんと二人でラムちゃんの身体を揺する。

少しすると、うぅん…と唸るような声を上げながら、むくりと起き上がった。

 

「うぅ、ん……、…! ロムちゃんっ!」

「ひゃぁ…っ!?」

 

そして目を覚ますや否や、がばっとロムちゃんに抱きつくラムちゃん。

 

「ごめん、ごめんねロムちゃん、わたしロムちゃんと喧嘩しっぱなしなの、やだよ…」

「ラムちゃん…わたしも、ラムちゃんと仲直り、したい」

「ロムちゃぁん…っ」

 

そういってひしと抱き合う二人。心配する必要は無かったみたい。

でもどうしたんだろう急に…何か怖い夢でも見たのかな。

…まぁ、いっか。

 

「それで、ロムちゃん。ラムちゃんにお願いがあるんでしょ?」

「あ…うん」

 

そんな空気を壊すようでちょっと躊躇したけど、どうせ話すことだしと思ってあの話をするようロムちゃんに促す。

 

「お願い?」

「あの、ね…ネプギアちゃんを、嫌わないであげて…」

「ネプギア…」

 

ネプギアの名前が出てあからさまに嫌そうな顔をするラムちゃん。

でも、すぐにいつもの表情に戻った。

 

「本に出てきた他の女神は悪い人だったけど、ネプギアちゃんはそういう女神じゃなくて、お姉ちゃん達の為に一生懸命で…だから、だから…ふぇ…」

 

ラムちゃんに必死で思ったことを伝えようとするけど、だんだん弱々しくなって涙目になってしまう。

でも、そんなロムちゃんを、ラムちゃんはそっと抱きしめた。

 

「…いきなり良い顔はできないかもだけど、ロムちゃんにそこまで言わせるくらいのやつなのよね。それなら…」

「ラム、ちゃん…!」

 

その言葉にぱぁ、と明るい表情を浮かべる。

そんなロムちゃんに「ただし!」とむすっとしながら続けるラムちゃん。

 

「しばらくは様子見だからね、様子見! まだホントに悪い女神じゃないと決まったわけじゃないんだから! …と、とりあえず敵って言うのはやめるだけよ!」

「最初はそれで、いいんじゃない? 実のところ、わたしも信用しきってないしね」

「え…グリモちゃん、そうだったの…?」

 

若干ツンデレっぽい事を言うラムちゃんにそう言うと、驚いたようにこっちを見るロムちゃん。

そりゃまぁ、出会って間もないし…

 

「ほら、表向きはあんな感じで優しそうに見えて、実は裏でえげつない事考えてたり、なんて。最近読んだ本にそう言うキャラがいたから、ふとそんな風に思ってたり」

「そんな…で、でも、ネプギアちゃんは…っ」

「わかってる、わかってる。ただ、わたし達はロムちゃんほど、アイツの事を知らないだけ。これから見極めてくから、ね?」

 

珍しく怒った様子のロムちゃんの頭をぽふぽふとしながら、なだめるように言う。

分かりやすく言うなら、ロムちゃんとラムちゃんの中間みたいな感じ。ただ、いきなり切り掛かったりしたからその辺の申し訳なさでちょこっとロムちゃん側に傾いてるかな?って程度。

 

「あぅ…うん…」

「…なんかグリモちゃん、出かける前よりロムちゃんと仲良しになってない?」

 

ロムちゃんの頭をぽふぽふなでなでしていたら、今度はラムちゃんが膨れっ面になっていた。

 

「そう…?」

「むぅ…いいもん、それならわたしはこうするもんだ! えいっ!」

「え? ひゃっ!」

 

むすーっとしながらそう言うと、ラムちゃんは突然抱きついてきた。

え、え、え?

 

「ラムちゃんずるい…!わたしだって…!(ぎゅー)」

「ちょ、ちょっと、ロムちゃんまで!」

 

そしてなぜだかロムちゃんまでも。

ど、どういう展開!? ついていけない!

 

「グリモちゃんあったかーい♪」

「ぽかぽか…♪」

「いや、あの、う、うぅぅ…っ」

 

言いながらぎゅむぎゅむと密着してくる二人。

わたしがあったかいのとかそんなの自分じゃわからないけど、っていうかなんなのこの流れ!

 

「あー、グリモちゃん赤くなってるー!」

「ほんとだ、かわいい…♪」

「か、かわっ…もうっ、からかわないで…!」

 

顔が熱くなってそれを指摘されて、思考がパニックになりかけながらもどうにか振りほどこうともがく、けど、

 

「く、ぬぬぬっ…は、はなれ、て…っ!」

「くふふー、面白いからやーだよー♪」

「ぽかぽかだし、グリモちゃんかわいいから、わたしもやだ…♪」

「こ、このぉ…!」

 

ぐいぐいと引き剥がそうにも一向に離れる気配がない。

結局、ミナさんが呼びにくるまで二人に解放されることはなかったのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いただきまーす!」「いただきます…♪」

「…いただきます」

 

日も沈み、食堂で夕飯の時間。

二人に弄ばれた事を若干根に持ちながらも、三人で食事を始める。

今日の夕飯は、サラダにお味噌汁に…って、夕飯についてなんてそんなに詳しく話さなくっていっか。

 

「う…」

「んー? ロムちゃんどうしたの?」

 

と、ロムちゃんが何かを見つけたのか、嫌そうな顔をしていた。

嫌いなものでも入ってたのかな。

 

「これ…」

「ああ、ロムちゃんこれ苦手だもんね」

「…好き嫌いしてたら、大きくなれないよ」

 

予想は当たり。ラムちゃんの言葉にこくこくと頷くロムちゃん。

そんなロムちゃんに若干低いトーンでそう言いつつ、お味噌汁を飲む。

はふぅ、美味しい、身体があったま…る……

 

「ぅぐっ…!」

「うぐ? グリモちゃん?」

 

思わず漏らしてしまった声にすかさず反応してくるラムちゃん。

一瞬吐き出しそうになりつつも、必死に口の中のソレを飲み込んだ。

 

「…なに?」

「なにって…グリモちゃん涙目になってるわよ?」

「気のせいだよ」

「いや気のせいじゃなくってほんとだし…あ、もしかして」

 

心配そうな顔から一転、にやにやとした笑みを浮かべ始めるラムちゃん。

…ひっぱたきたい。

 

「グリモちゃんもシイタケ、苦手だったりするー?」

 

なんて思ったのも束の間、ラムちゃんのその言葉にびくりと反応してしまった。

やっぱり入ってたの…

 

「グリモちゃんも…?」

「わ、わたしは…」

 

じぃーっと見つめてくるロムちゃんから目を背けると、なぜかニヤニヤとしてるラムちゃんが視界に。

…なんとなくそれが癪だったせいで、思わず強がってしまった。

 

「…こ、これくらい、食べれるし…っ!」

「わぁ…」

 

シイタケごとお味噌汁を一気に飲む。

最小限に咀嚼しつつ、すぐ飲み込んで…うぇぇ…

 

「…っはぁ。ぜんぜん、へいき…!」

「そ、そんなすっごい涙目で言われても」

 

戻しそうになるのを必死に堪えるわたしを見て苦笑いのラムちゃん。

…結局、その日の夕飯はシイタケ嫌いが余計に増しただけだった。

 

 

 

 

 

「うー…」

「グリモちゃんだいじょうぶ?(しんぱい)」

「無理して苦手なもの食べるからよ」

「苦手じゃないし…」

 

夕食を終えた後お風呂を済ませて、それからはパジャマ姿でロムちゃんラムちゃんの部屋で遊んだりぐでーっとしたりしていた。

パジャマは体型が似てるのもあってかコートと一緒で三人お揃い。ロムちゃんがみずいろでラムちゃんがももいろ、わたしがくろいろといった感じ。

一応自分の部屋はあるけど、寝る時以外は大体いつもこの部屋にいることが多かったりする。

 

「三人とも、あまり夜更かしせずに早く寝るのよ?」

「「「はーい」」」

「素直でよろしい」

 

扉の向こうからミナさんがそれだけ言って去っていく。

もうそんな時間か、そろそろ自分の部屋に…

 

「それじゃ、寝る準備しよー!」

「しよー…」

「…うん、寝る準備するのはいいけど。なんでわたしの腕掴んでるのかな」

 

二人におやすみを言って戻ろうとしたところで、二人ががっしりとわたしの腕を掴んできていた。

…なんとなく予想できたけど、念のため何をするのかと聞いてみる。

 

「それは勿論、グリモちゃんもわたし達と一緒に寝るからよ!」

「…わたし、自分の部屋があるんだけど」

 

まぁこの部屋のベッドって結構大きいから狭くはないだろうけど、今までこういう事がなかっただけにちょっぴり困惑。

 

「一緒に寝るの、いや…?(うるうる)」

 

潤んだ瞳で見つめてくるロムちゃん。

こういう時のロムちゃんは純粋だからこそ、色々ずるいと思う。

一緒に寝ること自体は構わないんだけど、誰かと一緒に寝るなんてこと自体に慣れてないから、なんか照れくさいというか…

 

「い、嫌じゃない、けど」

「嫌じゃないならけってーね! ほらほらー!」

「わ、わかったから…! 引っ張るのやめて…!」

 

そんなわたしの気持ちなんか知るよしもない二人が半ば無理矢理に決定。

結局折れるのはわたしの方だった。

 

「えへへ…グリモちゃんといっしょ…♪」

「…そんなに嬉しいの?」

 

ベッドに入りながらロムちゃんに聞くと、こくこくと力強く頷かれた。

…まぁ、嬉しそうな二人を見るのは嫌いじゃないけどさ。

 

「電気消すよー」

 

部屋の入口近くでそう呼びかけるラムちゃんに「良いよ」と答えると、パチン、と電気が消える。

真っ暗になるとすぐさまラムちゃんがベッドに潜り込んできて、二人に挟まれる形に。

 

「いっつもロムちゃんとふたりだから、なんか不思議な感じー…」

「うん、ふしぎ…」

「わたしは落ち着かないけどね…」

 

只でさえ誰かと寝るのに慣れてないのに、その上挟まれてるし。

 

「でも、あったかいよ…?(ぽかぽか)」

「それは…まぁ、否定しないけど」

 

ロムちゃんがいうように、三人でくっついて寝るとなるとそれなりに暖かかったりする。

体感なのかどきどきと恥ずかしさからくるものなのかは知らないけど。

こんな時は深呼吸、深呼吸。

 

「……ふぅぅー…」

「何してるの?」

「…色々と、気持ちの整理、かな。早くて明日か、明後日には忙しくなるだろうし」

「…きらーましん?」

 

ロムちゃんが不安げに聞いてきて、こくりと頷く。

きっと、普段受けたりするようなクエストで戦うようなのとは比べ物にならないだろう。

 

「大丈夫よ。あいつらは逃げ帰ってきたけど、わたしとロムちゃんとグリモちゃんが力を合わせれば!」

「そうだと、良いんだけど」

 

ふふん、と強気に言うラムちゃん。

対するわたしは、少し声が震えてしまっていた。

 

「…グリモちゃんも、こわい?」

「……戦い自体、いつだって怖いよ。気を抜いたら痛い思いもするし、一歩間違えたら…死んじゃうんだから」

「えー、わたし達より強いのなんていないってー」

「…」

 

いつものように強気なラムちゃんの言葉に何も言えず、黙ってしまう。

 

「怪我するのは嫌だし、痛い思いもしたくない。…でも、それよりもっと嫌なのは…ロムちゃん、ラムちゃんが傷つくこと」

「わたし達…?」

「うん。誰かが傷つくのは、もうみたくないから…」

 

その時、一瞬だけ頭の中に何かの光景が映り込んだ気がした。

 

「もー、ロムちゃんも怖がりだけど、グリモちゃんも結構怖がりなのね」

「し、仕方ないでしょっ、怖いものはこわ──」

「大丈夫」

 

怖がりと言われて少しむっとして言い返そうとしたら、ふわり、とロムちゃんが抱きしめてきた。

夕食前とかのぎゅー、って感じのではなく、優しく。

 

「ぁ…」

「わたしも、いたいのとか、こわいよ…? でも、ラムちゃんと、グリモちゃんがいるから…ふたりといっしょなら怖くない。だから、大丈夫…」

 

それは、どこか自分に言い聞かせるような風で、

優しくわたしの頭を撫でながらそう言った。

 

「グリモちゃんがわたし達を心配してくれるみたいに、わたし達もグリモちゃんが心配なんだからね…? ね、ラムちゃん」

「そうねー、怖がりグリモはあんな怖がりなこと言うけど、なんか危なっかしいし」

「…どういう意味?」

 

むすっとしながらそう言うと自分に聞いてみたらー、なんて言ってはぐらかされる。

…でも、少し気が楽になったかもしれない。

 

「…ありがと、ふたりとも」

「えへへ…どういたしまして(なでなで)」

「ふふん、まぁグリモちゃんもロムちゃんも、わたしが守ってあげるから安心しなさいね!」

「…ラムちゃんに任せるのはなんか心配かな。「なにをーっ!」…っていうか、ロムちゃんいつまで撫でてる気…」

 

後ろでぷんすかしてるラムちゃんを放置しつつ、未だにわたしの頭をなでなでしてくるロムちゃんに言う。

…ちょっぴり心地良いけど、恥ずかしくなってきたし。

 

「えへへ、寝るまで…?」

「撫ですぎ…!?」

「むー、なんか仲間はずれ感! わたしだってグリモ程度甘やかせるんだから!」

 

なんか対抗心燃やす方向違うよね、それ。

 

「…まぁ、妹オブ妹なラムちゃんには無理なんじゃない?」

「な、なによそれー! わたしグリモちゃんよりおねーさんだしー!」

「…わたしより背低いのに?」

 

ちょっぴりだけど。

 

「そ、それは… むぐぅぅ…!」

 

ぐぬぬ、と悔しそうな顔。

ラムちゃんをからかうの面白いなぁとか思っていると、ふわぁ、と欠伸が出た。

 

「ねむい…?」

「ん…うん、流石に、ね」

「じゃあ、そろそろ、寝よう…?」

「む。そーね、あんまり夜更かししてると見回りにきたミナちゃんに怒られちゃうし」

 

そう言って、ぎゅぅと抱きついてくる二人。

まったく、わたしは抱き枕じゃないんだけどな…ふわぁぁ…

 

「それじゃ、ロムちゃん、グリモちゃん。おやすみーっ」

「えへへ…おやすみなさい…♪」

「うん…おやすみ…」

 

寝苦しさとか恥ずかしさよりも眠気が勝ち、ゆっくりと目を閉じた。

…たまにはこういうのも、悪くないかも、ね…


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