幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
どうやってロムちゃんとラムちゃんを仲直りさせるか悩み始めてしばらくして、
より一層頭の痛くなる知らせがルウィー教会に届いた。
「そうですか、キラーマシンが…」
神妙な面持ちで呟くミナさん。
その知らせとは、ゲイムキャラが破壊されてキラーマシンの封印が解けてしまった、というもの。
あぁ、もう、次から次へとこんな……ここ最近の面倒事って全部ネプギア達がこの国に来てから起こってるような気がしてきたんだけど…
「それで、勝てないから逃げてきたの? なっさけないわね!」
「…ケガ、してない?」
これでもか、とネプギア達を責めようとするラムちゃんと、ネプギア達(というかネプギア)の心配をするロムちゃん。
当然ラムちゃん的にそれは面白くないけど…
「ろ、ロムちゃん…こんなやつの事なんか心配しなくても…」
「…(ふいっ)」
進行形で喧嘩中なせいか、ラムちゃんはいつもよりよわよわしいしロムちゃんはとげとげしい。
そんな二人を見て、思わず溜め息を吐いてしまう。
…頭痛薬が欲しくなってくるよ…
「それで、あのキラーマシンってのは何なの? こっちの攻撃がまるで効かなかったけど」
で、頭痛に悩みながらも今の話題に話を戻そう。
さっきから出てくるこのキラーマシンというのは、でかい、硬い、多いって感じの兵器の事で、なんでも昔の教祖がゲイムキャラの力で次元の境界に封じてた奴らしい。
…後はこれからミナさんが話すだろうから、そっちを聞こう。
「遥か昔、犯罪神が造り出したとされる殺戮兵器です。その戦闘力は……今更説明するまでも無いでしょう。ルウィーには数十体…あるいは数百体のキラーマシンが封じられてると云われています」
と、ミナさんがキラーマシンについて話してくれる。
まぁ実際に見た事が無いから、どれくらい硬くて強いのかはわたしにはわからないんだけど。
「あんなのが数百体…冗談にしても笑えないわね」
「ふん、何百体でもだいじょーぶよ。ぜーんぶやっつけちゃうんだから!」
「…がんばる」
「がんばってどうにかなればいいですけど…」
実際に見てきたネプギア達に反して、こっちの女神はやる気みたいだけど…
わたし達はキラーマシンの強さを知らないし、それにそう簡単にどうにかなるとも思えない。
「現実的ではないでしょう。ですから私達もゲイムキャラの力を借りて封印を施していたのですが…」
「バラバラにされちゃいました…ゲイムキャラのディスク…」
そう言うネプギアの手には、布に包まれた割れたディスク。
うわぁ、これはまた見事にバラバラ…
それからはキラーマシンと犯罪組織が動き出すのにはまだ猶予があるらしく、その間にどうにか作戦を立てようという話になり、ネプギア達はミナさんに街の警備と情報収集を頼まれて、ひとまず休む為に教会を後にした。
…さて、こっちも決戦までにどうにかしないとね…
「ラムちゃん、先にお部屋に行ってて」
「…え、あ…うん」
ネプギア達の前では無理に強がっていたのか、いなくなったらこんな感じにしょんぼりとしてしまっている。
こうなったのもネプギアのせ……ごほん。
ラムちゃんが部屋に戻るのを見送ると、こっそりネプギア達について行こうとしてたロムちゃんを呼び止める。
「ロムちゃん」
「ひゃ…!(びくっ)」
「わっ…わ、わたしだよ? ロムちゃん」
「あ、グリモちゃん…ラムちゃんじゃなかった…」
そう言うロムちゃんはどこか安心したような、しょんぼりしたような様子だ。
流石にロムちゃんも喧嘩したままは嫌そうに見える。これなら…
「…ね、ロムちゃん。少しお話しよ?」
「…お話?」
「うん。ちょっとお散歩しながら、ね」
そう優しく言いながら、ロムちゃんの手を取る。
ロムちゃんは少し驚いたようにびくっとしたけど、手を握り返して頷いてくれた。
「………」
「………」
会話も無く二人で街を歩く。
どうにかしようとは思ったものの、どうしたら良いか戸惑っていた。
ええい、怯えてどうする。気合入れて、わたし。
「えっと、ロムちゃんはさ、ラムちゃんと仲直り…したい?」
前置きとか無しにいきなり本題に入る。
ロムちゃんは少しの間黙ったままだったけど、わたしの問いかけに小さく頷いてくれた。
「ん。それじゃ、仲直りしなきゃね」
「……でも、ネプギアちゃんを悪く言うラムちゃんは、やだ…」
俯きながらそう言うロムちゃん。
…うーん。
「そうだなぁ…ネプギアが嫌いじゃなくなるように、良い所を教えてあげたらどう? ラムちゃんは怒りそうだけど、ロムちゃんが真剣に話してあげたらきっと聞いてくれるよ」
「そう、かな…」
「二人はふたりでひとつな仲良し姉妹、なんでしょ? ロムちゃんが本気ならきっとラムちゃんにも通じると思う。だから、勇気をだして…ね?」
ロムちゃんの目を見つめながら、思ったことを言ってみる。
「……うん、わかった。頑張ってみる…!」
するとロムちゃんは小さく微笑んで答えた。
「それでいいと思う。それじゃ、まずはラムちゃんに冷たくしたことを謝らないとね」
「うん…」
そう言うと、ラムちゃんに取った態度の事を振り返ったのか、少ししゅんとしながら頷くロムちゃん。
ラムちゃん、ロムちゃんに冷たくされて結構凹んでたからね…ちゃんと自分がしたことを反省できるのは良い事なんじゃないかな。
ひとまず、後はラムちゃんが意地を張ったりでもしなければ大丈夫かな…なんて思っていると、左手を握られる感覚。
見ると、ロムちゃんが「えへへ…」とはにかみながら手を繋いできていた。
かわいい。
「……? あれ、ネプギアちゃん…?」
「ん?」
話したいことはとりあえず話し終えて、そんな感じで街を散歩して数分後。
ロムちゃんがそんな声をあげてその視線の先を見てみると、ロムちゃんの言った通りネプギア達が道の隅に集まっていた。
あれから宿に戻ったと思ってたけど、こんな所で話し合いをしてるみたいだ。
「でも、どの道協力してもらう為にも必要なんでしょ? あーあ、割れたディスクを直したりできないのかなー」
「そんな簡単に直せるわけないじゃない」
「うーん…でも封印の事も、お姉ちゃん達を助ける為にもって考えたら、どうにかして直す方法を探した方が良いかもしれません…」
近くまで行くとそんな会話が聞こえてきた。
どうやらゲイムキャラのディスクを直そうとか、そう言う話をしてるみたいだけど…
「…あれ、ロムちゃんに…グリモちゃん?」
「えへへ、ネプギアちゃん、こんにちは…」
「どうも」
ネプギアがこっちの存在に気付いて声をかけてきたので、ロムちゃんと一緒に挨拶する。
「ネプギアちゃん、ねぇ…?」
「ギアちゃん、いつの間にルウィーの女神様と仲良しになったですか?」
「えー! ずるい! アタシも仲良くなりたーい!」
と、ネプギアと一緒にいた連中がそれぞれの反応をしてきた。
そっちの方にはまだ慣れてないみたいで、ロムちゃんと繋いだ手の力が強まった。
「えっとですね、前にちょっとあって…」
「…ところで、何の話をしてたんですか?」
ネプギアがロムちゃんと仲良くなった切っ掛けを話そうとするのを見たら何故だか胸がもやっとして、ついその言葉を遮るようにそう言ってしまう。
……まぁ、別に良いでしょ。そんな話より大事な事なんだから。
「あ、えっと…どうにかしてこのゲイムキャラのディスクを直せないかなーって…」
わたしの言葉に手に持っていた布に包まれたディスクの破片を見せながら言うネプギア。
聞いてたからそれは知ってるんだけどね、盗み聞きしたなんて言ったらあの目付き悪い茶髪の人…アイエフだっけ、がぐちぐち言ってきそうだから知らないフリをした。
それにしても、ゲイムキャラの修復か。
簡単にはできそうもないけど……そういえば。
「…あくまで噂なんですけど、ここルウィーのどこかにひっそり錬金術のアトリエを開いてる人がいるって聞いた事が」
「錬金術…ですか?」
「なにそれー?」
ふと思い出した事を話してみると、?マークを浮かべる…えーっと…コンパとREDだったかな、の二人。
アイエフは聞いた事があるみたいな顔だ。
「確か、素材を調合して色んなアイテムを作り出したりできる技術の事…だったかしら? その技術を持った人がいるなんて聞いた事ないし、本当にそんなものあるの?」
「あくまで噂って言いましたよねわたし、聞いてました? …ですから、あまり期待はできませんけど…もしも本当に存在するのならそれに掛けると言う手もありますよ、という話です」
信じて無さそうな目で見られてちょっとムカッと来たせいで、トゲのある言い方をしてしまった。
…別にアイエフが嫌いな訳じゃないからね。
「本当にあるんだったら、直しちゃえるかも…?」
「そうは言うけれど、仮に存在していたとしてもその錬金術を使えるやつが簡単に見つかるとも思えないし…」
「知ってるにゅ」
六人であーだこーだと話し合いをしていると、突然聞きなれない声。
まさかと思ってロムちゃんの方を見るけど、ふるふると首を横に振ってわたしじゃないよと主張していた。
「うんうん、こんな風にあっさり名乗り出てくれたら苦労はしないんだけどね」
「名乗り出てるにゅ、こっち見ろにゅ」
また声が聞こえて辺りを見回すと、黄色いトラ猫耳の帽子をかぶったおさげ茶髪の、わたしやロムちゃん、ラムちゃんよりも小さい子がなんか黄色いボールみたいなのに座りながらこっちを見ていた。
…え、何あのボール、顔あるんだけど。
「ボールじゃないにゅ、ゲマだにゅ」
「ちょっ、人の心読まないでください!」
思っていたことを指摘されて思わずそう言い返してしまう。
ま、まさかわたしって思った事が顔に出てるんじゃ…いや、いやいや…
……ちなみにわたし以外も同じことを考えていたらしくて、それであの指摘をしたと後で聞いた。
「…えっと、誰? アナタ」
「ブロッコリーにゅ」
アイエフにそう聞かれて名乗るブロッコリー。
「あ、えっと…初めまして。…それで、知ってるって言うのは…」
「錬金術士の居場所なら、知ってるにゅ」
未だ困惑気味のわたし達に、得意げな顔で答えるブロッコリー。
…簡単に見つかっちゃったよ。
「えーっと、どうして知ってるのー?」
「まぁ、その錬金術士とちょっとした知り合いだからにゅ。それで、錬金術士に何の用にゅ?」
「…壊れたゲイムキャラを、直してもらいたいの」
「ふむふむ…ちょっと待つにゅ」
そう言ってブロッコリーは携帯を取り出し、どこかに電話をかけた。
携帯持ってるんだ。
「……ねぇ、アイツ、信用できるの?」
「わ、分かりませんけど…今あてに出来そうなのってその錬金術くらいですし…」
「ですね。教えて貰えるなら、あの子に頼った方が良さそうです」
「錬金術士って可愛い子かなー」
ブロッコリーが電話してる間に、ぼそぼそと四人が何かを話している。
…最後の一人は自分の事しか考えて無さそうだけど。
「待たせたにゅ。ゲイムキャラのディスクなら何度か直したことがあるから、直して欲しかったらアトリエまで来てって言ってたにゅ」
「本当に直せるんですか!?」
ブロッコリーの言葉にぱぁっと嬉しそうに言うネプギア。
それにしても錬金術士か…ただの噂じゃなかったんだ。
「そう言ってるにゅ。行くなら案内するにゅ」
「それじゃ、お願いします!」
「了解にゅ~」
そう言って、ブロッコリーはゲマ(?)から飛び降りて、ゲマを片手で持ちながら歩き出した。
それに続いていくネプギア達。後はネプギア達に任せれば……
「……グリモちゃん」
ぐっと握られる手に力がこもるのを感じて、振り向けば「ついていきたい」と言わんばかりのロムちゃんの顔。
…仕方ないな。
「…ラムちゃんには少し帰りが遅くなるかもって送っておこう…」
ポーチから携帯端末を取り出してラムちゃんにメールを送って、わたし達もブロッコリーとネプギア達の後に続いていった。
その頃、世界中の迷宮では。
下っ端リンダの手によって、次々と復活していくキラーマシン。
その様子をカラフルなブロックが積み上げられた場所のてっぺんから眺める影。
「……ふぅん」
ブロックの淵に腰掛け足をぷらぷらさせながそれを眺める影。
小柄で少女のような声色で真っ白なコートに身を包み、コートに付いているネコミミフードを被っているせいか表情まではよく見えない。
「あんな鉄クズなんかで、どうにかなる相手なのかしらね」
少女は誰に向かって言う訳でもなくそう呟くと、立ち上がる。
「…あの程度すら"やっつけられない"んじゃ、この先相手にすらならないわよ。女神サマ」
つまらなさそうに呟いて冷たい突風が吹いたかと思うと、既にそこには少女の姿は無かった。