幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.4 喧嘩

「ど、どうしよう…困ったなぁ…」

 

はい、ネプギアです。早速ですが今私は迷子になっています。

 

事の発端は少し前のこと…

教会を後にした私達は、その後街でまた下っ端を見つけて、下っ端ならゲイムキャラの場所を知ってるんじゃないか…ということで、下っ端の後を追いかけていました。

 

下っ端がお婆さんを助けて勧誘しようとしたり、子供たちにマジェコンを見せて勧誘しようとしたり…猫さんを勧誘しちゃったりするのを邪魔したりしながら、しばらくして。

ルウィーの寒さに慣れていない私は催してしまって、そしてトイレに行って戻ってきたら誰もいなくなっていて、はぐれてしまった……という事です。

 

しかもここはルウィーの首都なので結構広くて、探すのは大変そう…

 

「ここにもない……ふぇ…どこ…?」

 

そんな時でした。

道の向こうから、この国の女神の一人の…確か、ロムちゃん? が、涙目できょろきょろと何かを探すように歩いていました。

 

何が困った様子だったので、私はロムちゃんに声をかけてみることにしました。

 

「ねぇ、えっと……ロムちゃん、だっけ?」

「ふぇ…? あ、悪い、女神…!(びくびく)」

 

私の事に気づくと、そう言って怯え顔になるロムちゃん。

ま、また 悪い女神になってる…

 

「ち、違うよ、悪い女神じゃないよ。だからそんなに怖がらないで…ね?」

 

誤解を解くために、優しく言いながら近づいていく。

 

「…ぁ、そうだ…敵っておもったらだめで…でも、怖い…」

「?」

「…いじめる?」

 

するとロムちゃんは小さな声で何かを呟いてから、うるうると怯え顔でそう言ってきました。

か、かわいい……こほん。

 

「いじめないよ。ロムちゃんも迷子?」

「(ふるふる)ペン、探してた…」

「ペン?」

 

ちょっとは警戒を解いてくれたのか、ロムちゃんはペンを探してることを教えてくれました。

 

「ラムちゃんが、プレゼントしてくれたの。わたしとラムちゃんとグリモちゃん、三人でおそろいで、とっても大切。…でも、落としちゃったの…」

 

だんだん涙声になりながら、ペンについて教えてくれたロムちゃん。

そんな大切な物をなくしたら、悲しいよね……よしっ。

 

「…どこで落としたかは、わかる?」

「この間、悪い人に捕まった時。…多分」

「そっか。…じゃあ、あの時の道を辿って探してみよう? 私も手伝ってあげるから、元気だして」

「…探して、くれるの?」

 

不思議そうに、けれどまだ少し不安そうに聞いてくるロムちゃん。

こんな子が困っていたら、ほっとけないよ。

 

「うん。暗くなっちゃったら見つけにくいから、早く行こう」

「…うん」

 

頷きながら小さく笑ってくれたロムちゃん。

よし、がんばろう!

 

 

 

 

 

 

最初にロムちゃんが捕まった所まで来て、探してみます。

…うーん、ペン……ないなぁ

 

「…おねえちゃん」

 

と、不意に後ろからそんな声が。

振り向くと、おどおどしながら私の事を見つめるロムちゃん。

 

「もしかして、私のこと?」

「(こくり)」

 

まさかと思いながら聞くと、ロムちゃんは小さく頷きました。

お、おねえちゃん…やだ、嬉しいけどなんか恥ずかしい…

………や、やっぱりダメダメ! 恥ずかしすぎるよ!

 

「え、えっと…名前で呼んでくれないかな? ネプギアって」

「…ネプギア、ちゃん」

 

そう言うと、言うとおりに名前で呼んでくれる。

いい子だなぁ…

 

「なぁに、ロムちゃん?」

「お姉ちゃんのこと、知ってる?」

「お姉ちゃんって、ブランさんのこと? 知ってるよ。あんまり話したことないけど、素敵な人だよね」

 

静かでよく本を読んでいるから、私のブランさんのイメージは知的で神秘的というか、そんな感じでした。

…変身すると、ちょっと物騒だけど。

 

「…お姉ちゃん、帰ってこないの。今、どこにいるの?」

「あ…ブランさんは、ギョウカイ墓場って所で捕まっちゃってるの。お姉ちゃん達と一緒に…」

「…ギョウカイ、墓場…? 捕まってる…?」

 

そう言うと、そんなこと知らなかった、みたいな驚き顔になるロムちゃん。

……あれ、もしかして私余計なこと言っちゃった?

 

「…ぐすっ…お姉ちゃん、会いたい…」

 

と、目に涙を溜めて泣き出しそうになるロムちゃん。

あ、あわわ。

 

「な、泣かないで。大丈夫、私が絶対に助けてみせるから!」

 

あの時は何も出来なかったけど…今度こそ、お姉ちゃん達を…

 

「だから泣き止んで、ね?」

「ぐすっ…(こくり)」

 

小さく頷きながら涙を拭くロムちゃん。

ほっ、よかった、泣き止んでくれた…

 

「…ペン、ここには無いみたいだし、別の場所探してみよっか」

 

一安心しながら私はそう言って、ロムちゃんの手を取って歩きだしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「捕まった時、ここに連れてこられたんだったよね」

 

ネプギアちゃんがなくしたペン探しを手伝ってくれて少しして。

街の方で見つからなくて、わたし達はルウィー国際展示場の方まで来ていた。

展示場でペンを探し始めて少ししてから、わたしは思っていたことを聞いてみることにした。

 

「…ネプギアちゃんは、なんでルウィーに来たの?」

 

いっしょうけんめいになって探してくれているネプギアちゃんに、そう聞いてみる。

はじめて会った時は、本で見た女神みたいにルウィーのシェアを横取りしに来たと思っていたけど、ネプギアちゃんはちがうって言っていた。

なら、どうしてルウィーまで来たのか、ずっと気になっていた。

 

「えっとね、ゲイムキャラっていうのに会いに来たんだ。私一人じゃ頼りないから、力を貸してもらうために」

 

わたしの質問に、ペンを探しながら答えてくれるネプギアちゃん。

でも、ルウィーとプラネテューヌって離れてるって聞いたのに…

 

「…でもここ、プラネテューヌからすごく遠い…」

「大したことないよ。お姉ちゃん達を助けて、世界を救うためだもん」

 

思ったことを口にすると、ネプギアちゃんはにっこりしながらそう答えた。

そしてここに来る前に、ラステイションにも行って、そこで会ったユニちゃんって女神のお話を楽しそうに話してくれた。

…ネプギアちゃんは、すごいなぁ…

 

「…本当はユニちゃんやロムちゃんラムちゃんにも一緒に来て欲しいんだけど…」

「…一緒に?」

「うん…でも大丈夫。アイエフさんにコンパさん、REDさんもいるし」

 

REDさんはちょっとヘンな人だけど、と苦笑いして、

 

「私達だけでも、ちゃんとお姉ちゃん達を助けてみせるから」

 

笑顔でそう言ってくれるネプギアちゃん。

…世界を救うなんて、きっととっても大変なのに。それなのに、なんでこんなに頑張れるんだろう?

 

「ここにもないなぁ…もうちょっと奥まで行ってみようか」

 

そう言って奥に進んでいくネプギアちゃんに、わたしは黙ってついて行った。

 

 

 

 

 

「うーん、ないなぁ…絶対ここだと思うんだけど…」

「…なんで、そんなにがんばってくれるの?」

 

わたしが落としたものなのに、わたしよりもがんばってくれるネプギアちゃんが不思議になって、聞いてみる。

 

「だってロムちゃん困ってたし、放っておけないよ」

「でも、ネプギアちゃん、お姉ちゃん達を助けるために、旅してる」

 

それはきっとたいへんなことで、わたしなんかに構ってる暇はないはずなのに。

するとネプギアちゃんは、あはは、と笑って、

 

「そうだね、あんまり寄り道してちゃダメだよね。…でも、目の前で困ってる人を無視して助けても、お姉ちゃんは喜んでくれないと思うから」

「………」

「きっと逆の立場なら、お姉ちゃんもロムちゃんの事助けたと思うし。だから私も……あ!」

 

そこまで言って、ネプギアちゃんは急に大きな声を上げた。

ちょっとびっくりした。

 

「あった! ペンってこれのこと?」

 

そう言ってネプギアちゃんが持ってきたのは、まっしろで水色のラインが入ったペン。

間違いなく、わたしの大切なペン。

 

「わたしのペン…!」

 

わたしは嬉しくなって、ネプギアちゃんからペンを受け取った。

もう見つからないって、諦めてたけど……見つかって、よかった…

 

「よかったー、やっと見つかったー。…あ、結構時間経っちゃったけど大丈夫?」

 

うれしいきもちでいっぱいになっていたけど、ネプギアちゃんにそう言われてはっとする。

うそついて抜け出してきちゃったから、ラムちゃん達怒ってるかも…

 

「そっか、きっと心配してるよ。早く帰ってあげて」

「(こくこく)」

 

にっこりしながらそう言ってくれるネプギアちゃん。

言われた通りに、見つけてもらったペンを落とさないようにぎゅっと握りしめて、走り出す。

少し走って、はっと忘れていたことを思い出して、ネプギアちゃんの方に振り返る。

 

「あ、あの…」

「ん? どうしたの?」

 

すぅ、はぁ…息をすって、はいて、

お腹に力をこめて。

 

「…ぁ…ありがとう、ございました!」

 

せいっぱい大きな声で、ネプギアちゃんにお礼を言った。

ちょっぴり恥ずかしくなって、すぐに背中を向けて走り出す。

 

…展示場の出口に来たあたりで、後ろの方から叫び声が聞こえた気がした。なんだったのかな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅー…」

 

ラムちゃんと二人で色々遊びながら、結構な時間が経った。

未だにロムちゃんは戻ってこない。そのせいでラムちゃんがだいぶ不機嫌だ。

 

「…それにしても、どこ行ったんだろう」

「何も言わないでどっかいっちゃうなんて…ロムちゃんてば、もーっ」

 

ぷんすかとかわいらしく怒るラムちゃん。

それにしても、ラムちゃんはロムちゃんに対して少し過保護なとこがあるような気がする。ブランさんがいなくなったせいなのか、それとも元々なのかは分からないけど。

 

と、ガチャリと扉の開く音。

見れば、ロムちゃんが戻ってきていた。

 

「あ、ロムちゃんお「あーっ! やっと帰ってきた! どこに行ってたの!?」…かえり」

 

こう、自分の台詞に被って喋られると、それとなく凹むよね…

 

「ごめん…ペン、探してたの。落としちゃって…」

 

戻ってきたロムちゃんは申し訳なさそうにそう言って、わたし達にペンを見せた。

あぁ、いつか、わたしのメガネとヘアゴム買ってもらった時の。

もちろん、わたしもちゃんと持ってるよ、大事なものだからね。

 

「ペン? そうなんだ…もう、言ってくれれば一緒に探したのに、何も一人で行かなくったって…」

「一人じゃなかったよ。ネプギアちゃんも、一緒…」

「ネプギア…ちゃん…?」

 

ネプギアの名前が出て、ラムちゃんが驚いた顔になる。

まぁ、少し前まで一緒になって嫌ってた相手の事を、急にちゃん付けで呼び始めたらびっくりするよね、そりゃ。

 

「うん。困ってたら、助けてくれたの。すごく優しかった…」

 

嬉しそうにネプギアとのことを話すロムちゃん。

当然、ラムちゃん的にはネプギアなんて嫌いだから、良い気分ではないわけで。

 

「な、何言ってるのロムちゃん! あんな奴、グリモちゃんがああ言ったから敵だとは思わないようにしたけど、でもどーせ碌なヤツじゃないわよ!」

「…そんなこと、ないと思う」

 

ラムちゃんがそう言うものの、珍しくロムちゃんが反論した。

なんか嫌な雲行きに…

 

「えーと…どうしてそう思うの?」

「…ネプギアちゃんにね、お姉ちゃんがどこ行ったのか、聞いてみたの」

 

その言葉にびくっと身体が反応しそうになるけど、何とか持ちこたえた。流石わたし。

じゃなくて。

 

「そしたら、お姉ちゃん、捕まってるって…」

「え…お姉ちゃんが…?」

「…わたし、びっくりして…でも、ネプギアちゃん、わたしが絶対に助けるって言ってくれて…」

 

少し涙目になりながら、でも、ネプギアのその言葉が嬉しかったのか、少し明るい口調で話すロムちゃん。

反して、ラムちゃんの方はどんどん不機嫌そうに。

 

「そ、そんなの! あいつがロムちゃんをてごめにするためにウソ言ったのよ!」

「手籠めなんてどこで知ったのそんな言葉…」

 

わたしも意味はよく覚えてないけど碌な意味じゃなかった気がする…

 

「じゃあ、どうしてお姉ちゃんは帰ってこないの…?」

「そ、それは…」

 

ロムちゃんの言葉に押し黙ってしまうラムちゃん。

実際本当の事だしね…

 

「…と、とにかくウソよ! あんな奴のいう事なんて全部ウソなんだから!」

「ラムちゃん…」

 

言葉に詰まって、ほぼごり押しみたいな感じでそんな事を言う。

するとロムちゃんはラムちゃんを睨みつけるように見て、

 

「…いじわるなこと言うラムちゃん、やだ」

「そ、そんな、ロムちゃん…」

「…いじわるなラムちゃん、きらい!」

 

そう言って部屋を出て行ってしまった。

 

「あ、待ってロムちゃん! ……うぅ、ロムちゃん…」

 

部屋に残されたラムちゃんは、悲しそうに俯く。

わたしがここにきて3年くらいは経つけど、二人がここまでの喧嘩をするところを見るのは初めてだ。

厄介な事になってきたなぁ…

 

「ラムちゃん…」

「グリモちゃん…どうしよう、ロムちゃんと喧嘩しちゃった…っ 」

 

俯くラムちゃんの傍に行って声をかけると、涙目で今にも泣きだしそうな顔をしていた。

いつも元気なラムちゃんがこんな顔になるなんて、やっぱりラムちゃんにとってロムちゃんは一番大切な姉妹なんだな、と改めて感じた。

 

「大丈夫。きっと仲直りできるよ」

「…うん」

 

そっと抱きしめて頭を撫でながらそう言うと、ラムちゃんは小さく頷いた。

 

(…ブランさんがいないこの状況、やっぱりロムちゃんが唯一の心の支えなんだろうなぁ…)

 

ラムちゃんを慰めながら、わたしはそんな事を思う。

…なるべく早く、仲直りさせないとね。

 

少ししてどうにかラムちゃんを落ち着かせられた。…んだけど、

 

「…ロムちゃんと喧嘩になっちゃったのも、全部あいつの、あの女神のせいよ! 全部、あいつが悪いんだから!」

 

とまぁ、見ての通り。ネプギアに責任が押し付けられてしまった。

多分ここまで嫌ってるとなると説得するのも大変そうだ。

まぁ今はそれよりも二人の関係修復のが先。親友の二人が仲悪いままなんていやだもの。どうしたものかなぁ。

 

え? わたしがラムちゃんを説得しないのか?

ロムちゃんでダメだったんだからわたしが説得しても、ね? ということだ、ネプギア。ラムちゃんに認められるようにそっちでどうにか頑張って。

 

 

 

 

 

「ふぇっくしゅん!」

「ちょっとネプギア! 尾行中なんだから大きな声出さないで!」

「す、すみません…」

「ギアちゃん、風邪です?」

「この国寒いもんねー」

「い、いえ、誰かに噂されたような気がして…」

「しっ。下っ端が移動を始めたわ、追うわよ!」

「は、はいっ」


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