幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
氷を纏い、氷の剣となった杖を脇に構えながら、地面を蹴って相手に向かっていく。
わたしの得意な距離は魔法による中距離から遠距離だけど、基本的にわたしはロムちゃんとラムちゃんと組んで戦う事が殆どで、しかも二人も魔法後衛タイプということでこうして近距離で戦う術を身に付けた。
中~遠距離で戦う時は魔法をバンバン撃ちながら他の味方の援護をしていく感じだけど、近距離となると戦闘スタイルもだいぶ変わる。
まず、よく使う魔法は自分自身の身体能力を上げる物。
これで脚力や腕力を上げてから、素早く、鋭い一撃を叩き込むのがわたしのスタイル。
「はぁッ!」
加速の魔法で一気に相手の目の前まで迫り、一閃。
「うわ、わっ!」
でも相手は女神だからか、流石に躱されてしまう。
速さにはそれなりに自信があったんだけど、まだまだ女神には及ばないって事かな…
「ま、待ってよ! わたしはあなたと戦う理由なんて…!」
「無い。ですよね、それは分かってます」
「だ、だったら…」
攻撃を受けたというのに、相手はまだ武器を出さずに説得しようとしてくる。
そんな姿を見る限り、この人は基本的に争いを好まない人なんだろうな、というのがわかる。
「ごめんなさい。…でも、確かめたいんです。ただ変身ができるというだけで、どうしてあなただけが"あの戦い"に参加する事ができて、どうしてあなただけが帰って来たのかを。…ヒトの癖に生意気、と思うかもしれませんけど…」
攻撃を仕掛けた理由を伝えながらも、構えは解かない。
ちらり、と氷の壁の向こうを見てみれば、こっちに妨害が来る心配はしなくてよさそうだった。
「…お願いします」
「…気は、進まないけど…わかりました」
自分でも我がままだなぁと思っていたけど、ありがたいことにネプギアはそう言って武器を構えてくれた。
相手の武器は、一見剣の柄だけに見えたけど、ヴィィィン…という音を立ててビーム状の刀身が現れた。
多分、プラネテューヌの技術で作った剣なんだろうな、と構えながら思った。
「…行きます!」
キッ、と鋭い目つきになって、剣を振り下ろしてくるネプギア。
それを氷の剣で受けて防ぐと、ネプギアは剣を引くように動かし、そのまま下方から、横からと連続で斬りつけてくる。
「っ……このぉッ!」
いつまでも防いでいても良くないと判断して、相手の攻撃の隙を突いてバックステップ。
そこから横に回転しながら剣を振り抜く。
当然、相手もバックステップして避けるけど、
「っ!? くぅ…っ!」
わたしが放った回転斬りから、さらに巻き起こった氷の粒の混じった竜巻がネプギアを襲う。
今のは杖に魔力を溜めつつ回転斬りを放ちつつアイシクルトルネードを放つといったもの。
わたしの武器は杖に氷の刃を纏わせてるものだからこそ、こういった物理攻撃と魔法の合わせ技なんかもできたりするということ。
でも、相手は女神。油断なんてしてられない。
「追撃…ダンシングブレード!」
相手に休む暇を与えないように次の攻撃に移る。
左手をかざすとわたしの周囲に魔方陣が現れて、そこから光の剣が3つ放たれてネプギアに向かっていく。
「わ、わわっ!」
飛んできた光の剣を慌てながら避けていくネプギア。
その間もわたしは意識を剣に集中させて、避けられた光の剣を旋回させて再びネプギアに突っ込ませる。
「し、しつこいっ…ええい!」
何度も向かってくる光の剣を斬り落としていくネプギア。
そうして意識が光の剣に向いてるのを見計らって、わたしは氷の剣を構えつつ音を立てずに駆ける。
「よ、よし…っ!?」
「…隙、あり…ッ!」
懐に潜り込んだところで、斬り抜けるように一閃。
そして、マンガでよくある、一瞬の静寂。
「…ぁぐっ!」
「つっ…」
脇腹の辺りに鈍い痛みが走り、その痛みで自然と涙が。
膝を尽きそうになるのを何とか堪えながら相手の方に振りかえり、自分の近くに浮遊させていた魔導書から、けん制の氷柱を相手に放ちながら飛び退く。
それを見てネプギアも飛び退いて、右腕を押さえていた。
この人…抜けてるように見えて戦う技術は高い…
斬り抜けるとき、しっかりと相手を捉えて振り抜いたつもりだった。
けど、ネプギアは驚きながらも咄嗟に身体を逸らしてわたしの一撃を避けて、逆にこっちに一撃を入れてきた。
一応、腕に掠りはしたみたいだけど。
…やっぱり、女神に挑むなんて無謀だったかな。うぅ、痛い…
「あーっ!!」
と、不意に叫び声が。
何事、と声のした方を見ると、何故だかあっちで戦ってたはずのラムちゃんがこっちに向かって飛んできた。
「グリモちゃん大丈夫!? よくもグリモちゃん泣かしたわね! やっぱり悪いやつだったんだ!」
「え、えぇっ!? そんな、私は…」
ラムちゃんがわたしを見たあと、怒ったようにネプギアに怒鳴る。
そんなラムちゃんを見てロムちゃんまでこっちにきてるし…
「ちょっと、ラムちゃん…」
「あっかんべーっだ! 今度会ったらわたし達がやっつけてやるんだからねー!」
「…べーっ」
わたしの言葉を聞く間もなく二人はネプギアそう言うと、わたしの腕を片方ずつ掴んで飛び始めた。
「ってまた飛ぶの!?」
「わっ、グリモちゃん暴れないで! 落としちゃう!」
また空高くにつれていかれると反射的にもがくものの、その言葉を聞いて顔を青くしながら大人しくする。
そしてネプギアを「申し訳ない」という目で見ながら、わたしは二人に連れられて展示場を後にした。
「い、行っちゃった…」
申し訳なさそうな顔をしながらロムちゃんとラムちゃんに連れて行かれるグリモちゃんを、ぽかーんとしながら見つめる私。
そんな私の所に、二人がいなくなって消えた氷の壁の向こうからアイエフさん達が慌ててやってきました。
「ネプギア! 大丈夫!?」
「あ、はい。私は大丈夫です」
「で、でもギアちゃん腕怪我してるです! すぐ治すです!」
グリモちゃんにつけられた腕の傷をみて、慌てて応急処置をしてくれるコンパさん。
そんなコンパさんに一言「ありがとうございます」と言って治療を受けました。
「にしても、全然話聞いてもらえなかったみたいー?」
「えっと…ラムちゃんとロムちゃんの二人には…」
「ふぅ…確かにあの二人は、ラステイションのより厄介そうね」
やれやれ、と言った様子で溜め息を吐くアイエフさんに、「やんちゃな嫁も良いね!」と妙にハイテンションなREDさん。
三人共あの二人の相手をしてた割には怪我も無いみたい。よかった。
「はい、終わりましたです」
「ありがとうございます、コンパさん」
治療が終わって、お礼を言いながら立ち上がる。
「さて、じゃあ色々あったけどとりあえず教会に行きましょ」
「そうですね」
疲れた顔をしたアイエフさんに苦笑しつつ、私達は改めて教会に向かう事にしました。
「もー! 大丈夫って言ったのに、グリモちゃんの嘘つきー!」
展示場から戻ってきたわたしはいつもの公園のベンチに座って、ロムちゃんから治療を受けながらラムちゃんに怒られていた。
「で、でも、ちょっとした怪我だけだし…」
「ちょっとしたぁ? これのどこがよー!」
「いっ! いたたたたたた!?」
「ら、ラムちゃん! やめてあげて…!?(あわわ)」
反論したらラムちゃんが斬られた脇腹をぐにぐにと押してきた。
ロムちゃんの魔法でちょっと治ってきてたのにまた開いた気がする、って言うか痛い、泣きそう。
「女の子なのにこんな傷! 痕になったらどうする気よー!」
ぐにぐにぐにぐに
「いたたたた! ら、ラムちゃんはお母さんかなにか!? いだだだだだだだっ!!」
怒りながらも容赦なく傷を押してくるラムちゃん。
だ、誰か助けてー…
「ら、ラムちゃん、そろそろ許してあげて…」
「なんか痛がるグリモちゃん見てるの楽しくなってきた!(嫌よ、グリモちゃんが反省するまでやめてあげないんだから!)」
ぐにぐにぐにぐにぐにぐに
「本音と建前が逆ぅ! 痛い痛い痛いいたいいたいいたいぃぃ!!」
そういえば、変身して戦うラムちゃんってなんか普段より容赦ないっていうか、サディストな感じするんだよね。だから素でも割とSなのかな…
そんなどうでも良い事を考えながら、痛みに耐え続けました…拷問かな…?
「ぐすっ…」
「もー…! ラムちゃん、やりすぎ…!(ぷんぷん)」
「ご、ごめんなさい」
ロムちゃんが「いい加減にして…!」と怒りながら止めてくれて、漸くドSラムちゃんから解放されて。
今度はラムちゃんがロムちゃんに怒られていた。
ロムちゃんはラムちゃんを怒りながらわたしの傷に回復魔法をかけてくれているけど、なんかまだじんじんする気がする…
「…でも、グリモちゃんも無茶はめっ…」
「う、うん…ごめんね…」
ラムちゃんのぐにぐに攻撃ですっかり疲れ切ったわたしは、そんなロムちゃんの言葉にも力なく謝ることしかできなかった。
「でも、一番悪いのはあいつらよ! 悪い女神!」
「いや、悪い女神っていうのは違うと思うけど…」
と、ラムちゃんが罪をネプギア達に押し付けようとしてるのを聞いて、そう言えばこの二人はあの人に「敵だ!」とか言ってたんだっけ、と思い出す。
流石に今の情勢が分からない訳でもないから、これ以上他の国の女神と関係が悪くなるのは良くないと思って、ラムちゃんの言葉を否定する。
……斬り合いしてたヤツが何をって感じだけどもね…
「グリモちゃんはあいつらの味方するの!?」
「そういう訳じゃないけど…敵の敵は味方って言葉があって…」
我がままに付きあわせたお詫び…になるかは分からないけど、どうにか二人を説得しようと頑張る。
犯罪組織と戦いながら、女神とも敵対しちゃったら悲惨な未来しか見えないし…
「む、むぅ…つまりアイツらもまじぇこんぬ?とかいう悪い奴らと戦ってるから、敵じゃなくって味方って言いたいの?」
「そうそう…」
「でも、グリモちゃんに怪我させたよ…?」
「それは元々、わたしが戦いを挑んたからで、わたしの自業自得だし…」
「む、むむむ…でもー…」
むぅ、強情だなぁ…
……仕方ない、あんまり使いたくなかったけど…
「…あの人達と仲良くして、とまでは言わないから…敵視するのだけはやめて? お願い…っ」
二人に向かって涙目(さっきのぐにぐにの痛さでもう出てたからそれを利用して)と上目遣いでお願いする。
…意識してやるのは割と恥ずかしいもので、顔が熱くなってきた。
「っ…し、仕方ないわね、グリモちゃんがそこまで言うなら考えといてあげる」
「…!(こくこく)」
わたしの恥を捨てた効果があったみたいで、二人とも一応は頷いてくれた。計画通り…!
敵視しなくなっただけで、多分嫌いなのには変わらないと思うけど…取り敢えずはこれでいい、よね。
「……今の写真撮っておけば良かったわ…」
「……お願いしたらまたしてくれないかな…?」
……なんか二人がこそこそと不穏な会話をしてるけど知らない、聞こえないフリ。
お願いされてもやりません…!
「と、とりあえず、そろそろ帰ろう? おやつの時間も近いよ」
「あ、そうだった! おやつー!」
「ら、ラムちゃん、待って…」
画面が二つある携帯端末を開いて時間を確認して教えてあげると、はっとしたように二人とも走って行ってしまった。
…って、置いてかれた!
「ちょ、ちょっと、置いてかないでー!」
携帯端末をポーチにしまって、慌ててわたしも二人の後を追いかけた。