幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.1-2 女神候補生との邂逅 side:G

ブランさんがいなくなってからもう3年が経った。

 

これだけ掛かるとロムちゃんとラムちゃんも流石におかしいと思ったみたいで、ミナさんにブランさんの行方を問いただしたりする騒動なんかがあったりもしたけど、現状二人の様子は至って普通。

いや、本当は寂しくて仕方ないのはなんとなくわかってるけど、前よりは大分元気になった。

 

わたしはわたしで、教会に置いてもらってるんだから、と教会のお仕事の手伝いをやったり、魔法や戦いの特訓をしたりしながら二人と行動しているうちに、教会内でのわたしの立ち位置がロムちゃんラムちゃんの付き人だの、護衛だのみたいな事になっていた、いつの間にか。

 

それもあるのか、見た目の割に結構仕事を手伝ったせいなのか、最近はよくミナさんとかに手伝いを頼まれたり。

まぁ、いいんだけどね。ブランさんがいなくて教会のお仕事も大変そうだし、それに頼られるのは割と嬉しかったりするし。

 

そんなこんなで皆で頑張って、なんとかルウィーでの犯罪組織の勢いを抑えてはいるけれど…正直厳しいとは思う。

なんて言ったって、いつまでもこんな事をしていても何の解決にはならない訳だし…

 

 

と、まぁ、そんな心配をわたしはしてるんだけど…

 

「ねぇねぇグリモちゃん! これとかロムちゃん喜ぶかな?」

 

そう言って可愛らしいらくがき帳をわたしに見せてくるのは、この国の女神候補生の片割れ、ラムちゃん。

まぁこんな感じで子供らしいと言えばそうなんだろうけど、この国の女神は割と呑気な感じが…

 

いや、二人も頑張ってるよ? シェア回復の為にクエストに行ったり。ただイタズラとか遊びの割合が多いだけで。

……あれ? ということはわたしって見た目のくせに子供らしくないってこと?

 

「グーリーモーちゃーんー! 聞いてるのー!?」

「あっ、ご、ごめん。いいんじゃないかな?」

 

ラムちゃんの声でハッと我に返って、慌ててそう答える。

ちなみに今何をしてるのかというと、ラムちゃんに連れられて近くのお店に来ている。

なんでも、ロムちゃんに内緒でプレゼントを買ってあげたいとかで。だからロムちゃんは今外で待機中。

 

「ホントっ? じゃあロムちゃんにプレゼントしてあげよーっと♪」

 

きゃっきゃと楽しそうにらくがき帳を持ってレジに向かうラムちゃん。

その背中を見て、思わず溜め息が零れてしまった。

…こんなで、大丈夫かなぁ…

 

 

 

 

 

「あれ? ロムちゃーん?」

 

買い物を終えて通りに戻ってくると、ラムちゃんが険しい顔をしていた。

 

「…どうかした?」

「ロムちゃんがいなくなっちゃった。もう、どこに行ったのよ、待っててって言ったのに…」

 

そう言ってぷくーっとふくれ顔をするラムちゃん。

おかしいな、ロムちゃんはラムちゃんが言った事を守らないでどこかに行っちゃうような子じゃないはず。

なのに、いない…?

 

「………」

「…グリモちゃん?」

 

考えていると、ラムちゃんが不思議そうにわたしの顔を覗き込んでくる。

…なんだか嫌な予感がする。こういう時の嫌な予感は大抵当たるから、嫌なんだけど…

そんな時、近くにいた人がわたし達に声をかけてきた。

 

「君たち、もしかして水色のコートを着た女の子を探してるのかい?」

「えっ? あ、そうよ。なんでわかったの?」

 

その人はラムちゃんの言葉を聞くなり「そうか…」と呟いて難しい顔をする。

ラムちゃんの方は自分の質問を無視されてまたふくれっ面。

 

「あの、どこに行ったか知ってるんですか?」

「あぁ、うん。その子な……さっき犯罪組織の奴に、誘拐されちまって…」

「ロムちゃんが、ユーカイ!?」

 

何かを知ってるらしい人にロムちゃんの行方を聞くと、そんな言葉が帰ってきて、

誘拐された、という事にいち早く反応したのは、ラムちゃん。

 

「ユーカイってどういうことよ!」

「い、いや、僕に怒鳴られても…」

「えーと…その誘拐した人がどこに行ったかは分かりますか?」

 

わかりやすいくらいに怒りを露わにするラムちゃんを抑えつつ、行方を聞く。

 

「あ、あぁ。途中までしか見てないけど、ルウィー国際展示場の方に走って行ったかな…」

「そうですか…ありがとうご…ひゃっ!?」

 

行き先が分かった所でその人にお礼を言おうとしたところで、突然の浮遊感。

見ると、いつの間にかピンク色の髪に青い瞳の、プロセッサユニットを纏ったホワイトシスターに変身したラムちゃんが、わたしの身体を掴んで持ち上げていた。

 

「ルウィー国際展示場ね! 行くわよグリモちゃん!」

「ちょ、ちょっとまって飛んで行くの? まって無理無理無理いやあああぁぁぁぁ!!!」

 

止める間も無く、ラムちゃんはわたしを抱えたまま飛翔。

そのままハイスピードでルウィー国際展示場の方へと飛んだ。

お姫様抱っことかそういうの以前に怖い怖い怖い怖い!!

 

「待っててロムちゃん、今助けに行くから…!!」

「だ、誰か、助けてえぇぇぇ…!!」

 

ロムちゃんより、わたしを助けてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、死ぬかと思った…」

 

ルウィー国際展示場の上空についた頃、既にわたしは満身創痍。

絶叫マシーンなんて…嫌いだ。

 

「ロムちゃん…どこ…!」

 

きょろきょろと上空からロムちゃんを探すラムちゃん。

…思ったけど、変身すると力も強くなるのかな。普通にわたしの事持ってるけど。

 

「…いた!」

 

なんてどうでも良い事を考えていると、ラムちゃんがロムちゃんを見つけたみたいだ。

ロムちゃんがいたということは、多分誘拐犯もいるはず。

 

「グリモちゃん、準備はいいわね?」

「え? 何の……って、ひぃっ!?」

 

何の準備? とさっきとは別の嫌な予感を感じたのもつかの間、また浮遊感。

この浮遊感はラムちゃんがわたしを放したから感じる浮遊感で、つまり…

 

「おぉぉぉちぃぃぃるぅぅぅぅぅ!?」

 

そのまま落下する、という事。

死ぬほど怖かったけれど、落ちる先にいるロムちゃんの姿を見て、ふっと意識を両手に集中させる。

すると右手には杖が、左手にはあの魔導書が現れて、わたしの手に収まった。

 

これはわたし達が持つ携帯端末(だいぶ前にミナさんに貰った)のアイテム収納機能の一つで、どういう原理かは知らないけれど念じれば収納して登録してある武器を手元に召喚(コール)できるというもの。

そんな感じで咄嗟に戦闘態勢を取ったわたしは、まずロムちゃんの近くにいるモンスターに向かって杖を一振り。

 

「はぁっ!」

 

すると魔方陣が複数展開され、何本かの氷の剣がモンスターに降り注ぐ。

そのまま重力魔法で姿勢と方向を制御しつつ、ロムちゃんを捕まえているヤツの方へ。

 

「ロムちゃんを……」

 

杖を振りかぶってそこまで言った所で、わたしの横を紅く煌めく光が抜けていく。

 

「返せえええええッ!!」

「ぎゃああああああ!!」

 

その正体はラムちゃんで、物凄い轟音と共にロムちゃんを捕まえていた奴に体当たりをかました。

不意打ち同然のその一撃を喰らったそいつは、悲鳴を上げながら吹っ飛んで行った。

うわぁ、痛そう…

 

「…ふぅ」

 

そんな事を考えながら、重力魔法で落下の勢いを殺し、ゆるやかに二人の近くに着地した。

 

「生きた心地がしなかった…」

「仕方ないでしょ、急がないとロムちゃんが危なかったんだから。ロムちゃん、大丈夫だった?」

 

何とか失敗せずに着地できたことに胸をなでおろしながらぼやくと、ラムちゃんがキツい目付きでそんな事を言う。

…なんか、変身するといつも以上にキツい事言うようになるよね、この子…

 

「グリモちゃん…! ラムちゃん…! ふぇぇぇぇん…!」

 

誘拐犯から解放されたことで、ロムちゃんが泣きながらわたし達に抱き着いてきた。

「もう大丈夫だよ」とロムちゃんを安心させるように頭を撫でる。

と、吹っ飛ばされた誘拐犯がこっちを見て、驚きの声を上げた。

 

「なっ…女神、だとぉ!?」

「ロムちゃんをユーカイして、しかもこんなに泣かして……絶対許せない!」

 

キッ、と驚く誘拐犯を睨みつけるラムちゃん。

大切な姉を誘拐された事に相当怒ってる様子。当たり前だけど。

 

「ロムちゃん、変身!」

「ん…(こくり)」

 

ラムちゃんの言葉に頷いて、光に包まれるロムちゃん。

そして光が収まれば、そこには水色の髪にピンクの瞳の、プロセッサユニットを纏ったホワイトシスター・ロムちゃんの姿が。

無表情で誘拐犯をじっと見据えるところを見た感じ、こっちもだいぶ怒ってるみたい。

…まぁ、怒ってるのは二人だけじゃないけど。

 

「ま、また女神が二人ィ!? ちょ、意味わかんネェんですけど!?」

「……覚悟、できてますよね?」

 

わたし自身も少し驚くくらい、低く冷たい声。

女神ではないけれど、大切な友達を泣かせた事は、わたしだって赦しはしない。

 

「ひっ!」

 

ロムちゃんラムちゃんの気迫とわたしの殺気に気圧されたのか、逃げ出そうとする誘拐犯。

もちろん、ただで返す気は無いわけで、三人で揃って杖を振りかざし、

 

「「「エクスプロージョン!!」」」

 

そして三人揃って杖を振るうと、誘拐犯のいた場所が大爆発を起こした。

三人分の魔力が合わさってるから、爆発の威力も結構なものになったみたいだ。

 

「覚えてろぉぉぉ……」

 

爆発で吹き飛ばされながらそんな捨て台詞を吐きながら空の向こうに消えて行った。

…怒っていたとはいえ、やりすぎた? あの人死なないといいけど……タフそうだったから多分平気か。

 

「…ふぅ」

「大勝利ー! わたし達ってばさいきょー!」

「さいきょう…」

 

ひとまずの安心に、小さく息を吐く。

その後ろでロムちゃんとラムちゃんは勝利を喜ぶようにハイタッチを交わしていた。

まぁ、誘拐犯はいなくなったから良いんだけど、わたしは気になっている事があってロムちゃんに声をかける。

 

「…それで、ロムちゃん。この人達は?」

 

今の一連の騒動を傍で見ていた四人組。

落ちてる時に見た感じだと、誘拐犯とは敵対してたみたいだけど。

 

「助けようと、してくれた…」

「ふーん…でも結局たすけてくれなかったんでしょ? ならタダの役立たずね」

 

バッサリと言うラムちゃん。

ちょ、ちょっと…

 

「ラムちゃん…いくら事実でも、初対面の人にそれは…」

 

ラムちゃんの言葉に苦い顔をした四人組を見て、ラムちゃんにそう注意する。

……あれ、何か余計に苦い顔になったような……

と、そこで四人組の一人が話しかけてきた。

 

「あの、あなた達がルウィーの女神候補生?」

 

わたし達にそう聞いてくる、薄紫色の長髪の女の人。

パッと見た感じ、わたし達よりは年上っぽいけど…そんなに歳は離れて無さそうだし、なんというか、トロそうな人だ。

まぁ、女神について聞いてきてるあたり、わたしじゃなく二人に言ってるんだろうけど。

 

「うん。ルウィーが誇る双子の女神、ラムちゃんとロムちゃんとはわたし達の事よ!」

「(こくこく)」

 

その人の質問に得意げに答える二人。

それ、自分で言うの? とか言ったら睨まれそうだから黙っておこう。

二人の言葉を聞いて、その人はなんだか安心したような顔をしていた。

 

「それでそれで、もう一人の可愛い子は誰っ? 是非アタシの嫁に…」

「アンタちょっと黙ってなさい」

 

と、後ろにいた赤色の不思議な髪型の女の子が変な事を言って、茶髪で葉っぱのリボンをした子に怒られていた。

嫁…? っていうかなんか身長の割に、ある部分が大きいというか…

 

「グリモちゃんはグリモちゃんよ」

「それ、説明になってないんだけど」

「うるさいわね、何で会ったばっかのアンタ達に一々説明しなきゃなんないのよ」

「…ラムちゃん」

 

葉っぱの人の言葉にそんな事を言うラムちゃんに「ちょっと後ろに下がってて」と視線で伝える。

すると伝わったのか、渋々後ろに下がるラムちゃん。

帰ったらちょっとお話した方が良いかな…

 

「…わたしはグリモ。ルウィーの教会でお世話になっていて…えっと…二人の付き人、みたいなものです」

 

ぺこり、と頭を下げながら自己紹介をすると、ピンク髪の人が不思議そうな声を上げた。

…この人も結構大きいな……何考えてるんだわたしは。

 

「付き人ですか? でも、二人とそんなに変わらない子供に見えるです」

「何よ、子供だからってバカにしてると痛い目見るんだから!」

 

口を挟んできたラムちゃんの方に振りむいて、ニコッと笑顔で見つめる。

するとラムちゃんは顔を逸らして大人しくなった。

…こほん。

 

「…それで、あなた達は何者ですか」

 

咳払いをしてから、今度はこっちから質問。

すると薄紫髪の人がそれに答え始めた。

…この人がリーダーかな。

 

「あ、えっと…私はネプギア。私も女神候補生で、お姉ちゃん…じゃなくて、ネプテューヌの妹なの」

 

その言葉を聞いて、思わず目を細める。

 

「ねぷてゅーぬ? ってことは…」

「プラネテューヌの、女神…」

「それそれ。あなた、プラネテューヌの女神なんだ」

 

ラムちゃんの言葉に無意識にそう呟いた。

プラネテューヌの女神。唯一、候補生で"あの戦い"に参戦した…

……最近、一人女神が助けられたってフィナンシェさんに聞いたけど、こいつが……

 

「う、うん。それでね、お姉ちゃん達を助ける為に…」

「てことは、わたし達の敵ね!」

「…敵(びしっ)」

 

ネプギアが何かを言いかけて、二人に遮られる。

っていうか、敵? 何言ってるんだこの二人は。

 

「ち、違うよ! 何で敵になっちゃうの!?」

「だって、他の国の女神でしょ? きっとルウィーのシェアを横取りしに来たんだわ!」

「本に書いてあった…」

「そんなことしないよ! とにかく話を…」

 

敵と言われて慌てるネプギア。

あぁ、そう言えば教会にそんな本があったっけ…

なんだか面倒な事に……いや、いっそ利用しちゃえばいっか。

 

「もんどーむよー!」

「待って、二人とも」

 

かくごー! とネプギア達に攻撃しようとする二人を呼び止める。

 

「何よグリモちゃん! 邪魔しないでよ!」

「色々言いたいことはあるんだけど…ちょっと二人にお願いしたいことがあるの」

「お願い…?」

 

今すぐにでも飛び出しそうな二人を何とか抑えつつ、二人にそう言う。

…二人を利用するみたいで、嫌だけど…確かめてみたいんだ。

 

「あいつ…ネプギアは、わたしにやらせて」

「グリモちゃんに…?」

「うん。あと、二人はネプギアとそれ以外の奴らの間に氷の壁をはって、後の三人がジャマしてこないようにしてほしい」

「えー。っていうか、大丈夫なの? アイツ一応女神って言ってたわよ?」

「大丈夫。だから、お願い」

 

あんまり大丈夫じゃないかもしれないけど、そう言った。

 

「むー…しょーがないわねー」

「…グリモちゃんのお願いなら、わかった」

 

するとラムちゃんは少し不満そうに、ロムちゃんは少し心配そうにしながらも、了承してくれた。

わたしは二人に「ありがとう」というと、杖を構えなおす。

 

「そーれっ!」

「…えい」

 

二人が二手に分かれて飛翔しながら杖を振るうと、ネプギアと他の三人の間に氷の壁が生成される。

 

「ネプギア(ギアちゃん)!」

「グリモちゃんの頼みだからね、しかたなーくアンタ達の相手してあげるわ!」

「…手は、出させない」

 

そして二人は三人に攻撃を始める。

それを確認してから、深呼吸をして精神を集中…

魔力で本を浮かばせてから杖を両手で構え、杖に魔力を集中させる。

すると杖に氷が纏っていき、それは氷の剣のような形に。

 

「…アナタの相手は、わたしです」

 

ゆっくりと目を開いて、相手を見据えながらそう呟く。

 

──こうしてわたしは、やって来たプラネテューヌの女神に戦いを挑んだのだった。

 


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