幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
少女はその日、全てを失った──
ある日、ゲイムギョウ界に存在する国家の一つであるルウィーの女神候補生、ロムとラムは、倒れていた少女を見つけ教会へと連れ帰る。
少女は自分の名前すらも思い出せない、記憶喪失だった。
女神ブランは記憶も行く宛もないこの少女を教会で保護することに決めるが……
そして少女が魔導書に導かれる時
少女たちの物語が始まる――
Prologue Start game
視界が塞がれる程の土砂降りの大雨。
そんな雨の中、わたしはただ、立ち尽くしていた。
目の前に広がるのは──一面の赤色。
それが何なのかなんて、わたしにもわかった。
けど、それを認めたくなくて、
…辺りをアカく染めているモノが、こっちを見る──
「……………め……ね………………………」
その声は雨にかき消されてうまく聞き取れなかったけど、
言いながら、────は……さいごまで、微笑んでいた。
──どうして、なんで、こんな、こと…
理解できずに──理解することを拒みながら、手を伸ばす
──いかないで
「……………や………」
伸ばした手は、届かない。
そしてわたしの身体を貫く、痛み。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
「…ぁ……ぐ…ぁ………」
──どうして、こんなことに
ただ、わたしは、わたしたちは
「…ゃ………だ、れ…か……」
意識が、遠のく。視界が、霞む。
……そこで、わたしの、意識は───
──ゲイムギョウ界。
それは四人の守護女神と呼ばれる存在が、人々の集う四つの都市を治め、守護している世界。
女神パープルハートが守護する、革新を続ける紫の大地
プラネテューヌ
女神ブラックハートが守護する、重厚なる黒の大地
ラステイション
女神ホワイトハートが守護する、夢を見る白の大地
ルウィー
女神グリーンハートが守護する、雄大なる緑の大地
リーンボックス
守護女神達は自らの力の源である人々の信仰心――シェアを巡ってぶつかり合い、時に助け合いながら互いを高めあっていた。
互いライバル視しているものの、険悪と言うほどの間柄でもない彼女達。
日々、互いの力を競い合う程度で、世界はほぼ平和と言っても過言ではなかった。
しかし、そんな平和も長くは続かなく、ゲイムギョウ界の平和を脅かす魔の手がゆっくりと忍び寄っていた。
後に各国の女神が集結して立ち向かった事件が起こるより、少し前…
ある少女の歪んでしまった運命の歯車が、鈍い音を立てて再び動き出そうとしていた──
「ロムちゃーん! はやくはやくー! 雪も降ってきちゃったよー!」
「ら、ラムちゃん、待って…」
白の国の首都、ルウィー。
年中雪の積もった都市であるルウィー、今日も空は雲に覆われ、つい先ほどから雪が降り出していた。
そんな雪の日にも関わらず、元気よく走り回る子供が二人。
「早くおつかい終わらせて、いっしょに遊ぶんだからっ!」
「そ、そんなに…急がなくても…」
「わたしは早くロムちゃんと遊びたいのー! だからほらっ、はやくー!」
先を走る、活発そうな桃色の帽子とコートの子供はラム。
その後を追いかける、大人しそうな水色の帽子とコートの子供はロム。
どうやら二人はおつかいの途中のようだ。
「はふ…ら、ラムちゃん、ごめんね…す、少し、休ませて…」
「もー、ロムちゃんてばー……しょーがない、公園があるからちょっと休憩しよっ」
「(こくこく)」
しかしロムがラムのテンションについていけてなかったようで、疲れたロムと少し休むために二人は近くの公園に入っていく。
そして二人は雪が凌げそうな屋根付きベンチへと向かい、一息つく。
「もう…ラムちゃん、早く遊びたいからって走ってくんだもん、危ないよ…」
「へーきよ、わたしは雪で滑って転んじゃうほどまぬけじゃないもーん」
「そういうことじゃなくて…」
そんな普段と変わらないようなやりとり。
それから暫くして、
「さっ、ロムちゃんそろそろいこっ! …ロムちゃん?」
ばっと立ち上がって再出発しようとしたラムだったが、ロムの様子が変な事に気づいて名前を呼んだ。
「ロムちゃん、どうかした?」
「……ねぇラムちゃん、あそこ…」
じーっと一点を見つめていたロムが、ラムにもわかるようにと自分が見ていた物を指さす。
一見雪だけで何もないように見えたが…
「んー…? …なんだろ、あそこになにかある?」
「うん。あれ、なんだろう…?」
雪の積もった地面の一部分に、何かを見つけたようだった。
もちろん、その場所には遊具も何も無い場所だ。
誰かここで遊んでいた子供が忘れていったものだろうか。
「ちょっと見てくるっ」
「あ、ら、ラムちゃん、待って…」
気になりだしたらどうしようもなく、ラムはそれが何なのか確かめるために近づいていく。
ロムもその後に続いて、何かへと近づく。
「…え? これ…」
「……お、女の子…?」
近づくにつれてその正体がハッキリしていく。
そこにあった…いや、【居た】のは、一人の少女だった。
体格はロムとラムと同じくらいのミドルカットくらいの長さで、彼女らに似た薄茶色の髪の少女。
どうやら怪我をしているようで、辺りの雪が少し赤く染まっていた。
「ひっ……す、すごい、怪我……生きてるの…?」
「わ、わかんない。ど、どうしよう、ロムちゃん」
「ど、どうしようって…あわわ…(おろおろ)」
大怪我を負った少女が倒れていることに驚き、動揺する二人。
その時、倒れていた少女が微かに動いた。
「……ぅぅ……」
「…! ら、ラムちゃん、この子、今動いた…!」
「ほ、ほんと? じゃあ、えーっとえーっと……そ、そうだ! まだ教会からそんなに遠くまで来てないし、お姉ちゃんに助けてもらお!」
「う、うん…っ」
まだ少女の息があることに気付いた二人は、ひとまず少女を何とかするために姉を頼ることにしたようだ。
ラムはそう提案しながら少女を背負う。
「だ、大丈夫…? 二人で運んだ方が…」
「んしょ…と、これくらいなら平気! それじゃ、急いでお姉ちゃんのところに戻ろ!」
「(こくっ)」
そう言って、ラムは少女を背負って教会の方へと走り出す。
ロムもそれに続こうとして、ふと少女が倒れていた場所に一冊の本が落ちていることに気が付いた。
「…? なんだろ…本…?」
分厚く、白い表紙の本。
ロムは、なんとなく教会に少しだけ置いてあった魔法の本のことを思い出した。
「……真っ白」
興味本位で本を開いてみたが、どのページも真っ白で何も書かれていない。
しかし、まだ未熟なものの魔法の心得のあったロムは、この本から魔法の力のようなものを感じていた。
「ひっ…な、なに…!?」
それと同時に、ロムは自身の頭の中に声が響いてくるのを感じ取っていた。
突然の声にびくりと怯えながらも、頭の中で聞こえた言葉を口にする。
「……ぐり…も……わーる……?」
ロムが小さくその名を呟くと、頭の中の声は聞こえなくなった。
この時のロムはその声がなんだったのか、なんてことなんて考える事もなく、手に持った白い本を閉じて見つめる。
本の表紙は真っ白に金色の線で装飾されてるだけで題名なんてついてないのに、ロムはどうしてかこの本がグリモワールという名前だと感じ取っていた。
「あれ…なんでわたし、名前…」
「ロムちゃーん! 何してるのー? はやくー!」
「ぁ…い、今行く…!」
どうしてこの本の名前がわかったのか不思議そうにしていたロムだったが、ラムの呼ぶ声で考えるのをやめ、白い本を持ったままラムの後を追った。
それから少しして、ルウィー教会にて。
一足先に教会に着いたラムは、真っ先に姉であるホワイトハート・ブランの元へと向かった。
「はぁ、はぁ……お、お姉ちゃーん!!」
「……ラム? あなた、お使いはどうし……一体何があったの」
静かに読書をしていたブランは、騒々しく戻ってきた妹の姿とただ事ではなさそうな雰囲気を感じ取ったのか、本を閉じてラムの元へと向かう。
「はぁ…はぁ……こ、公園で…この子が…」
「…まずは落ち着きなさい。とりあえずその子は私が部屋に運ぶから、落ち着いてから何があったか言いなさい」
「う、うん…」
息を切らすラムに代わり少女を抱えると、すぐに少女の異常に気付き驚愕する。
(ひどい怪我…出血も…)
まだ息があることを確認すると、ブランはラムに休むようにと伝えつつ、教会職員に指示を出し少女を運んで行った。
ブランが出ていってちょっとしてから、ロムも到着する。
「ら、ラムちゃんっ…あの子は…?」
「ふー……今お姉ちゃんがお医者さん呼びながら運んでったわ」
「そっか…大丈夫かな…(おろおろ)」
ひどい怪我だったからか、不安そうなロム。
そんなロムを見て、ラムはロムの手を取り励ます。
「大丈夫よ! なんたってわたし達のお姉ちゃんがついてるんだから、きっと助かるわ!」
「うん……うん、そうだね。お姉ちゃんなら…」
そう言いながらもやはり不安はなくならない様子。
そわそわしながら待つこと暫くして、ブランが二人の元へと戻ってきた。
「「お姉ちゃん!」」
「…ロムも戻ってきてたのね」
「うん……あの子は…っ」
焦った様子で詰め寄る二人。
そんな二人をブランは「落ち着きなさい」となだめながら椅子に座る。
「…怪我はひどかったけれど、何とか大丈夫そうよ。あなた達のお陰ね」
「やった! よかったー」
「うん…よかった…(ほっ)」
少女が無事だと分かり、姉にも褒められ安心しながらも喜ぶ二人。
「それより…一体何があったの?」
そんな二人を見つめながら、ブランは一体何があったのか。それを二人に訊ねた。
「あっ、そうだった。えっとね──」
「………ぅ……」
あたまと胸のチクチクとした痛みで目が覚める。
ズキズキ、チクチク…とにかく、痛い。
「あ、起きた!」
びくり。
突然の声に身体が反射的に跳ねる。
声のした方を見ると、髪の長い女の子がわたしの顔を覗き込むように見つめていた。
「もうっ、何日も寝たっきりだから、ずっと起きないと思っちゃったじゃない!」
何故か怒られた。
そんなこと言われても…
「とにかく! 今からお姉ちゃん呼んでくるから! じっとしてなさい!」
女の子はびしぃっ、とわたしを指さしながらそう言うと、おねえちゃーん、と大きな声を出しながら部屋を出て行ってしまった。
それよりも、ここはどこだろう。
上体を起こして、辺りの様子を伺う。
部屋の中は……よく、わからない。
……あ、れ…そもそも、わたしって……
「…目が覚めたのね」
ぼうっとしていると、さっきの子とは別の人がやってきた。
さっきの子と比べると、物静かなイメージがする。
「身体の方は…どう?」
言われて、自分の身体を見てみる。
身体には白いのが巻かれていて、動くとちょっとだけ、痛い。
「…大分、良さそうね。よかったわ」
…これでも良さそうって、前はどんなだったんだろう…
…あ、よく見たら後ろにさっきの子がいる。
あれ? なんか増えた…? 別の子か。
短い髪の女の子がわたしに話しかけてる人の後ろに隠れながら、そっとわたしを見てきてる。
…目があったら隠れられた。
「あなた、名前は…?」
名前…わたしの名前は………
………あれ?
「……あなた、まさか…」
わたしは、わたしは……
わたしは、だれ?
ハーメルンには初投稿になります、橘 雪華です!
昔に少し描いてた事があるものの描くのが久々過ぎておかしな所があるかもしれない…
誤字脱字等ありましたら指摘してもらえると助かります!