私に文才なんてものはまったくこれっぽっちもなかった……。
私の一番古い記憶。
もうほとんどかすれた家族との幸せ。
それがほんの僅かな私の孤独じゃなかった期間。
だがそれは過去のこと…。
母は父に殺され、父は私を捨てた。
それからは毎日が地獄だった…。
弱いものは死に強いものしか生きれない。
奪い奪われの永遠に終わりがない世界。
そう私はいつも一人だ。
強さを得て仲間が出来ても誰にも理解されない。
人間でも喰種でも、どちらでもないのだから……。
雨の中を走る。
そして走りながらさっきまでのことを思い返す。
今回の二区襲撃は二度目と言うこともあってか予想以上に捜査官が増員されていた。
それに塩野とか言う特等が案外粘ったため、対策Ⅰ課の特別編成チームが増援として駆けつけて実質挟み撃ち状態で戦うことを余儀なくされた。
(まあそれでも負ける気はしなかったんだけどね…。)
だが結果、増援の一人であったギョロ目のおっさんに赫包に致命的なダメージを与えられ敗走。
そして現在に至る。
素早く人気のない路地裏へと入っていく。
一応人のいないことを確認しバタンッと地面が濡れているのも気にせず、倒れ込むように座る。
(もう歩けん。あのギョロ目野郎め。)
などと悪態をつきながら現状を再確認する。
(タタラさんたちともはぐれちゃったしこれからどうしようかな?)
なんてことを考えていると、ピチャッと誰かが水溜まりを踏む音が聞こえた。
ここまで接近されるまで気付かないなんて…。
相当ダメージをおっているようだ。
瞬時に攻撃体勢を取る。
そこにいたのはこの雨の中でも分かるほど涙を
流している自分と同じくらいの年の少年だった……。
「誰?」
いつもなら顔を見られたんだ、すぐに殺していただろう。だがしなかった。
なぜか?
"匂い"だ。
この少年の匂いには人間の他に微かだが喰種の匂いが混じっていたのだ。
瞬時に思い立ったのは"同類"という二文字。
私は奇妙な衝動に駆られて次の言葉を発する。
「どっち?」
だが答えない。
それどころか一歩、また一歩と近づいてくる…。
不意に少年は声は発さずに口だけ動いた。
"に ん げ ん"
一瞬にして後ろに下がる、そして赫子を出現させ、その一部を放つ。
だがその少年に当たることはなかった……。
鋼鉄と化した赫子は少年の目の前で霧散する。
驚愕。
今度は相当数の赫子を放とうと意識を集中させる。
プチンッ
なにか糸が切れたような、そんな不快な音がこの空間に響き渡った。
瞬間。激痛。
もともと
(酷使し過ぎた…か。)
倒れ込む。もう動く力は残っていない。
(あ~あ。こんなところで終わりか~。人間でも喰種でもない紛い物も、まあ最後は喰種らしく地べたってのが皮肉だけどね。)
なんて思いながら目を閉じ最期の時を待つ。
だがそんなもの、いくら待っても一向に訪れない。
不思議に思ってまぶたを開ける。
「俺はあんたに興味があったんだ」
初めて少年は喋った。
その表情は前髪に隠れてうかがえない。
「過酷な人生を送ってきたあんただからこそ書ける物語。そんな作品に多くの人は感激し胸打たれる。そんな感動を体験したかった。そしてあんたのファンになってさ、サイン会かなんかに行って、あんたの作品についてどこが良かったとか語る。そんな出会い方をしたかった……」
彼は私を見つめる。
その目は悲しみに満ちていた。
「少なくとも俺はこんな出会い方は望んでいなかった!!」
彼は私の目前で立ち止まりこう言いはなった。
「そういや最初の質問、答えてなかったな…。俺は塩野瞬二。あんたが殺した捜査官の息子だ」
最初は何をいっているのか分からなかった。
でも今やっと彼の真意を理解した。
「そう。敵討ちってこと?」
「いや。この世界のことは一応理解しているつもりだ。捜査官と喰種は殺し、殺されの日々を送っている。捜査官ならまだしも俺みたいななんの苦労も知らない、日だまりのなかで生活していたやつが割ってはいっていい領域じゃない」
「ましてや復讐などしてもただ悲しいだけだ。それを俺は何度も
「ッ!?実際に体験したものと見たものでは訳が違う!!そんな簡単に……!!」
理解出来なかった。
私は人間に復讐心を抱いている。
復讐というのは、そんな簡単に割りきれるものじゃない!!
「だからいっただろう。
「それってどういう……ッ!?」
聞き返そうとした、でもそれはこちらに近づいてくる無数の足音によって遮られる。
おそらく追ってきた捜査官達だろう。
「ちっ話しすぎた。原作が変わったか?」
そう言いながら彼は私の膝間接と背中の後ろに手を回し掬い上げるように持ち上げる。
「ッ!?君、人間じゃなかったの?」
彼の左目は赤く染まっていた。
「今は喰種だ」
その声と同時に走り出す。
「どこまで来たかわからん」
だいぶ走った。
…。
……。
「ま、まあここまで来たら大丈夫だろう」
けっこう抜けてる性格なのだろうか?
「どうして助けたの?」
「復讐はしない。でも父さんのことは許さない。ぜったい」
「それにあそこで見捨てるのは違う気がした、それだけ」
そういったあと彼はなにか思い付いたような顔をしてこっちを見た。
「この借りはあんたが小説を書くこと、それも俺の心を揺さぶるようなやつ。それで貸し借りなしにするよ」
そういって彼は去っていった。
わからない。私はあそこで死ぬはずだった。それはこの世の理のように必然的だったはず。
塩野瞬二……か。
不思議な気分だ。
やっと同胞を見つけたことによる興奮を押さえ込みながらこれからのことを思案する。
書いたあとに思いました。
全然エトっぽくなくね?って。
ま、まあエトの過去ですからね!
昔はこんな感じで悩んでたかな?って勝手に妄想して書きました。
これはキャラ崩壊または過去捏造をタグに追加するべきか……。