俺の名は塩野瞬二!!   作:床太郎

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いやー。五月中には投稿しようと思っていたのですが、気付けばもう六月になってました。
ほんとすいませんm(__)m

今回見直しが一回しかしてないので誤字脱字多いかもしれないです。仕方がない。眠たかったんだ……。


連鎖

 

 

 

 

 

何処までも透き通った青。

果てしなく広がる空を彩る白小雲(しらさぐも)

硬く敷き詰められたコンクリートの上に立っていると錯覚していたそれは油を流したように穏やかな海だった。

 

一歩。また一歩と歩を進めるごとに円形の波面が出現し地平線の彼方に消えていく。

僕はそんな光景をただ静観し、空を仰ぐ。

 

 

 

 

 

どれくらい僕はこうしていただろう。

そもそも何故こんなところにいるのかすら分からないのに。どうして僕はこんなに落ち着いているんだろう。

 

まるで此処が僕の本当の居場所のように心穏やかだ。

心?

……そうだ。此処は僕の心に似ている。

なんだ。それ。

それじゃあ僕の心はこの景色のように空っぽだって言ってるみたいじゃないか。

 

なんて可笑しなことをこれまた可笑しな場所で考える。

するとなにもなかった世界に突然あるものが出現した。

 

それは椅子だった。

何の変鉄もない、木材で作られた古びた椅子。

でもよく目を凝らすとなにかが見えてくる。

 

……人?……が座ってる?

…髪の長い……女の人?

 

この世界は僕に忠実だ。

見たいと思うとそれがなんだって見せてくれる。

 

次々とより鮮明に姿が露になる。

足を組んで座る姿。顔の輪郭。

 

彼女は僕に慈愛にもにた全てを包み込むような笑みを向けながら言葉を紡ぐ。

 

「久しぶりね。カネキくん」

 

「リゼ……さん……」

 

 

 

 

第13話 『連鎖』

 

 

 

 

「どうしてこんなところに貴方が……? というかそもそも此処は何処なんですか?」

 

いきなり現れた彼女に僕は矢継ぎ早に言葉を綴った。

彼女は椅子から立ち上がり、僕の方にゆっくり歩きながら囁くように言葉を発する。

 

「此処はあなたの心が造り出した心想世界。ここでは何でもあなたの思い通り。私はあなたに呼び出されたに過ぎないわ。つまりはあなたの妄想の世界ってことよ。もう気付いてる筈でしょ? カネキくん」

 

「……此処が僕の世界?」

 

「そう。此処はあなたの世界。あなたはここに来る直前に強くナニカを願ったの。その強い想いがあなたを此処に連れてきた。あなたは一体何を望んだのかしら?」

 

「僕が、望んだ……もの?」

 

彼女は僕の目の前まで近付き、僕の頭を包み込んだ。

 

「そうよ。あなたが望んだもの」

 

その言葉に僕はたどたどしく噺だす。

 

「……ぼ、僕は……あそこで……トーカちゃん……が、殺されそうに…なってて……それで……喰種……と人間…を理解出来るのは……僕だけだ…って」

 

「そこじゃないわ。もっと先。直前にあなたが願ったものよ」

 

そう言って囁くリゼさん。

そんな言葉に次々とさっきまでの出来事がフラッシュバックしていく。

ゆっくりと僕は口を開いた。

 

「……く、口の中に広がる……甘美な味わい。喰種が生まれながらにして、持ち得なかった人の快楽。その変わりに与えられたこの耐え難い欲望。もっと、もっともっともっともっとこの感覚に浸っていたい」

 

「そうよ。そのためにはどうしなきゃいけない?」

 

「もっとーーー」

 

ーーーー()べなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はあの一瞬の攻防に理解が追い付けなかった。

あの白髪の捜査官に殺されそうになった私を助けたのは意外にもカネキだった。

そこからのカネキはなんというか凄かった。

ヒナミが赫子を出して攻撃したのにも驚いたが、一番はあの虫も殺せないようなひ弱なカネキが何の躊躇いもなく捜査官を傷つけたことだ。

まるで人が変わってしまったような感じがする。

そんなカネキの止めの一撃を防いだ、乱入者を観察する。

 

背丈は百七十センチ半ばくらいで、真っ白な仮面と髪。

そして右手には拳銃が月の光に照らされて黒く光っていた。

 

……どうみても喰種のような気配がする。

それに何だろう。この人何処かであったような……。

 

そんな思考に耽っていると、件の仮面の男は手にもつ銃をこちらに向けて告げた。

 

「戦闘は終わりだ。全員ここから立ち去れ」

 

「なっ!? ふざけんな!! あたしはソイツを殺すまでッ!?」

 

激昂し、言葉を吐き出す私を怯ませたのは彼の殺気にもにたなにか。

 

「これ以上殺るんだったら、お前は此処で死ぬことになるぞ?」

 

そう言って銃を構え直す仮面の男。

 

「ッ!? じょうとーーーー」

 

「う"う"う"う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

売り言葉に買い言葉という風に口からでた罵声は突然の奇声によって遮られた。

 

「カ……ネキ…?」

 

ひとしきり叫んだカネキは全身の力が抜けたように手をだらんと下げた。

俯いていて表情も伺えない。

 

「あはっ。あはははははは。アハハハハハハッ!!!」

 

突然カネキが壊れた人形のように笑い続ける。

だがそれはあの仮面の男を見たときに何事もなかったかのように不気味な哄笑は止まる。

 

「ああ。あなた、とっても美味しそう。ねぇ。(あたし)ーーーー」

 

そう言ってカネキは仮面の男に向かって滑走する。

そしてーーーー

 

「ーーーーすごくお腹が空いてるの」

 

言いながら突きだす赫子。

だがそんな目にも止まらぬ一撃は、真横から伸びる赫子によって相殺され壁に叩きつけられる。

それが仮面の男の赫子であると気付いた時にはその五本(・・)の凶器に身体を絡めとられる。

 

「カネキッ!?」

 

叫ぶ声も衝撃音によって掻き消される。

狐の尻尾のような形状をした五本の赫子。

それだけでかなりの強者であることは伺える。

でもそれ以上に先ほどまでのダメージで上手く動けない。

助けにいけないことに歯噛みしながら戦況を見据える。

 

仮面の男は身動きのできないカネキにゆっくりと近付き一言、言葉を発した。

 

「正気に戻れ、金木研」

 

それはまるで古の聖句のよう。

彼の回りの空気が変わった気がした。

すべての赫子が、いや細胞が浄化されていく。

複雑に絡み合った赫子はその姿を跡形もなく消滅させた。

ゆっくりと崩れ落ちるカネキの身体。

それを仮面の男が受け止める。

カネキは意識を失っていた。

 

「ほれっ。そいつを持って早く帰れ」

 

そんなことを言いながらカネキを放り投げる。

 

「えっ!? ちょっ。うわっ!?」

 

私はそれをあわてて受け止める。

 

「だから帰んねぇっていってんだーーーー」

 

「いや、帰るぞ。トーカ」

 

本日二度目の自分の発言を遮られる。

そこにはカラスのマスクを着けた男がいた。

 

「どうして此処に?」

 

「話は後だ。誰かが此方に近づいてきている。早く行くぞ」

 

カネキを担ぎ、ヒナミを連れて前を歩く四方にヨロヨロと覚束ない足で私も後を追う。

仮面の男を脳裏に焼き付けながら……。

 

「あ、お前らのことはCCGにも誰にも言わねぇから安心しろよ~」

 

等と後ろの方で声がしたが無視した。

なんか無償にムカついたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屈辱だ。

まさか喰種に助けられるとは。

だがいま奴は無防備。

幸い私のクインケも近くに落ちてある。

こんな機会を見逃すことはない。

即座にクインケを手に取り寸分違わず奴の顔目掛けて振るった。

 

「死ねぇ!!」

 

「なっ!?」

 

クインケは顔に直撃し……!?

しまった!? 浅かったか!?

クインケは奴の仮面を弾き飛ばしただけだった。

 

自分の身体にむち打ち、立ち上がってもう一撃加えるためにクインケを振りかぶる。

だが奴の赫子がクインケに絡み付き、いっさい動けなくなった。

 

「クソッ! 一体、貴様はなんなんだ!! 少なくとも貴様は私に恨みがあるはずだ! 何故やり返さない!? 何故あまつさえ私を助けようとする!? 屈辱だ!! 貴様ら喰種に助けられるぐらいなら、見逃されるくらいなら私は死を選ぶ!! 貴様はッ!?」

 

それ以上声がでなかった。

見てしまったからだ。

奴、いや彼の素顔を。

思考が追い付かない。

どうゆうことだ?

 

「塩野特等……?」

 

その顔は、塩野特等の若い頃に酷似していた。

亡霊。

瞬時にそんな言葉が思い浮かぶ。

 

「違うよ。塩野修はもう死んだ。この世にはいない」

 

ゆっくりと仮面が落ちた場所まで歩きながら話を続ける。

 

「俺は塩野修の息子、塩野瞬二だ」

 

「ならなぜ貴様は喰種なんだ!?」

 

「昔、俺は病気で身体が弱かった。それを治してくれると言った医者がいてさ。その人の手術を受けたら喰種になってた。何でもその医者は喰種の赫胞を埋め込むことで人を喰種に変える。そんな実験をしていたそうだ。奇しくもその実験体の成功者になってしまったてわけ」

 

「バカな、そんなこと……」

 

「まあ現にいま俺がなっちゃってるんだよな」

 

「そんな、それじゃあお前は父を隻眼に殺され、母は自殺し、挙げ句に自分は身体を弄られ喰種にされたというのか……?」

 

そんな運命があって良いのか?

それじゃああまりにも悲惨すぎる。

自分の復讐が小さく見えるほどに。

 

「なら尚更塩野特等を殺したあの隻眼を恨んだりしないのか?」

 

「まあまったく恨んじゃいないと言ったら嘘になるな。でもさ俺はあの夜出会ってしまったんだよ。紛れもなくあの隻眼の梟に……」

 

「ッ!? お前、会ったことがあるのか!? お前はそこで一体どんな選択をしたんだ!?」

 

あんな復讐に生きろと言われているような人生で彼はどんな選択をしたのかが気になって私は聞かずにはいられなかった。

そんな私に彼は言いづらそうに頭を掻き、

 

「あ~。笑うなよ? 絶対」

 

等と返してきた。

何故そんな言葉が出たのか。まったく理解できない。

私は無言で話の続きを促した。

 

「二区襲撃のあとの夜、俺は路地裏で傷だらけで倒れている少女を発見した。その少女が隻眼の梟の正体だった。彼女は俺のように世界を呪っていた。自分を呪っていた。全てを呪っていた。でも、それでも生きようともがくその姿が俺にとっては凄く眩しかったんだ。最初は憧れだったのかもしれない。ただ似たもの同士で傷の嘗めあいをしていただけかも知れない。でも一緒にいるうちにどうしようもなく俺は彼女をーーーー」

 

ーーーー好きになってしまった。

 

 

 

……。

 

 

 

…………。

 

 

 

「ククッ。クハハハハハハハハハッ!! ハハハハッ!」

 

その言葉に私は呆れるを通り越して笑ってしまった。

 

「ちょっ! 笑うなって言っただろ!?」

 

「親を殺した相手に好意を持つとは、クククッ。確かにお前はあの人の息子だ。いや息子らしい」

 

「なんだよ? 父さんもこんなだったのか?」

 

「ああ。そうだな。あの人もこんな風に……ん?」

 

そこまで言って突然、後ろに倒れてしまった。

よく考えると脚の感覚がない。

それに徐々に手の感覚も薄れていっているのがわかった。

 

「そうか。時間切れか。もとよりあれだけの傷をおったんだ生きれるとは思っていない」

 

そう言って目を閉じる。

 

「そうだ。塩野瞬二、お前が私を殺してくれないか? 私は喰種に殺されるのが一番嫌でね。それも隻眼にやられたとなると微に顔向けできない」

 

「俺も喰種で隻眼だが?」

 

「塩野特等の息子なら話は別だ。あの人には数えきれないほどの恩がある」

 

「そうか。最期に言い残すことは?」

 

「遺書は書いてある」

 

私がそう言うと彼は黙って近付き、銃口を私の額に向けた。

 

「そういえばなんでさっきの眼帯の喰種が隻眼だって分かったんだ?」

 

そんな彼の問いに私は笑いながら答える。

 

「ただの勘だよ」

 

その言葉と同時に銃声が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨はさっきまでより大分小雨になってきていた。

なんだか良くないことが起こりそうなそんな予感がする。

そんなよくわからない何かに押されるように肩の痛みも忘れて俺は走った。

 

件の川に着いたとき、一際高い銃声が下から聞こえてきた。

俺は全力で川に飛び込みその銃声の方を見る。

そこには、

 

銃を持った白髪の仮面の男と、額から血を流して倒れている真戸さんがいた。

 

「真…戸さ…ん。クソッ。プレゼンスぅぅぅううううッ!!!」

 

クインケは折れている。

勝ち目はない。それでも走った。

自分の惨めさを恨んで。自分の非力を呪って。

だがそんな決死の強攻もあえなく赫子で弾かれ壁に打ち付けられる。

意識が薄れゆくなか。

俺はこの惨状を目に焼き付けていた。

 

分からなかったんだ。

あれだけ嫌っていた喰種に殺されたと言うのにどうして真戸さんは笑っていたのかが…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんていく。

開店より二時間早く来て俺は隅々まで綺麗にモップで拭き取っていく。

魔猿は仕事を怠らないのさ。

 

「コーヒーを淹れたから少し休憩でもどうかな?」

 

そう言ってカウンターの席に座るよう促してくれる芳村さんに感謝し、コーヒーにありつこうとしたときcloseの札をかけてあるはずのドアが開く。

 

「すいません。まだ営業時間ではなーーー」

 

そこまでいって言葉につまる。

来客者が明らかに異常だったからだ。

白髪で白い仮面をつけている。

そして何よりも両手にはクインケが入っていると思われるケースを二つ抱えている。

 

瞬時に戦闘体制に移ろうとした俺を芳村さんが手で制し、目の前の彼に話しかける。

 

「なにか御用ですか?」

 

「これを」

 

そう言って渡してきたのはクインケのケース。

これには芳村さんも驚いたのか眉が少し上がる。

 

「笛口夫妻の墓に一緒に埋めてください」

 

そう言って立ち去ろうとした仮面の男に芳村さんは続けて話しかけた。

 

「そうか。君があの一人目の……」

 

「あ、あと笛口の娘には守れなくてすまなかったとお伝えください」

 

会話があっていない二人。

それでも芳村さんは進んで話しかけた。

 

「何かあれば何時でも此処に来なさい」

 

その言葉にやっと反応したのか、彼が微笑んだような気がした。

 

「では、失礼しました」

 

そうして彼は何事もなく去っていった。

 

 

 

全ては連鎖する。

悲しみの連鎖。

欲望の連鎖。

そして出会いの連鎖。

 

この無数の連鎖の果てに一体何があるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで笛口編は終わりです。
次からはもっと物語が動き、尚且つエトの出番も増えるはずです。(たぶん)

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