俺の名は塩野瞬二!!   作:床太郎

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更新、すごく遅れました。
すいません。m(__)m
あと今回、私の文章力の無さに磨きがかかっております。
ご了承ください。


人間と喰種と

 

 

 

暗い。暗い。

まるでこの世界から太陽を取っ払ってしまったかのような、はたまたなにもないただ無限に広がる真っ暗な宇宙に放り出されてしまったのか、そんな錯覚さえ覚える。

そんな空間にナニカがいた。

いや、いたと言うには少し語弊があるかもしれない。

何せここは暗くて何も見えないのだから、そこに何があるかなんて分かるはずがない。

だが、確かにいたのだ。

見えなくとも伝わるほどのその圧倒的な存在感がそう思わせるのだ。

もし仮にこの空間に人がいたら、その人は十中八九こう言うだろう。

 

『ここにナニカいる』

 

と……。

 

 

 

すると唐突にこの真っ暗な世界は終わりを迎えた。

あのどこまでも続くと思われた暗闇に亀裂が入ったのだ。

その欠けた隙間から目映い光が一本の太い線となり、この世界に(あかり)をもたらす。

そうしてナニカはその姿をあらわにした。

 

長い、長い金色の髪、なんの混ざり気もない真っ赤な瞳、端整な顔立ち。

可憐というよりも妖艶と言った方が断然しっくりくる。

そんな見るものすべてを魅了させるほどの容姿を持った女性がいた。

 

だがそんな容姿も去ることながら、それよりも彼女が異常だと言えるモノがあった。

 

……拘束具だ。

彼女は何重に何重を重ね掛けするくらいの数の拘束具に包まれていたのだ。

尚且つその回りには無数の鎖がそこかしこに吊るされている。

まるで外界からの干渉を遠ざけるかのように……。

 

 

亀裂は進む。

それは無数に広がり、光が漏れ出す。

それと同時に幾重(いくえ)にも連なっていた鎖や拘束具が砕けていく。

 

この空間すべてに光が溢れる頃、彼女の拘束はすべて解かれていた。

 

彼女は眩しそうに目を細め、首や肩を回して体を解す。

 

「こんなに厳重に閉じ込めるなんて。………臆病な坊や」

 

そう言ってその端整な顔を歪ませる。

だがそれはほんの一瞬ですぐに笑みを浮かべる。

 

「でもこれだけ厳重な拘束を自ら解くなんて……よほど追い詰められたか、それとも吹っ切れたか……」

 

「フフ。どちらにしても面白そうだわ。さあ、貴方はいったい私に何を見せてくれるのかしら?」

 

そんなことを呟きながらいっそう笑みを深める。

その赤眼がより赤く、いや(あか)くなった気がした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな鉄の塊が落ちる。

コンクリートに当たりかん高い音が鳴り響く。

 

自分の肩部から鮮血が噴き出す。

それに少し遅れて激痛が体を襲う。

 

「ぐっ!? かはっ!!」

 

口のなかに血が溢れる。

それに耐えきれなくなり吐き出してしまった。

そうしてやっと自分が何をされたのかを理解した。

あのぶつかり合う一瞬プレゼンス()は二本の赫子を加速させ、俺の肩とドウジマを切り裂いたのだ。

だが、可笑しい。それだけのスピードがあれば肩ではなく俺の首をも切断できたはずだ。

狙いが狂ったのか?

 

……いや、そんなことを考えている暇はない。

 

すぐさま振り返り、体勢を整える。

 

利き手()をやられてしまい、しかもクインケも折れてしまった。

こんな状態では到底太刀打ちできない。

 

だが俺は敵を前にして立ち去るなんてできない。

それは死んでいった仲間に対する冒涜だ。

 

倒せなくてもせめて一撃だけでも……。

 

 

覚悟を決めて、折れたクインケを左手できつく握りしめる。奴が攻めてきたときがチャンスだ。手足をもがれてでも一撃いれてやる。

 

だがそんな瞬間が訪れることはなかった。

奴は此方に攻撃するどころか、自分の赫子を跡形もなく消滅させた。

そしてそのまま何も言わず俺に背を向け去ろうとした。

 

「ま、まて!!」

 

咄嗟に衝いて出た言葉。

理解できなかった。見逃すだと!?

なぜ?どうして?なんのために?

 

思考が追い付かない。

奴はそんな俺を一瞥して走り去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

口の中いっぱいに鉄の臭いが広がる。

吐き出してみるとそれは真っ赤な鮮血だった。

赫子を出した反動だろう。

 

服の袖で口に付いた血を拭いながらさっき起きたことを振り返る。

 

「ハハッ」

 

自嘲気味に笑う。

よくも偉そうにあんな言葉をいったものだ。

 

どんなに綺麗事を言おうが、どんなことをしようが所詮は紛い物。

この世界に本当はいる筈もない。いや、居てはならない存在。

だから俺の言葉は安っぽい。取って付けたような軽い言葉。

 

亡霊(プレゼンス)とはよくいったものだ。

すごく的を射ている。

 

こんなに空っぽで惨めな自分を理解しながらも生きたいと思ってしまうのだから。

 

しぶとく。醜く。滑稽に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走る。走る。

全力で彼女の背中を追いかける。

 

「遅いッ。置いてくよ!!」

 

「えっ!?」

 

そう言って彼女(トーカちゃん)は地面を蹴り、建物を伝って走り去って行った。

 

……。

 

突っ立っている場合じゃない。

僕も探さないと……。

 

どこにいるんだ……ヒナミちゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、がむしゃらにいろんなところを探し回ること数十分。

唐突に携帯の着信音が鳴った。

 

画面を見る。

 

……ッ!?

 

そこに映し出された名前に驚きながらも、急いで通話ボタンを押した。

 

「もしもしトーカちゃん!? ヒナミちゃん見つかった!?」

 

「うるさい! 落ち着け馬鹿カネキ」

 

「ご、ごめん。トーカちゃん……。それで? 見つかったの?」

 

「うん。見つかったよ。それで今、重原小の近くの河に」

 

そこで通話は途切れた。

 

「あれっ!? もしも~し!」

 

切れちゃった。電池切れかな?

 

僕は取り敢えずトーカちゃんと合流するため重原の河に向かおうと再び足を速めた。

幸い僕が今いるのは堤防沿いにある公園なので河の上流へ行けば重原に着く筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……?

 

おかしい。なんだこの臭いは……。

目的地に向かうにつれてその臭いはより明確になっていく。

 

複数の臭い。

 

知らない人が一人、トーカちゃんとヒナミちゃん、それに笛口さん?

 

あとは……血の臭い!?

 

逸る気持ちを抑えて、臭いの発信源である橋の下へと近付き、そっと覗く。

僕はその現状に目を疑った。

 

白髪で白いスーツを着た男性。

右手には繋ぎ合わせた脊髄のような形のクインケを持ち、左手には四方に広がる花弁のような形状のクインケ。

その花弁の一角に腹を貫かれ壁に縫い付けられるように拘束されている前髪で顔の半分を隠した少女。

その少し後ろに顔を両手で覆って泣いている少女。

 

一目でその二人の少女がトーカちゃんとヒナミちゃんだと分かると同時に白髪の男が喰種捜査官であることも理解した。

そのとたん助けにいこうとした足が止まる。

 

僕は臆病だ。

あの笛口さんの一件を経て、惨めな自分を変えたいと思った。そのために覚悟も決めた。

でもいざ現実に起こってしまったとき足がすくんでしまう。

あの下卑た笑みを見てしまうとあの光景が浮かんできて、動けなくなる。

これは自分に力が無いからではない。

例えあったとしても今と同じようになっているだろう。

 

悔しい。

動こうとしない自分が恨めしい。

 

「一体貴様らは何故罪を犯してまで生き長らえようとする?」

 

そうこうしてるうちに白髪の男がトーカちゃんに問いかけた。

 

「……って……生きたい……って…思って……何が悪い……こ…んな…んでも……せっかく……産んでくれたんだ……育ててくれたんだ……」

 

「人しか食えないならそうするしかねえだろ……こんな身体でどうやって正しく生きりゃいいんだよッ……どうやって……!」

 

「てめえらなんでも上からモノ言いやがって……テメエ、自分が喰種だったら同じこと言えんのかよッ! ムカツク……死ね……! 死ね死ね死ね死ね死ね死ねッ……! クソ野郎……みんな死んじまえッッ!! クソが……畜生……喰種だって」

 

「……私だって……アンタらみたいに生きたいよ……!」

 

それは少女の心の底からの本音。

ずっと見ないよう聞かないようにしてきた、自分自身の願い……。

 

だがそんな心の叫びを白髪の男はつまらなさそうに聞き流す。

 

「なら逆に聞こうじゃないか。貴様は人を喰らうのは生きるためだ、仕方ないと切り捨てるのか? 自分が生きるためならばなんでも許されるとでも? そして挙げ句の果てに叶う筈のない願いだと? ふざけるなッ! 喰種は人を殺す。それだけで喰種は悪だッ!! だから私は()塩野特等(上司)を殺した隻眼の梟を殺す。そのためのクインケ収集だ。貴様らはすべて、私が奴を殺すための道具だッ!!」

 

自分の境遇を呪い、普通の生活を望む少女。

親しい者達を喰種に殺され、喰種がいなければそんなことは起きなかったと、だから喰種は悪だ……と結論を下した男。

 

どちらの意見も分かる。

だけどならなぜ、相手の言葉を理解することができないのだろう。どちらも間違っている訳ではないのに……。

 

……あっ

 

そこまで思考してあることに気付いた。

 

"僕"だけだ……。

 

それに気付けるのも……。

それを伝えられるのも……。

 

人間であり、喰種でもある僕だけなんだ。

 

こんなところで怖じけづいている場合じゃない。

 

変わるんだ!!

 

これは僕にしか出来ないことなんだから。

 

そう思ってマスクを着ける。

 

幸いこの場にいる全員、僕に気付いていない。

今がチャンスだ。

まだ震えている足に鞭を打ち、一歩を踏み出す。

白髪の男がトーカちゃんに意識を向けている間に後ろから喰種の跳躍力を使って飛びかかる。

僕は躊躇うことなく、白髪の男の肩に歯を突き立てた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう貴様と話すことはない。もう十分だ。死ね!」

 

そう言って私は自分のクインケ……"フエグチ壱"を振り上げる。

だがいきなり右肩に激痛が走る。

 

「ぐっ!?」

 

咄嗟に振り払ってその激痛から逃れる。

噛まれたと理解したのは、黒い仮面を着けた悪鬼を視認したときだった……。

 

「なんだ貴様は……?」

 

不注意だった。

目の前の敵に意識を裂いて後ろの警戒を怠るなど自分らしくない。

少し熱くなりすぎたか……。

 

そう内心で反省しながら相手を注視する。

 

眼帯のようなマスク、唯一見える片目からは赫眼が窺える。

なんとも形容しがたい雰囲気、片目。

瞬時に、直感的に理解した。

こいつは隻眼だ……と。

 

「ククク……ハハハハハッ!! こんなところで会えるとは……まあ貴様は()ではないだろうが、やっと見つけたッ! 隻眼の喰種ッ!!」

 

気分が高潮する。

まあそれも仕方ないだろう。

なんせあんなにも殺したくて殺したくて仕方がなかった隻眼が今目の前にいるのだからッ!

 

肩の痛みも忘れて私はクインケを振った。

何度も何度も何度も…。

 

幾度となく飛来する連撃を眼帯は自分の赫子を出現させ、防ぐ。

そして攻撃が緩まった瞬間を狙って突っ込んでくる。

 

「馬鹿めッ! なんの策もなく飛び込んでくるとはッ!!」

 

そう言って私は水中に隠していたもう一つのクインケ……フエグチ弍の取っ手を左手で軽く捻り、眼帯の足に巻き付かせようとする。

だがそんなこと、できるはずがない。

何故なら無かったからだ。左手首から先の部分が……。

 

瞬間、理解した。

赫子らしき物が飛んできて私の左手を奪っていったのを。

尚且つそれが私から二十メートルは放れているであろう幼い少女の一撃であったことを。

 

いや、今はそんなことに驚いている場合ではない。

素早くフエグチ壱を引き、迫ってきている眼帯を迎撃する。

だが眼帯は三本の赫子で容易に防ぎ、突破してくる。

 

「くっ!?」

 

そして、成すすべもなくその赫子は私の腹部を貫いた……。 

 

「かはっ!!」

 

後ろに倒れ込む。

そして最期の命の灯火をかき消すかの如く赫子の追い討ちが迫る。

 

だがその赫子は銃声とともに弾き返される。

倒れた状態のまま音源をたどるとそこには、

 

純白の仮面を貼り付けた亡霊がいた……。

 

 

 

 

 




なんか今回は自分の中であまり納得いってません。
もしかしたら修正するかも知れないです。

因みに今年から受験生となってしまったので更新が遅いですが、まだまだ頑張りますので宜しくお願いします!!

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