カウントダウン~A HAPPY NEW DAYS~   作:幻想の投影物

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遅くなりました。
結構PSSメンバーは好きです。


明け始まり

「お義父さん、ナフェちゃんを俺に下さい!」

「……とりあえず聞くが、誰から言われた?」

 

 新年を迎えて数日。

 クリスマスで体力も何もかも(食料は除く)を消費しきった人類の生き残りが多数だと言うのに、その人類を守る筈の精鋭部隊PSSのメンバー―――そのうちの一人、「フォボス」はそんな事を彼にのたまっていた。

 

 当然、そんな発言をした彼とその周囲の人物はぽかんとその様子を見守っていた。話の当人であるナフェもそのうちの一人である。

 

「いや、こればかりは俺の気持ちに偽りはねぇんだ! 仲間から散々ロリコンと言われてきたが、胸の高鳴りは抑えられない。これはつまり――――恋なんだよな!?」

「オッケーオーケー。……マリオン司令官」

「……一応持っているが、本当に?」

 

 彼が勢いよく頷くのを見て、フランク・マリオンは仕方なしに溜息まじりで「ソレ」を彼に渡した。「ソレ」を受け取った彼は、ナフェの方に視線をやる。

 

 ―――やっても?

 ―――やっちゃえ

 

 ナフェからのお墨付きももらったところで「ソレ」を勢いよく振り下ろし、頭を下げているフォボスの後頭部に命中させる。

 

 スパーン、と。

 

 紙の弾ける音がした。

 

 

 

 

「…で、目は覚めたか?」

「あ”~、悪い、酔いが回ってたみてぇだな……」

 

 「ハリセン」を肩に担ぐ彼がそう言えば、先ほどまでにあった「頬の紅潮」をすっかり無くしたフォボスが項垂れる姿がそこにあった。

 新年を迎えたこの日、どんどん人類の生き残りが集まって来ていることでその時に持ち込まれた食糧や機材も次々と運び込まれている。アーマメント技術もナフェが口を出し始めた事もあって、それが原因でPSSや重労働に復帰する人物も増加してきた現在は、人類滅亡へのカウントダウンが始まってからはといえば、さほど華々しくもないが皆が協力し合う「黄金時代」と呼ばれるほどだった。

 

 そうするとやはり、人々は新たな成功ごとに「宴会」を開くのであって、それに悪乗りをする人間も増えてくる。そんな人たちに酒をどんどん飲まされ、意識が薄くなって来たころに擦りこむようにしてフォボスは「ナフェとくっつけ」という催眠を掛けられていたのだ。

 その結果がこれであるのだから、やはり「酒は飲んでも飲まれるな」は名言であるなと彼は認識を改めた。

 

「で、そんなフォボスはホントにアタシに気があんの~?」

「無いってえの! 俺がそんな性癖を持っているんじゃ無くてだな……」

「とにかく、誰に飲まされていたか見てましたか? …司令官」

「俺に聞かないのか!?」

「うむ、主にロスコルと通信管理のメリアが悪乗りしていたようだな。とくにメリアが酒乱だったのもあるんだろう」

「司令官も無視ッすか!」

 

 フォボスの叫びも無視して、彼は聞かされた名前に頭を抱えていた。

 

「……ああ、アイツか」

「腕のいい新人が入ったと思えば、天は二物を与えずとはよく言ったものだ」

「感心しないで止めといて下さいよ……」

「まあいいではないか。ロスコルに次いで機械分野に優秀な者がやっと見つかったのだ。これで大いに戦線も良くなるだろうさ」

「それならいいんですけどねぇ……フォボス、とにかくこの酒瓶片付けとけ」

「わーったよ。ったく、俺もなんであんな二人に嵌められたんだ……」

「ナフェ、部屋に戻るぞ」

「はーい」

 

 ぶつぶつと呟くフォボスを背にして、彼らは部屋に向かう。その途中で止められることなく二人は自室に向かう通路に入った。

 既に日も暮れているだけあって、外は暗いのだろうと言う事が分かる。建物そのものがシェルターの役割を果たしているこの施設の廊下には強化ガラスが張り巡らされており、その向こう側からでもしっかりと暮れている深夜の光景は目に入った。それとは反対に、ここの自室などはそれこそ襲撃から身を守るために堅牢な作りをしている。窓一つ無い部屋は、独房の様でもあった。

 そんな牢屋モドキに向かっている途中、ナフェが彼の服の裾を握る。何かを伝えそうに視線を合わせて来たのを見て、なるほど、と彼は手を引いた。

 

「とりあえず、外に出るか」

「……うん」

 

 

 

 

 二人は外に出ると、梯子も掛かっていないUEF本部施設の登頂に移動していた。そして、彼はナフェが話しかけてくるのを待ちながら干渉に浸る。

 

 人類が絶滅しかかってから、この数十年はアーマメントと言うエコな技術が普及して排気ガスなども最小限になった。毎日のようにt(トン)単位の汚染は無く、代わりに自生してきた植物がこれまでの人間の歴史を塗りつぶすように気候を清浄な環境へと変えていく。

 人がどれだけこの星に害を与えて来たのかが皮肉気に現れている、現代ではもう見る事が出来なかったかもしれない満点の星空を見上げながら、彼はそんな事を思っていた。

 

 片腕の力だけであおむけの体制から逆立ちして自分の有り得ない身体能力に辟易していると、ようやくナフェが口を開く。

 

「……ストックは、ホントにストックなんだね」

「どうしたいきなり。前にも言ってなかったか?」

「うん。でも……やっぱりさ」

 

 彼女は星空を見上げ、次に月を見た。

 そこには彼女達エイリアンの基地があるというのは彼だって知っている。そして、そこには「彼女」が坐しているのだろう。悠然と、何の興味も持たずに、ただこの地を見下すように。

 だが、ナフェの興味はそこに向かっているようには思えなかった。どちらかというと、郷愁から繋がる嫌悪の感情が見え隠れしている。そして、時折見せるのはこの天体を越えた向こう側への憎悪の感情。

 バラバラだが、どれも彼女の持っている感情なのだなぁと、彼は目を細めた。

 

「で、ストックはなんだって?」

「……あれ、やっぱり聞いちゃうんだ」

「中途半端で終われば、人間ってのは詳しく続きを聞きたがるもんだ。……それとも、言ってほしいか?」

「…ふんだ、言えるものなら言ってみなさいよ」

 

 そっぽを向いて言った彼女に、とりあえずは意地悪げな表情を作った。

 それにたじろぐ姿を見ながら、口ではこう言い放つ。

 

「染まってきた、ってことだろ」

「……嘘」

 

 その言葉は見事的中したようで、ナフェを絶句させることに成功した。エイリアンなどに鼻を明かしてやった、と言うあたりはザハのシンボルやジェネレーターを倒した時以来だと思い出しながら、続けた。

 

「ナフェ、お前はちょっとストックの…いや、人間の感情を持ちすぎたんだな。未熟な感情のままであったり、こっちから見た“エイリアン”の感性そのままなら多少はごまかしようもきいたんだろう。だけど、今のお前は年相応の子供並みになってる」

「え、そんな筈!」

「なってるんだよなー残念ながら。それに、お前はエイリアン連中の中でも最もネブレイドに勤しんだほうだろ? そりゃ、精神のベースがエイリアンの精神構造をしていても、人間と言う不純物が混じりきった状態じゃ人間の側面が表れるにきまってる」

 

 そう言ってやれば、ナフェは思い出したように出会った頃のような残酷さを秘めた瞳を取り戻した。やはり、彼の読み通り此処に来て数カ月の間に失っていた、エイリアンとしての自分をようやく見つけ出す事が出来たのだろう。

 人類にとってはいい迷惑だが、あんなナフェらしくない姿を見るのは「彼」にとって変な物に感じた。いろいろ教えて来たが、エイリアンとしての彼女は失ってほしくなかったから。

 

 どうしてそう思ったのかは、分からないが。

 

「……ま、どっちにしても迷ってるんだよね」

「人類を飼うのか、それとも総督の言うとおりにネブレイドしきるか、だな?」

「あれ、やっぱり知ってるんだ。一度でいいからネブレイドして知りたいなあ」

「ほざけ」

 

 まぁ今はいいや、と彼女は足を揺らす。

 

「すでに飼いでシズと結託してんだけど、どうにもアタシにお菓子くれるおばあちゃん見てると決断が鈍っちゃうんだよね」

「オイオイ、主犯クラスがお菓子一つで懐柔されてどうする……」

「だからこそ、ストックは凄いって思うんだよ。アタシ達にこんな影響与えるんだもん。たかが物一つで決断が傾くような感性をいとも容易く生み出させた」

 

 前のままの彼女なら、人質などをとられていたとしも、何も躊躇せずに人質ごと敵を斬り伏せる。だが、いまの彼女は悩んだ末にどうにか助け出すという選択を採択してしまう。

 それほどに、彼女に生まれた「心」は揺れていたのである。

 

 ところで、心という不確実な物を得てしまった事で動揺や感情を覚えた人外の存在の話は数多く存在するが、その最後は悲惨な物が多い。彼女もそうなってほしくはないと、やはり彼は心のどこかでそんな事を考えてしまっていた。

 それは仮にもパパと呼ばれた事に対する親愛の情からか、自分が持っている人間的な倫理の側面からかは分からなかったが、とにかくそう思ったのは間違いない。

 

「それでいいんじゃないのか?」

「だとしても、アタシだってストック共と同じで“食べる”“生きる”って欲求がある。これまでだって、アーマメントが持ってきたのを何人かネブレイドしてきたけど、やっぱりストック流の“食事”だけじゃもたないしさ」

「隠れてえげつねぇことやってるなぁ……」

「そっちだって隠し事しかないんだから五分五分(フィフティ・フィフティ)だと思うけど?」

「おおう、一本取られたか」

 

 大ぶりに天を仰ぐ仕草をして寝ころべば、彼の腹にナフェが頭をのせて来た。

 

「痛え。その耳モドキ外せ」

「どこに~?」

「……ああ、もういいや。真剣な話も、未来についても」

 

 素面じゃないと話せない。そう言って、彼は星空を見上げた。

 冬の三角形が煌めき光を放つが、ナフェ含むエイリアンが侵攻してきた根源だと考えると、空は環境汚染に悩まされていたころと変わらない、濁った虚ろなものだと感じられた。今の脚力なら高く、空の高くまで飛び跳ねる事が出来るだろうが、やはり届かないのだろう。

 

 そこまでで思考に一旦終止符を打つ。

 今の自分が何をできると言う訳でもないのは分かっている。エイリアンと戦うときはいくら平均的なグレイ並みの身体能力があるだろう自分の体でも、死ぬときはあっさりと死ぬだろう。目の前で「彼女」に捕食されていた運動野に染まったグレイと同じく、ただの骸となって果てる。

 

「そう言えば、新年を迎えてたんだったか」

「…どしたの?」

「いやぁ、“来る”と思って」

「……え」

 

 その言葉を狙っていたのかのように、寝ころんだ頭の先に一つの気配が生まれる。なんの違和感もなくただ出現したのは、白い鎌を携えた純白の存在。

 まだあどけなさが残る少女の風貌をしながら、その実の年齢は誰もが測り知りえないのだろう。そんな事を考えている彼の目の前には、いつか見た「顔」が視界に入った。

 

「よ」

「ああ」

 

 短い言葉で再会の挨拶を交わす。

 その瞬間、硬直から解けたばかりのナフェが声を出せない叫びに駆られて絶句する。まぁ、彼女の行動は概ね正しい。先ほどまで反逆と取られても全く問題の無い発言をしてしまっていたのだ。突然現れたエイリアンの総督とまで呼ばれる存在が、それを謀反未遂だけで刀を納める筈もないと言う想像を抱かれていたのだから。

 

「そうたじろぐな、ナフェ。そちらが行動を起こさない限り手は下さないからな」

「あ……は、はいっ!」

 

 いつもの調子のいい口調や言動はどこにいったのか、萎縮しきった様子で彼女の言葉に反応する。やはり、生存願望が高い存在と言うだけあって総督の恐ろしさを肌身で感じとったのだろう。ああは言っても、結局彼の背中に隠れてしまっていた。肉の盾にでもするつもりなのだろうか。

 

「今日で約束の一年経過。俺をネブレイドでもしに来たのか? 随分と余裕そうだな人類の敵様」

「そう言う貴様は臨戦態勢も取らずに大の字で倒れているだけか。諦めて大人しくネブレイドされるタマでもあるまい?」

「これはまた、随分と買い被って貰ったなあ。結局は凡俗のグレイと同等程度の戦闘能力しか持たない俺に何かがあると言うのかい」

「ナフェや私でも追いつけぬ“足”があるだろうに」

「これはまた、つくづく化けもんだな俺の足は」

 

 くっくっと笑えば、彼女もつられるように微笑を携えた。

 

「隣を貰うぞ」

「はいよ。…ナフェ、間にな」

「は、ええぇっ!?」

「ほう、それはいい」

 

 あれよあれよと言う間にナフェが真ん中で寝転がされ、その両脇を彼と彼女が固めて「川」の字を作ることになった。身長的にも問題は無く、一見すれば少し変わった中のいい家族のように見えるだろう。普段から発している存在感も今はなりを潜めているのか、横から伝わってくるだろうという想像と違う現状に物怖じしながらも、ナフェもその場に同伴させられた。

 

「で、ネブレイドは?」

「気が変わった。もう少し見ている事にしよう」

「俺の所在は?」

「別に、今までどおりにしていると良い」

「ナフェの謀反計画は?」

「動くときにだけ私も動く。それだけだ」

「だってさ」

「なにいってんの! もう……」

 

 それからは言葉もなく、三人そろって空を見つめていた。

 ロシアにいるというのに、冷たいつむじ風も吹く事は無くつれずれなるままに時間だけが過ぎていく。最初は緊張していたナフェも、今となっては彼と変わらない自然体になっていた。

 

 三人の瞳が流れ星を見つけた時、彼女は唐突に口を開いた。

 

「明日、全ての戦力がこの星に集結する」

「そして月で集会と」

「最後まで聞いておけ。……そして、その中で私は“ホワイト”かもしれない個体を発見した。此処のどこにあるかは知らないが」

「オマエも情報流出御苦労だなぁ」

「そりゃ、アタシもエイリアンって呼ばれてる側だし」

「そう言う事だ。……おそらく、私の見立てではおおよそ十ヶ月後に全てが始まるだろう」

 

 彼女が宣言したのは、おそらく9月25日の明け方の「BRS覚醒プロジェクト」を指しているのだろう。頭の中に入っている重大な出来事を記した年表最後に、そんな事が書かれていた筈。思ったより優秀なPSSメンバーを掻き集めた事で、一体どれだけの変動があるかは分からない。だが、結局人類は彼女――エイリアンの総督の掌の上で踊っているに過ぎないのだろう。

 それを理解したうえで、彼は大きく息を吐いた。

 

「…それで?」

 

 絞り出したひと言は、どうしようもないほど呆れに満ちた一言。

 それがどうしたのか。額面通りの感情がこもった言葉。

 

「とはいえ、目覚める前に消えてしまっては私がネブレイド出来ない」

「……総督ってさ、どんな嗜好してんのさ」

 

 ナフェがつぶやいた言葉に、彼女はぴくりと反応した。

 

「やはり変わった。“わたし”を前にして言いきるとは……流石、オマエのもとにいただけはあると言う事か」

「俺を人格変更機みたいに言うのは止めてくれませんかね」

「オマエの価値観の押し付けは洗脳にも匹敵しているだろう? かく言う私とて変えられている」

「っ…」

 

 彼女が言った後には、悲しげな笑みを携えている事に気付いた。

 それより気になったのは、彼女が「悲しみ」を発露させている事。

 

「……泣けるようになったか、いい女になれるかもな?」

「そう言ってストックのオスはメスを口説くんだっけ?」

「そこ、せっかくの雰囲気を壊さない」

「こうなったらヤケだよ。喋れるうちに吐き出しとくー」

「ふ、っくく……愉快、愉快だな」

 

 そうして彼女は笑った。

 

「「…………え?」」

「どうした」

「いや、コメディで笑うんだなと」

「右に同じく。総督も笑うんですね」

「……ふ、私もとんだ見方をされたのだな」

 

 唐突に彼女は立ちあがった。そして上体を起こした二人を見つめると、鈴の鳴るような声色で語った。

 

「…また、気が変わった。こい」

 

 そう言った彼女の足元から、淡い発光が始まる。

 如何なる技術を用いたのかも分からない、オーバーテクノロジーによって捻じ曲げられた空間の穴がぽっかりと口を開けているのだと、彼がそう認識したころには体は中空を舞っていた。隣に視線を移せば、同じように驚愕を顕わにしているナフェの顔が目に入った。

 

「どわぁあああああ!?」

「きゃああああ!」

 

 二人の悲鳴を呑み込み、空間は―――閉じてしまう。

 新年の始まりを迎えたUEFには、失踪者が二人出たと言う速報が駆け巡るのだった。

 





ここまでお疲れ様です。
ところで、皆さんはPSSメンバーの中で誰が好きですか? 私達は4対1対1でマリオン司令官に票が集まりました。

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