カウントダウン~A HAPPY NEW DAYS~   作:幻想の投影物

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一応、本編でもありクリスマス編。
乗り遅れた気もしますが、まだ間に合うはずっ!


聖夜祭

「ここが生体アーマメントの研究区域。手術を受けてるナフェちゃんは別の場所でも同じのを見た事が在るだろうけど、君は初見かな」

「ああ。しっかし、人類も粘るもんだ。残り一億人にも満たないってのに」

「……そんなに減ってるのか?」

「あ、知らなかったか? 世界中いろんな所巡ってると、そこで出会った人たちの総数聞いてくるんだ」

 

 もちろん嘘である。

 真実を話したほうがエイリアンには有利に闘えるだろうが、別にどちらにも加担すると言う訳でもない彼はそれを敢えて口にしなかったのだが。

 

「そうか、もう一億以内か……勝たないと、な」

 

 ロスコルはどこか感慨深げにつぶやくと、二人の案内を再開した。

 彼らはここしばらく訪れなかった新しい人類と言う事で、このそれなりに広い場所でもあるUEFの施設をPSSの部隊員に案内されていた。最初の発見者であるロスコルを筆頭として、日によっては別の人物とも接触している。彼らはUEF本部に訪れてからの数日間に居住区、研究区、防衛区、そして避難所といった場所を訪れた。

 唯一権力的に上層に位置する者たちの住まう場所へ立ち入ることはできなかったが、侵略されているからこその一体感からか、一般人にもほとんどの場所が開放されている事はそれなりに驚きを感じていた。普通の組織なら、一般人は居住区ぐらいしか行き来出来ないだろうから。

 

 そして日が巡って再びロスコルが二人の案内をする事になっていた。

 

「案内できるところはこれぐらいかな。施設の場所は――」

「東に居住区、西の一本道を行くと研究区」

「…もう覚えたのか?」

「単純な構造なんだもん。あんたも覚えたでしょ?」

「あ、ああ。一応全部暗記出来てるが……」

「これはたまげた。優秀な人材になってくれるかもしれないな。―――ああ、勘違いしないでくれ。強制はしないさ」

 

 慌てて取り繕うように言ったロスコルがどうにも滑稽に見えて、彼はくすっと笑みを浮かべた。

 

「そんな奴じゃないのは分かってるって。まあ、俺の身体も大概常識外れだからな。戦線に行く決心が決まったら寄らせて貰ってもいいか?」

「…ああ、勿論! PSSは歓迎するさ」

 

 二人は右腕同士をぶつけ合い、互いに笑ってその場で別れた。ロスコルの様な機械に強くて肉体面も並み以上あるPSSメンバーはかなり重宝されているらしく、彼も自分が保護した新人だからと無理を言って抜け出して来ていたらしい。そして勧誘に色よい返事がもらえるかもしれないと分かると、目を輝かせているのが彼にも見てとれた。

 窮地に陥ると、どちらの意味でも人間は素直になってしまうものなのだろうか。

 

「うん、やっぱりこれだよね」

「どうした? 人間の感情でも理解したのか」

「そんなわけないじゃん。ストックはさ、こうして足掻くから、こうして何かに強く執着するから狩り甲斐が在るってこと~」

「やっぱその辺はぶれねぇよなあ」

 

 ネブレイドもすっごく上質になるから、とはしゃぐ彼女はどこまでもエイリアンだった。

 その会話が聞こえなかったのが幸いか、遠巻きに此方を見つめる老夫婦は微笑ましい物を見るような視線を此方に投げかけているのだと彼は理解する。それには思わず苦笑してしまった。

 

「む、なんか文句ある?」

「いんや? 会話内容さえ聞かれなけりゃ、ただの仲睦まじい親子に見えてるんだろう、って思ってな」

「じゃあアンタが親? ……う~ん、あの方にネブレイドされるまでは一緒にいるんだし、パパって呼ぶことにしようっと。カモフラージュにもなるしね」

「予想以上に近親者の概念が薄いんだな」

 

 これまで一番エイリアンと長い付き合いであろう彼にとっても、時々彼女から飛び出す言葉は彼の興味を惹きたてていた。

 

「私たちはネブレイドを繰り返して自己を高めてるから、出自なんて全員機械だしね。それぞれの持っている情報が遺伝子でさえも伝わらないようにしてるの」

「エイリアンも大変だねぇ」

「ホントだよ」

 

 第一あいつらは人の作戦も聞かないで突っ走るからストックにやられるんだ…など愚痴り始めたところで、彼はナフェを持ちあげて自室へ向かう事にした。

 此処に来てからは全てを共同で共有するという事もなく、意外と食事などの集まり以外はそれぞれの人間に部屋を割り当てられている。纏まって此方に来たのでナフェと彼は同室に落ち付いているのだが、その部屋はプライバシー保護のために防音対策もされているらしい。まったくもって、内部のスパイがいる事を疑っていない体制なので最初は呆れていたのだが、考えようによっては人類の統一感を垣間見たとも言えよう。

 そして、この体制は本当に全ての人間が「これでいい」と同意した者らしく、PSSの古参メンバーに話を伺ってみると、研究者、権力者、一般人の全員が現在の体制に何の不満も抱いていないのだとか。

 見回りをする事もなく、人類の安らぎの地である事を全面にアピールしたような施設構造。微妙な立ち位置にいる彼は、この部屋に戻る度に重い空気を吸っているような気がしていた。

 

「……ってことでアイツは、…あれ?」

「やっと戻って来たのか。おまえは一回考え始めると中々一人語りを止めないからなぁ」

 

 そう言うと彼は立ちあがり、備え付けられた台所に火を入れる。彼が各地から取って来た食料は食料庫に入れられ、リアカーの一部で育てていたものは居住区の横に広がる栽培エリアの一部に回されている。彼もそこで野菜を育てているのだが、その収穫の一部を食料庫に行かずに貰い受け、こうして自室で料理が出来ると言う訳だ。

 ここには念願の「卵」もあり、それを知って使い出してからは食が充実しているとナフェにも好評だ。

 

「今日は何が良い?」

「パパ、あたし親子丼食べたい!」

「早速言い始めるのか。…まぁいいや、親子丼だな? ちょっと待ってろ」

 

 料理をしながら思う。エイリアンは本当に人間とは精神構造が違っているのだと。先ほど聞いた親族の概念が最低限もないことも含めると、エイリアンとは個人で完成する生物なのだろうと言う考えも出来るが、例え利用し合う関係だとしても組織を立ち上げる連帯意識も持ち合わせていることから纏めると、不思議な生態だという考えに落ち着いた。

 そして今、自分の後ろですっかり「食事」の味をしめたナフェと言う個体も相当変わり種になってしまったのかもしれないと思った。旅をしていて分かった事だが、どうにもエイリアンは吸収した知識に左右されやすい不安定な情緒を持っているように見える。

 

 そんな感じでエイリアンについての考察をしてみたものの、結局はどうにもならないだろうという形で落ち着かせた。考えるのは科学者の仕事であり、今は一般人として保護されている自分は数カ月後に訪れる大虐殺で「彼女」から逃げ切らなければならないのだ。

 

「……いやぁ、物騒だ」

「なにがよ?」

「オマエん所の総督様」

「同感!」

 

 まったく、それでいいのかとエイリアンたちの組織体制にモノ申したい気持ちになるが、喰われたら色々おしまいなので黙っておく。長生きの秘訣はしっかりと空気を見極めることだ。

 特に、この戦線に出るような事態が在るとき、それが出来ない奴から死んでいく。一言に空気と言っても、死の空気、危険な空気、そう言ったものが含まれているのがこの状況下なのだから。

 

「ほい、親子丼完成!」

「パ・パ? ホントになんでも作れるんだ」

「だからパパ言うな。それに何でもではないし、そうだな――」

 

 悩むそぶりをして、適切な答えを導き出す。

 それは迷いを振り切ったように、彼は言った。

 

「――自分にできることしかできないさ」

「いただきまーす。…うん、おいしいっ!」

「無視か」

 

 彼の言葉を完全に無視して、ナフェの小さな口いっぱいに親子丼がかき込まれていった。とはいえ、彼女の口に食べ物を運ぶのは彼の役割だ。自分が無視されていると分かっていても、こうしてナフェの世話焼きを続ける事が出来る辺りはコイツとの生活も慣れて来たもんだと感慨深さを抱いた。

 

 そんな事に慣れてしまっている自分も自分だが、流されるよりはマシだろうと思う。別に小さい子に気が昂ぶったり、どこぞの変態紳士の様な感情を持ち合せていると言う訳でもなく、最近ナフェの笑顔を見る事がデイワーカーになっている事は否定しないが。

 にしても、今の考えで少しばかり疑問がわき上がって来た。どんぶりを喰わせてから、少しは問い詰めてみるとしよう。

 

 

 

 彼らがモスクワの施設で暮らし始めてから数ヶ月。

 2050年の12月になった。

 巷で言うクリスマスの日に、此処、UEF本部に集まった人類は3000万人を超えていた。さらに、この土地の事をラジオや何かしらの電波を拾って聞き、続々と難民が集まって来ている。

 その中には宗教心が強い者たちも残っていたが、そう言った人たちは除き、このクリスマスと言う日を楽しめる者たちは50部屋ほどに分けられた大ホールにそれぞれ集まっていた。そのホール一つ一つもかなり巨大で、そのうちの第13ホールに彼とナフェは集まっていた。とはいっても、彼は主に料理を作る係。ナフェは一見同年代に見える子供たちに囲まれてウザがっていると言う微笑ましい光景を作りだしていた。

 

「お、本当に料理には強いんだな」

「まぁナフェのおかげでこれが取り得になったからさ。味は保証する」

「そりゃいいな! っし、みんな聞いたか! 今宵のメインが今出来あがったぞ!!」

 

 また新たに出来あがったこの13ホールの目玉、巨大ケーキを運んでいると、ロスコル他PSSの精鋭メンバーが主催となって此方に話しかけたり、作ったばかりのケーキの紹介をしてパーティを盛り上げていた。

 そして、彼が他の料理人のおばちゃんやおっさんと協力して作ったのが、最大4メートルはある特大ケーキ。紹介されたと同時に期待の視線が大量に突き刺さり、どうにも恥ずかしい思いをしてしまうものだ。そんな事を思いながらも、今回ばかりは自分も主役の一人だと思って、隣の友人からマイクを奪って声を張り上げた。

 

「さあさあ、食った食った!! 一段ごとに味の違う特大特性ケーキはこちら! 一段目はストロベリー!! 二段目はチョコレート、三段目は俺手作りのマロン!! 四段目は料理人が頑張った秘密の味が隠されてるってぇワケ! 冒険者に美味いもん食いたい奴、ハメ外したい奴は存分に楽しむぞぉぉおおおッ!!」

「っしゃぁぁぁあ!!」

「お兄ちゃんこっちにケーキちょうだい!」

「いいぞ坊主ー! もっと盛りあげろぉ!!」

 

 たちまちにケーキは人に囲まれ、無難に一から三段目を掬って行く者、四段目が気になって食べようとする者でいっぱいになった。自分たちの丹精込めて作ったもので皆が楽しんでいる事に心を温めながらも、PSSのメンバーが見直したぞ、衛生兵! と肩を叩いてきた。

 そう、この数カ月の間にPSS入りを果たした彼は、すぐさま衛生兵の役に収まっていたのだ。人知を超えた脚力や怪力は最初こそ好奇の目で見られたものの、今となっては彼がいると生存率が100%だと言われるほどに有名になっていた。そうして精鋭メンバーの一員として認められ、兼この施設で料理人という職についていた。

 

「立役者とはやるじゃないか。味わわせて貰っているぞ」

「これはマリオン指揮官、どうですか?」

「美味い。見事なものだ」

 

 そうして仲のよくなった人物の中にはあの指揮官もいる。彼とは映画の話をナフェに教えている際に、マズマの様だと言われて固まっていたところで初めて出会い、それ以来はいろんな意見を対立させながら映画について語り合う仲となった。もちろん、訓練の際は手を抜かずに全力を出している。そうして驚きの身体能力で張り合っているのが、日課でもあった。

 

「そういえば、ナフェと言ったか。君はあの子と一緒だったな」

「ああ、あいつなら…ほら、あそこで揉まれてます。人の波に」

「そう言えば、先ほどケーキの取り合いでピンク色の髪がフードから垂れている子がいたな。彼女には悪い事をしてしまった」

 

 もう一口ケーキをかじったマリオンはそんな事を言った。すると他のメンバーが大人げねぇと囃したてた。

 

「指揮官、流石にそれは大人としてどうかと思います」

「フォボス、だがこうも言うだろう。“早い者勝ち”と」

「YO、YO、指揮官っ、それは流石に無理あるぜぇっ!」

「DJの言うとおりだぜ。指揮官は大人げねぇって!」

 

 PSSメンバーがここぞとばかりに指揮官に対して「口撃」を加え始めると、流石の指揮官様も悪いと思ったのか項垂れ始めていた。

 

「だけど、ここまで難民回収できたのも指揮官がアーマメントとの戦いを指揮してくれたからですよ。ケーキぐらいナフェも回収できたろうし――」

「取れなかったよ! 取れなくて悪かったね!!」

「ぐぉぶわ!」

 

 せっかく人が慰めているところを、横殴りに吹き飛ばされてしまった。

 くそ、ナフェめ、明日の朝は起こさないで部屋に置き去りにしてやる。

 

「くっ、はーはっはっはっは! 君達はやはり面白い」

「ってあれ、お気に召したので?」

「いや、やはり私は馬鹿をやっている部下を見た方が楽しいようだ」

「だってよ! くっそ~、こんな可愛い子が娘にいるなんて羨ましいぜ!」

 

 ほら高いぜおらぁ! と彼がナフェを振りまわすと、彼女は抵抗を試みる。

 

「あ、ちょ……放しなさいよ、フォボス!」

「フォボス、おまえロリコンだったのか?」

「ばっ、テメ、ロスコルこら誰がだっ!」

「あ、こら、ロスコルも頭撫でるなぁ~!」

 

 敵対しているエイリアンと人間の筈なのに、どうにも今のナフェは駆け引き無しに楽しそうに見える。こんな楽しいクリスマスもあってもいいか、と横に目を移すと、もはやケーキがひとつ残らず台座だけになっていることを確認した。

 新しい料理を持ってくるか、と立ちあがる。

 

「DJ、マイク貸してくれ」

「OK、オッケー! またまたチョイと、盛、り、上、げ、ようぜっ!」

 

 DJからマイクを受け取ると、スイッチをONにして再び叫ぶ。

 

「悪いがケーキ完売だ! で、第13ホールの食道連中、聞こえてたらすぐ次の料理作りに取り掛かれ! まだまだ夜は長いぞ!!」

 

 その一言で再び歓声が上がると同時、横からフォボスにマイクをひったくられた。

 勢いのままに彼も夜を盛りあがらせるスピーチを行うと、最後に付け加える。

 

「その通りだ! 生き残った人類総出のお祭り騒ぎを楽しまないでどうするってんだ! 長い夜はまだまだ数時間ものこってやがるぜぇぇぇええ!!」

「おぉぉおおおおおお!!」

「PSS! PSS!」

 

 熱狂に包まれる第13ホールの全員、そしてPSSメンバーや他の子供たちと戯れるナフェを横目にしながら、彼は自分の役目を全うするために食堂に向かう。まだまだ食べていない人もたくさんいる中、自分だけが職務を放り出して休むわけにはいかないからである。

 食堂に飛び込むと、早速手伝いを言い渡された。

 

「来たね坊主! チキンを焼く準備は整ったよ!」

「おい兄ちゃん、さっきはよくも言ってくれやがったな! おかげで手が止まらない事態になっちまったじゃねぇか! ―――よくやった!!」

「おっちゃん、ばあちゃん、減らず口叩いてる暇あったら手ぇ動かして料理作るぞ!」

「その通りだ! あいつらの胃袋に収まるには少ないんだっての!」

 

 パーティーやお祭り騒ぎはこの食堂でも同じ事。しゃべくりながらも一切妥協をせずに料理を作り続ける姿勢は、正に料理人の鏡。その輪に参加して、彼も存分に腕を振るうのであった。

 

 

 

「むー、またパパいなくなってるし」

「親父がいなくなって焼きもちか。マジでガキンチョはこうだよなぁ」

「なにいってんの。ただの旅仲間よ、仲間!」

「の、割には彼をパパと呼び慕っているではないか。君の本当の父親はいないのか?」

 

 マリオンがそう聞くと、ツンと跳ね返すように彼女は言った。

 

「いないっての。生まれてこの方、両親なんていないし」

「……ふむ、これは不味い事を聞いたようだな。すまない」

「別にいいよ。そんな重たい事でもないしさ」

「強いな、ナフェちゃん」

「そりゃ強いに決まってるじゃん。なんたってあたしは―――」

 

 そのまま勢いに「エイリアンだから」と言おうとして、口をつぐんだ。

 このまま言ってしまってもいいのに、何故自分が口を閉じたのか分からない。だが、どうして、こうして今でも頑なにエイリアンと言う単語を出したくなくなったのだろう?

 ……なんにせよ、今はごまかしておかないと駄目だと思った。

 

「…きみは?」

「……パパの娘だしね!」

 

 そう言った瞬間、周りの全員がシン、と静まった。そして、次の瞬間には当たりが爆笑に包まれる。

 

「おれ知ってるぜ! これってファザコンって言うんだろ!」

「はっはっは! これではフォボスの取り入る隙がないようだな」

「し、指揮官!? だから俺はロリコンじゃないって言いましたよね!」

「「「はははははっ!!」」」

「お前ら、そこに並びやがれ!!」

 

 次々と鉄拳制裁を下していくフォボスとその愉快なメンバーを見つめて、ナフェはくすくすと笑っていた。

 そんな様子は、どこまでも人らしく、どこまでも無邪気な子供のようだったとか―――

 





というわけで、ナフェはパパっ子になりましたとさ。マジ裏山(ギリィ
ああ、ネブレイドされてもいいからこんなかわいい娘が欲しい。

サンタさんに頼んでみます。

それでは、また来年にお会いしましょう!

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