カウントダウン~A HAPPY NEW DAYS~   作:幻想の投影物

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大体ある意味ご都合で動きます。
そして、さっき初めてB★RSの限定版についてくる年表の存在を知りました。
なるべく矛盾の無いようにしていきたいと思います。


侵略者

「神秘の国モロッコでこんにちは。解説のジョン・ドゥです」

「何してんの。っていうか、あんたそんな名前だったっけ」

「いや違うけど」

「なにソレ」

 

 馬鹿なかけ合いをしている二人は現在、モロッコを歩きながらゆっくりと北上していた。海沿いに続く国道跡があったので、この日は301号線のルートを通りながら北の地方、サフィを抜けてカサブランカまで到着する予定だった。

 海から見る360度全てが地平線だった景色も、最初は彼とナフェ共々に壮観だと喜んでいたのだが、流石にそれが二週間も続くと誰だって飽きが来るだろう。まぁ、目前に控えている季節は秋ではなくて春なのだが。

 

 話しは変わるが、エイリアンが良く二つの意味で口にしているネブレイドというのは、知識や経験が多く詰まっている人間や動物などが標的にされる事が多い。総督に最も近い忠臣であるザハは植物を好んでネブレイドして不動の心を手に入れているモノ好きらしいが、現在生き残っているA級と言われるエイリアンの内でも、ナフェやマズマ、シズにミー辺りは人間を。少数派であるカーリーやリリオは動物を好んでネブレイドし、相応の「変化」を遂げている。

 また話しは逸れてしまったが、それだけ「植物」はネブレイド対象にされずに残っていると言う事だ。もしもこのまま人類が絶滅したにしても、植物が残っている限り新たな進化を遂げ、人間に近しい種は再び現れるかもしれない。

 

 そんな余り物扱いされている植物だが、今回ばかりは「彼」とナフェにとっても助かっていた。モロッコの海岸沿いに再び緑を取り戻し、乱雑ながらも声明を感じさせる風景を作りだしていたのだから。

 

「人間とか、通る奴がいないと植物ってこう育つんだなぁ」

「こーゆーのって並木って言うんだっけ」

「そうそう。んで、これ見て胸の奥が熱くなったり、心のどこかで凄いと思ったら“風情”っていう言葉が宛がわれる」

「ふぅん、ストックって傲慢だね」

「全部の現象に名前と言う理解の足がかりを付けないと気が済まない種族なんだよ」

「だからアーマメントも“キラー”とかつけられてたんだ?」

 

 へーえと不思議そうに荷物の上で揺れている彼女に、彼はふとした疑問を抱いた。

 

「そっちは名付けとか頻繁にするのか?」

「ぜーんぜん? 私たち自身もこっち来る前はアイツとかオマエとかって感じだったし。ま、個人特定の方法をこっち来てからネブレイドで知った時は便利だって思った程度」

「あぁ……だからお前らのトップも“総督”とかしか言われてないのか」

「あの方だけは私たちと違って変に染まる事もなかったしね。だからこそ恐れられてるんだから」

 

 実際、原作の方でも逆らった奴は簡単に掌返してたなぁ、という印象が漫画版のナフェである。彼女としては生き残りたいと言う道を突っ走っていただけに過ぎないのだが、周りを利用し尽くした結果がこっちの世界のジョン・ドゥに収納されて総督にムシャムシャである。

 命乞いを命乞いと知らなかったのか、はたまたエイリアンだし助けるつもりもなかったのかは知らないが、我らが主人公である「お嬢さん」はそれを完全無視。このまま何もしないと、ナフェの運命はネブレイドである。

 

「だがまぁ、言っても無駄だしなぁ」

「なにを?」

「人類はどこにいるか知ってるか? って話だよ」

「んー、まぁ知らないけどね。こっちはストックと違って情報媒体ほとんどないし」

「情報喰ってるのにか?」

「むしろ食べないと何もわかんなーい」

 

 思わず口からこぼれおちた言葉から話題転換を図ったが、なんだか予想以上の情報を得てしまった。成程、限定版買っといてよかった。年表ではまだモスクワ襲撃ないし、もしかしたらホントに総人類襲撃がないのかもしれないのだから。…あれ、これって自分がエイリアン側のソースになっちまうパターンじゃない?

 

(……いやいや、あれ、でも…? 人類滅亡! ……あれ、そんなに違和感抱かない?)

 

 少し思考が焦ったかもしれない。いやいや、人類そう言えば確かにモスクワに集結しているらしいし、その情報受け取って無い残りの人類と接触を持ってPSSに保護させると良いじゃないか。

 

「あ、また(・・)街見えてきた。降りないのー?」

 

 さぁて、どう説明するかなと考え始めた彼に、上にいるナフェから町発見の知らせが届いた。その言葉に従って前を見ると、猛スピードで街の景色が迫ってきていた。そう、猛スピードだ。

 ヤベ、と思った彼が自分の脚を見てみると、案の定、残像が出来る程に高速運動をしている脚部が目に入った。

 

「……なぁ」

「なに?」

「どのくらい前からこの速度出てた?」

「わりと最初くらいから。もうすでに街何個か抜けたよ。あたしが呼びかけてもアンタは全然反応なかったんだけどね」

「うわぁ」

 

 と言う訳で、リーフ山脈の西にある都市「ララシュ」到着である。

 目前には100km程でスペインとの境界線、ジブラルタル海峡が存在している。このままヨーロッパ州に侵入するのなら、道なりに飛行機の便も出ていた中継都市であるタンジールに行くのが一番いいだろう。だが、彼らの場合はララシュで足を止めた方が良いのである。なぜか、その理由は存外に普通である。

 

「うっわ、すんごく暗い」

「月も出て無いと、人口の光が無いせいか何にも見えなくなるな」

 

 日が暮れた、太陽が地平線へと沈んでしまったからである。

 忘れかけているかもしれないが、列車以上のスピードが出せるからと言って、彼は列車そのものではない。前方を明るく照らすライトも無ければ、不眠で走り続ける事もできない。本気を出せばそれくらいは出来るようになるのだろうが、生憎と彼にはナフェと言う乗車客がいるのだ。

 

「月かぁ、他のヤツはなにしてるんだろ」

「この前聞いたが、他の惑星行ってるんだったか?」

「まぁね。実質こっちに残ってるのはマズマとあたしとザハくらいかな。あの方は神出鬼没だから知らないけど」

「あ~、うん。アイツはいつの間にか居ていつの間にか居なくなってたなぁ」

 

 薄いと言えば薄いが、それなりに濃かった彼女と居た時の記憶。強烈に印象に残っているのは何故か出会うグレイ全てをネブレイドしていた現場の光景だったが、今のナフェの様に、それなりに会話をしながらアメリカを旅していた事も彼はちゃんと覚えていた。

 まぁ、どっちが楽しいかと問われれば今のナフェとの旅路だと即答するだろうが。

 

 そんな彼らがいるララシュの建物は、いずれも白い壁と緑の配色が多い水色の窓などで構成されている明るい感じの田舎町である。今となっては廃墟で誰も居ないのが玉に傷。それでも、此処で犠牲になった人はあまりいないのか、少し回った建物内部には血液やアーマメントの「食べ残し」などは見受けられなかった。

 それは同時に、ここは比較的無事に逃げおおせた人が多かった事を意味している。つまり、ここで補給しようと思った食料などは無く、畑にも枯れた苗の姿さえない状態だった。

 

「じゃぁ、既存の奴で料理するんだ?」

「そうなるな。あー、卵とか食いてぇ」

 

 とりあえず、と二人は街を少し外れた広場に移動した。そこで野外炊飯セットを立てると、近場の平原に椅子を置いてキャンプを立てる。屋内でやってもいいのだが、月が出ていない空もまた一興ということで、ナフェが野外食を提示したからであった。

 立派に育っていた巨大なトウモロコシを包丁で刻んで鍋に入れると、偶然手に入れた蟹の味噌を取りだした。殻からほじくりだした身を取りだしながら待つ。ぐつぐつと熱くなる鍋からは良い匂いが漂い始めた。

 

「でっかいでっかいトウモロコシ~♪」

「あれ、それって“大根”って言うんじゃなかったっけ?」

「大きなトウモロコシ(イコール)大コーン」

「あ、そ。くっだらない」

 

 冷たいなぁ、と思う彼が鍋を見ていると、ナフェの心とは正反対に温まっていい出来になった蟹味噌汁が完成。大根を細かく切ったのは生臭さを取る為だったが、それなりに上手く言ったようだ。そのままある程度身を取り出しやすくした蟹を足ごと入れて、幾つか切ったネギを散らす。

 そして登場するのが、エッサウィラにいた時に奇跡的に手に入れた「米」だ。

 何度でも言おう。ライスではなく「米」である。日本が誇る米。それがエッサウィラの近くにあった水田に生えていたのだ。刈り入れ時や時期が違うのに何故という疑問はあったが、そこはやはり日本男児。米の存在に目を輝かせて飛びついた。そして、リアカーの一部を肥大化させて水田を作りながらも米を所持している。

 

「明日の朝、雑穀米と米だけ、どっちにする?」

「じゃあ一つだけの方」

「はいよー」

 

 ナフェのメシ使いとして、食の喜びを伝えるために彼女の意見を取り入れると、米を研ぎ始めた。今晩は残念ながら炭水化物は他のもので摂取することになるが、明日の朝の為に彼は寝ずの番をする必要があるのだから。

 そしてどこかおかしいメインデッシュになる鍋の方が完成すると、彼はいったん米とぎを止めてナフェを席に座らせた。蟹味噌汁を器に入れて渡すと、これくらいは自分で飲めと言って手を合わさせた。

 

「「いただきます」」

 

 ちなみに、味はそれなりだったと言っておこう。

 

 

 

「美味しかったー! 普通のストックって女が家事やってるって聞いたけど、アンタも大概じゃん」

「そりゃお前。彼女いない歴が年齢の一人暮らしを嘗めちゃいかんよ。少しでも毎日に楽しみをもたらせるために人並みより少し上程度には鍛え上げたんだから」

「ふーん、彼女…か。愛情っていうの? そんな感情とかで動くストックって、ホントヘンだよね。時にはそれで自分の限界超えるって言うし、それをネブレイドしたせいでリリオとミーは変な雰囲気作りだすし」

「うわぉ、そういう時って、何かその場所にいて不快にならないか?」

「あ、なるなる! もういい加減にしてよねって感じ!」

「エイリアンでも毒されたらあるんだな、そんな空気」

 

 その後もナフェが語った、人間と言う俗に侵されたエイリアンたちの行動は中々に面白いものだった。感情と言うものが出始めてからはどことなく連携がギクシャクし始めて、初めて人類側に一人倒されてしまったとか、エイリアン同士の意志の対立と言う初めての経験でその後どう接したらいいか分からなくなったりとか。

 そうしてアットホームなのか修羅場なのか良く分からない日常をこれまで過ごしてきたらしく、改めてこう言ったのんびりとした旅をするのはナフェにとっても楽しいものであるとも言ってきた。

 

「他の星から全員集まるまではあたしもフリーだったしさ、あの方からのアンタとの旅しろって命令、今となっては感謝してるかも」

「そんじゃ、あいつに喰われないように手助けしてくれるか?」

「それは無理。あたし死にたくないもーん」

 

 残念、目論見は正面から跳ね除けられてしまったようだ。

 

「ところでさ、良いもの拾った」

「なんだそりゃ」

 

 ナフェがウサギの顔みたいなあの専用アーマメントを呼ぶと、その中から壊れていないラジオが出てきた。それはまだ電波を拾っているようで、ノイズと共に英語で何やら言葉が発せられている。

 

「んで、こいつをチョチョイと弄ると……」

 

 何をするのかと見ていれば、アーマメントの耳の様な部分から伸びたコードがラジオのジャックと直結して、アンテナとスピーカーの役割を果たした。彼女はどうやっているのか周波数を合わせ始め、ラジオからはハッキリした英語が流れ始める。

 それが何を言っているのか彼には理解できなかったが、ナフェは得意そうにそれを翻訳した。

 

「“こちらモスクワ、UEF本部。これを聞いている人類の生き残りよ、ここは食料、寝床、衣類が揃っている。これを聞いた人類はモスクワに集結せよ。救助が必要な物はこちらに連絡をXXX-XX-XXX……”

 ま、直訳して日本語にするとこんな感じかな? よかったじゃん、人類、見つかって」

「……おいおい、マジかよ」

 

 こちらが隠すことなく、ナフェが此処に来て人類の総本山を見つけてしまった。これは、最早人類が滅亡までのカウントダウンに入った事と同義でもあった。

 

「それで、行くの? モスクワ」

「……さぁて、どうするかな」

「あんた、いつ知ったか知らないけど、これを隠したかったんじゃない? そうだよね。だって、あんたも同じストックだもんね?」

「いやはや、噂に違わぬ冷血此処に来て発揮かよ。さっきまでメシウマしてた姿はどこ行った……?」

 

 冗談のように笑い飛ばすが、彼の内心はこれまでに無いほど焦っていた。同時に、人類滅亡の危機に関してこうした焦りを覚えたことで、自分も人類を思っていると言う事を再確認していたが。

 そんなことより、目の前で笑う少女がたエイリアンが、生き血をすする怪物に見えそうになっている事の方が重大だ。無意識に深呼吸を行って意識を落ちつかせると、しっかりとナフェに向かって視線を返した。

 

「……お前はどうするんだ? この事を知らせるのか?」

「あたしはあんたの隣にいて、あんたを殺さないなら好きにしてい言って言われてるし、こっち側からしてもこの事を知らせるのは普通じゃん? だから、いつでも総督やザハに伝えてもいいんだけど……」

 

 ナフェの意地悪げに宿った瞳の光。それは既に絶望を意味しているのだと、彼は感じ取ってしまった。だから、盛大に舌打ちを響かせる。

 

「…その反応、話し合いの余地じゃなくて既に伝えたってことか…!」

「あったりぃ! 分かってるじゃん」

 

 つまり、すでに人類はエイリアンの手の中。

 こうなった原因はナフェを連れ回した彼そのものだ。

 責任重大どころで終わらせる事ができるような範疇ではない。

 

「ま、襲撃はみんな集まってからだけどね。それにしても、自ら滅びに行く為に固まるなんて、本当に頭の悪い種族だよね。それだからあたし達にとっては“在庫品(ストック)”でしかないんだけどさ?」

「その頭の悪い種族にそっちは7人ほど殺されてるじゃねぇか。それも、そっちで言うグレイにだぞ?」

「あいつらはネブレイドもほとんどしてなかったし、アーマメントも率いなかった奴らだから自業自得。それに、あたしがこっちに来た時には既に5億だったのが二億くらいのアーマメント連れて来ただけで五分の一になるしさ。単純な戦力でアーマメント一体に二人でも敵わないってことじゃん。あのときは張り合いが無かったなぁ」

「ハっ」

「む」

「これからが反撃だよ。その首洗って待ってろ、今に半数以上また狩り直してやる。こっち側の最終兵器があるんだからなぁ!!」

「むむっ………」

 

 グレイにはしてやられた事もあるのか、ナフェは口を閉ざした。

 そしてしばらくの静寂。ナフェは、ある事に気付いた。

 

「…って、結局あんたも他人任せじゃん」

「……うん、そうだよな。俺も言ってから気付いた。虎の威を借る狐どころの話じゃないよ。つか、最終兵器ってばらしちまったよチクショー」

「絶対どっか抜けてるよね」

「言うな! 悲しくなるだろう!?」

「あはははははっ」

「笑うなぁあああ! あー、くそっ。黒歴史決定だよもぉおお!」

 

 不貞腐れて、彼は米をガシガシと丁寧に研ぎ始めた。明日の朝の楽しみだ。揺れている感情を落ちつけるためにはこれが丁度いいと思ったからでもある。

 これでいいだろ、と思った彼はナフェからラジオを入れたアーマメントをひったくると、研いだ米を器に移し換えてからその中に入れた。炊飯器として使うつもりらしい。

 

「どちらにせよ、発見が早いか遅いかの違いだよ? そっちが責任感じるとか、一々あたしと張り合う必要なんてないのに……あぁ、面白かったぁ」

「こやつめまだ言うか。それにしても、本当にどうすりゃいいんだ。人類滅亡とかマジ洒落にならんしょ」

 

 うがー、とガシガシと頭を掻くと気にしない方が良いとナフェが疎める。確かに、此処にいる彼一人なら絶対に生き延びる事が出来るだろうが、孤独の中でこのトンでもパワーを持て余して生きると言うのは中々に地獄だ。

 いっそエイリアン側に引き取られるという手だてもあるが、「お嬢さん」が全員倒してある意味共倒れENDを迎える可能性の方が高い。これからは人類救済ではなく、自分の身の振り方を考えた方が速いのではないかと言う事もナフェに言われていた。

 

「そう言う事だから、あんまり考えない方が良いよー? どうせアンタ一人だと何もできはしないんだしさ」

「うっせ、自分ひとりの失態で同族が全滅するストック側の事も考えてみやがれ」

「考えられませーん」

「ウザ」

「はぁ? なによソレ!」

 

 とりあえず、彼らがそんな会話を交わしていたら深夜を過ぎていた。ナフェもエイリアンの性質なのかは知らないが、寝る必要が無いので彼と頭脳も策略もないただの口論を続けてしまう。そうして時は過ぎ、いつの間にか彼らは二人仲良くその場で眠ってしまっていたのでしたとさ。

 

 

 

 朝になると、あの際どい服装が災いして、朝方の寒風を直接その身に受ける幼子のようなナフェの姿が在った。その隣ではエプロンをつけて朝の食事の支度をしている男性。調理器具とはかけ離れたピンク色の兎の顔の様な機械をその作業に加えて、着々と準備を進めている。

 

「うぅぅ……暖かいご飯まだぁ? 早くしてよ」

「ったく、その格好で最後まで口論するからだろうが。ほら、寒いなら荷台の横に干してあるタオルケット一枚持って来い」

「はいはい」

 

 昨日の残りの蟹味噌汁を煮詰め直すと、味が深くしみわたって濃い口好きなら好みそうな具合になっていた。そうして味見を済ませた後に、隣にあるナフェのアーマメントを開くと、炊きあがった米が炊飯器の時の様にふっくらとしている姿があった。その横にはついでとばかりにやかんも並んでいる。

 

「水の分量は間違ってなかったか。……んー、なんか足りないから、青菜のひたし追加するか」

 

 これならすぐにできるからと、水で洗った菜っ葉をまな板に乗せると、十数種類はある包丁の内から一つを選んでさくさくと適度に切り始める。小さな皿を出してその中に入れ、上からゴマをかけた。

 

「寒い~!」

「待ってろって!」

 

 これまた漁って手に入れた茶葉を取りだしてからティーパックに詰めると、先ほど一緒に熱していたヤカンの中に同じものを幾つか入れる。

 

「コップ持ってこい。さもなくばやらん」

「このっ、こっちの胃袋握ってるからって…!」

「そう言ってちゃんと湯呑の方持ってくるのが陥落されてる証拠だよな」

 

 ナフェが差し出した湯呑の中に、やかんの中で茶葉の緑色に染まった緑茶を入れた。テーブル代わりに即席で作った板の上に皿を運んで、日本の典型的な食卓が完成する。

 全てをやり切った彼は、どこか輝いているような気がした。

 

「「いただきます」」

 

 そしてナフェにいつものように食べさせると、日本の米はかなり好評だった。

 見ているか、エイリアンにも日本は通用したぞ!

 

「なに泣いてんのさ」

「いや、ちょっと感動して……つか、膝に座るな」

「こっちの方が食べやすいし楽なの」

 

 昨日の対立はどこに行ったのやら。人類に危機が迫っていると言うのに、この二人は対立すべき種族同士で一家団欒の様なほのぼのとした光景を作りだしていた。

 また一口がナフェの口に運ばれると、今度は彼が自分の分をぱくりと食べる。久しぶりに味わった本国の米は、彼に新たな感動の涙を流させた。

 

「くぅっ美味い! もう人類なんかどうでもいい。この美味さがあれば生きていける…!」

「うわぁ、一時の感情で自分の種族売っちゃったよこの個体」

「えぇい、日本人は一々オーバーな反応をする物なんだよ。その辺り察せや」

「日本人はほとんどネブレイドした事無いからわかりませーん」

「一々琴線に触れやがって、んにゃろ」

「ちょひょ、はひふんほは!」

 

 うりうりと頬引っ張ってやれば子供の肌の様にもっちりと伸びた。

 結構いい感じの手触りに彼は感心していたが、食事中だと言う事を思い出してすぐさま箸を手に持った。掴まれた彼女の方は、恨めしげな視線を彼の腕の中から覗かせていたが。

 

「悪かったって。ほら、これで元気なおせ」

「はむっ……んく。……こ、これで許すと思ったら大間違いだからね!」

「テンプレートお疲れ様。そんな知識どこで覚えて来た」

「あんたの祖国、日本人」

「やっぱり日本は腐ってやがった」

「そもそも娯楽とはいえあんなの作るなんて、あたしらじゃまずあり得ないから」

「異星人にまでここまで言われるって相当だぞオイ」

 

 ごちそーさまでしたと言い終える頃には、彼も最早人類の危機に関しては諦観ムードに入っていた。変態大国日本の知識がこのような見た目少女のエイリアンに流れていた時点で、目が死んでいたからである。

 まさかこんな所で人類にしては有り得ない身体能力を持った切り札にもなり得そうな存在が裏切るなど、人類側としても思いもよらなかっただろう。

 

「で、今日からどうすんの? あんな放送あったってことはモスクワにほとんどのストックが集まってるだろうし、この辺の国にはもう残ってないんだろうしね」

「………そうだな」

 

 結局、彼にとって廃墟探索やナフェとの二人旅も結構に面白いものだった。確かに大勢いたら楽しいかもしれないが、二人しかいないからこそ楽しめる旅もある。

 少し悩んだ彼が出した結論は、実に予想通りのものだった。

 

「ばれたもんは仕方ない。予定は変わらず、北のヨーロッパ跡地巡りをするさ」

「んじゃ、まずは海峡に行くんだっけ?」

「どうせ海だし、またアーマメントを道にしてくれ。コンパスもあるから、今度こそ迷うことなんてないだろうし」

「ここ来た時、最初の街で色々見つけたもんね」

 

 完全に気の抜けた彼が移動手段としてアーマメントを要求したのは初めてだろう。

 そんな事を決めながら、彼らは今日も北上する。

 

「それがまさか、あんなことになるなんて誰も思わなかった……」

「やめてよもう、縁起でもないんだから」

「フラグ立てときゃ何かあるかもしれないだろ?」

 

 だが、これが後に本当にとんでもない事態を引き起こすとは、この二人は知りえなかったのだった。

 




人類に滅亡フラグが立ちました。
主人公をこのような目にあわせるのはどうかと思ったんですが、正直ほのぼのとしたエイリアンの姿を描くのがこれの現在の目標なので、結局こうさせていただきました。

今後の展開ですが、最期の文はマジフラグです。

それでは、またお会いしましょう。
長文読書お疲れ様でした。

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