カウントダウン~A HAPPY NEW DAYS~   作:幻想の投影物

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ドンドンネタがなくなってきてるこの話。
原作開始への移行は早い方がいいですかね?


夢を見、先を見る

 青。視界と自分の心はその一言で埋まっていた。

 優雅に曲線を描いた動きから、すぐに急加速して海の奥の方へと潜って行く。海底に在る海藻に顔を近づけると、美しい、と感じる海の自然庭園が広がっていた。「あたし」は、その底を這うように、でも確実に空を飛んでいるように自由自在に泳ぎ回っている。そして、突然海面から降りてきた何かにびっくりして180度後方にクイックターン。一体それが何なのか、気になってもう一度その方向を見ると、食欲を掻き立てられる餌の様なもの。

 それに釣られて(・・・・)―――

 

「起きろっ!」

「うわわっ!?」

 

 海の代わりに、青空が回っていた。そして端には、この二週間で見慣れた奴の顔。どこにでもいそうなストックだけど、確実に他の奴は何かが違う変なストック。ネブレイドしてみたい。そんな欲求が駆りたてられるストックが、目を覚ましたあたしの傍にいた。

 総督の命令があるから、駄目なんだけど。

 

「もう、いい夢見てたのにさぁ」

「エイリアンも夢見るのか?」

「正確には、ネブレイドした奴の記憶って感じ? あたしたちもあくまで吸収するだけで、ちゃんと吸収した事は持続しないと技術は錆びれるし、記憶は薄れるから」

「へぇ。で、さっきはどんな夢見てたんだ?」

 

 聞いたくせに、ネブレイドに関してはまったく興味のなさそうな返事。とゆーか、むしろ夢の内容の方に気が行く辺りは、そこらにいた普通のストックと同じような凡百な思考だ。だから、あたしもありきたりに答えてあげる。

 

「昨日食べた、魚の記憶」

「……そりゃ、羨ましい」

 

 答えてあげたんだから、その妙に優しそうな目を向けるのはやめてよねっ!

 

 

 

 彼がナフェを起こしたあと、簡単に朝食をとった二人は荷物をリアカーにまとめ直していた。とはいっても、実際にその作業をしているのは彼一人。ナフェはと言えば、全ての荷物がリアカーに収められるのを見ると、その一番上に飛び乗るだけなのだが。

 

「うんうん、いい感じ。いけいけ~」

 

 そしてナフェの乗ったリアカーを普通の人がランニングするくらいの速さで引き、彼は旅路を再開した。ちょっとしたスピード感と、流れてくる風がナフェが乗る理由の一つでもあるらしい。楽しそうな様子を見て、此方に来てから疲れるという体験をしなくなってきた彼は、更に速度を上げた。

 

「ねぇ! あんたホントにただのストック?」

「さぁな! だけど、自分でも普通じゃないとは思ってる!」

 

 風を切る音などが中々にやかましいので、二人とも声を張り上げながらに海沿いに街を駆け抜けていく。ナフェは、こうして世界をゆっくりと旅行するのは初めてだ。だから、近くのものと遠くのものが動く速さが違い、景色が移り変わる様子を「観光」という目的で体験するのも初めてであり、彼と出会ってから世界が新鮮に見え始めていた。生きとし生けるものをネブレイドして手に入れた、豊かな感情。それは当初自分たちには必要のないものだと思っていたが、こうして楽しめる事に関しては必要不可欠だったのではないか、とも思っている。そのためにネブレイドの犠牲になった者たちへの追悼意識などは、残念ながら発露していないようだが。

 

 

 そうして海沿いをとんでもない速さで突っ走る事、実に3日。朝から全力疾走していた道中でまだ大丈夫な食料品などを増やしていき、荷物で膨らんだリアカーの速度は徐々に遅くなって行くと、目の前に見えた瓦礫の山を前にして完全に止まってしまった。

 下の方で腕を組む彼を見たナフェは荷物の山から下りると、どうしたものかと考え込む彼に何を悩んでいるのかを聞きに行く。

 

「う~ん、コンパスはこっちが南だと示してるから、行けると思ったんだがなぁ……」

「この瓦礫が邪魔ってこと?」

「いや違う」

 

 てっきりそうだと思っていた彼女は、肩すかしを喰らっう。じゃあ何が原因かと改めて聞くと、彼は困ったように笑う。

 

「いや、勢い余ってテキサス越えてフロリダまで来たのはいいんだが……メキシコから見える筈のニカラグアまでの一本道に続く大陸がなぁ…………無いんだよ」

「……へっ?」

「って、知らなかったのか?」

 

 彼が言いたい事を正確に記すと、ニカラグアがある辺り近くの海の東側にエイリアンの機能を停止しているらしい巨大アーマメント「シティ・イーター」が一つの風景のように存在していた。その名の通り、都市ひとつを丸のみしてしまうほどの大きさのアーマメントが、無駄に名前の通り仕事をしてしまっていたということである。噛み砕いて言うと、一直線にシティ・イーターの横幅分の巨大な海が広がっていたのだ。

 ナフェは確かに向こう側に見えるシティ・イーターの残骸に、唸るような声を上げた。

 

「あれって、確かあたし達の要塞にしか使わない筈なんだけどなぁ……」

「やっぱ、お前の管轄外か……」

「アレ使うの、ほとんどザハだし」

 

 とはいえ、目の前で南アメリカとの道が断たれている以上、大量の食料が入っているリアカーを何とかして持っていくのは不可能に近いだろう。ならリアカーを捨てて行けばいいと言うかもしれないが、生憎と彼もナフェも、それぞれの時点に餓死という言葉を持っている。意外と、手は残されてはいないのである。

 

「しょうがないなぁ、ちょっと待っててよ」

「……なにしてんだ?」

「ちょっと黙ってて」

 

 はいはい、と彼が下がるろ、ナフェは彼が前に電子レンジに使っていた専用のアーマメント、ミニ・ラビットに向けて指示を送った。すると、それは警報の様にけたたましい音を撒き散らし始める。あまりにうるさい音に彼が顔をしかめて耳をふさいだが、それはしばらくの間ずっと鳴り続けていた。

 そして、不思議なことが起こる。どこからともなくピンク色の配色がなされたアーマメントが会場に集まり、平らな道を作りだし始めたのだ。リアカーが通れる範囲も十分に存在し、そこらじゅうに居るアーマメントを集めたせいか、向こう岸は視力のいい人間でも見るのは難しいだろう。

 

「向こうの大陸に行きたいんでしょ? あたしが繋げてあげたんだから、感謝しなさい!」

「……こりゃ、すげぇなエイリアン。ってか、海は大丈夫なのか?」

「深海に行かない限りは大丈夫だって」

「だと良いんだが。ま、とにかく使わせて貰うさ」

 

 ナフェを乗せたまま、彼はリアカーを引き始める。とにかく集めに集めた食料品の重さで沈まないかが不安だったが、車輪の部分が乗ったところ、少しは重さで沈んだものの、足場であるアーマメント本体はまったく無事だった。いくらかの足場の悪さは拭えないが、これなら海渡りに支障はきたさないだろう。

 

「それ、しゅっぱーつ!」

「しかし生身で海を渡るか。昔名じゃないのに、ほんと無謀だよなぁ……」

 

 そんな愚痴を言いつつも、彼はしっかりとナフェを乗せて走り始めた。その速度は船の一般的な速度をも凌ぎつつ、荷物は振り落とさないという人間から大きく逸脱した所業だったが、良くも悪くも同行者は荷物の上であり、そのことに一々疑問を抱くような性格でもない。愉快な旅路は、まだまだ続く様である。

 

 

 

 

 

 彼らが駆け抜ける海の上は、アーマメントで一直線の道を作ってはいるが、津波や嵐、暴風などの被害を受けないということは無い。その中でも彼は荷物を守り、決して海に落とすような真似もしたことは無いのだが、それでも日照りにはほとほと困っていた。

 荷台に積んだだけの荷物が直射日光を浴び続けていたことで、中にあった食物が痛みやすいのである。そのため、まだまだ余裕はあるとはいえその多くはすぐに飯時に使い、エイリアンたるナフェの無限の胃袋の中に消えて行ったまではよかったのだが、海上の旅を初めて2週間。そろそろ2050年の二月に入ろうとしている現在に、緊急事態が発生していた。

 

「飽きた」

 

 そう、それはナフェの「飽きた」という言葉である。

 別に、旅に飽きたという訳でもない。そして、景色に飽きたという訳でもない。彼女がそんな事を言い出した原因は、最近の食生活にが原因だった。海上にいる以上、なるべくストックのある食料品を陸も見えていない場所で使いきることも出来ずに、様々な魚を取って料理に加えていたのだが、毎日三食に魚が出されるのである。料理は上達してきている彼だが、それは味の話であってレシピそのものは新しく見ないと分からない。

 だからこそ、どうにも焼き魚や開きにする以外の調理法を知らないらしい彼の料理に飽きた、と言っているのである。今までの旅路で忘れがちだが、正直言って、彼という存在はエイリアンに保護されている側である。その保護していもらっている相手に対してなるべく多くの要求に応えた方が無難なのだ。

 

「そうは言ってもなぁ、刺身とかもあるが俺は食える魚をよく知らないんだよな」

「えぇ? でも、飽きたんだも~ん」

「ハードル高すぎだろう、これ」

 

 後ろに迫る巨大な津波から全力で逃げつつ、二人はそんな会話を交わしている。だが、確かにナフェの抑制としては効果てきめんだった料理は、そんなに蔑ろに出来るものではない。それに、結局彼自身の分も必要なのだ。

 だが、そんな思考も途切れる出来事が訪れる。移動する際には自動車以上の速度を出していたからか、およそ二週間ほどで陸地が見えてきたのである。

 

「ナフェ、しっかり荷物とか捕まえて張り付いてろ!」

「はいはーい」

 

 ナフェが機械の腕でガッチリと自分の身体と食料品の入った箱を固定して声をかけると、彼は更に速度を上げた。後方に迫りくる津波と同速度だったのに対し、一行は加速して突き放す。前方のアーマメントの地面が上方向に盛りあがり、フロリダと同じように護岸工事がなされている地上への侵入経路を形作った。

 そして、その先端で強く踏み込み、加速そのままに飛び出した。

 

「おぉぉぉぉっ!」

「イヤッホーゥ!!」

 

 十秒ほどの飛翔。その間に地上へ降り立った彼の脚と、一瞬遅れたリアカーが地面と平行に浮かびながら、落下の衝撃を最大限に和らげる。そして少しずつブレーキをかけ、緩やかに速度は減少していった。減速に使ったその距離、おおよそ500メートルほどである。

 

「……ふぅ! 海越えの旅、何とか無事に終了だ!」

「ほんとに規格外だよねあんた。ストックじゃ不可能な速さ出してたもん。というか、どんどん人間離れしてきてない?」

「…………そこに触れんでくれ。こっちに来てから変わり過ぎて、何かもう良く分からなくなってきてるんだよ」

 

 そう言う彼は、少し息を切らしただけで疲労の色はほとんど見えない。最後は大きめの津波を引き離すほどの速度を出したという人外染みた事を成し遂げておいても、だ。上司から殺さず傷つけずについて行け、という命令を出されただけで詮索するなとは言われていないとはいえ、時に彼が言う謎めいた言動は、ナフェが彼を興味の対象に見なすには十分だった。

 そんなことを考えられているとはつゆ知らず、彼はようやく南アメリカ到着だ! と喜んでいた。喜んで、いたのだが……。

 

「…ん? この看板、アラビア語だな。……え?」

「え、ちゃんと海の向こうに繋げたんだけど……駄目だったみたいね!」

「……えぇっと、何か看板は、と」

 

 彼が周囲を見渡して見つけた、多国語看板。その一つには英語で「Essaouira(エッサウィラ)」と書いてあった。つまり、ここはモロッコのエッサウィラ地方。まったく南アメリカとは違う、あての外れたフロリダから六千八百km離れたアフリカの地。「彼女」と出会った場所から、少し南に外れたところだったのだ。

 

「……また、アフリカかよ」

「いいじゃん。あたしはまだ行って無い場所だしさー」

「でもここ、スイスから北はまだ調べて無いし、結構ざっくりと半年かけてイタリアから南下したけど、生き残りはいないしグレイだって残ってねぇぞ?」

「じゃあ北は?」

「……っ、と、北は…まだだが、流石にアメリカ然り、寒いとこには誰も居ないだろう」

「あたしとしては、別にストック共がいなくたっていいんだけど。それに今の反応、何か隠してるでしょ? わっかりやす過ぎんの!」

「……ああ、まあ隠してるっちゃ隠してるな」

 

 彼は知っている。この世界に重要なグレイ、七番目のきっかけがロシアにいることを。だが、これを教えずともその場所に行ってしまえば、確実にナフェによってそのグレイは始末されてしまう。そうなってしまえば……。

 

「うん?」

「どしたの?」

 

 彼は、そこで思考が止まる。確かにあの場所に行けば人類の最終兵器である「お嬢さん」は新たな繋がりを構築してエイリアンと戦い、そして勝利するかもしれない。だが、その場合ナフェや「彼女」も消されるのだ。そのことに違和感はないが、どうにも見捨てるとなると人道的な部分がそれを否定する。理性ではエイリアンが倒されてしまってもいいと思いつつ、何故そのように本来の流れを重視しようとするのかが疑問になっていたのだ。

 情がわいた、という訳でもない。ただ純粋な疑問が、行動理念に待ったをかけている。更にこの様にして変な興味をもたれる程、既にナフェと「彼女」に接触していることで、本来の流れが変わっていることもあり得るのだ。

 

「……どうなるんだろうな、これから」

「あんたがあの方にネブレイドされて終わりじゃないの?」

「何だろうな?」

「あたしに聞かないでよ、もう……あたし知らなーい」

 

 知らない。そんな言葉に感化されたのか、湧き上がっていた彼の思考はすべて中断される。時が来たら、自発的に行動を始めようと思っていた年明けの瞬間を思い出し、彼には意味もなく笑いが込み上がって来た。ひとしきりに大笑いすると、ナフェは狂った奴を見るかのような目をしており、流石にやり過ぎたのだろう、とまた苦笑する。

 

「もしかして、他のグレイみたいに脳筋になった?」

「オイコラ、アレは運動野で埋まるだけで脳筋とは違うだろうが」

「あ、ツッコミ入った」

「俺を何だと思って……」

 

 バカなやり取りをしていると、全てがどうでもよくなってきて、頭は少しずつ冴えて行った。そして彼は決断する。ナフェが北に行きたいと言うならイギリスに行き、ロシア側には行かなければいいじゃないか、と。

 日本やオーストラリアと同じく島国であるイギリスなら、決定的な流れが始まる前までの目的である人類との接触があるかもしれないし、逆にいなければいないで良しと出来る。そう思った彼がリアカーの取っ手を持つと、ナフェは当然のように飛び上がり、荷物の上に落ちついた。

 

「ったく、じゃ北行くぞ」

「そうこなくっちゃ! ほらほら進めー!」

 

 人使いの荒い。そう考えながらも、彼はすんなりと受け入れて日が傾かないうちに自然の道を駆け抜けていく。動物はいないが、植物は少しある。今度はこの辺の野草を取って、それを飯にしようなどと予定を立てながら、残りの十ヶ月を旅して過ごすことに集中するのだった。

 

「うん、今ならカーリーに乗ってるシズの気持ちが分かるかも」

「それって、金ぴか兄妹のことか?」

「まあね。ついでに、あたしの共犯者!」

「……へ?」

 

 受難は、まだまだ続くようだ。

 




ナフェが完全に主人公の手綱を握ってしまっていますね。
主人公の身体能力ですが、インフレしてきた末にこれで打ち止めです。生身で最高時速160キロ出せる化け物になってしまいましたが、まぁあんまり有効活用できないんでいいですよね。

では、ありがとうございました。

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