カウントダウン~A HAPPY NEW DAYS~   作:幻想の投影物

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色彩豊かな黒い虹

「これより19年前、我々人類はエイリアンに悉くを利用され、今や1億人にも満たぬ僅か8400万人へと後退を余儀なくされた! 住処を出来の悪い機械人形に支配され、目の前で愛しいものを喰らわれ! その屈辱はこの場にいる誰もが知っているだろう……この場にいるどんな人間ですら、そのエイリアンの恐ろしさと力強さは染み着いている事だろう!」

 

 マリオンの大声量が、UEFの全モニターを通じて全土放映されている。

 PSSをはじめとした、彼の演説を直に聞き届けたいと願う1000万人までの人間が見上げる庭の高台の上で、現戦力最高責任者のフランク・マリオン総司令官は力強くこぶしを握って力説していた。

 

「だが蹂躙されるその時代も、今この時を以って終わりを告げる! 反逆だ! 反撃だ!! 我らの蓄えてきた精鋭と、科学班の比類なき兵器を手に、同法が道半ばで果てようとも全兵力を使って総攻撃を仕掛けることを決定した! 現存する敵の勢力はアーマメントとエイリアンが4体のみ。その他のエイリアンは、心強くも我ら人類への力添えを誓ってこの場で剣を取ってくれている……我らに恐れる事は無いッ! 今や人類は彼らの技術を吸収し、さらなる高みへ昇華された!!」

 

 PSSの群がその手に持つ黒く頑強なエネルギー兵器を手に、一糸乱れぬ動きで隊列を組む。全員が同じ糸で操られているような美しさを兼ね備えた屈強な男達は、再びの号令に手固く引き締まった表情でマリオンへ向き直った。

 エイリアンは自然体で戦闘準備を整え、マリオンの演説を聞き届けている。民の求心を追求したパフォーマンスはこれで十分。これはただ、人類が総力を挙げて戦争を起こすという野蛮な行為に及ぶ事を残った者達に伝えるための手段に過ぎない。一般人には近い様で遠すぎる最後の選択を否応にもさせるためのものであるのだ。

 

「そして、憎き敵総督は月の上に作った特殊な施設にて我らを見下しているという……その敵総督の名は諸君らも聞いた事があるだろう――――シング・ラブ。世界中の人間を心酔させた魔性の歌手は、我ら人間をその時点で弄んでいたのだ! これが許されるだろうか? いや、決して許されることではない。彼女の真の姿はエイリアンの敵総督であり、我らが打ち倒すべき敵! そして、我々の心さえも弄んだ敵は酷く強大ッ! だが臆する事は無い。我々は勝つべくして立ちあがった。その大きな相手でさえ打ち倒すことが出来る圧倒的なまでの自信を以ってして立ち向かうのだ! 我々PSSはこの砦を離れ、敵将を打ち取らんとするために突貫を仕掛けよう! 今度こそ、我々自身の手で自由と人類の未来を取り戻すのだッ!! PSS、出撃!!」

 

 隊列を組み直し、全ての兵士は飛行型要塞ドラコへ乗り込んだ。新たに開発されたドラコと同型の船に兵士が乗り込むと、爆風を撒き散らしながら離陸して空の彼方へと飛んで行く。

 アーマメントを恐れることなく、自由の空を人類の手にしたかの如く―――

 

 

 

 

 ドラコ01内、特殊兵士専用部屋。

 主に兵長以上の権限を持った者や、PSSの中でも強さや突出した技能を発揮させる者だけが乗ることを許される隊長機の一角には、その中でも飛び抜けてユニークな連中が集まっていた。

 赤い大剣を立て掛けて映画の話に勤しむ者や、その話を聞き流しながら端末を弄る幼い女子。これからの戦いや食事について話し合う兄弟に、何やら怪しげな会話を繰り広げる科学者。そしてこの部屋の中ではある意味異質な、どこまでも平凡そうな外見をした男。唯一名も知れぬ彼は、得意そうに語る科学者へと声を掛けた。

 

「アンタもついてくるんだな」

「勿論だとも。私の生み出した作品達を最後まで面倒みなければならないからね。それに、このドラコ01は他の機と違って十分なまでの拡張と改造、そして趣味をご多分に盛り込ませて貰ったんだ。私の自信を持ってUEFよりも安全な場所だと豪語させて貰うよ」

「それにしたって、話が急だとは思わないか? ホワイトの奴はまだ最後の調整も終わっていないんだがな……」

「それをこっちで片手間にしてるんじゃん。さっきからコマンドーだのシモ・ヘイヘだのうるさいっての」

「アレの最終調整が片手間って…ねぇ兄さん、一応私達の希望でもあるのにこんなんで大丈夫なのかしら?」

「ウガ」

「“ナナに任せたから平気”だって?」

「ふむ、実行は彼女に任せているのか。ならば安心だね」

「むしろ裏切る前兆がなけりゃいいけどなー」

「パパの心配ご無用! だって、アイツの中にナノマシン打ち込んでるから命令に逆らえないし逆らったら死ぬから。あ、でも効力は既成事実を犯した後だから下手するとホワイトも死んじゃうかな」

「昔から思ってたけど、やる事が酷いわよね。あなた」

 

 呆れたように言い放ったシズに、まったくだと人でなし代表と言っても良い狂気の科学者ジェンキンスが頷いた。まったくもって同調のできない面倒な空気に、マズマが深いため息をつく事で多少は場を和ませる。

 現在の日付は10月8日。今この場にいる彼らは、アメリカでの救難を済ませた後にほんの2週間にも満たない間隔で敵総督への開戦宣言を実行していた。曰く、ナフェやマズマはともかく、シズとカーリーが抜けた穴は戦闘部隊の指揮を執っていた事も含め、命令系統へ大きな打撃を与えているという事がエイリアン側(シズ&カーリー)の主張から判明している。今なら邪魔なアーマメントの大半が命令を受けずに手薄になっていると言うので、日本の東京に座礁しているシティ・イーターを目指してドラコの編隊はUEFを発ったという訳である。

 

「アイツが乗ってるのはドラコ02だっけ?」

「広さと頑丈さを追求し、輸送のみを目的として造った方だね。一応爆撃機としても使えるから戦力としての問題点も解決済みさ」

「そしてぇ、このナフェちゃんが光学銃器の設計をしたんで対空防衛もカンペキッ。ちょっとやそっとじゃ落ちない造りにしておいたもん」

「上下に並走飛行した場合には、物資と人員の行き気も出来る通路が掛けられるんだったか? 今から行く日本で生まれたナウシカというアニメーションだ。確かアレにも似たようなシーンがあったな。こっちは乗り上げて接艦したのは敵船だが」

「その機能自体、使う必要は今のところなさそうだがね。エイリアン諸君」

 

 話しあっている所にマリオンが顔を覗かせる。形式上はPSSの一員と言う事だからか、エイリアン達やPSS所属の彼も司令官に向かって綺麗な敬礼を送る。こうした人外魔境の者たちから向けられるのはむず痒い感覚だ、そう言ってマリオンは苦笑した。

 

「今のところレーダーの感知圏内には一つたりとも敵影は見えていなくてな。随分と高性能な物を科学班に作って貰ったおかげで音響、電磁波、その他諸々の機能がついているが……その全てにエイリアンやアーマメントの影すら映っておらん。…ああそうだジェンキンス、君もブリッジに来てくれると助かるのだが」

「点検も必要ないと思うがね?」

「君の拡張した機能にオペレーターがついていけておらんのだよ。少しばかり手を貸してやってくれ」

「ああ、そうかい。では人外諸君、今度は作戦開始時の通信で会おう」

「うむ、いつでも出撃可能とするため、コンディションは整えておいてくれたまえ。ああ、基本的に目的地までは自由行動で構わない。そえではまた、作戦時に」

 

 マリオンが締めくくり、鉄の扉がガチャンと閉められる。まるで帽子を巻き上げる風の様な襲来が去り、人間は生き急いでいるものだと、改めて価値観の違いを噛みしめた。

 

「俺はヤツの調子を見てくるとしよう。ナフェ、言伝を入れておけ」

「ウガガガー!」

「ん?」

「兄さん、ホワイトの事見ておきたいですって。手は出さないって言ってるから連れて行ってくれない?」

「分かった。カーリー、向こうのハッチを開けて上から飛び乗るぞ」

「ガゥァ」

「おっと、俺も行く。エイリアン反応は変わってないし、撃ち落とされたらたまらんだろ?」

 

 次いで、ぞろぞろと男所帯も仲良く退室した。

 ふわっと音も無く立体スクリーンを操作するナフェと、気だるそうに椅子にもたれかかるシズが残され、一気にエイリアン用の待機室は静かになる。しばらくの間はシズも前回のネブレイドの記憶をあさっていたが、しびれを切らしたのかナフェに話しかけ始めていた。

 

「そう言えばアナタ、友達出来たの?」

「余計なお世話」

「つれないわね。でも、あんまりムキにならないってことはちゃんと出来たんだ」

「うっさいよ。あんな程度の低いガキどもが友達なんてこっちから願い下げ。かと言ってストック共の男連中はこんな未成熟な肢体でも欲情するっぽいし、もうギリアンさんか通信係のメリア位しか心の安らぐ場所はないったら、ホントに」

「やけに饒舌じゃないの。そんなにストックが気にいった?」

「まだ家畜化計画諦めて無いどこぞの金色兄妹よりはね」

「ふぅん、気付いてたんだ」

 

 おかしそうに笑うシズ。しかし、先ほどのマリオンやジェンキンスを見ている目はカーリーと同じく冷めたものだった。そんなあからさまな視線に、人間側もまったく気付いていないという訳では無いが、あえて彼女の事は気に留めていない。

 その根底には、人間の得意の共存と言った考え方があるから。もう一つは、いざとなれば「彼の血」をネブレイドしていないエイリアン達が消してしまえるだけの実力を有しているからだ。現在、マズマとナフェは完全に総督に反旗を翻し、人間側――特にナフェは「彼」に、マズマは「創作品」に――裏切りを考える事も無い程に味方しており、二番目の理由を濃く裏付けている。

 

「やめといた方がいいかもよ~? 前の状態だって、ガチで()ったらアタシに軍配は上がってたし、今のアタシらは頑張ったら総督とやりあえるレベルになってるからさ」

「そんな冗談が通じると思ってるの? それに、こっちは2対1で兄さんと攻めれば流石のアナタでも負けると思うけど」

「で、今は居ないじゃん」

 

 その切り替えしにいらっときたのか、シズは武器を取りだしてナフェに向けた。

 彼女はその首に当てられた刃を何一つ気にすることなく、スクリーンの情報整理に勤しみながらに返事を返す。余りにあっさりとした態度は、いっそ彼女らしいふてぶてしさがにじみ出ていた。

 

「確かに剣先からのエネルギー刃はウチのチビどもには有効だけどさ、その前にアンタの首掻っ切って脊髄引きずり出せばこっちの勝ちじゃん。そう言う意味でやめとけって言ってんの」

「あら、そう?」

 

 まだナフェの持つ実力の疑いは捨てきれないのか、シズは曖昧に答えを返した。

 諦める気がさらさらない彼女に対し、まったくもってやりにくいお固い性格だな、とナフェは辟易とした表情を見せる。

 

「ミーとかみたいな下級と同じ油断持ってるとすぐに死ぬよ? 大体、このドラコだって改良に私の手が加わってるから、ボタン一つでアンタの足場が消えちゃうかもね。一回海面に叩きつけられてみる?」

 

 論より証拠。それでも真偽は分からないジャブを掛けてナフェは牽制を促した。

 

「……そう。確かに、この場で首を取るのはよした方がよさそうね」

「まぁ巻き込まれないように注意しとけば楽に暮らせるって。ん? ああ、シズ達はネブレイドの質が要求高すぎるんだっけ。不便だねー…流石(さっすが)、母星が古びた錆の星だけはあるよねぇ」

「あのゴミ溜めの話はしないで」

「はいはい、怖い怖い。これだから変に一片道にはいりこんだ奴は好きじゃないんだっての。もっと気楽で自由に生きれば延々とこの世を楽しめるのにさ」

 

 うししし、と噛み殺しきれない笑みを貼り付けながらに作業を続ける。

 ナフェの映しだしたスクリーンの中では、二人のグレイが戦い合っているようだった。

 

 

 

 

「おー、やってるやってる」

「ウゥゥゥゥ……」

「落ちつけ。ステラをネブレイドする気ならその首へし折ってハッチから投げ捨てるぞ。俺の弟子に早々手は出させん」

「俺に続いて保護者二号かい」

「一度決めたら最後まで役をこなすのが一流の役者だ」

「ま、この本筋を離れた世界もどっかが観測してるかも知れねぇな」

「ならばソイツらを楽しませるファクターとして頑張らせて貰うとも」

 

 ハッチを通り、PSSの巡回兵に敬礼をこなして通った先には、ドラコ02特有の広大な演習ルームが広がっていたが、現在はたった二人のクローン体によって貸切状態である。

 剣と剣を合わせながら、両人は片目に炎を宿して音を越えた戦いを繰り広げる。片や青き炎を宿し、黒い刀を操りながらゴムボールの様に跳ねまわっているステラ。片や灰紫色の炎を燃えたぎらせ、にっくき完成品(ホワイト)へ殺意を撒き散らし、愚直なまでに押しだす剣さばきを見せるナナ。今やナナと己が名乗っても構わないのか、それすら分からない継ぎ接ぎのクローン体は本当にステラを切り刻むつもりで戦っているようにも見えた。

 しかし、その実態は――――

 

「ナナ、もう休憩に入ろう? 無理を過ぎると、私達は問題があるって博士が言ってた」

「煩いッ! もう少し付き合いなさいよ…!」

「…うん、分かった。ナナも一緒に強くなろう」

 

 ステラは余裕を見せ、ナナの方は既に息を切らし始めている。ステラは別段、ナナよりも実力は上と言う訳ではなく、寧ろ単純な肉体的スペックで言うなら、ナナの体の方が上であると言えよう。

 であれば、ここまでの余裕の違いは一体何なのか? それは、マズマの教鞭を受けたことと、独力で訓練を積んできたことの違いである。マズマはこれまでの長い生の中、総督側につく前から戦いを繰り返し、老いる事は無くとも疲労は防ぎきれない体をも酷使する環境に置かれてきた。そんな中で、無駄な動きを避けて無駄な疲労を消す行動を見に付けたのは当たり前のことである。

 マズマはそうして身に付けた呼吸法や身の置き方、そして走る時のコツをステラに染み込ませたのである。染み込ませた、という表現は的を射ており、ステラはマズマから受け取った知恵を乾いたスポンジのように吸収して行った。その中でマズマは体格の違いなどからステラに合わせた再教育を行い、ステラは褒められる事で心に生まれる温かさを享受しながら技術を最適化して行ったのである。

 だが、ナナの方はそうはいかなかった。

 

「ナナ、射撃行くよ」

「ッ…! 来なさい―――!」

「アンプリフィケート、ロック…ファイア」

「ディフェンサーモード…アグレッサー同期……くっ!」

 

 ナナがこれまで戦ってきたのは、アーマメント等の大規模な集団戦闘。質の高いA級エイリアン達との戦いは未経験であり、アーマメント達の脆い装甲を吹き飛ばすには十分に手加減した一斉攻撃用の出力で必要十分だった。

 よって、格下との戦い――つまりは人間達との稽古――は得意になっても、格上や同じ階級に立つ者との駆け引きやスタミナの割り振りと言った技術が追いついていない。そしていざという時には状況判断を見誤り、正確な選択をとってもソレが意味を成さなくなるほどに反応に遅れてしまう事もある。

 現にシューティング形態に移行しているステラの攻撃の中に誘導弾が入っているが、ナナはそれらを冷静に撃ち落とす対処も出来ず弾幕の中をかいくぐりながら避けてしまっている。ジェンキンスの手によって出力向上が図られた短銃を持ち出せば戦況は変化するだろうが、中々避ける中でその考えに至るまでの余裕がないようにも見えた。

 

「いくよ……」

「…デッドフォージッ」

 

 ロックカノンからの弾幕を打ち止め、コンマ一秒でイクサ・ブレードに持ちかえたステラは腰だめに刀を据えながら一気にナナへ接近した。ナナは近づいてきた彼女と弾幕をもろとも消し去ろうとしたのか、武器を変換して巨大なアックスの様な物を下段から上段へ振りぬいた。武器本体との接触個所も含め、アックスから放たれた衝撃波とエネルギー攻撃はロックカノンの残弾を打ち消しながらステラへ迫る。

 接触の瞬間、ステラはほんの少しだけ足を上げて衝撃波につま先を触れさせると、潜りぬけて行くエネルギー派の反動に乗って更に加速した。攻撃を利用された事で武器の返還も間に合わなかったナナにステラの刀が迫り、ナナの首の直前で止められる。

 

「…私の、勝ちだね」

「………ええ、そうみたい」

 

 どちらもが剣を収め、一礼をして演習ルームから足を遠ざける。最後のデータは取れたと研究者のアナウンスが鳴り響き、PSSの下級部隊が頑丈につくられた筈の演習ルームについた所々を修理に集まってくる。そんな中、二階の踊り場でマズマを見つけたステラは跳び上がり、一直線にマズマの元へ向かって行った。先ほどまでの気迫に満ち溢れた表情は無く、一面の笑顔がステラの顔に在った。

 

「見てた?」

「ああ、見ていたとも。随分と腕を上げたじゃないか」

「本当に? ねぇマズマ」

「分かっているさ。オマエは変わらんな」

 

 マズマに抱きつきながら、頭を撫でられる感触にステラは気持ち良さそうに寄りかかった。あんまりにも見え見えな好意を受け止めるマズマと、好き好きオーラを放っているステラに思い当たる所があったのだろう。ああ、と言いながら「彼」は不思議そうに首をかしげるカーリーに説明した。

 

「実はな、目覚める前にマズマと精神がリンクしたらしい。しかも目覚めた時に最初に見た顔も奴だそうだ」

「ウガ…がぅ!?」

「ああ、そうとも。しかもステラちゃんの師匠やっててな、親身になって接してくれるからかあの子の高感度は多分MAX振り切ってるぞ。あとは、ここ数日調整とかで会えなかった反動が今のアレだろうな」

「ウガー……グ、ックフフフフ」

「だろ? 笑える話だろ?」

「おいこらそこの。聞こえているぞ」

 

 ズビシ、と言う擬音でも聞こえそうなほどの指摘だったが、生憎と胸元にあまえたがりモードのステラを抱えていては威厳もあったものではない。後はあの二人でゆっくりさせよう、と男二人が面白がってハッチの上に上って行き、演習場二階の踊り場には件の二人だけが残されることになった。

 

「ナナも強かったよ。剣を受けた時、手が痺れたの」

「奴はパワー型だからな。技術さえ覚えればさっきよりも良い勝負はすると思うが…まあ、奴の性格が変わらん限りは無いだろう」

「そうなの?」

「そう言うものだ。今頃あの二人が追い掛けている頃だろう」

「そっか。じゃあナナ、安心だね。ずっと怒ってるみたいで、胸の内側が痛かったの」

 

 ぎゅっと握りこんだ拳の下に、ステラは痛みを訴えた。頼られる師匠はまだまだ心の機敏は成長途中。自分と共に歩いて行こうと、人間が言えば告白まがいの台詞を吐きだす。

 彼らの背後に、二対の光が控えている事にも気付かずに………

 

「ねえ」

「ああ」

「「いいネタゲットだな」」

 

 PSSの内部に、暗雲が立ちこみ始めているのであった。

 

 

 

 所代わり、同じくドラコ02内部の武器庫。ナナはカードシステムで中に入ると、整備員と適当に挨拶を交わしながら今回使った武器の数々を台座へ戻して行った。その暗い雰囲気は言わずもがな、殺しにかかった本気の戦闘をステラにはただの練習だと最後まで思われていたこと。ステラが殺気と言うものに敏感では無かったのが救いか、はたまた。

 色濃い思いを抱きながらも、沈んだ気分で出口のドアにカードを翳す。早めに部屋で不貞寝しようと思いながら扉を開いた先には、新入のエイリアンと己の先代を殺した張本人である人間が待ち受けていた。

 

「ウガガ、ウガー!」

「いよぅお嬢ちゃん、ちょっくらお茶しないか? なぁに損はさせないって」

「ウガウガウガガ」

「コイツの言うとおり。楽しいことするだけだからよォ…へっへっへ」

「……随分前時代的だこと。あなたそんなに過去から来たの?」

「くっ―――ナンパして一緒に飯食おうぜ作戦は失敗か」

「ウガー」

「あん? もっとホストクラブ風にしろって? …その手があったか」

「付き合いきれないわ……」

 

 目の前で始まった漫才に心底冷たい視線を向け、ナナはその場から離れようと右の道を進んだ。しかし例の男が前に立ちふさがる。ならばと左の路から回って行こうと足を進めようとするが、カーリーが腕を組んで彼女を見つめて通行を妨害する。

 右、左、右、左……ある程度の抵抗は試みたが、彼らが決して自分を逃がそうとはしないことに折れた彼女は、不機嫌さを隠そうともせずに言い放った。

 

「それで、何の用?」

「まあ詳しい話は食事の席だ。食堂まで一緒に来い」

「ウンガウンガ」

「だとよ」

「……何言ってるか分からないんだけど」

 

 いつの間にか意気投合したカーリーとの掛け合いを道中延々と聞かされながら、ナナはもう何度目かも分からない溜息をついて食堂へ向かうのであった。

 




カーリーちょっと活躍。
何気にエイリアン勢の中ではカーリーが一番好きです。

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