カウントダウン~A HAPPY NEW DAYS~   作:幻想の投影物

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書いてておなかすきました。
ちょっとバーガーかじってきます。


白の別れ、桃の出会い

「廃墟、ね」

「何を言うかと思えば」

「うっせぇ。ちょっとぐらい浸ってもいいだろ?」

 

 瓦礫のタワーが乱立するのは、文明の痕跡の様だと男は言った。字の中に「虚ろ」という言葉が在るだけ、見れば彼が感じたのは歴史の美しさなどではなく、隣にいる元凶がもたらしたという破壊の寂しさだけ。

 彼自身も、ここにいる自分とはまったく関係の無い人類だということは分かっている。その筈であるのだが、例え世界そのものが違っていたとしても、男は人類が、同族が滅びゆく様を黙って見ていられる性質ではなかったようだ。拳を握りしめ、隣の破壊をもたらした元凶に対して一定の「感情」を抱いた。

 もっとも、彼の「感情」は一分と経たないうちに霧散して行った。それは彼自身が抑え込んだからであり、彼女一人にぶつけるべきでもない物であるからだ。理不尽なことは、どうにも噛みしめるしかないらしい。

 

「さぁ、此処も人はいないようだ。次に往くぞ」

 

 そんな男の「感情」を分かっていながら笑って楽しむ女。彼女は肩に未来的な鎌を抱えながら、男に旅の続きを促した。彼女こそ、世界が荒廃した原因である「エイリアン」の元締め、その名は「総督」「シング・ラブ」と呼ばれている「ヒト」であった。

 その目的は最上級の「ネブレイド」……在り体に言えば他人の知識、技術、記憶といった「全て」を吸収し、自分のものとすることである。もっとも、彼女の場合はかなりの偏食家であり、自分の欲望に値する一定のラインを超えた()を好んでネブレイドする傾向がみられる。事実、この男との旅路では一度たりとも彼女は食事を口にしていなかった。

 

「はいはい」

「見つかったグレイは一人……まだ生き残っているだろうからな」

 

 先ほどの言葉を訂正するなら、彼女は一度だけ「食料」を口に含んだことが在る。厳密にいえば食料などと言えるようなものではないのだが、現在彼らがいるアフリカ大陸。その小さな基地の様な場所に第一世代の「グレイ」が一人だけいたのである。

 そのグレイは最早人とは言えぬような虚ろな目をしており、単に生きていただけ、というグレイの宿命を体現していたのだが、第一世代から起動していたらしいということもあって、結構な妙齢だった。それを見つけた彼女は、彼が制止を呼び掛ける前に頬まで引き裂けそうな笑みを浮かべてそのグレイを「捕食(ネブレイド)」したのである。

 なお、その際の光景を見せつけられた彼は、お眼鏡に適ったようでなにより…と言ってげんなりしていた。まぁ、目の前で人の形をしたものが臓符を撒き散らしながら喰われていくのだ。その反応はあくまでも人間である彼としては正しいし、それに辟易しない方がおかしいと言えるだろう。

 

 そして二人は、今日も何処かの国の廃墟を探索する。

 いるかもしれない人類の生き残りと、生き残っているかもしれない完成品(ホワイト)の在り処を探して。

 

 

 

 時は過ぎ、2049年の年末。彼らはアメリカ大陸に到着していた。

 彼女が新年のおせち代わりだと言わんばかりに、旅をしてから発見した三体目のグレイが捕食される様を彼が見届けていると、ビルの向こう側から朝日が昇って来ていた。鮮血で染められた地を初日の出が照らし、真っ白な身体にこびりつく血液をデコレートした彼女は、彼にとっては何処か妖艶だと思わせるほどだった。

 彼女は口に着いた血を拭うと、遺体(グレイ)の在った場所を太陽に負けず劣らずの極光で焼き尽くす。綺麗に建物だけが残され、彼女自身に付着していた多量の血液もそれで蒸発したようだ。

 彼が少し離れても感じる熱さに慌てている様子を見て、彼女は不思議だと言った。

 

「これまで聞く限り、お前は人類の滅亡を願っていないのだろう? ならば、何故グレイの捕食を止めないどころか探すことを手伝っている?」

「いや、あんたがほんとに全部のグレイを喰うとは思わなかったし……それに」

 

 彼とて人間である。欲求は抑えきれない、という意味を込めて言葉を吐き出した。

 それは、彼女にとって驚愕に値するようなもの。

 

「あんたがグレイ食ってると、何か生き生きして見えるんだよな」

「なるほど……? それは、何時かお前が喰われると分かっていてもそれが言えるのか?」

「食わせねぇよ。俺はぜってぇ生き残るって」

 

 問いに対して、彼は笑いながら答えた。バカにするようなものではなく、それは清々しささえ感じる程の素直な笑み。瓦礫に腰掛ける彼の姿を収めた彼女は、つられるようにふ、と笑った。

 

「ほう、良く吠えるものだ。ならば私は此処までだな」

「なに?」

 

 彼女は踵を返し、男に背を向けた。言葉通りなら、この行動が指し示す意味はすなわち……彼はその意図を理解し、仕方がない、と言った風に溜息を吐く。

 半年ほど行動を共にしていたのだから、何が言いたいか位は彼にも予想がつく。

 

「お前のネブレイドはもっと……成熟させねばならんな。今でも十分だが、お前はまだ調理される前の青リンゴに過ぎん。美酒として成熟するまで待つとしよう」

「そりゃまた……」

「二年……いや、一年で成熟するだろうな。その時、お前の元へネブレイドにくるとしよう」

「ご達者で」

「生き残れ、幸運を」

 

 そう言って彼女はいなくなろうと……出来なかった。

 

「何だ?」

 

 彼が呟いたのは、古臭い電話のコール音が彼女から響いてきたからである。彼女もそのコールに足を止め、何処からか取り出した純白の携帯電話の様なものを取り出していた。

 

「誰だ?」

≪やっと見つけましたぞ、総督。これまで何をしておられたのか≫

「ザハ。お前のシンボルを生身で倒した者がいた。故に、成熟するまで同行していたまでだ」

≪それは……総督がそこまで入れ込んでいたとは存じませんでした。ですが、ようやく此方に答えたということは≫

「ああ、今から戻ろう。ついでにナフェを寄こせ」

≪ナフェ? ……監視、という訳ですな。それでは後ほど≫

 

 空中投影型のスクリーンに映し出されたコールの相手は、上半身を露出させた老齢の翁。灰色に近い身体は鍛え上げられており、画面越しにその覇気(プレッシャー)が伝わってくるほどの相手だった。

 彼女は台無しであるな、と呟く。そして彼の方に改めて向き直ると、今度こそお別れだと言い放った。

 

「それはいいが、いまどき黒電話のコールって……」

「不思議と耳に残る。それが気に入っているだけだ」

「そうかい」

 

 彼はただ、彼女のこう言うところが掴めない。行動理念である興味のある事に対してのみ動く、というのは分かったが、肝心の彼女自身の嗜好/思考が掴めていないのである。それも、別れるとなった今ではほとんど意味を成さない物になろうとしているが。

 そんな彼女が太陽の昇って来た方を向くと、変な機械に乗った身体の一部が機械(アーマメント)の少女が現れた。彼らのいる場所に降り立つと、彼女の方に向き直る。

 

「総督~、呼びました?」

「存外に早かったな。ナフェ」

 

 どうやら、彼女が先ほど話していたナフェ――A級エイリアンの一人であるらしい。フードや乗って来た機械についているうさ耳の様なものは、彼女の趣味になるのだろうか。もっとも、それを調べたいのなら聞きだすか、ネブレイドするかの二択になるだろう。

 

「これから二年、このストックと行動を共にしろ。それ以外の行動に制限は掛けん」

「はっ? おい、ちょっと」

「お前は黙っていろ……ナフェ、殺すことも傷つけることも許さん。ではな、お前との旅はそれなりだったぞ…“――”」

 

 最後は呟く様に言い残すと、頬笑みを貼り付けたまま何の前触れもなく彼女は何処かに消えた。彼が何も言えずに急展開に戸惑っていると、その場に残ったピンク色の少女が彼を見ている。

 

「んじゃ、そこのストック! さっさと行くよ」

「……どこにだよ?」

「どこか」

 

 早い話、彼女もそこら辺をぶらぶらと渡り歩きたいということらしい。

 パートナーが変わっただけで、あての無い旅が終わるという訳ではなかった。その事を認識した彼が最初にとった行動は、呆れて溜息を吐くことだった。

 

「…わかった、その前にまずは拠点を取る。こちとらアイツに付き合わされて二日は寝てないんだよ」

「えっ」

「決定事項。お前だって命令されてただろうが」

「総督のストックじゃなかったらネブレイドしてやる……」

「おお、怖い怖い」

 

 彼がこんなことを言えるのも、何故か持ち合わせることになった驚異的な身体能力が進化していたから。今ではエイリアンとも張り合えるほどであるが、所詮は人間ということなのだろう。身体能力が高いだけであって、正面から戦ってエイリアンを倒すには至らない程度だ。

 そんなこんなでパートナーの変わった二人旅、彼らは今日も廃墟を過ごす。

 

 

 

 二週間後。北アメリカの某所で、彼らは廃墟で食料品の探索をしていた。この辺りは既に生きた人間は残っておらず、あるのは生活の名残と人間が住んでいたという過去形の事実だけ。

 

「お~い、こっちに家庭菜園あったよ!」

「でかした!」

 

 この二週間、何処か気の合うところがあったのか、彼はナフェと打ち解けていた。ナフェも食料もなく現地に放り出された状態に等しく、ネブレイドという捕食に近い行為をする彼女らは、当然ながら食欲を抑えることなど出来る筈もない。ナフェには何よりも彼をネブレイドしたい欲求があったが、「総督」の御達しの前にはそれも萎縮するらしく、大人しく彼の指示に従っているという訳だ。

 そして、ナフェの声がした方に行くと確かに家庭菜園はあった。碌に整備もされていないことから雑草で荒れ放題、萎びたものも見受けられたのだが……

 

「おっ、ジャガイモか。残りの食料と合わせると……今日はジャガバターが作れるな」

「ホントに? じゃあ…」

「言わんでもいい。多めにしとくって」

「やたっ!」

 

 ナフェは見た目とは裏腹に、エイリアンの中でも謀略や知略に通じており、18年前の襲撃当初から姿の変わらない年齢詐称な人物である。それゆえに幾多の人間を陥れ、その中にいる智に長けた者を積極的にネブレイドを行って更なる知識を得ているの筈なのだが……彼の前では、不思議と見た目相応の反応を返しているようだ。

 

「ジャガバターでそれか。……お前らって、意外と俗っぽいな」

「そりゃ、あたしは中でもストックを沢山ネブレイドした方だし? でも、ストックの料理食べるのはあんたが初めてだもん」

「はぁ……いや、俺は人類の敵に何してるんだろうな……」

「餌付けじゃないの? あとは世話」

「なら本物の兎が良いっつうの。兎詐欺(ウサギ)は勘弁だ」

 

 そうは言いつつも、彼女の為にジャガイモを収穫した彼は思った以上に「おヒト(・・)よし」なのかもしれない。彼は雑談をしながら収穫したジャガイモや、他の農作物をリアカーに詰め込むと、その荷物の上にナフェが乗った。

 またか、と思いつつも彼はリアカーを引いて歩き始める。

 

「なぁ、降りないか?」

「ここが良いの。あんたの意見なんて聞いてませ~ん」

「駄目だこりゃ」

 

 この二週間、彼はナフェについて理解したことが幾つかあった。そのうちの一つが、彼女は高いところに乗っている事を好む傾向があるということ。こうしてリアカーの荷物の上に座っているのもそう言った習慣が在るからなんだろうし、昔からこう言う格言もある。

 

「バカと煙は高いところが好き……だったか?」

「なんか言ったー?」

「いや、今日の献立考えただけだ」

「そう? ―――あ、海」

 

 他愛のない会話をしながら瓦礫をかき分け進んでいると、海が出た。

 護岸工事がなされており、残念ながら砂浜とご対面という訳にはいかなかったが、海にはまだまだ生き物が溢れている。地上と違い、流石のエイリアンも広大な海の水圧に長時間耐えきれるアーマメントを作ることは難しいらしく、ほとんど手を出さなかったことから結構な魚が生き残っているらしい。これは、彼が「彼女」に聞いた内容だ。

 そんな事はさておくとして、彼は目の前に広がった幻想的な光景に思わずほぅという声が出た。「彼女」と行動を共にしていた時は、アフリカから海へ超えて行く際に何かよくわからない方法を使って一瞬で移動してしまったから、こうしてこの世界で海を見るのは初めてだったからだ。

 ナフェが荷物の上で右手を水平に眉のあたりに当てて海を見渡している時、彼は右隣りに在った店の看板が目に入った。そこに書かれていたのは「Fishi―」という掠れた文字。だが、海の近くに在ってフィッシュと書かれているのなら、それは「フィッシングショップ」ということだろう。

 

「って、あれ。なにしてんの?」

「ちょっとこの店行ってくる」

 

 そこまで考えた彼は、ナフェの疑問に答えながら店の奥へと入って行った。どうせ金も払わなくていいなら、と一番高い竿を選んでショーケースをぶち破る。ガラスの割れる音が響いたが、そんなことはお構いなしに彼はつりざおのセットを整えて行った。

 そんな彼に対し、後ろから感心したような声をあげていたのはナフェ。いつの間にか彼女も店内に入って来ていたらしい。

 

「ナフェ、そこの蟲みたいなの取ってくれ。一番ゼロの数が多い奴」

「これでいい?」

「早い話、何でもいいんだがな…っと」

 

 釣り糸を竿に取りつけている途中、流石に餌は使える状態ではなくなっていたので、同じく高級なルアーをナフェに頼んで取ってもらう。彼がそれを取りつけると、立派な竿が完成した。ただ、電動リールの電源は切れていたので、手動で全てをすることになりそうだが。

 

「こっち来い、こっち」

「もしかして釣りするの?」

「もしかしなくてもな。今日は焼き魚をメニューに追加出来るかもしれん。というわけで、食べたいならお前もこれ使え」

 

 彼はそう言って釣竿を差しだしたが、彼女は唸るばかりで一向に受け取とうとはしない。不思議に思った彼がどうしたんだと問いかけると、彼女はむくれて答えた。

 

「この手でどうやって?」

「……ああ!」

 

 彼は忘れていたようだが、ナフェの手は生体アーマメントで換装されており、巨大なロボットの腕である。指は太く、関節は大きいし、ナフェがこの二週間を彼に「あ~ん」で食べさせてもらっていた程、日常生活というものには滅法向いていない腕である。

 納得した彼は、謝罪しながら大いに笑っていた。

 

「すっ、すまん……っく、はははっ!」

「笑い事じゃないよ、もう! デリカシーないあんたが一人で獲りなさい!」

「はっはは、はいはい」

 

 こみ上がる笑いを隠そうともしないまま、彼は代わりにとクーラーボックスをナフェに持たせ、彼女を連れて波を抑えているテトラポッド近くにまで移動した。到着すると、糸の先をゆっくりとテトラポッド近くに降ろして行く。魚はこういった狭い所に来ることもあり、乱獲していた人間がいなくなって早十年である。フィッシングショップが近くに在った事からも含めると、早い話が釣り場の独占状態と言ってもいいだろう。

 つまり、こう言う事。

 

「っし、釣れる釣れるぅ!」

「うわっ、魚掛るのはやっ!?」

 

 この世界に来る前、よく釣り堀を訪れていた彼にとってルアーフィッシングというのは得意分野の一つだ。そしてこの世界の魚は、釣り人という脅威がいなくなって平和ボケしている事もあって、それはもう大漁だった。テトラポッドの近くではもうしばらくは獲れないと分かれば、次は大海原に向かってルアーを渾身の力で放り込めばいい。

 驚異的な身体能力を得たおかげでかなり遠くまでルアーを飛ばすことができ、ルアーを寄せる途中では必ず魚が引っ掛かる。ナフェに頼んで魚型のルアーを持ってきてもらい、中型以上の大きさの魚も連れ、どんどんクーラーボックスを満たしていく。

 面白がったナフェは彼にどんどん要求をしていき、彼はその要求にこたえて様々な魚を釣り上げていく。まるで年の離れた兄妹が過ごすように、時は流れていくのだった。

 

 そんなこんなで、二人が気付いたころには日が沈み始めていた。暗くなる前に釣った魚の食べる分以外をリリースしていると、ナフェがソイツらは食べないのかと聞いてきた。

 

「いや、ネブレイドしたなら知ってるだろ? あんまり獲り過ぎてもナマモノだし、俺らの旅路には向かねぇって」

「燻製とかにすればいいじゃん。あたし食べてみたいなー」

「はっはっは、無理! 燻す道具もないし、焼き魚で勘弁しろ」

「魚は初めてだし、それでいっか。じゃ、さっさと作りなさい!」

「エイリアンってのは人使い粗いのがデフォなのか……?」

 

 彼は阿呆なことを考えても仕方がない、とリアカーに戻ると、荷積みを解いて幾つかの食料とチャッカマン、そして新品のフライパンと網を取り出した。次に周りの瓦礫を寄せ集めると、瓦礫を石釜のように見立てる。新聞紙や木片をその中心に放り込むと、上の方に金網を乗せてから、点火した。

 

「よし、ナフェ煽げ」

「えっ?」

「ほら、これ持って」

 

 彼はただ煽ぐだけの作業が嫌だったようで、ナフェに大きめの団扇の様なものを持たせると、煽ぐように指示を出した。渋々ながらに彼女がそれを引き受けると、炎が大きくなる過程が面白いのかノリノリで煽ぎ始める。ちょっとばかし彼女が残忍好き、という事を知っている彼にとって、ある意味でその言動はナフェの「点火物」になったようだ。

 そうしてナフェが火の勢いを強めてくれている間に、焼き魚にするために活きのいい魚を絞める。それを何匹か繰り返すと、ナフェから火が安定したとの報が入った。

 

「よし、じゃあ塩焼きにするから、魚の目が白く濁った時に一回だけ裏返してくれ。“その手”なら熱くないだろ?」

「ふーん? そんなこと言うんだ」

「美味いもん食うためだって。じゃ、渡しとくから魚は任せたぞ」

 

 そう言ってリアカーの簡易調理台に戻ると、先ほどとったジャガイモなどを水洗いする。そして一口サイズに刻んだあたりで、彼は重大な欠点に気付いた。

 

「……レンジ無いし」

 

 一番簡単なのが電子レンジなのだが、生憎彼がいるのは人が消えて18年の廃墟。家電など一つも起動しておらず、奇跡的に残っていたので拝借したラップはあれど、レンジが無い。しかし、そんな問題もナフェが解決してくれた。

 

「じゃ、これ使って」

 

 魚の濁って行く目を楽しみながら見るナフェが彼に差し出したのは、ナフェが最初に彼と出会った時に乗っていたうさ耳(?)がついた変な機械。その中を開けると一定のスペースが在り、料理なら簡単に入るくらいだった。そして、それは中でマイクロ波を発生させることも出来るらしく、もとは人間(ストック)の拷問用だったが、今は使ってもいいとの事。…いろんな意味で後味が悪そうだが、背に腹は代えられない。彼女のネブレイドの知識で(ワット)は電子レンジのそれに近しい用に調整されているそうなので、彼はそれを使うことにした。

 

「5分くらいでいいか」

 

 扉を閉める前に、「彼女」との旅路で残っていたライスを一緒に放り込み、地面にその機械を置くと蒸し上がるのを待った。その間に幾つかサラダを刻み、お手製の醤油ベースのソースで味付けをする。余っていたプチトマトなどは保存状況がギリギリなのでそこで投入してしまい、キャベツとプチトマトがコラボレーションを果たす。

 そして盛りつけが終わったころに小気味のいい音が響き、最早完全に電子レンジとなったナフェの機械からライスとジャガイモを取り出した。串で突き刺せば程良い柔らかさになっており、そのジャガイモを再び一度まな板にのせて皮に切れ目を入れる。そしてこれまた「彼女」の不思議技術で保っていたバターを乗せれば完成である。

 ライスを自分様と、ナフェ用に「彼女」が使っていたお椀に盛りつけると、向こうの魚もいい感じに焼き上がっていたようだ。

 

「完成だな」

 

 ライス、野菜サラダ、じゃがバター、焼き魚、そして水。少々偏っているかもしれないが、この終末世界では美味いもので腹を満たせれば恩の字である。

 

 

 

「「いただきます」」

 

 すっかり日本人の習慣をナフェに言いつけた彼は、早速とナフェの口に飯を運ぶ。初めてのじゃがバターだったが、最初の一口を食べた後に物足りなさそうにしていたので塩をまぶすと、今度は気に入ってくれたようだ。

 そして自分も焼き魚に醤油を垂らして口に運ぶ。しばらく味わえなかった「肉」の新鮮な美味さが口に広がり、思わず顔がにやけてしまう。これまでのたんぱく源は大豆だったから尚更だ。

 

「それ、あたしもっ」

「ほら」

「あーん、……うん、美味しいじゃん」

 

 「うーまーいーぞー!」などと声を上げることこそしなかったが、彼女も今日の料理にはご満悦の様子である。「彼女」の時には見られなかった、異星人と異世界人が仲良く食事をしている光景は、この世界の者が見てしまえば激怒に打ち震えることだろう。――「どうして、敵と親しくしているのか」――などと言われてしまうことは確実である。

 しかし、彼は最近決意したばかりなのだが、「生き残りの人類を助ける」という目標と同時に「エイリアンも積極的には駆除しない」という信念も持ち合わせていた。それは「彼女」との旅路で大いに得るものがあったから。現代にいた時とは違い、確かに生きる何かを「彼女」も持っていたから、というのが大きな理由だ。

 そして、その理由の裏付けには、今のナフェの笑顔も含まれている。

 

「ライスくらいはお椀持ってかき込めよ。こっちだって食いたいんだから」

「はーい」

 

 彼は分かっている。ナフェ自身は、人類を見つければすぐにネブレイドに走るか、抹殺に移るだろうという事を。それでも、総督命令があるとはいえこうして自分をネブレイドしない自制心を持っていて、なお且つこう言った旅路を楽しめる「心」を持ち合わせているのだ。ならば、物騒な話は後回しで言い。自分が喰われなければそれでいいのだ、と彼は思っている。

 ……まぁ、彼にとってこのナフェも、「彼女」も、後一年後に起きるであろう最終兵器にやられてしまったなら、仕方ないと割り切るつもりだが。

 

「ねえ、明日はどこ行くの?」

「とりあえず南下する。暖かいところは食料とか、生き残りがいるかもしれないからな」

「はーい」

 

 それでも、実際に人類と出会ってしまった場合はどうするか。彼は「彼女」といた時はグレイしか見つけることが出来なかったが、実際にナフェを連れて人類と遭遇した場合の対処法が思いつかなかった。

 だが、遭遇するにもしばらく先の話になるだろうと思い、食事の後片付けを終えると早々に就寝に入る。夜空の星は、そんな二人を明るく見下ろしているのだった。

 

 




キャラ崩壊は仕方ないと思ってください。
だって、B★RSと彼女ら(エイリアン)の会話だと敵同士ですし、エクストラムービーはギャグしかないんですから。

そういうわけで、ナフェちゃん登場。正直言って総督はキャラつかみづらいし、書きにくいです。
残り一年ですが、タグの通りに廃墟探索。原作後も廃墟探索(火事場泥棒)……になるのでしょうか?

あんまり決めてませんが、ここまでお読みくださりありがとうございました。
主人公の名前は「無」ということでいきます。それでは、またお会いしましょう。

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