カウントダウン~A HAPPY NEW DAYS~   作:幻想の投影物

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誰が来るかな。誰が来るかな。
少しばかり、その時はわくわくしてしまった。

 ―――1月下旬 ナフェの手記より。


発展の犠牲

 スクランブルのイエローランプが鳴り響く。それがステージライトのように思えて、俺はきっと口をゆがめているのだろう。この様な晴れ舞台で俺の相手をするのは出来そこないのグレイ? それともあの方が気に掛けていた小汚い男か。

 それとも―――裏切り者のナフェ?

 

「楽しみだ…。俺は寛容だから待っててやるが、その後は……」

 

 ―――題名、公開処刑の始まりさ。

 

 

 

 

 グレイ用の武器が貯蔵している格納庫。逐一メンテナンスが行われているため、三つに分かれるUEF本部の研究棟と作戦棟の間に設けられたスペースで、初めて彼は自分の意思を保ったままの第2世代クローンの生き残りに出会っていた。戦闘の為に無駄な脂肪を削ぎ落した、ある意味で完成された美貌は男の目を引くことは間違いないだろう。

 しかし、彼女が製造された目的は男の慰み者になる事でも、キャバクラ嬢として客引きをするためではない。彼女と言う一つの兵器は、挿げ替えの利く対エイリアンの勢力として数えされる存在だ。粗方のクローンは各地のPSS混成部隊の中にいるらしいが、このUEFに残っているのは最早「ホワイト」と呼ばれるクローンと、彼女…自称「ナナ」という少女しかいない。

 それは彼女の同期が既にエイリアン達に蹂躙されているからであり、彼女と言うクローンはそろそろ限界が近くなり、つい先ほどまで調整ポッドに入れられていたからという二つの理由がある。

 

「で、そんな記憶野がヤバい自称ナナさん、準備の程はそれで良いのかい」

「無手の貴方よりは準備出来ていると思うわ」

 

 そう言うと、ナナは何処からか取り出した巨大な橙色のスナイパーライフルを取りだした。人の丈ほどもある、絶対に人間には取り扱えない威力、反動を保証する銃口は、ピタリと彼へと向けられる。引き金に力を入れれば、その瞬間に弾丸は彼へ向けて放たれるだろう。

 凍てつく視線で彼を見つめるナナ。対して、彼は大した危機感も抱く事はなく、それどころかおどけたような態度で両手を広げていた。

 

「……何のつもりだよ?」

「それはこっちのセリフ。どうせエイリアン共に勝てやしないのに、どうして足掻くの?」

「そんじゃ言い返させて貰うか」

 

 彼は溜息まじりに後頭部をぼりぼりと掻き毟り、半目でナナを睨みつけた。

 じとっ、とバカを見ているのだと全面にアピールした視線。その込められた意味が分かったナナは、それでも不思議そうに答えを待つ。

 

「その程度の銃でどうするつもりだ?」

 

 何気なく言われたのは、人間としてはありえない回答だった。

 

「……はぁ? あなた、頭おかしいの? いくらなんでも人間がコレ喰らって生きていられる保証なんて――」

「前提条件が違ってる。いつ俺がその銃で殺せるって言われた?」

 

 その言葉に込められた意味を理解。同時に、彼女は失望と諦観を瞳に宿した。

 所詮は自分も運命とやらに左右される憐れな駒。そう言った自覚がナナの内面を浸食し、この状況におけるささやかな反抗心を溶かして行く。

 

「…あぁ、そう。そう言うの全部見越してあの科学者共は私を再起動したってことか」

 

 あいつら、何時か殺してやる。ナナが歯を食いしばりながら告げると、ふと此方に振り向いた。先ほどとは違った、敵意の込められていない視線だと分かった彼は、ならコレで良いかとシャッターの向こう側を指さす。

 

「とりあえず今はエイリアン殺しに行くぞ。どうせ無理出来ねぇんだろうから、援護射撃頼む。つうか、それだけしてくれれば後は殴り殺せる」

「あなたも人類に何か調整されたクチ?」

「いんや、気が付いたら馬鹿力になってた」

「なにそれ」

 

 最早訳が分からないわよ。その言葉にまったくだと彼は言葉を返す。

 

「とりあえず行くぞ」

「……仕方ないわね」

 

 銃口を下ろしたナナは、渋々と言わんばかりの態度で格納庫を出る。その後に続いて、彼もエイリアンの居場所を手に持った端末で情報を受け取りながらエスコートして行った。そうしてUEFからの通信を頼りに進む事、実に数分。ゆったりとした足取りで向かって行ったUEFの正門には、あからさまに此処にいるぞ、とアピールをしている腕が生体アーマメントの男性が立ちつくしている。赤がイメージとして思い浮かぶ姿は、彼の記憶で「ある人物」と一致していた。

 その赤い人物は、此方の二人が正門から姿を表した事を見届けると、眉をピクリと動かして大袈裟に両手を挙げてリアクションを取って見せる。

 

「ようこそ。キャスティングは出来そこないと冴えない男か、まぁ監督がなんとかしてやるしかないな」

「…マズマ」

「俺を知っているのか? …いや、あの裏切り者がいるなら情報流出は当たり前だな」

 

 裏切り者とは、言わずともナフェの事を指しているのだろう。

 そうしているうちに、ナナの隣にいる彼が持っていた端末が突如スピーカー音声で言い放つ。

 

≪マズマじゃん、ひっさしぶり~。ナルシストも直ったかと思ってたけどそうでもないんだね。あ、死んでもそのへん変わらないから仕方ないか≫

「よく言う、そこの観察対象の男に誑かされた癖に。…あぁ、まさかナフェ。ラブロマンスに浸りたかったとでも?」

 

 赤い男、マズマが嘲笑交じりにそう言えば、ムッとしたような声が響き渡る。

 

≪まっさかぁ! そこのはただのパパだよ≫

「オイコラ、ただのパパってどういう言い回しだ。お父さんブチ切れるぞ」

「…貴方達、普段からこう言う関係なの?」

「≪まぁね≫」

 

 通信機越しだと言うのに、息の合った返しにナナは頭を抑えた。

 目の前に敵がいると言うのに、どうにも戦場らしい感じがしない。多くの先輩が死んでいった、特に第四の刺客が来た時にナナが感じた絶望感はこの時の比では無いと言い切れる。だというのに、ただの人間にしか見えないこの見た目平凡な男は敵である筈のエイリアンを一体懐柔し、マズマと言われるA級エイリアンを前にして緊張の一つも見せないと来ている。

 あながち、あの格納庫で言っていた言葉は嘘ではないのかもしれないと思いながらも、アーマメント研究で開発されたナノトランス領域から即座に銃を召喚、装着してマズマに向けて発砲する。

 

 ダンッ、と空気を大きく振動させた一撃はマズマに一直線に向かうと、巨大な剣にも銃にもなるマズマの武器で弾かれる事になった。

 

≪ありゃ、惜しい≫

「まだ開幕もしていないというのに無粋だな。だから出来そこないなのか?」

 

 弾いた箇所から熱のこもった湯気を立ち上らせながら、自分の剣を真っ直ぐ構えるマズマ。そうして吐き捨てるようにナナに告げると、やれやれと肩をすくめていた。

 

「…まぁ、問答やってる場合でも無いわな。ナナ嬢、気付けの一撃にゃ丁度いい」

「あなたに褒められても嬉しくないのだけれど?」

「ったく…素直じゃない、なぁっ!」

「ほぉう?」

 

 彼もまた、台詞の途中に踏み込んでマズマの顎へ音速に近いアッパー。

 だが、極軽めに放ったその攻撃は、難なくマズマの手甲のようなアーマメント部位に掴まれてしまった。拳に掛けた初期と同等の力を出し続け、接触面でギリギリと力を拮抗させる。

 彼の戦闘データを見ていないマズマは、予想以上の力に引き裂いた笑みを浮かべながら攻撃を加えた彼に語りかける。だが、まだ両方ともに本気を出すような表情には見えなかった。

 

「少しばかり早いが、所詮はストックらしいな」

「じゃぁ倍率ドンで」

「なに――ぐぉっ!?」

 

 止められた形から、言葉通り「四倍」の力が発揮された。そして彼の拳はマズマの手ごと上へと引っ張っていき、乗ったままのマズマの手が顎を撃ちつける前に咄嗟に照準をずらした事で直撃は無かった。空に放り出されたマズマは受け身を取ると、空中を蹴って後退する。着地と同時に銃剣のトリガーを引き絞ると、一瞬で数十発のエネルギー弾が拳を上へ振りぬいた形で固まった彼を襲う。

 しかし、彼一人で戦っている訳ではない。そして、敵はあの総督でさえ無い。他の者が介入できる余地は――十分に存在していた。

 

「援護行くわよ」

≪その銃、こっちでエネルギー調整するから排熱とかは気にしないで≫

「気が利くじゃない、エイリアンの癖に」

≪態度がでかいわね、グレイの癖に≫

 

 憎まれ口を叩きながらも、決してその手と集中力を休める事はせず、一瞬の間に照準を付けたマズマの弾丸を撃ち落としていく。あちらが同時発射、此方は一発ずつという事で、どうしてもタイムロスが生じてしまうのだが、前線に出た彼は物量さえ無ければ障害物につまずく様なヘマはしない。

 ナナの正確な取捨選択で撃ち落とされるマズマのエネルギー弾。打ち消しきれなかった幾つかは彼の体に直撃するが、本来なら弾け飛んだ肉塊が完成する筈という事実を乗り越え、逆に肉体の表面で弾けるに留まっていた。

 つくづく、自分の規格外な体の作りに苦笑が漏れてしまうものの、それらを押し殺して敵エイリアンへと肉薄。弾丸の効果が薄いと理解したマズマは自動で追跡する銃弾を放ちながら剣を振り上げると、恐ろしい速度で迫ってくる彼に向かって、正確にその大剣部分を振りおろした。

 

「ひゅぅ、やるじゃんか」

「この程度の速度、俺にとってはまだまだ。お前もさっきの力はどうした?」

「お望みならば」

 

 マズマの挑発に乗り、彼はギアを切り替える。だが、それは一速から六速へ一気にシフトチェンジするような馬鹿らしい所業だった。一瞬で音速を超えた彼は、纏ったPSS装甲の一部を激しい空気抵抗撒き散らしながらも、音速を超えた事で発生するソニックブームでマズマの弾丸の狙いを反らす。そうして完全にフリーになった所で、常に有利な位置から攻撃を加え始めた。

 だが、マズマとてこと速度においては自信があるエイリアンの一人。流石のミーとまではいかないものの、とある番外編で500km/hの速度を出すブラックトレーサーに徒歩で追いつくと言う所業は伊達ではない。

 あの時の様な徒歩ではなく、完全な駆け足で彼に大剣を振り下ろす。だが、彼はあろうことか拳で剣の刃の部分を弾いてしまった。エイリアン技術の結晶である大剣の刃が通らない事に驚きつつも、その程度で己を見失うマズマでは無かった。刃が通らないなら、同じ場所に当て続ければ良い。ピックで一点を貫く事を思いついた彼は、お気に入りの映画「ビッグスナイプ」の主人公になった陶酔感を味わう。

 そうした陶酔は脳内麻薬(アドレナリン)を分泌し、更に音速を超えている筈の彼を捉える視界を作り上げる。完全に動きを見切ったと言っても過言ではなく、その自分の体を最大限に利用したマズマは彼の右手と言う一点を狙い続けていた。

 

「…っ……さ……を!」

「おま…も………なぁ」

 

 既に、音を置き去りにしている彼らは会話でさえも成立させる事が出来ない。だが、まったく同じ「相手を倒す」と言う一点において気の合った者同士、存分に刃と拳をぶつけ合っていた。

 彼が拳を振りかぶれば、マズマは動きを見切って剣の腹で受け止める。

 マズマが剣を薙ぎ払えば、彼はそれを超す速度で背後に回って正拳を突き出す。

 そしてスナイパーとして異様に動体視力の良いマズマが彼が後ろに動いたという時点で攻撃を予測し、一歩横にずれることで回避する。ぐるぐると10m以内の一定距離を回って戦う彼らの様子は、傍から見ているナナにとっては舞踏武術のようだった。

 

「彼が格納庫で言ってたのも分かるわね。……あれ? もしかして、私要らないんじゃ」

≪そこで諦めたら駄目だよ! もっとよく見て。アンタが出来損ないであっても、狙撃の一点特化ならあの程度の速さ当てられるって! 何でそこで諦めようとするかなー、そこでさぁ。もう少し頑張ってみようよ、ダメダメ諦めたら! あともうちょっとの所なんだから!!≫

「と言われても見えないわよ。…あれ、何か慣れて来た?」

 

 幾ら音速で走り回っているとは言っても、戦闘に特化して作られているグレイは、曲がりなりにもシング・ラブのクローン。エイリアン総督と同等の力は持てないにしても、彼女と同等に近づけると言う可能性は誰もが持ちうるのだ。

 そうして集中して行ったスコープの先には、一定速度で10m四方を駆けまわる規格外の人間とエイリアン・マズマの姿。ナナはそれらの動きを全て収める事が出来る倍率に設定すると、最早体に当てればそれでいいを実践するためマズマの動きに脳の処理速度のピントを絞っていく。

 マズマを赤いターゲットと仮定して、極限にまで絞られた行動予測地点。その一点に向かって、ナナはトリガーに指を掛ける。

 

「……ここっ!」

 

 言葉と同時に弾丸が一直線に向かう。普通の戦車をも向こう側まで貫通するグレイの狙撃銃から放たれた弾丸は、空気の摩擦で銃弾の形を寄り鋭く研ぎながら一点を目指して突き進んだ。

 そして、接触の瞬間に直前に訪れた物体の色は赤。

 着弾、同時に新たな赤色が中空を舞い、マズマは横腹に銃撃を貰う。慣性の法則に従って不意に速度が分散されたマズマは、受け身も取れぬ状態でつい先ほどまで切り結んでいた彼の方向へと飛ばされる。

 マズマが危険だと思った頃には、その恐るべき動体視力で自分の腹に向かう両掌。コンマ一秒にも満たない直後、マズマは飛ばされた方向とは全く逆の方向から打ち据えられる衝撃に襲われた。彼が放った掌底は太極拳のように全ての運動エネルギーをマズマの内側に向かわせ、その内蔵器を破壊する。

 胃の辺りが粉砕されたマズマは大量の血を吐きだすと、バットで打たれた内野ごろのボールのようにナナの元まで吹き飛ばされ、血反吐を吐く度に地面を跳ねて転がされる。エイリアンの驚異的な生命力からマズマがそれで死ぬ事はなかったが、頭部にナナの使っていた銃が付きつけられたのは、マズマの完全敗北を宣言するような物だった。

 何とも皮肉なことか。主人公だと思っていたマズマは、狙撃で逆に倒される悪役の様な立場だったと言う事になったのである。

 

「…は、はは……あの方の…次に、長生きするつもり…だったが……」

「出来損ないに命を握られる気分はどう? A級エイリアン」

「屈辱…だ。は、は……表に、立った途端に……俺はこれ、か……」

 

 この世の全てを諦めたようなマズマを目の当たりにして、ナナはまだ引き金を引かない。それは此処までのダメージを与えた彼が此方に近づいてきながら、どうどうと馬を諌めるような仕草をしているから。

 それに従ってやる道理はないのだが、ほぼ無傷でこの目の前のエイリアンを追い詰めた功労者である事は確か。とりあえずそこは評価して、こうして彼の制止を受け止めているのだった。

 

「よぉ監督。お前さん、主演だけは向いてねぇや」

「その通り…みたいだな……それ、で…どう……する?」

「ナフェ」

≪…仕方ないなー。自爆装置で良い?≫

 

 ほぼ一年間ずっと隣で過ごしてきたナフェだ。彼の問いかけの意味を理解し、ナフェが考えたしかるべき処置を口にすれば、彼はにっ、と太陽のような笑みを浮かべた。

 

「それで完璧だ。…ってことで、このエイリアン研究棟に連れて行くぞ」

「はぁ!? 貴方正気なの?」

「正気を疑われるとか、俺ってなんかやらかしたか?」

「今の発言そのものよ!」

 

 少なくとも、ナナはマリオン司令官より人間の常識と言うものをよく理解しているようだ。彼の提案をすぐさま受け入れる事はなく、マズマに突き付けた銃口を更に深く押す。

 

「痛ッ! お、おい…」

「敗者のエイリアンは黙ってなさい。……それで、此処でコイツを殺した方が3割方は人類の為だと思うんだけど?」

「残りの7割は――」

「私の精神衛生上の問題。何が悲しくて姉さんたちを殺したこいつ等を生かせばいいのよ。例のピンク色は貴方ってストッパーがいるけど、コイツを生かす束縛はないと思うけど? それに協力する可能性の方が低い。こんな事、考えればすぐわかるじゃない」

「だから……痛いんだよ…もっと丁寧に扱えないのか……」

 

 銃を向けられたままのマズマが、ようやく胃の辺りの修復を終えて普通に喋り始める。それでも、体が「修復」されただけで動き回れるような「回復」はされていないのが、エイリアン達も生物である事を如実に表しているのかもしれない。

 とりあえずは強情はナナをどうにか説得しようと、彼は盛大な溜息を吐いた。

 

「……良いから、せっかくの銃身曲げられたくなけりゃ、大人しく引き渡せって」

≪そこのグレイ、大人しく引き下がった方が身のためだよー?≫

「そこまでして、貴方たちは一体何がしたいの?」

 

 確かに、主体性を伝えていない限りは焦るのも当然だと考えをまとめる。

 理想の答えを用意した彼の発言に、再びナナは驚愕することになった。

 

「ソイツにも、俺の情報喰わせておこうかと。後地球防衛のためにパワーアップ」

≪あの方を相手するには私らだけじゃ絶対足りないしね。マズマも損はない取引だし、逆らえばあたしのパパがさっきの遊びも下らない程本気だして瞬殺するから問題ないって≫

「だからパパ言うな」

≪どっちが言っても否定するじゃん。……え、あ、ちょっと。分かったよ、まじめにやるから明日のケーキだけは―――≫

 

 そうして彼との掛け合いで笑っているナフェが司令官に怒られた辺りで、ナナは彼女の発言を疑っていた。あれで遊び? ならば、この目の前の男が本気を出せばどうなると言うのだ。ナフェも余裕の発言をしていると言う事は、彼の本気とやらを見た事があるのあろう。

 だが。ナナは動揺を抑え込む事が出来なかった。

 

「…さっきのが限界じゃ……」

「アレか? 三割程度だけど。速度だけを比較するなら一割も出してないな」

 

 彼の言葉に、更に絶句。

 足元のマズマはその言葉を聞いて、手を抜かれていた感じはしたが、まさか。と自分の浅はかさを呪い始めていた。

 

「はっ、道理であの方を相手に二度も逃げ切る訳だ。お前らを献上して、この星をもらう予定だったが……上には上がいるか」

「お前も俺の一部ネブレイドすれば追いつけるぞ? 協力すれば、の話だが」

「…悪くない相談だ」

「ちょっと、待ちなさ―――」

「すまん、時間切れだ」

 

 軽いやり取りでマズマの遠回しな承諾を得たと認識した彼は、いち早く仲間候補を確保するためナナの銃に掴みかかる。グレイの反応速度を大きく上回る一連の行動に気がついた時には、彼女が持っていた予備の小銃、そして刀すら破壊されて足元に散らばっていた。

 

「……本当、なんなの…貴方」

「ただのPSS衛生兵だって」

≪アンタみたいな衛生兵は普通居ないって≫

「だろうな。ちょっと苦しいだろうが、俵持ちさせてもらうぞ」

「ぐっ…! ……は、変わっているな。だが、これも面白い…」

 

 担ぎあげられたマズマは、ダメージを受けた腹を彼の肩に突きあげられて苦悶声を上げるが、この先に待ち受ける予想外の未来に心躍らせるように意識を落とした。

 

 ―――友よ、拍手を。喜劇は終わった。

 

 「今までの自分との決別」。かの高名な耳の聞こえない音楽家、ベートーヴェンが遺書を書いた時にはそんな事を思っていたと言う。その時に記されたのがこの言葉だった。しかし、この遺書を書いてから彼は数々の名曲を残している。この言葉を気絶間際に思ったマズマの未来を、明るい光で照らすかのような偶然は重なったのかもしれない。

 

「待って」

「ん?」

 

 気絶したマズマを抱えた彼がUEFに戻ろうとした時、ナナが咄嗟に引き留めた。

 

「…エイリアンの技術。それさえあれば運動野の浸食は抑えられるの?」

「研究者次第だ。ナフェがどれだけ知ってるかにもよるしな。何なら、俺からジェンキンスさんに言っとくか? あの人もギブソン博士を超える人体研究者らしいし。ナフェには生体アーマメントによる人体の脳波反応とか色々聞くつもりだってよ」

「…希望は、あるのね」

「少なからずは」

 

 そんじゃお前も調整ちゃんと受けろよ。そう言い残して彼はUEFの内部に戻っていった。周囲にアーマメントも見当たらない中、武器も破壊されたナナだけが正門の前に取り残される。門が閉じられる前に中に入って行ったが、それでも彼女は心ここに非ずと言った様にひたひたと研究棟に向かって歩いていた。

 

 運動野の浸食を収める手段は、パパであるギブソン博士にさえ作る事はできなかった。だが、ギブソンは元よりクローン技術に重点を置いた開発者なだけで、全てに対する一流の科学者と言う訳ではない。なら、本当にこの零れおちて行く姉達との日常を忘れないで済むのかもしれない。

 

「……奇跡って、こう言う時に欲しくなるのね」

 

 願っても訪れないが、彼が進言してくれるなら、自分の意見が通ってくれるなら。その時にようやく、願った奇跡が訪れてくれるかもしれない。

 待っているだけではだめなのだ。自分で、奇跡を起こす努力をしないと。

 なら―――あの奇妙な人間とエイリアン。あの二人に任せてみるのも悪くないかもしれない。

 

「あの人柄は好きになれそうにないけど、ね」

 

 少しばかり、心が軽くなったような気がした。

 




えっと、新年に総督に浚われて、それから帰還が一週間後になりそうだとマリオンさんに伝える。
その数日後、ナフェが情報欲しくて暴走。一夜あける。
それから約一週間、ナフェを元に戻すために主人公傍から見たらロリコン行動開始。
また一週間ぐらいが経って、そこらを遊びまわってからようやくUEFへ帰還。

だから、たぶん2051年の1月下旬。
…原作開始まであと八カ月ですね。
まぁマズマとナフェがこっち来ちゃってますけど。

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