カウントダウン~A HAPPY NEW DAYS~   作:幻想の投影物

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今回は特別番外編。バレンタインの読者お礼企画になります。
時系列はパラレルワールド。いろんなキャラが出てきますが、今回だけの特別出演です。

本編とは何の関係もないので、そのあたりをご了承のうえ…どうぞ!


St.Valentine's day ぷちっとチョコっとしゅーたー!

 Today,st.valentine! A HAPPY DAYS!!

 

「などと言う事を考えてみたんだがな」

「お前の言う事は分からん。…だが、バレンタインか。俺もミーからチョコレートをもらえたなら……」

「リリオ、理想論は辛いだけだっての」

「だなぁ…そのあたりは身にしみて判っているつもりだが……捨てきれん」

 

 エイリアンたちが集まる事が多い、東京の巨大要塞型アーマメント「シティ・イーター」。本来ならエイリアン達が好き勝手な日常を繰り広げる場所であるのだが、その内部には現在、どのエイリアンもそこにいなかった。だが、それもその筈である。

 

 現在、エイリアンはUEF本部に全員が集まっているのだから。

 

「ミーは当然、いろんな奴からナンパされてるし、それをあしらって…あ、今俺に目を合わせてくれたよな! な!?」

「オーケィ、ちょっとばかし眠ってろこの色男!」

 

 軽めの拳でリリオの顔面を振りぬくと、すさまじい打撃音を響かせ、ずべしゃとリリオはぶっ倒れる。その彼の元に何人もの子供が集マリ始めると、ツンツンと棒か何かで突き始めていた。まだ人通りもまばらな円形ホールには、準備中の人間が何人もいる中で、リリオはメイン調理者の一人の妨害行為をしてしまったのだ。そりゃぁ、殴られても文句は言えない。

 鉄拳制裁っ、と息を吐き出して作業に戻った彼のもとに、厨房の入り口を抜けて二人の人影が近寄ってくる。彼がよく見てみれば、同じ調理師とはまた違う顔見知りということに気付いた。

 

「おーい」

「ん、ナフェ。どうだった?」

「ふふん! あたしに出来ない事なんてないの」

「また強がっちゃってぇ。ハーイ、Buenas tardes(こんにちは)!」

「ほいこんにちわ。ミー、あんまりウチの子をいじめてやんなよ」

「誰がアンタの子か!」

 

 ナフェを抱えながら、ミーが此方にあいさつを交わしてくる。スペイン語に何やら思い入れでもあるのか、やたら流暢な喋り方なのが少しばかり気になった。しかし、余裕たっぷりの彼女も既に子供達の突き地獄から解放されたリリオの方を見た瞬間、めったに見れないであろう酷く顔を青ざめさせる。

 

Que pasa(どうしたの)!? ちょっと、リリオが…!」

「あぁ、俺がこうやって調理してんのに肩揺さぶってきたから、仕置きを」

「……そう、lo siento(ごめんなさい)。いつも迷惑かけてるようね」

 

 もっともな理由だが、他の止め方もあったんじゃないかとジト目で見つめてくる。だがその時のもみ合いで鍋をひっくり返したらどうしてくれると言ったら、これで良いと納得してもらった。

 

「ほらほら、俺の事は良いからさっさとあっちで膝枕でもしてきやがれ。お二人さん」

「それもそうね。adiós(アディオス)、さようなら!」

 

 結局、仲睦まじきカップルであることには違いない。冷やかすようにシッシッと空いている席を指さしてやれば、リリオを抱きかかえて上機嫌に去っていく。そうしてミーを見送ると、彼は足元で例の二人を見つめているナフェへ視線を移した。その口元が引き攣っていることから、一連の行動に関して苦笑いをしているのは分かり切った事だったが。

 だが、彼らがいなくなっても彼女は厨房の休憩用の椅子から動こうともしない。時折鼻をひくつかせて辺り一面に漂うカカオの濃厚な匂いを味わっているようだが、それだけの為にナフェが此処に来るとも思えなかったからだ。

 

「そんで、ウチのお姫さまはどんな御用かね」

「ん~。まぁ、さっきも言った通り。出来たから……ちょっと渡しておきたいかなーって」

「そんなに恥ずかしがるこたぁねーだろうに」

「もう、そんなもんなの! ホント変わってないよね、アンタって」

 

 早々に変わってたまるかい、と唾が飛ばないように含み笑いで返していると、厨房の仲間に彼女を待たせてやるのもアレだろう、とか言われてクリスマスの時の様に追い出されてしまった。チョコレートが詰まった鍋の方はとりあえず任せておいたものの、それが新人の子だったから少しばかり不安が募る。だがまぁ、ここでお姫様(ナフェ)を無視して不満を募らせてしまった方が大惨事になり易いものだと考え、いくぞ、とだけ言って彼女の手を握った。

 

 そうしてしばらく落ちつけるようなところを探していると、チョイチョイ、と手招きするような赤い手が見えた。結構エイリアンも暇なのかと平和な毎日に笑みがこぼれそうになるが、まぁアイツなら逆に考えたキャプションで盛り上げてくれるだろうと思いつつその席に向かおうとする。ナフェも別に異論はないのか、大人しく隣に座ってくれた。

 

「お似合いじゃないか。どう見ても中睦まじき親子のようだったよ。どうやってもラブロマンスには浸れなさそうなのが……まぁ、やはりお似合いかな」

「同じ事、何回も言ってんじゃん。ホントはアンタってネブレイドしても語彙力だけはどうしようもなかったりする? 朗読してるだけじゃない」

「そ、そそそんな事はない! …ん?」

 

 ぽん、と肩に手を置かれた事に疑問を感じ、其方に振り返る。すると彼が優しげな、どこか悟ったような表情をしているのが目に入った。

 

「…マズマ、お前監督はできそうだが主演には向いてない」

「…そうか。ッチクショー! 俺だって表舞台に立ってみたいが、武器がコレなんだよ!」

「誤射王マズマ、懐かしいよね~」

「ナァァフェエエエ! それは昔の話だろっ」

 

 普段はクールな二枚目を聞かざるマズマも、この小悪魔の前では唯のピエロにしかなれないのか。最早ナフェが本来の目的を忘れかけているが、マズマは見っともなく泣き崩れながら走ってどこかに行ってしまう。そんな彼は、道行く人々に顔は良いのに勿体ない、などと言われさらに落ち込んでいた。

 

「何か疲れたし、もうここでいいや。はい、コレあたしからのチョコ」

「サンキュ。っつか、包装もほとんどされてないんかい」

 

 彼女から受け取ったチョコレートはアポロチョコの様にピンク色だったが、それがさらけ出されるままに紙皿の上に乗っているだけだった。このご時世、そんな余裕がない事は知っているが、元いた2010年位の過剰装飾されたバレンタインのチョコが記憶の片隅にあるだけ、なんとなく仕方ないとも思えて来てしまう。

 

「って、ピンク色?」

「ホワイトチョコに食紅入れてみたの。イイ感じでしょ?」

 

 ホワイト、ねぇ。何を思っているのか知らないが、多分あえてのチョイスなのだろうと彼女のしたり顔を眺める。ついでに、食紅を知らない人の為に言っておくが、食紅はまったく味に影響がない唯の着色料である。詳しい使用法はビンに書いてあるので、使う際はちゃんと見ておこう。

 

「ベースはホワイトか。んじゃ、一緒に喰おう」

「あれ、分かってたんだ」

「分からいでか」

 

 ブロック状の変哲もないが、それでも手作り感が溢れるチョコレートをナフェを多めにするため3等分に割ると、二つを彼女へ手渡した後に自分は残った一つを口に放り込んだ。しばらく味わえなかったホワイトチョコ特有の甘さが口に沁み渡り、日々の精神的な疲れをとろとろとチョコが共に溶かしてくれる。

 しっかり味わった後、何か不思議な満足感で溢れている気持ちになった。

 

「ここのとこ毎日仕込んだ甲斐はあったか。手順はオリジナル加えて無いんだろ?」

「あったりまえ、というかお菓子作りでオリジナル加えると悲惨な事になるって知ってるからね。とくにソースは……ああ、あそこ」

「ん?」

 

 ナフェの指さした方を見てみると、我らが総督様が決してチョコとは言えない物体Xを手に渡り歩いているのが見えた。「ふふふ、待っていろホワイト」と言っていることから、どうやらステラの為に作ってあげたらしい。…いくら大食いのステラと言えど、あれは食べても腹壊すだけなんじゃないだろうか。

 あ、ナナが全力で止めにかかってる。

 

「あのグレイ、記憶野が圧迫されるって嘘なんじゃないかってくらいあのホワイトにご執心だよね」

「いろんな意味で分かり合った仲だしなぁ。百合の花が咲いてない事だけが救いか」

「あの方はどうかは知らないけど」

「あれは……気にしたら負けだろう」

 

 いつの間にか、総督と対抗してステラ&ナナのタッグでまたドンパチを始めそうになっている。ステラ専用に調整されたロックカノンと、総督の翼が……翼?

 

「行ってらっしゃ~い」

「……だよなぁ」

 

 重い腰を上げると、ナフェの放り投げた「チビすけ」を足場にして一気に踏み込んだ。そして、いとも容易く破られる音速の壁。パァンっという音が響き渡った事で当事者三人の注意が此方に向き、口を開けたまま大きな隙を晒していたので勢いそのままにステラと総督にダブルラリアットをぶちかました。ソニックムーブも含め、半径二百五十センチがこの手の届く距離である。

 

「あっ」

「おお!」

 

 こちらの腕が接触するコンマ一秒、二人はそんな声をあげていた。

 ナナに当ててしまっては耐えきれないので、とりあえず頑丈な二人だけに無言で打撃を浴びせる。そしてヒットの瞬間「彼女」の手から離れたチョコレートと呼ぶのもおこがましい物体Xをその手に取ると、刀が鞘におさまった時の時代劇の様にふっ飛ばした二人が壁の向こう側と激突した音が聞こえて来た。ホームラーン。

 

「ちょ、ステラ!?」

「まぁまぁ落ちつきなされナナちゃん」

「ちゃんって何よっ、というかアンタこの前の……」

「ところで、コレ喰う?」

 

 ダァンッ!

 総督の手から奪い取った物体Xを差しだした瞬間、ナナは持っていたグレイ用の銃でそれを消し炭にしてしまう。それを持っていた彼の手も弾丸が過ぎ去った際の衝撃でただでは済まない筈だが、当然のことながら「彼」であるためまったくの無傷。それが分かっているからこそ、彼女も撃ったのだろうが。

 

「うわぉ、あの方と仲良くぶっ倒れちゃってるよ」

「あらら……ちょっとコレ俺が咲かせた事になるのか?」

「咲いちゃったね、百合の花」

 

 ナフェと共に見つめる先には、同時にぶっ飛び、同時に壁と着弾した二人はその唇が触れ合った光景が広がっている。それに気付いたステラが顔を真っ赤にしながら刀を振りまわしたが、同じく目を覚ました総督は笑いながらその刀を手で受けとめ、もっと喰わせるが良い、などと言って彼女に顔を迫らせて行った。もはや円形ホール全員の目線が其方に向いているなか、一人の悟りを開いた者が総督をひょいっと持ち上げてしまう。

 

 そのいかつい顔には歴戦の傷が奔り、だが背中には傷が一切ないと言う、正に武士(もののふ)の井出達の老人。やれやれと首を振る様はどこからどう見ても、総督たる彼女の暴走を止めるためのただの苦労人のようにしか見えないのだが。

 

「総督、あまりにおいたが過ぎますぞ」

「離せザハ。私はホワイトを味わってやろうとしただけだろう」

「それがお戯れだと言うのです。さぁ、迷惑をおかけしたのですから我らはここで帰ることにしましょう。ホワイトよ、せっかくの宴を無駄に沸かせて申し訳ない」

「待て、待つのだザハ。くっ、…ホワイト、先ほどのは役得と思―――」

 

 全てを言いきる前に彼女の姿がザハと共に掻き消え、おそらくは月の中枢に強制転移されていったのだろう。それから茫然としていたステラを心配するようにナナやPSSのメンバーが寄りそうと、ステラは総督の唇と接触した自分の口を必死にこすり始め、赤く腫れ上がりそうな勢いだったのでそれを周りが慌てて止めにかかっている。

 いつもの騒がしい日常。だが、それがこのモスクワ、UEFでの毎日なのだと実感させられるような、穏やかな時間が過ぎているのだなぁと思いつつ、隣のナフェと一緒に肩をすくめて見せた。

 

「騒がしいなぁ」

「だね」

 

 そうして厨房に戻る事も忘れてのんびりと時間を過ごしていると、喧騒も終わったロスコルがステラを肩に担いでこちらにやってきた。他にはフォボスやマリオンなど、いつものメンバーの姿もあるらしい。

 

「やぁ、君はもう貰ったかね? 私は老いぼれだと言うのに、三人も奇特な方から貰ったよ」

「おぉっと、司令官も隅に置けないようで」

「ふぅ~ん。で、フォボスは幾つもらったの?」

「お、俺か? ……なにもねぇっての」

 

 ナフェの意地悪そうな顔がよほど苦手なのか、顔をそむけながらフォボスはそう言った。後ろで結いだ髪をぶっきらぼうに弄っている姿は何とも哀愁を漂わせており、周囲の人物が全て苦笑いと温かい目で彼を見つめてしまうほど。

 ちなみに、ロスコルはステラの恩人だからという理由でナナから、そして当然ステラからも貰っているらしい。姪っ子が生きてたらこんな感じなんだろうな、と彼は寂しそうな笑みを浮かべていたのだが、ステラの頬を膨らませた顔を見ると、今は君がいるんだったな、と再び笑顔になっていた。

 

「やってるわね。混ぜてもらってもいい?」

「うーががー」

「や、今度こそしっかり座らせて貰うよ」

「シズにカーリー、そんでマズマ? さっきどっかに走って行ったかと思ったんだが……その手にあるのって、まさか」

 

 ロスコルが震える手でマズマの手にある箱を示すと、彼は少し恥ずかしそうに視線を外した。

 

「な、情けない話だけどギリアンっていう婆さんに貰ったんだよ」

「ギリアン? あのお婆ちゃん、見た目あたしと同じくらいの子供にチョコレート配ってたけど……」

「うーがががーうがー!」

「兄さん、“結局マズマも一人ぼっちの子供みたいだから”だってさ。ふふっ」

「か、カーリーお前!」

「そこまでだマズマ君。君も子供の様に癇癪起こすのはやめたまえ」

「うぐぐ…分かった……」

 

 しょんぼりとしつつも、大事そうにチョコを食べ始めたマズマは最早怒られているPSSの隊員とまったく見分けがつかない程この場に溶け込んでいる。

 

「はははははっ、流石司令官。エイリアンでさえ手玉に取るか」

「君の言うとおりだ。この場所にいる限り、私こそが広域指導員でもあるからな」

「でも、マリオン。アイツにはすっごく甘いよ?」

「むぅぅ…まぁ、だが…いやしかし……」

「ステラもいいとこ突くわねー」

 

 カラカラとナナが笑うと、それが火種になって全体に笑みが広がって行った。

 2月14日は甘い甘いバレンタインの日。でも、こんな風にチョコレートを食べたあとみたいに面白可笑しくて、暖かい雰囲気もいいんじゃないだろうか。春も入りかけだが、まだまだ寒さが残っているモスクワの地では、暖かな時間が過ぎ去っていくのでしたとさ。

 




少し量的には少ないですが、これ以上やると収拾不可能の事態を書いてしまっていたので、ここで切らせていただきます。

次回からはまたもとの本編に戻ります。
今回の話で、少しでもこの「B★RS The GAME」の世界が幸せに感じてくれれば、こちらとしても嬉しい限りです。

それではまたお会いしましょう。突貫で二時間ほどで書き上げたので、おそらく誤字は放置したままですが、他の企画話含めて五時間パソコンの前で二人して話し合っていたので疲れました。誤字はまた明日修正することにします。

やりつくしたわよ…今行くわ、パトラッシュ……

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