カウントダウン~A HAPPY NEW DAYS~   作:幻想の投影物

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あのルイージマンションに2が出るようです。
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認可せよ

「ネブレイド、させてよ……いいよ、ね?」

 

 ―――正直に言って、この状況は一体何があって作りだされたのだろうか。

 彼が目を覚ましたと同時、他人事のようにそんな事を思いながら、自分の上に馬乗りになっているナフェを見つめて、まさかの事態に意識を呆然とさせていた。

 いつもの元気にあふれ、その裏では黒い事を考えていた邪気に溢れた姿とは違う。自分の醜い欲望に従って、どこか煽情的な、外観を遥かに超えた妖艶な美しさを兼ね備えた彼女は、いつも「命令」と「理性」で自分を押し潰してきた彼女の姿と比べると、その至るところが艶やかにアピールしているようにも思えてしまう。

 

 ピンク色の柔らかな唇からは厚い息が吐き出され、その隙間からは食欲に溢れた唾液がとろんと湧き出ている。行儀の悪い子供の様な仕草はいつものナフェとのギャップを更に感じさせた。ゆっくりと移動し、大きく開いた彼女の口が自分の腕を今にも噛みつこうと――

 

「って、待てぇい!」

「きゃ」

 

 全力でその場から離脱して、ビルの窓を叩き割って上空に躍り出た。

 首都圏に立てられた高層ビルの中腹辺りとはいえ、自分が睡眠を取ろうとしていたのは階層で言うなら12階の高さに相当する。そこで外に躍り出れば、当然地球の重力に従って堕ちて行くのみであるのだが、彼は普通の人間の括りを大きく超えてしまっている人間だった。飛び出た勢いそのままに斜めに向かい側の建物の壁に足を付けると、擦れて発熱を起こす事も厭わずにそのまま壁の表面を滑り落ちる。

 灼熱の感覚が足を伝わってきているが、今は思わぬ伏兵が未だ元に戻ってはいない蠱惑的な視線で此方を見下げてくるあの(背徳的な)怪物をどうにかせねば。そうして、彼は激怒した。必ず、かの食欲旺盛の欲を除かねばならぬと決意した。

 

 とは言うものの、何の解決法も思いつかない。どうせナフェも同じ穴の狢になった事だからといっそ体を喰わせてやればいいのかもしれないが、こうした今となってはそれさえも難しい。ナフェに喰わせるのは簡単なのだが、一つ問題点があるのだ。

 

「…俺の体、強靭過ぎんだよなぁ」

 

 そうである。彼の体は鉄骨が降って来ても逆に鉄骨が跳ね返り、コントのタライと同等の扱いになってしまうほどに強靭なのだ。それこそ、エイリアンの総督たる「彼女」が放つ攻撃でなければ傷さえつく事はないくらいに。

 おそらく傷の治る速度は普通の人間と同等だとは思うが、傷を負うまでに相当の労力を必要とする。一度実験的にPSSでの奥の手として製造しているレーザー兵器を自分の爪の先に照射して貰った事があったのだが、その際の結果は表面が焦げただけと言うある意味恐ろしい事になっていた。だから、あのままナフェが歯を突き立てていたら逆に彼女の口が大惨事になっていた事だろう。

 

「自分で引き剥がしたら皮の一枚は捲れそうなもんだけど……痛いのは嫌だしなぁ」

 

 どんな超人になったところで、傷をつけられると言うのは痛い。痛いのは嫌であるというのはどんな人間でも一緒だ。ごく一部にマゾヒズムを嗜んでいる界隈にとっては「ご褒美です!」とでも言うのだろうが、ならナフェに喰われてみろと言い放っておけばどういう反応をするのかが気になる。

 とにかくそんな妄想をするくらいに彼は追い詰められていた。頭には精神的にと言う文字がつくのだが。

 

 仲間がこうして暴れ出すなど予想の範囲外であり、その彼女を疎める方法も知らない。ならせめて起きた直後に聞こえた「ネブレイド」という単語から自分の体を喰わせればいいのかもしれないが、この場に都合よく適量の血液などを抽出できる物も持ち合わせなんてない。

 このままではナフェが餓死するのはないか、そんな不安から彼女も食事を同伴させていたのだが、それは欲求不満を解消する手立てには成らなかったと言うのが激しい後悔と自責の念を引き起こす。(見た目)あんなに幼い少女ひとり、満足させてやる事が出来ないのか―――

 

「なんて、かっこいい事言えたらなぁ」

 

 ズザザザザザッザザッザザザザァァッ! と断続的な音を立てながらビルを滑り降りていると、高みの見物は飽きたのか目をぎらつかせたナフェも同じく飛び降りる様子が見えた。だが、その落下速度は見た目相応の軽さによるものではなく、明らかに自分よりも重い物体が落ちるような初速。それもその筈、彼と同じく横に飛び出たのではなく、最初から彼に目掛けて地面を蹴って向かっているのだ。

 その彼女を見据えていると、唇が動いて言葉を発している事が分かる。読唇術でその言葉を読み取れば、それは悲痛と欲望に満ちた物だった。

 

――ねぇ……食べさせてぇ!

 

 視力の優れた彼は、ナフェがそんな懇願染みた言葉を発していると理解して胸を痛める。そりゃあ、こっちだって何とかしてやりたいがその手段がまず存在しない。何かを言い返そうと動かした声帯は、声にならずにただただ空気を吐きだすのみ。

 そうしている間にも飛びかかってきたナフェがその生体アーマメントとして移植したのであろう腕を振りかぶり、爛々と光らせた目から残光を引き延ばして口をゆがませる。そうしてお膳立てされた彼女の腕は凶悪に月の光を反射させ、彼が滑り降りているビルの一部に喰い込んだ。

 

 途端に、ビル全体に罅が入る音がした。その叩いた箇所を粉砕されたかに思われた一撃は、正確にこの建物の構造的な死の点を貫いたのである。その直後にバラバラになって崩れ落ちるビル。彼が滑り降りていた場所の先には崩壊しかけたコンクリートの雪崩が待ち受けており、このままでは変に軌道をよろけさせて彼女の魔の手に捕まってしまうかもしれない。そう考えた彼は滑り降りると言う行動からビルの壁を「駆け下りる」という行動に切り替え、瓦礫の一つに足を乗せて思いっきり蹴り飛ばした。

 

 それは「岩石雪崩渡りの術」。岩雪崩を引き起こしたのは彼ではなかったが、どこぞの忍者もその目を見開くほどに正確な雪崩渡りが此処で披露された。彼が直感的に感じた強さで岩を蹴り、その際に跳ね返ってくる力を利用して空中を自在に散歩するようにその場から離脱し始める。ナフェは彼のように正確に、とは言わないが、大きなビルの瓦礫に足を掛けては一直線に彼の元に向かい、何処からか引き連れた「チビすけ」をも足場に追いかけて行く。

 その様子を見た彼は向かい側のビルに着地して窓の出っ張りに手を引っ掛けると、腕力のみで自分を投げ、その頂上に向かってビルを駆けあがっていった。それにさえついてくるナフェの姿に、彼はヒューッ! と称賛を込めた口笛を吹いた。

 

 理性を失っていようとも、エイリアンの中では「智将」と呼んで過言ではない程の策士。その彼女は現在、彼を捕えるためだけに自分の持てる技術の全てを無意識化で使用して追いついている。彼の方はそれなりに色々対抗策を考えつつであるものの、「本気」で逃げ回っていると言うのに、である。

 それがどんなに常識はずれな事か。あの総督と「真っ向からやり合える」彼の速度に追いついているのだ。つまり、これは今後によってはナフェが総督と戦いあっても勝利する可能性を秘めていると言う事。スペックの限界突破? そんなものは上等であり常套と言わんばかりに、彼へ追いつく事が出来ている現状、其れは認めざるを得ない事実であり、同時にここで其れを発揮しなくてもいいだろうに、と言ったやりきれない感情に彼を苛んでいた。

 

「まだ追ってくる。……やっぱ、頑張るしかねぇか」

「待って、待って、待って、待って、待って、待って、お願い、待って」

「…怖っ」

 

 心からの恐怖とでも言うべきか、ただ一途な(食欲という)感情に支配された彼女が追ってくる形相は、その身体能力を褒める以前に恐ろしい。可愛らしさを伴った恐怖と言うものはトラウマとして根付きやすいが、皆さまは経験した事がないだろうか? たとえば、ロビー君とか。

 そう言った感じでロッククライムを繰り返してビルの頂上に到達した彼を、彼女は急いで追いかけてチビを足場に階段を作りだした。やはりエイリアンらしい人類を超越したフットワークで屋上に辿り着くと、手すりを掴んでその場に躍り出る。その直後に目に入ったのは、待っていたと言わんばかりに控えていた彼の腕。手すりのすぐ横に潜んでいた彼が、飛び越えて来た彼女を後ろから羽交い絞めにしたのだ。

 

 そうすることで、彼女は彼から逃れることはできなくなった。だが、その代わりにネブレイドによって取り込みたいと言う欲を掻き立てられる感覚がナフェの全身を駆け巡る。彼は腹をすかせた狼の前に投げられた生肉のようなものであり、そうした効果でナフェは全身が陶酔感にもよく似た感情でいっぱいになった。そうしてぽわっとしたまま口を開いた彼女を見ると、彼はここぞとばかりに行動を起こした。

 ナフェを捉える腕を一本にし、もう一方を自分の口元に持ってくる。そして腕の辺りを噛みちぎると、その初めて味わった痛みに顔をしかめつつも彼女の眼前に移動させ、拘束する手の方で彼女の口を無理に開けさせる。そしてナフェの顔を上に向かせると、そこに時間差で湧いてきた流血を垂らしこんでいった。

 その出血量は擦りむいた怪我などでは比べ物にならない程の怪我から滴り落ちる流血。まるで新しい湧水のようにドロドロと傷口から腕を伝って落ちてくる液体を飲ませるのは見る人が見れば変態だと言わんばかりの行為だが、今は此れが最善の方法だと思って我慢する。抉れた肉の断面が痛みに反応して筋肉繊維が動く様を見せつけられるのだが、その命の脈動を前にしてナフェは嬉しさで顔をほころばせるだけだった。

 

 ぴちゃ、こくん。ぴちゃ、こくん。

 

 そうする事が1分ほど経ったころだろうか。彼にとっては果てしなく長く感じた時間が過ぎ去ると、彼女はようやく、口の端から呑みこんでいた血液を垂れ溢しながら眠りについたようだ。すぅすぅと整った息遣いが聞こえて来た事から、ようやく落ち着いたのだと安心してその場にへたり込む。

 

「………はぁ。良かった、二つの意味で」

 

 彼は自分の手を握りしめ、その手の中に会ったコンクリートの欠片を粉々にしながらそう言った。実は、彼自身この手段にはある懸念事項があったのだ。

 

 それは、身体能力が消失する可能性。

 

 彼と言う存在がこの良く見知ったゲームや漫画の世界へ出現してから得たものではあるが、同時に此れが与えられた物なのか、はたまた「メルヘヴン」という漫画の主人公のように、異世界人である自分の体は此方では強化されていたのかは分からない。だが、こうして何らかの手段で敵側に摂取される事で力が出なくなる、というのは意外とお約束の展開であったりする。

 確かに此処は現実に最も近い創作物が「基準の」世界であるが、そんな馬鹿らしいメルヘンな事が起こらないとも限らない。別に魂どうこうオカルト的な事を言うつもりはないが、この場所でこの力が無くなることで人類を残せなかった、では自分が満足しない。自己中心的な考えだとは思うが、それでも人の為に尽くす事が出来る事なのだ。現実で、社会の歯車として貢献していたころの性分がどうにも出て来てしまう。

 

「……それを知らず、まぁ幸せそうに寝ちゃってよぉ」

 

 息をついて上着を破ると、ぐるぐるとかみちぎった右腕の患部に巻きつける。思わずやってしまったが、右腕は利き腕だったのでこれからの行動が難しくなるだろう。現実、痛みを余裕そうに噛み殺してはいるが、確かな苦痛となって脂汗が噴き出すほどには痛みを感じている。適切な方法もないまま噛みちぎってしまったので、結構な量の血液が染み出しているらしく巻きつけた上着の端切れが既に真っ赤に染まっていた。出血は少しずつ収まって来ているようだが、そんなものは関係ないと言わんばかりに血が流れ出ているのも事実である。

 

「ビルを最初の場所と同じ場所を選んで良かった。さっさと精のつくもん食って鉄分補給しないと……」

 

 目の前がぼやけているが、それでも懸命に先を見ようと踏みとどまりながら立ち上がった。ふらふらする体を無理に落ちつかせてナフェを左手で拾い上げると、彼女が眠りから覚めないように優しく抱きとめてゆっくりと歩き始める。屋上に会ったドアを開いて階段を降りると、彼は食糧もろもろを置いてある部屋を目指して歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

「……あれ、もう朝?」

 

 目が覚めてみると、どこか鉄臭さが鼻をくすぐっていた。錆びた鉄骨でも近くに会ったのかと思いながら体を伸ばすと、ギシギシとベッドのスプリングが跳ね、不安を煽る音を響かせていた。まだ思考に霞みがかった状態で辺りを見回すと、明らかに昨日、最後の記憶とは合致しない所にいるのだと思う。

 そして、先ほどから漂っている鉄の匂い。いや、どちらかと言うとそれは「血」の匂いだと言う事に気付いた。だからと言って、何がどうなる訳でも―――

 

 ――2033年1月 ダダリオ・ネクスト社が西アジア紛争から戻った有能な兵士を集めるために広告を作成。幾つかの偶然が重なりイメージ・キャラクターとしてシング・ラブが抜粋される。マリオンはシング・ラブのポスターを見て強く惹かれ、ダダリオ・ネクスト社と士官として契約する。

 

「……なに、今の?」

 

 明らかに自分の中には持ち合わせていなかった知識。

 それはマリオン司令官の今の位置に至る経歴で在ることから彼の記憶かと思ったが、彼の一部をネブレイドした事も無ければ、人間としての主観的な情報でもなかった。どちらかと言えば、よくある年表として書かれる一節に過ぎないかのような情報にナフェは混乱する。

 

 今思ってみれば、おかしい所は沢山あるのだ。途切れている昨日の記憶。そして此処で寝ていた事に対する違和感。そして―――口から漂う血の匂い。

 

 認めたくなかっただけなのかもしれない。だって、それは「彼」をネブレイドした事による、ずっと求めていた情報と言う事であって、彼を殺してしまっていると言う仮定が現実となって裏付けをとれてしまう事実なのだ。認めたくない、などと今更自分が言える立場でないことぐらい分かっている。だが、それでも……っ、まただ。

 

 ――2041年 生き残ったスタッフによって、最終計画検体(ホワイト)はカプセルに入れられる。検体は拒否したが、計画は強引に進められた。計画スタートの報告を受けたUEFは計画検体が「完成」する12年後に向けてPSSの編隊を始める。作戦コードはプロジェクト12。

 

「……ホ、ワ、イ、ト」

 

 ――エイリアン総督の願いは「自分をネブレイドする事」。そのために地球を襲撃し、完全同一個体(ホワイト)をクローンとして人間達に作らせることで目標を達成しようとした。いうなれば完全な思いつきで全てのエイリアン、全人類を巻き込んだ事になるが、最終的に計画は完全同一個体(ホワイト)である個体名称「ステラ」の同等の才能、そして同一の力を持つに至る経歴の違いによって敗北。地球は二体のみが生存し、エイリアン側はアーマメント含め全滅。最終的に「ステラ」はネブレイド機能を持たない事が災いし、ネブレイドすることなく遺伝子情報の再構成から人類再生を開始した。

 

 必死になって、彼女は更なる真実を求めて情報を引き出し始めた。その中をいくら探っても「彼」の存在は出てこないどころか、「ナフェ」が総督の元を離れてPSSに加担したと言う事実が浮かび上がってこない。その代わりに、こんな情報を見つけてしまっていたのだが、それは彼女にとって驚愕を遥かに超える物だった。

 

 ――A級エイリアン「ナフェ」は第五の刺客。死力を尽くして生存のために戦うも最終的には機能停止寸前まで破れた挙句、捕獲用アーマメント「ターミネーター」によって捕獲され総督の元へと連行される。「ステラ」がさらわれた同僚の「ナナ」と言う個体を追って総督の間に辿り着くまでに「ナフェ」はネブレイドされており、生体アーマメントのパーツの身が転がっていた。

 

「……は、はははは…………あたし、結局死んじゃってるじゃん」

 

 そうして、最後の知識が待ってましたと言わんばかりに勝手に彼女の脳内に映し出される。その内容は自分たちの存在を否定するかのような一文がつづられていた。

 

 ――これらが、「ブラック★ロックシューター The GAME」、ゲーム版及びにコミックス版における大まかな概要である。

 

 ゲーム、コミックス。ストック達が作り出した娯楽の一つに過ぎないチンケな物に、自分たちと言う情報の全てが設定され、殺され、決まった形に動かされているのだ。エイリアンの中でも誇りなどと言うものにかまけるナフェではないが、この「観測上位世界」に位置するものがあると知った以上、今までの自分の全てが馬鹿らしくなった。

 コミックス版とやらの方を見てみたが、そこにも結局は月の本部に通じているエレベーターで「ステラ」達に未来を任せ、自分は壊れかけたエレベーターの制御を行って運命を共にしたと最後が描かれていた。つまり、どちらにしても自分は死んでいる運命だったのだ。

 

「…起きてたか」

「生きてたんだ」

 

 反射的に口から出た言葉は、酷く冷めた物だった。唐突に姿を現した彼に対して、なぜか嬉しいと言う感情が込み上がってきたものの、それはこの世界の真実、総督の本当の目的を知ったことで一瞬で掻き消されてしまっていた。

 

「やっぱり血液でも見れるモノなんだな」

「ネブレイドは分けても情報が少なくなる事はないから。食べ残しがないのは情報を得ることに貪欲になって、全部吸収しようと思っているだけ」

「淡白な反応だな。まさか、“自分はキャラの一つでしかない”とでも思ってんのか?」

「あんたはそれが目的で近づいたんじゃないの? 大抵の“人間”はそんなどうでもいい望みから優越感に浸ろうとするものだって思ってたんだけど」

「まっさか。大体あの総督様と出会ったのだっていきなりだったし、お前と旅をしてるのはある意味成り行きだったぞ?」

「……ふ~ん」

 

 もう、どこまでが本当なのかが分からない。

 彼が言っている事は心からのものかもしれないし、もしかしたら言った通りの野次馬根性からきているだけの好奇心で動いている馬鹿なのかもしれない。だが、その真偽を確かめるには彼と過ごしていた自分のカンしかなくて、それで全てを証明するのはエイリアンとしての考え方が赦さない。

 こんなことなら人間らしい感情なんて持たなければよかった。

 そうしたなら、こんな自問自答なんてしなかった。

 エイリアンのままなら、気にいらない物と気にいった物だけで考える事が出来た。

 

「もう」

 

 自分と言う存在が分からなくなってくる。

 

「やだぁ……」

 

 

 

 

 

「もう、やだぁ……」

 

 それだけを言って、ナフェは涙を流しながら埃っぽいシーツに倒れ込んだ。

 初めて見た彼女の泣き顔は、見ているだけで胸が苦しくなる物だったが、それが自分の引き起こした結果であると自覚すると我ながらに自分自身に嫌気がさしてくる。

 

 自分の場合はこういった「原作知識」と呼ばれる物をあくまで「情報」として扱っているに過ぎないのだが、ナフェという感情や人間らしさを知り始めたばかりの彼女にとっては、この知識は「気持ち悪いもの、異物、価値観の破壊」として感じ取れたに違いない。だからこそ何を信じていいか分からなくなっているのだろうし、こうして初めて負の感情を露わにしているのだろう。

 

 その事が、何よりも悔しかった。

 自分がもっとしっかりしていれば、もっと「エイリアンらしい思考」の時のナフェだったなら、この程度の知識は自分のように有効活用の一種として折り合いを付け、この場面でこうして自我を揺るがす事もなかっただろうに。

 

「……言ってても、過去は変えらんねーべ。ったく、やーになっちまわ」

 

 ずっと自分を覆っていた「一般人」の皮が剥がれ始めた。どこか田舎くさい、それでいて標準語が混ざった中途半端な田舎でも都会でもないあやふやな自分自身。それがこの場所でナフェを見て出てくるとは思わなかったが、つまり、自分もそれだけの混乱に陥っているのだなぁと、どこか他人事のように考察していた。

 

 だが、ナフェが未だその顔を泣き腫らして眠っているのはどうしようもない事実だ。ここで漫画の中を引き合いに出すのも何だが、確か彼女はシズから「友達がいない」と言われていた筈だ。UEFの本部には研究部以外は人類の共同体としての自覚があるのか老若男女が結託して生活を助けあっている(一部自分勝手の例外はいる)が、ナフェはその中でも仲が良い子供は中々おらず、PSSメンバーやお年寄りの一部と少ない交流があるだけだった。

 きっと、心のどこかでエイリアンという違いを感じて遠慮していた、もしくは「情報収集元(ストック)」として見下していたのだろう。だから、実質的には彼女はずっと孤独だったのかもしれない。あくまで自分の貧相な想像力に過ぎないものだが、結局は同じ「人型」をした者同士。精神的に近しい部分はあるかもしれない。

 

「……目、覚ましたら…何言われるんだろうなぁ」

 

 仕方ない、仕方ない。役得だと思って彼女を背負うのではなく出血が止まった(・・・・・・・)腕で抱きかかえると、なるべく包み込むように彼女を持ち上げた。ひと肌の温かさに触れたからか、単に暖かい物に安心感を抱いたのかは読み取れないが、腕の中のナフェの表情は少なからず和らいでいるようにも見える。

 

「やれやれ、パパは辛いもんだ」

 

 冗談まじりに彼女が言った事も、あながち間違いじゃないかもしれない。

 苦笑と共に大地を踏みしめながら、彼は首都アスタナをたったの一歩で離脱したのだった。




そういうことで、ナフェちゃんがついに「原作知識」を手に入れました。
初めて一話のうちに街以上の距離を移動しなかった回でしたが、その代わりと言わんばかりに忍者のように岩石雪崩渡りしちゃいましたね。詳しくはサスケかカムイ外伝。

原作改変をどんどん行うなか、原作知識が役に立たたなくなってきている彼は一体どんな動きをするのか? 以下、次回予告!



 新たな都市に到着したが、異様な気配に気がついた。

「…そうか、ここは――――」
「あ、……れ」

 目を覚ましたナフェ、その瞬間に青白い半透明のヒト型が二人を取り囲む!
 それから色々とあって、ついにその町の真実に気付いたのだった。

「仕方ない、腕っ節しか取り柄がないがひとまずやりますかね。やるぜ? キュアラビット」
「当ったり前じゃんキュアウルフ。アンタの部下は居ないから、もう逃げ場はないよ~」

 二人の手が重なる時、正義の光の戦士が誕生する……

 次回、アニマライズプリキュア!
 ~幽霊がでる廃墟!?~
 みんなも一緒に、ラ~イフ・シェイク!!



まぁ当然嘘予告です。

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