妖怪の賢者と龍の子と【完結】   作:マイマイ

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謎の女性祓い屋を退けた紫。
その後、屋敷に戻ろうとした彼女の前に文が現れた。

妖怪の山の中で見た事がない大穴が発見された、彼女の言葉を聞いて紫は龍人と共に勇儀達の元へと向かった……。


第82話 ~地下世界へ~

「――凄いもんだな、これは」

 

 龍人の呟きが、場に響く。

 妖怪の山のとある一角、鬼の里や他の妖怪の住処からも離れた場所に紫と龍人は案内された。

 そこには既に勇儀と萃香、華扇の姿もあり、3人が向けている場所へと視線を向け……龍人はおもわず上記の呟きを零してしまう。

 

――そこに広がるのは、まるで隕石が落ちた跡のような巨大な大穴であった。

 

 ぽっかりと開いたそれは底が見えないほど深く、まるで入れば二度と出られないような錯覚に陥る不気味さを醸し出している。

 いや、雰囲気だけではない。

 この大穴の中から、認識しきれない程の様々な負の念が感じられる。

 湧き上がっていく不快感を無視しつつ、詳細を訊く為に紫は勇儀達へと問いかけた。

 

「この穴は、昔からあったの?」

「いや、念のため隠居した親父――絶鬼にも訊いたけど、こんな穴はなかったそうだ」

「だとするとつい最近出来たというの? でもこんなにも巨大な大穴、誰も気づかずに出来るとは思えない」

「うん。私達も紫と同じ意見だよ、でも事実として山の誰もがこの穴の存在を知らなかったのは確かなんだ」

 

 だからこそ解せないと、萃香は大穴を睨みつつ言った。

 しかし本当に誰もこの大穴に今まで気づかなかったのだ、それが不可解で……不気味であった。

 一体誰がこのような大穴を作ったのか、目的はいったい何なのか。

 何もかもが不明慮である以上、考察すらできないこの現状はもどかしいものであった。

 

「……調べるしか、ないな」

「そうさね。実際この中から怨霊が出てる事は間違いないんだ、この中で何が起きているのか確かめないと」

「けど勇儀、もしもの時の為に私達の誰かが残っていた方がいいと思う」

「そうだねえ……よし華扇、アンタは山に残っておいてくれ」

「わかったわ」

 

「それじゃあ、行くとしますか!」

 

 言いながら、躊躇いなく穴へと降りていく勇儀。

 それに続く萃香と龍人と紫、ゆっくりと降りながら下に続く闇の世界へと足を踏み入れる。

 大穴は見た目通り深く、無言のまま数分間降り続けたが一向に一番下が見えない。

 

「こりゃあ本当に深いねえ、下手すると地面の下まで続いているんじゃないかい?」

「空気が淀んできている……間違いなく地面の下まで続いているだろうけど、この空気は……」

 

 あまり長居したいとは思えない、暗く危険が香る空気に紫は自然と顔をしかめていく。

 幻想郷の里の暖かで澄んだ空気とは違う、怨霊のようなこの世ならざる者達の空気が充満していた。

 その証拠に、深く潜っていくにつれ周囲に漂う怨霊の数が増え始めている。

 

「おおー、すごい怨霊の数だね」

「萃香、どうして楽しそうなのよ?」

「だって最近刺激的な事がなかったからさ、いい暇潰しになりそうだなーって」

 

 そう言いつつ、降りながら酒を飲むという器用な芸当を披露する萃香。

 なんと暢気なと呆れつつも、楽観的な彼女の存在は良い意味で紫達から緊迫感を薄めていった。

 その後も周囲に漂う怨霊を鬱陶しいと思いながら降りていく紫達。

 

 変わらぬ景色にいい加減飽きてきたと思った矢先――“それ”はゆっくりと紫達の前に現れた。

 

「おや? 見慣れない妖怪達だけど……どちら様かな?」

 

 軽快な声と共に紫達の前に姿を現したのは、黄色に近い金の髪と茶色の瞳を持った少女であった。

 全体的にゆったりとした服装に身を包んだその少女は、紫達に向かって好戦的な笑みを浮かべながら再び問いかけを放つ。

 

「あんた達は一体誰だい? この“地底”では見ない顔だけど……」

「俺は龍人。半妖だ」

「半妖……? そんな半端者がどうしてこの地底世界に居るんだい?」

「ちょいとお待ちよ。名を訊いておいて自分は名乗らないなんて随分といい度胸をしてるねえ?」

 

 不機嫌そうに顔をしかめつつ、勇儀は少女を睨みつける。

 彼女の態度を見て少女は若干不快感を見せるが、すぐさま驚いたように目を見開いた。

 

「……もしかして、鬼?」

「ああそうだよ。あたしは星熊勇儀、そして後ろに居るこの子は伊吹萃香。お前さんの言う通り鬼さ」

「うわー……その角からしてもしかしたらと思ったけど、まさか鬼に出くわしちゃうとはねー」

「今度はそっちが名乗る番だよ?」

「…………黒谷(くろだに)ヤマメ、土蜘蛛の妖怪さ」

「へえ、土蜘蛛とは随分と懐かしい妖怪だ」

 

 言葉通り、懐かしむように言いながら萃香は若干の驚きを見せている。

 彼女が懐かしむのも当然だ、土蜘蛛という種族は鬼と同じく古い歴史から存在している妖怪であり、百年ほど前からめっきり姿を見なくなったのだ。

 かつて自由自在に病を操る力を持った土蜘蛛を人間達は天敵と恐れ、数多くの討伐の記録が残されている事からも、この種族が妖怪として上位に位置する事が覗える。

 

「そんで、そっちの不気味なほど綺麗なお姉さんは何者かな?」

「この子は八雲紫、アンタも妖怪なら名前ぐらい知っているだろう?」

「八雲……ああ、とんでもなく反則な能力を持ってる大妖怪様か。それで、その大妖怪様がこの地底に一体何の用なのかな?」

「その前にこっちの質問に答えて頂戴。この地下世界は一体何なの?」

「ここは“地底”と呼ばれる地下の世界、私のような地上の嫌われ者が流れ着く陰気な場所さ」

 

 少女――黒谷ヤマメの話を聞くと、ここには地上で忌み嫌われたり封印されたりした妖怪達が暮らしている場所らしい。

 そのような場所がある事を知り紫達は驚きを隠せなかったが、すぐさま彼女は問いかけを続ける事に。

 

「この怨霊達は何? それに地上にある妖怪の山にここへと繋がる巨大な大穴を開けたのは、一体何者なの?」

「うーん、それがさ……実は私達もわからなくて困ってるんだよ」

「どういう事だい?」

 

 ヤマメ曰く、この地底には確かに地上よりも数多くの怨霊が存在していた。

 だが最近になってその数は増え続け、けれど地底に住む誰もがその原因がわからず不可解に思っているらしい。

 

「そもそもこんな長く深い穴だって今まで無かったんだよ。それがいきなり現れてこっちも何が何だか……っていうか、地上まで繋がってるんだこれ……」

「ここで暮らしてるお前達も、この穴が誰の手で作られたのかわからないのか?」

「うん。そもそも私達が暮らしてる場所自体そんなに広くないからさ、活動範囲が広がったのはいいんだけど……経緯がわからないと、不気味なんだよねー」

 

 肩を竦めるヤマメ、その口調からは偽りの色は見られない。

 ……ますます解せないと、紫は頭を悩ませる。

 こんな地下深くで妖怪が暮らしている事に対しても驚きだが、その誰もがこの大穴を開けた存在を認識してないとはどういう事なのか。

 

「なあヤマメ、お前さん達を統率してる妖怪はいるのかい?」

「そんなヤツなんかいないよ、ここの連中は自由気ままに生きてて縛られるのは嫌いな輩ばかりなんだから。ああ、でも少なくとも私よりも今回の事情を知ってそうなヤツは知ってるよ。よかったら案内してあげよっか?」

「本当か? 助かる」

「どうやらあんた達はこの怨霊をなんとかするために地上から来たみたいだからね、利害の一致ってヤツさ」

 

 ついてきてー、そう言ってヤマメは下へ向かって降りていく。

 ……信用してもいいのだろうか、そんな不安が紫の脳裏に浮かぶ。

 しかしそうこうしている間にも龍人はさっさとヤマメを追いかけ始めたので、紫は考える事を止め彼の後を追ったのだった。

 

 

 

 

 更に地下深くを潜っていき――数十分という時間を掛けて、紫達は漸く一番下まで辿り着いた。

 そこからは、徒歩で横に広がっている洞穴を歩いていく。

 足音だけが静かに響く中、静寂を嫌ったのか萃香が口を開いた。

 

「ねえ、ヤマメ」

「はいはい、なんでござんしょ?」

「事情を知っているかもしれないヤツってさっき言ってたけど、そいつは一体何者なの?」

「私と同じくこの地底に住んでいる妖怪で、(さとり)妖怪の姉妹だよ」

「覚……そんな妖怪まで地底に移り住んでいたとはねえ」

 

 意外な名が飛び出した事に、紫達は何度目か判らぬ驚きを見せる。

 

 覚妖怪。

 他者の心を読み、その者の心の中にある闇を無理矢理思い起こさせるという凶悪な妖怪だ。

 人間にも妖怪にも嫌われるという珍しい妖怪であり、かつては妖怪の山に居たという話を絶鬼が話していた事を勇儀達は思い出していた。

 

「私もあんまり会いたくないんだけど、今回ばかりはしょうがない…………っと、見えたよみんな」

 

 ヤマメがそう言うと、紫達の視界に洞穴の出口が見えてきた。

 そして洞穴を抜けた彼女達の前に広がる光景は……この地下世界には不釣合いなものだった。

 

――街が、広がっている。

 

 円形のドーム状にくり抜かれた広い空間の中に、長屋のような建物が密集して広がっている。

 それはまさしく街、否、広さからして都と呼んでも差し支えの無いものだった。

 陽の光など通さないこの深い地底世界にて、独自の文化が広がっているという事実は、紫達を驚かせるのに充分過ぎる光景だ。

 

「立派なモンでしょ? いくら粗暴な妖怪達が集まってるっていってもそこらの大地で雑魚寝をするわけにもいかないからさ、数十年ぐらいかけて材料を集めては造っての繰り返しでどうにか形だけは整えたんだ」

 

 少しだけ誇らしげに、ヤマメは言う。

 だが、それだけの労力が掛けられているのは見るだけでもわかる、誇らしく思うのは当然だ。

 

「こんだけ大きいなら、美味い酒も置いてそうだね」

「まあね。ただ地上とは環境が違うから癖のあるモノばっかりだけど」

「それを聞いてますます楽しみになってきた。よし、まずは美味い酒を飲みに行くぞー!!」

「おー!!」

 

 言うやいなや、都に向かって突撃していく勇儀と萃香。

 紫が止めようとした時にはもう遅く、2人の行動に当然のように頭を抱えてしまった。

 

「あちゃー……大丈夫かな、ここに住む妖怪達は好戦的な輩ばかりだからちょっと心配だよ」

「紫、俺達も行こう」

「……そうね、はぁ」

 

 あの2人、ここに来た目的を忘れているんじゃないだろうか。

 いや、絶対に忘れている。すんなりと確信できた事にまたしても頭が痛くなりつつ、紫は龍人達と共に先に行った勇儀と萃香を追いかけ始め。

 

『ぎゃああああああっ!?』

 

 爆音と共に、複数の悲鳴が聞こえ。

 完全に面倒事になってしまったと、紫達は今度こそ理解してしまった。

 

「………………」

「……今の悲鳴って」

「勇儀と萃香のヤツ、喧嘩を吹っかけてきた奴等をぶっ飛ばしたのか?」

「そうでしょうね…………ああ、もうっ!!」

 

 急ぎ、悲鳴が聞こえた場所へと向かう紫達。

 辿り着く前に、もう一度爆音と悲鳴が聞こえ、痛くなる頭を抱えながら到着すると。

 

「あっはっは、あたし等に喧嘩を売るのはいい度胸だったけど、ちょいと実力が伴ってなかったみたいだね!!」

「ほらもう終わりなの? こんな程度じゃないでしょう?」

 

 様々な異形の妖怪達を地面に沈ませながら、愉快愉快とばかりに笑っている勇儀と萃香の姿が見えた。

 どうやら龍人の言った通り、喧嘩を売られたので嬉々として買ったと同時に問答無用でぶっ飛ばしたのだろう。

 酒と喧嘩が何より好きな鬼らしい行動ではあるが、2人の行動は完全に悪手である。

 

 そもそもこちらは喧嘩に来たわけではない、だというのにどうして自ら問題を引き起こすのか……。

 まるで昔の龍人の振り回れっ放しが戻ってきたような感覚に、少しだけ懐かしみながらもその何倍もの精神的疲労が紫に襲い掛かる。

 

「ヤ、ヤマメちゃん!! な、なんなんだこいつらは!?」

 

 妖怪の1人が情けない声でヤマメへと詰め寄った。

 それと同時に、周囲の妖怪達の視線が紫達へと向けられる。

 驚愕、警戒、そして敵意の色が込められた視線。

 ……完全に誤解を生んでしまったようだ、しかもよりによってその原因となったのが龍人ではなく勇儀達だというのだから余計にややこしい。

 

「えっとねえ、この人達は地上からやってきた妖怪で……」

 

「何っ!? 地上から!?」

「おい、よく見るとあの角……まさかあの2人、鬼か?」

「鬼!? そ、それにあの金髪の女は八雲紫じゃ……」

「八雲!? あの八雲紫か!?」

 

 ざわざわと騒ぎ出す地底の妖怪達。

 

「ほらほらどうした? まだまだこっちは動き足りないよ?」

「腕に覚えのあるヤツは、片っ端からかかってきな!!」

 

 尚も場を引っ掻き回そうとする勇儀と萃香に、八雲紫さん約600歳はとうとう堪忍袋を尾がそりゃあもう盛大にブチ切れた。

 

「黙りなさい、この阿呆鬼!!」

 

 叫ぶようなツッコミを放ちながら紫は瞬時に2人へと詰め寄り、両腕に全力の妖力を込め2人の頭に拳骨を叩き落した。

 爆撃めいた打撃音が響くと同時に、その凄まじい破壊力で鬼の2人は頭から地面に陥没。

 

「ふーっ、ふーっ」

『………………』

 

 その光景に、周囲の妖怪達は完全にドン引きした。

 けれど紫の怒りは当然収まらない、地面に沈んだ2人の顔を持ち上げて。

 

『はぶぶぶぶぶぶぶぶっ!?』

 

 超高速のビンタをお見舞いしてやった。

 当然ながらしっかりと妖力を込めてである、それから数分間まるで機関銃のようなビンタの音が周囲に響き続け。

 

「何か、言いたい事は?」

『……すみませんでした』

 

 仁王立ちして腕を組む紫の前に、正座する鬼2人という奇妙な構図ができあがっていた。

 その光景に、誰もが唖然とし口を挟むなどという者も現れない。

 

「紫って、怒ると恐いだろ?」

「あ、あははは……」

 

 龍人の言葉に、ヤマメは曖昧な笑いを零すのみ。

 何やら場がなんともいえない空気に包まれる中、紫の鬼2人に対する説教は続いている。

 お前等何しに来たんだよ、周囲の妖怪達が揃ってそんなツッコミを心の中で放つ中。

 

「――ちょーっと待ったあっ!!」

 

 やけに楽しそうな声が、上から聞こえてきた。

 全員の視線が上に向けられる、そこに居たのは……高台に立つ、珍妙な三人組。

 そう表現すると語弊があるかもしれないが、少なくとも紫にはそう見えたのだから仕方がない。

 

 1人は短い黒髪を持つ少女、可愛らしい顔立ちだが右手に持つ身の丈を大きく超える巨大な錨にばかり目がいってしまう。

 もう1人は尼を思わせる紺色の頭巾を被った水色の髪の少女、服装も落ち着いていて正直もう一人の少女と違って特徴的な特徴は見当たらない。

 そして最後の1人は…………“雲”だった。

 雲である、人間の老人のような顔だけの桃色の雲の傍には同じく雲で形成されているであろう拳が浮いている。

 

(……何あれ?)

 

 そう思わずには居られない程、珍妙な三人組に紫はある意味圧倒された。

 その間に「とうっ!!」などという掛け声と共に高台から降りる黒髪の少女と、それに続く頭巾の少女と雲。

 

「みなみっちゃーん!!」

「イッチー!!」

「雲山さん、一輪さんをオレにくださいお願いします!!」

 

 周囲の妖怪達が騒ぎ出す、若干おかしな言葉が聞こえたがきっと気のせいだろう。

 声援を受け黒髪の少女がドヤ顔を見せてきたので、とりあえず紫は鬼2人を正座したまま珍妙三人組と対峙する。

 

「とりあえず状況はわかんないけど、アンタが一番悪そうだからぶっ飛ばす!!」

「…………は?」

村紗(むらさ)、ちょっと黙ってて」

 

 いきなり宣戦布告してきた黒髪の少女を制しながら、今度は頭巾の少女が紫に話しかけてきた。

 

「この子の事は気にしないで。私は雲居一輪(くもい いちりん)、こっちは私の相棒の雲山(うんざん)よ。見た所地上の妖怪のようだけど……」

「あたしは村紗水蜜(むらさ みなみつ)、元気で明るい船幽霊でーす!!」

「……八雲紫、お察しの通り地上から来た妖怪ですわ」

「八雲……あなたがあの」

 

 紫の名を聞いた瞬間、一輪と名乗った少女の表情が変わり、雲山という名の雲も眼光を厳しくさせる。

 

「……珍しいわね。入道使いか」

「わかるの?」

「これでも博識を自負していますから。そちらの雲は“見越入道”だとわかれば、それを従えているあなたは入道使いという結論に達しますわ。まあそんな事はどうでもいいです、一体何の用ですの?」

「そりゃあもちろん、地底の平和を守る為にあんた達を」

「雲山」

「あ、ちょっと雲山何すんのもごごごごごっ!?」

 

 会話の邪魔になると判断されたのか、口を開いた村紗を後ろへと連れて行く雲山。

 漫才でも披露しに来たのだろうか、そう思いながら紫はあからさまな嘲笑を一輪達へと向ける。

 

「あなた達地上の妖怪が、この地底に来た理由は何?」

「…………」

 

 何度も説明するのも面倒なものだ。

 そう思いつつも、余計な確執を生みたくない紫は一輪達にここへ来た目的を話す。

 

「怨霊をね……確かに、こちらとしても鬱陶しいとは思っていたけれど」

「もし協力してくれるのであれば、助かるのだけど?」

「………………」

 

 紫の問いには何も答えず、一輪は懐から金に輝く輪を取り出し両手に装着する。

 瞬間、彼女と雲山の間に妖力によるパスが生まれた事を紫は察知し。

 同時に、彼女がこちらに明確な敵意を見せた事を理解した。

 

「……あの2人の愚行の後だと信用できないでしょうけど、こちらとしては協力をしたいと思っているわ」

「それが信じるに値するという根拠は何処にあるの? それに私はあなたと、そこの彼を信用できない」

「あら? それは何故?」

「あなた達2人からは人間の匂いがする。人と共に生活しているというのがわかる程にね、そんな妖怪を私は決して信用しない」

 

 そう言い放つ一輪の言動からは、人間に対する強い怒りと憎しみが感じられた。

 かつて人間に何かされたか、それとも何か大切なものを奪われたのか。

 そのどちらにせよ……紫にとって興味のない話だ。

 

「自分達の言い分を通したいのなら“力”で示しなさい。この地底はそういう世界なのよ」

「おっ、いいねえ。そういう考え方は好みだよ」

「勇儀……」

 

 一輪の言葉に賛同する勇儀を、紫は軽く睨みつける。

 だが彼女はその視線を飄々と受け流しながら、言葉を返した。

 

「郷に入っては郷に従え、ってやつさ。お前さんだって言葉だけで説得できるとは思ってないだろう?」

「………………」

 

 その言葉には、反論する事はできなかった。

 視線を龍人へと向ける、紫が前に出て話しているからか先程から彼は傍観を決め込んでいた。

 けれど一輪がこちら側に敵意を見せると同時に、彼もいつでも動けるように内側から“龍気”を放ち始めている。

 どうやら彼も自分から仕掛ける事はしないようだが、勇儀と同じ考えのようだ。

 

(致し方ない、か……)

 

 そう思いながら、紫は音も無く愛刀を両手に出現させる。

 それを見てますます眼光を光らせる一輪と雲山、そして後ろに追いやられていた水蜜の表情も変わった。

 

「加減は不要よ」

「イッチーとあたしとついでに雲山の連携に、勝てるかしらね?」

(入道は“ついで”なのね……)

 

 どうもあの村紗水蜜という船幽霊の少女は、余計な事を言う性質のようだ。

 彼女の言葉で、地味に落ち込んだ表情になっている雲山を見るとそう思わずにはいられない。

 

「紫、手伝うか?」

「貴方が参戦すると相手が消滅する危険性があるから、見ているだけにして頂戴。もちろんそこの2人は正座を続行してなさい」

『えーっ!?』

 

 いやだー、私も喧嘩するー、律儀に正座を続けながらも好き勝手言い放つ2人は当然無視。

 

 力加減に注意しつつ戦うようにと己に言い聞かせ、紫は妖力によるブーストを仕掛け一気に3人との間合いを詰めて。

 

 

 

「――そこまでに、していただけませんか?」

 

 

 

 

To.Be.Continued...




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