妖怪の賢者と龍の子と【完結】   作:マイマイ

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紅魔城と紅魔館、二つの場所で死闘が繰り広げられる。
紅魔館にて宿敵であるアリアと戦う紫であったが、激情に駆られるアリアのとある一面を理解してしまう……。


第74話 ~浮かぶ疑問、理解する驚愕~

 

 地を蹴り、美鈴は真っ直ぐ敵である拳王へと向かっていく。

 踏み込みながら彼女は“気”を練って握り拳大ほどの大きさの気弾をそれぞれの掌に生成。

 愚直な彼女の動きに嘲笑を送りながら、拳王は美鈴の頭部を粉々に砕こうと右の拳を放つ。

 風を切り裂くその拳は、人でありながらあの鬼の拳にすら匹敵するほどの強大な破壊力を秘めている。

 

「っ」

 

 それを美鈴はギリギリまで引付け、当たる直前に頭部だけを真横に動かし攻撃を回避。

 しかし拳圧により彼女の頬には決して浅くない裂傷が刻まれるが、それには構わず美鈴は更に拳王との間合いを詰める。

 互いに密着するほどの距離まで踏み込んだ美鈴は、両手にある気弾を拳王の胸部へと叩き付けた。

 

「星脈連弾!!」

 

 生命エネルギーの塊である気弾をまともに受け、拳王の身体が後退していく。

 防御もできずにまともに受けた、だが拳王は両足に力を込め地面を削りながら後退する事で吹き飛ばされるのを阻止。

 星脈連弾を当てられた胸部から煙を発しながらも、顔を上げた拳王には愉しげな笑みが浮かんでいた。

 

「し――!」

 

 自分の渾身の一撃が効いていない事に顔をしかめつつ、美鈴は再び踏み込んだ。

 続いて繰り出すのは右足による頭部を狙った回し蹴り。

 拳王の頭部を真横から蹴り砕かんとする一撃を放つ美鈴であったが、その蹴りは拳王の左手によってあっさりと受け止められてしまった。

 

「くっ、この……!」

 

 右足を掴まれたまま、美鈴は左足による蹴り上げを放つ。

 けれど不発、拳王は上体だけを逸らし彼女の蹴りを回避し。

 

「ぬうんっ!!」

「うわっ――――がっ!?」

 

 右足を掴んでいた左手を大きく振り上げ、その剛力を用いて美鈴の身体を勢いよく地面に叩きつけた。

 爆撃めいた音を響かせながら、叩きつけられた美鈴の身体が地面に沈む。

 更にその余波によって周囲の地面に亀裂が走り、如何に今の叩きつけによる破壊力が凄まじいのかを物語っていた。

 地面に沈んだまま、美鈴は起き上がらない。

 それを見て拳王は小さく鼻で笑いながら、腕を組んで戦いを観戦していた龍人へと視線を向ける。

 

「さあ、次はヌシの番ぞ? 今度こそ楽しませてもらおうか!!」

「……それは無理」

「なに……?」

「だって――まだ勝負は終わってないだろ? 美鈴」

 

 龍人がそう告げた瞬間、地面が爆ぜた。

 それと同時に飛び出してくるのは、額から血を流しながらも瞳に先程以上の闘志を宿した美鈴であった。

 完全なる不意打ち、拳王もその奇襲に反応するのに一歩遅れてしまい。

 

「天龍脚!!」

 

 虹色のオーラを纏った渾身の蹴り上げを、まともに受ける事となってしまう。

 しかし美鈴の攻撃はまだ終わらない、吹き飛ぶ前に彼女は強引に拳王の服を掴み上げ、腹部に膝蹴りを叩き込む。

 更に掴んでいた服を放すと同時に肘鉄、掌底、後ろ回し蹴りを連続で繰り出し。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 両の拳を用いて、凄まじい拳撃の嵐を拳王へと叩き込んでいった。

 まるで機関銃のような速さの打撃音が周囲に響く、美鈴は一気にこれで勝負を決めるようだ。

 

「……凄まじい拳じゃな、あの娘……あんなにも強かったのか?」

「妖怪としての強靭な肉体だけでなく、人間が編み出した武術にも通じている。美鈴殿を見てると単純な力の大きさだけで勝負が決まるわけではないと思い知らされますね……」

「…………」

 

 既に百以上の拳打を与えている美鈴のラッシュは、終わりを見せない。

 彼女の打撃は確かに届いているだろう、拳王は血反吐を吐きながら反撃する事もできず打たれるがままだ。

 ……だが、拳王から重く凄まじい“気”が少しずつ溢れ出しているのを、龍人は感じ取っていた。

 美鈴もそれに気づいているのだろう、圧しているというのに彼女の表情には確かな焦りの色が見える。

 

「コォォォォ……!」

 

 拳打を止め、呼吸を整える美鈴。

 次の一撃で確実に仕留める為、彼女は体内の“気”を一気に放出しながら――必殺の一撃を繰り出す。

 

 両手を拳王へと向ける美鈴、そこから現れるのは練りに練った気弾であった。

 しかしその気弾の大きさと密度は今までの比ではない、秒を待たずに大きさは美鈴の長身を易々と呑み込める程に大きくなっている。

 更に気を練って気弾の大きさを上げていく美鈴、そして。

 

星脈地転(せいみゃくちてん)超練気弾(ちょうれんきだん)!!」

 

 五メートル超まで肥大化した巨大気弾を拳王に叩き込み、周囲の地面や空気を吹き飛ばしながら、彼の身体を遥か後方の森まで吹き飛ばしてしまった――

 

 

 

 

 一本の神剣と、二本の魔剣が凌ぎを削る。

 風切り音を響かせながら、2人の女性は互いに相手の命を奪う為に己が獲物を振るっていた。

 その内の1人――紫は息を乱しながら自身が持つ光魔と闇魔を大きく振り上げる。

 それを見たもう1人の女性――アリアは紫の行動を冷たく見据えながらも、手に持つ神剣を真横に構え防御の体勢に。

 

 上段から振り下ろされる二刀の一撃、加減も躊躇いも存在しない紫の一撃はしかし、あっさりとアリアの神剣によって受け止められてしまった。

 暫し鍔迫り合いになりながら互いに相手を睨む両者、やがてどちらからともなく距離を離し仕切り直しに。

 

「フゥ……フゥ……」

「…………」

 

 呼吸を整えている紫とは対照的に、アリアは息一つ乱していない。

 それが両者の明確な力の差を表しているように見え、紫は歯噛みしつつも光魔と闇魔を持つ両手に力を込めた。

 

 既に紫とアリアは崩壊した紅魔館から離れ、近くの山岳地帯にて戦いを繰り広げていた。

 遠くでは僅かに戦闘音が響いている、ゼフィーリアとロックもまた戦っているのだろう。

 

「……見苦しい女」

「…………?」

「勝てないと理解しているのに、尚も立ち向かう……それがどれだけ愚かしい事なのか、わからないわけではないでしょう?」

「……そうね。私自身内心では今の自分じゃあなたには勝てないと理解しているわ、でも――逃げるわけにはいかないのよ」

 

 たとえ逃げる事ができたとしても、その瞬間に“八雲紫”は死ぬだろう。

 もう自分は1人で生きているわけではない、背負うものがあり支えたいと思う存在が居る今の紫に、安易な逃げは許されなかった。

 だからこそ紫はアリアに立ち向かう、勝てないという理屈すら乗り越えた未来をこの手で掴む為に。

 

「彼の真似事をしようとも、自らの醜さは決して隠せないのよ?」

「本当に私を心底嫌っているのね。――龍人の傍に居る私が、羨ましいのかしら?」

「…………」

 

 紫が口元に挑発めいた笑みを浮かべたまま上記の言葉を口にした瞬間、アリアの纏っていた空気が一変する。

 凄まじい、などという表現すら追いつかない程の、濃密で重苦しい殺意。

 

「……図星だったようね。でも予想以上の反応で驚いたわ」

「…………」

「ゼフィーリアの言った通り、すっかり仮面が剥がれてしまったようね。でも今のあなたの方がより生き物らしいと思うけどね」

「――――殺す」

 

 たった一言、ただそれだけで紫の身体は心底震え上がった。

 ……どうやら挑発が過ぎたらしい、だが同時に今のアリアは冷静さを欠いている。

 単純な力では及ばないが、たとえ力で及ばなくとも――やりようはある。

 

 瞳を閉じ、紫は自身の精神を内側へと持っていく。

 そこから取り出すのは自身の能力、能力開放の理だ。

 諸刃の剣になりかねない紫の能力解放だが、目の前の相手を打倒するにはこれしかない。

 自身の中にある力を表へと持っていく、すると目を開けた紫の瞳は――赤黒く不気味な色へと変貌していた。

 

「無駄な事を……お前のような女に、一体何ができるのよ!!」

「あなたを倒す、それが龍人を守る事に繋がるなら……私は私の総てを懸けて必ず討つわ!!」

「っ、何も知らない小娘が吠えるなっ!!」

 

 同時に踏み込む紫とアリア。

 紫は上段から二刀を交差させるように振り下ろし、対するアリアは横薙ぎの一撃を繰り出した。

 互いの一手が繰り出されたタイミングもまったくの同時であり、三本の刀は吸い込まれるようにぶつかり合って。

 

 

――紫は、自分の意識がアリアと混ざり合うような不可思議な感覚に襲われ。

 

――気がついたら、紫はアリアと共に初めて能力開放をした際に訪れた異界である“境界の地”へと足を踏み入れていた。

 

 

「えっ……!?」

 

 状況が理解できず、紫の思考は一度停止を余儀なくされる。

 地面すら見えない漆黒の空間、空には数え切れぬ程の扉と瞳が浮かび上がっており、間違いなくここはかつて自身が一度だけ訪れた不可思議な異界だという事を思い知らされた。

 しかしだ、同時に何故この場所に飛ばされたのかという至極当然の疑問が紫の頭に浮かぶ。

 それも――自分だけでなく、アリアまでこの空間に存在するのは一体何故なのか。

 

「――あら? 随分と珍しいのを連れてきたのね」

 

 少しだけ驚いたような口調でそう告げながら、紫の前に現れたのは――彼女とまったく同じ姿形をした1人の女性。

 さすがに二回目だったせいか、紫は驚く事はなくすんなりと女性と対峙しているが、一方の女性は紫の態度に不満げな表情を見せていた。

 

「つまらないですわね、自分と何もかも同じ女が目の前に現れたのですから、もっとこう……リアクションしてくださいません?」

「……二回目だもの、それよりも訊きたい事があるのよ」

「どうして自分が望んでも居ないのにこの地へと来てしまったのか、でしょう? そこの女の妖力と貴女の妖力が干渉し合ったせいでしょうね、しかも貴女は能力開放状態だったから余計にこの地に入る“扉”が大きく開いていたでしょうから」

「…………何故、アリアが関係しているの?」

 

 この地は、正確には現実世界ではない。

 紫自身も完全にこの地の事を把握しているわけではないが、ここは“八雲紫”と目の前の自分と同じ姿形をした謎の女性以外の存在は決して干渉する事はできない筈。

 だというのに、アリアは自分と同じくこの地に足を踏み入れている、それが紫には理解できずしかし。

 

「ここがどんな場所なのか理解できるのなら、自ずと答えは見つかるのではなくて?」

 

 女性の、わざとらしい曖昧な言葉で。

 けれどその言葉で、紫は否が応でも答えに辿り着いてしまった。

 それと同時に浮かべる表情は――驚愕と戸惑い。

 答えには辿り着いた、けれどそれは容易に信じられる内容ではない。

 

「やっぱり信じられない? でもね紫、貴女が辿り着いた答えは正解よ」

「…………」

「でもそんな事どうだっていいじゃないの、貴女にとってそこの女は明確な敵であり越えなければならない壁、ただそれだけでしょう?」

「それは……」

 

 確かに、女性の言っている事は正しい。

 彼女が何者であったとしても、自分にとって敵である事に変わりはなく、いずれ雌雄を決する相手でしかない。

 ただ、彼女が自分の考えている通りの存在だとすると……。

 

「――ところで、さっきからだんまりを決め込んでいるようだけれど、話に参加しなくていいのかしら?」

「…………」

 

 女性に話しかけられても、アリアは無言を貫く。

 そんな彼女の態度にも女性は気にした様子もなく、寧ろその態度が滑稽だと言わんばかりに小さく笑った。

 

「いつまで過去に縛られて生きているのかしら? もう貴女の物語は前に進まなくなったというのに」

「…………」

「挙句の果てには他の物語にまで干渉するなんて、初めてわたくしと出会った時に見せてくれた青臭くも美しい貴女は一体何処へ行ってしまったのでしょうね?」

「……黙れ」

 

 ギリと歯を鳴らし、アリアは音も無く右手に神剣を呼び寄せる。

 それを見て紫もいつの間にか両手から離れていた光魔と闇魔を呼び寄せようとするが、スキマを開く事ができない。

 

「この地で現実の武器を用いる事はできませんわ。ですが音に聞こえし神剣は例外だったようですわね」

「何を冷静に言っているの!? こちらがまともに力が使えないのなら……」

「大丈夫。――そうやって起きた事を認めず、ただただ憎しみと己自身の無力さに苛まれ全てをなかった事にする……貴女はこの子を浅ましいと言ったけど、はたして浅ましいのはどちらかしら?」

「……あなたならわかる筈よ、ワタシがこうなった理由を!!」

「ええ、ええ、それはもちろん。わかるからこそ……心底つまらないとわたくしは思っているのです」

 

 女性は笑う、アリアを憐れむように、蔑むように。

 いつの間にか女性は赤黒く変色した瞳を細め、睨むようにアリアを見つめていた。

 その視線のなんと冷たいものか、無機質でまるで汚物を見るかのような目に紫は驚きを隠せない。

 

「起きた事は戻せない、貴女の物語は貴女の望まぬ結果を残してしまったけれど、それもまた宿命。それを認める事ができずに堕ちた貴女は本当につまらない女」

「宿命……? あれが……あんな結末が、ワタシの宿命だったというの!?」

「そうよ、それもまた物語の一つ……現実はハッピーエンドばかりじゃない、そんな事貴女ならわかっていたでしょうに」

「ふざけないで!! あんな、あんな現実……認められるわけがない、ワタシが望んだわけではないわ!!」

 

「――――」

 

 アリアの初めて見せる、未熟な少女のような激情。

 今まで対峙してきた彼女からは、まるで想像できない姿に紫は先程から会話に入っていけず驚く事しかできなかった。

 ……一体、彼女の過去に何があったというのか。

 まるで自分の思い通りにならないから喚き散らす子供のようなアリアは、紫からしても滑稽で見苦しく映っている。

 けれど同時に、どうしようもなく……その姿が、自分と重なってしまっていた。

 

「ワタシは認めない、認められない。それなのに……そこの女は、のうのうと彼に縋り、甘え、守られようとしている!!」

 

 アリアの視線が、紫に向けられる。

 その視線は射殺す勢いに満ち溢れ、明確な殺意と激情が紫個人に向かって放たれていた。

 

「確かにそれはある意味当たってはいるけど、この子も彼もお互いにお互いを尊重して同じ立場として前に進んでいる」

「だからこそ許せない、いずれこの八雲紫は龍人を死に至らしめる。この女の存在が彼を苦しめる!!」

「それはまだわからないわよ。この子と貴女の歩みは同じように見えて違うもの、それに何より……自らの意志で堕ちた貴女が、この子の物語を穢す事は許されないわ」

 

 口調にほんの少しの怒気を含ませ、女性は言う。

 

「いい加減目を醒ましなさいアリア・ミスナ・エストプラム。貴女も一度はここへの“扉”を開いた者ならば、自らに起こった事を受け止めその上で正しい選択を選びなさい」

「……これが、ワタシが正しいと選んだ選択よ」

「そう…………やっぱり一度堕ちてしまえば、這い上がる事はできないか」

 

 つまらなげに、けれど同時に少しだけ悲しそうに呟いて、女性はパチンと指を鳴らす。

 刹那、アリアの姿が一瞬で消え、気配も完全にこの世界から消え去った。

 

「……消したの?」

「まさか。ただ現実に帰しただけですわ、ここは現実であって現実ではない異界。

 例外を除いて、ここで生命を奪う行為は決して行えない。何よりも……彼女の命を奪うのは、わたくしの役目ではありませんもの」

 

 そう言って、女性は紫へと視線を向ける。

 その視線が何を意味するのかわかり、紫の表情が僅かに強張った。

 ……お前が討てと、お前が彼女の命を奪えと告げているその目は、紫にとって直視したくない類の視線であった。

 

「前に進む為には致し方ない事ですわ、今更怖気づいたわけではないでしょう? アリアを討たねば……いずれ彼の命が奪われる」

「…………わかっているわ。けど一つだけ教えてほしい」

「嫌ですわ」

 

 紫が内容を話す前に、女性はきっぱりと拒絶の意志を見せる。

 おもわず紫は面食らったように女性へと視線を向け、そんな紫を愉快げに見つめながら女性は言葉を続けた。

 

「アリアの事を知れば貴女は必ず躊躇いを生む、そしてその躊躇いは破滅を生み貴女の物語が終わりを迎える遠因となる。

 それがわかっていながらアリアの事を教えるわけにはいきませんわ、せっかく久しぶりに……本当に久しぶりに、ゴールに辿り着ける可能性を秘めた物語に出会えたのですから」

「……あなたは、一体何者なの?」

「わたくしは観察者、貴女“達”の物語がどのような過程で進みどのような結末を迎えるのかを見届ける者。――さあ、そろそろお帰りなさい」

 

 女性がそう告げた瞬間、紫の視界が霞んでいった。

 どうやら本当に帰されるらしい、まだまだ訊きたい事が沢山あったというのに……せっかちなものだ。

 けれど紫はあっさりと諦める、こうなってしまえばこれ以上此処には居られなくなるというのが本能的に理解できたのもあるが、何よりも目の前の女性が自身の疑問に答える事はないだろうと理解したから。

 

 

――そして、紫は現実へと帰還を遂げる。

 

 

 まず始めに広がったのは、眩いばかりの満天の星々。

 背中に固い感触が広がり、起き上がると岩の上に寝ていた事がわかる。

 傍には光魔と闇魔が転がっていて、それを拾いながら紫は立ち上がった。

 

「…………アリア?」

 

 周囲を見渡すが、先程まで戦っていたアリアの姿が見当たらない。

 そればかりか彼女の妖力を感じ取る事ができない、少なくともこの周囲数キロ地帯には彼女は存在していなかった。

 もしかしたら、あの女性が安全を考え彼女を何処か遠くの場所に飛ばしてから目覚めさせたのかもしれない。

 規格外なあの女性ならば可能かもしれない、そう自己完結しながら紫はいまだ戦いの続いているであろうゼフィーリア達の元へと向かおうとして。

 

「――おお、そちらも終わったのか?」

「ぜー……ぜー……し、死ぬ……」

 

 紫の前に、身体の至る所に裂傷を刻ませながらもいつもの調子を崩さないゼフィーリアと、疲労困憊といった様子のロックが現れた。

 そして――ゼフィーリアの左腕には、ピクリとも動かないカーミラの姿が。

 

「ゼフィーリア、ロック……」

「ほぅ……よもやお前1人であの女を討てるとはな、一体どんな搦め手を用いて倒したのだ?」

「……いいえ、勝ったわけではないわ。負けたわけでもないけど」

「?」

「それよりも……彼女、まだ生きているの?」

 

 カーミラを指差しながら、紫はゼフィーリアに問うた。

 抱えられたカーミラは先程からポタポタと血を流し地面を赤く穢している、そのダメージは傍目から見ても甚大なものだ。

 けれど生命の灯火が消えたようには見えない、するとゼフィーリアは笑いながら紫の問いに答えを返す。

 

「いずれ殺す、ただこいつからまだレーヴァテインを抜き取ってはおらぬし……訊きたい事もある」

「訊きたい事?」

「まあそれは後で話せばよいだろう、とりあえず戻るぞ」

「スキマで戻る?」

「いや、お前も疲労しているだろう。先程から軟弱な態度を見せる夫にはちょうどいい運動だ」

 

 言いながら、未だに荒い息を繰り返しているロックを軽く小突くゼフィーリア。

 恨めしそうな視線を返すロックだが、本当に疲労困憊なのかされるがままだ。

 まあ幾らなんでも吸血鬼や下級悪魔達を同時に相手にすればこうもなる、寧ろ五体満足で居る辺りさすがゼフィーリアの夫と言うべきか。

 

 さあ戻るぞ、ゼフィーリアの声を皮切りに3人は飛び立ち紅魔城へと向かっていく。

 ……アリアが実は隠れていて不意打ちを仕掛けてくると思っていたが、結局はそんな事は起こらなかった。

 どうやら本当にあの女性が彼女を別の場所へと飛ばしてしまったらしい、そうでなければ仕掛けてこない理由には繋がらないからだ。

 

――けれど、胸騒ぎがした。

 

 小さな、けれど決して無視できないそれを感じ取った紫は、無意識のうちに飛行する速度を速めていく。

 一刻も早く紅魔城に戻らなければ、そんな不安めいた考えを頭に過ぎらせながら……。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




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