妖怪の賢者と龍の子と【完結】   作:マイマイ

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仲間である士狼すら自らの道具を言い放つ刹那に、紫達は怒りを爆発させる。
今度こそ決着を着けるために、彼女達は絶対的強者である五大妖へと戦いを挑んだ……。


第70話 ~狼王喰らいし龍の鉤爪~

 

 

――獣の王が駆ける。

 

 秒にも満たぬ速度で紫との間合いを詰め、右の爪を横薙ぎに払った。

 ――弾かれる。

 

「あ?」

 

 続いて左足による蹴り上げを放ち、避けられる。

 違和感、それを覚えながらも刹那は間髪入れずに攻撃を仕掛けていき。

 その全てを、弾かれ、いなされ、避けられてしまった。

 

「テメエ……!」

 

 瞳に凄まじい憤怒の色を宿しながらも、刹那の攻撃は紫には届かない。

 だが――この状況は本来ありえないものだ。

 紫は特別剣技に優れているわけでも、身体能力が優れているわけでもない。

 光魔と闇魔の刀としての能力を限界まで引き出しているとしても、五大妖である刹那の攻撃の悉くを防ぐなどありえない筈だ。

 しかし現実はそのありえない状況を作り上げている、防戦一方ながらも紫は刹那にくらい付いていた。

 

「っ」

 

 とはいえ、十手受ける度に紫の表情には目に見えて余裕が無くなっていく。

 今の彼女は全神経と妖力を防御と回避に費やしている、刹那が龍人との戦いで消耗しているという理由もあり、どうにか互角の状態に持ち込めているに過ぎない。

 けれどその均衡が崩れるのは時間の問題だ、一撃を受ける度に紫の両手からは感覚が無くなっていた。

 回避もどうにか致命傷を避ける程度まで落ちており、既に彼女の身体の至る所には決して浅くない裂傷が刻まれている。

 

「っ、ぁ……!?」

 

 刹那の右の拳を光魔で受けとめた瞬間、紫は短く悲鳴を上げた。

 それにより彼女の反応が一瞬遅れ、すかさず刹那の左の爪が彼女を薙ごうと放たれる。

 

「っっっ」

 

 両足に妖力を送り、強化した足で後ろへと跳躍する紫。

 それにより身体が二つに分かれるという事態は避けられたものの、彼女の腹部に横一文字の傷が刻まれた。

 

「ぐ、ぅぅっ!!」

 

 激痛と衝撃が紫に襲い掛かり、更に追撃を仕掛けようと刹那が動く。

 紫はまだ反応できない、そんな中――両者の間に妖忌が割って入った。

 桜観剣を右上段に構えた妖忌は、視線を迫る刹那に向け己の霊力を一気に開放する。

 

(だん)(めい)(けん)――(めい)(しん)()(こう)(ざん)!!」

 

 放たれる渾身の斬撃は、首を刎ねようと刀身に青白い輝きを見せながら風を薙ぎつつ刹那へと向かっていく。

 

「――邪魔だ!!」

「ぬぅ……!?」

 

 しかし、刹那は妖忌の斬撃を避けようともせず、真っ向から両手で受け止めてしまった。

 素手で受け止められるとは思わなかったのか、短く唸り声を上げつつも妖忌は刀を持つ手に更なる力と妖力を送っていく。

 桜観剣を受け止める刹那の両手からは血が滲み始めるが、それを見た刹那は両手に膨大な妖力を注ぎ込み――桜観剣ごと妖忌の身体を投げ飛ばしてしまった。

 

「ぬおおっ!?」

 

 砲弾のように飛んでいく妖忌の身体、どうにかブレーキを掛けようとするがそれは叶わない。

 その隙に今度こそ紫の命を奪おうと刹那は動き、けれど全力で横に跳び逃げの一手を繰り出した。

 瞬間、先程まで刹那が居た場所が()()()()()()()()()

 

「くっ………!」

「紫、テメエ……!」

 

 危なかった、もしあのまま攻めていれば刹那の全身は高圧縮されそこで勝負が着いていただろう。

 獣の本能とも呼ぶべきものが、彼に逃げの一手を選んだのはまさしく幸運であった。

 一方、金の瞳を血のように赤黒く変化させ“能力開放”状態に移行していた紫は、悔しそうに表情を歪ませる。

 

 彼女の“能力開放”は、五大妖である刹那の命すら奪えるまさしく奥の手だ。

 ギリギリまで出さなかったのも、確実に能力を刹那に当てるためであったが……彼の培ってきた直感力には届かなかった。

 だがまだ終わりではない、既に反動は激痛となって絶えず彼女の身体に襲い掛かっているが、それでも紫はこの状態を維持したまま闇魔を投げ捨て光魔を両手で握り締める。

 そして、刀身に自らの能力を付与し、紫は刹那に向かって自身が放てる最高の一撃を叩き込んだ。

 

「――(きょう)(かい)(ざん)!!!」

 

 繰り出された一撃、それは何の変哲もない斬撃であった。

 しかし、刹那は迫る斬撃を見て全身が総毛立ち、反応が一瞬遅れてしまう。

 

「ぎ―――っ!!?」

 

 防御ではなく回避を選んだ刹那であったが、反応が遅れてしまったせいか完全に避ける事はできず。

 右腕に喪失感を覚え視線をそこへ向けると……当たり前のように、自らの右腕が()()してしまっていた。

 斬られたのではない、光魔の刀身が彼の右腕に触れた瞬間、跡形も無く消滅したのだ。

 これこそ境界斬、刀身に能力開放状態の境界の力を付与した必殺剣、この一撃を受ければたちまち境界を操作され存在自体を消し飛ばされてしまう。

 

(っ、右腕しか消せなかった……!?)

 

 境界斬は掠りもすれば当てた相手の存在そのものを消滅させる事ができる、現に彼女は刀身にそれだけの能力を付与した。

 だができなかった、それは彼女の力が刹那に届かなかったわけではなく……。

 

(さっきの士狼の“核”で……!)

 

 そう、先程奪った士狼の“核”を取り込んだ恩恵により、境界斬の能力が刹那に僅かに届かなかったのだ。

 それが無ければ紫の勝利は確定していたが……この一撃で刹那を打倒できなかった瞬間、立場は完全に逆転してしまった。

 

「っ!? あ、ぐ……!」

 

 両目に耐え難い激痛が走り、堪らず光魔を地面に落とし紫は蹲ってしまった。

 能力開放および境界斬を使用した反動が、容赦なく彼女の身体に襲い掛かる。

 金色に戻った瞳からは血を流し、神経が断裂しているかのような激痛で意識が混濁しながらも、紫はどうにか顔を上げた。

 

「まさか右腕一本をテメエにやる事になるとはな……だが、これで終わりだ!!」

「紫様!!」

 

 藍の悲痛な叫びが、後ろから聞こえてくる。

 けれど紫は迫る死の恐怖にも臆する事はせず、かといって反撃しようともしない。

 何故か? 決まっている、もう自分の役目はほぼ終わっているのだ。

 

――龍人の必殺の一撃を繰り出す準備による時間稼ぎという、役目は。

 

「っ!!?」

 

 “それ”に気づいた刹那が表情を変えるが、もう遅い。

 既に後方に退がっていた龍人は、右手に高圧縮させた龍気を込め、狙いを刹那へと向けていたのだから。

 左手で右手首を掴み、腰を低く屈めながら龍人は一気に吶喊する。

 

「この一撃は龍の鉤爪、あらゆるものに喰らいつき、噛み砕く――!」

「チィ―――!」

 

 龍人の右手に集まっている力の強大さに気づいた刹那は、己のプライドすらかなぐり捨てて後退する。

 半妖風情から逃げるなど本来あってはならない、だが彼の本能が「逃げなければ死ぬ」と訴えていた。

 如何にダメージを負ったとはいえ、高い身体能力を誇る人狼族の彼ならば、逃げる事は可能であろう。

 

――しかし、刹那は決定的なミスを犯した。

 

――最初に紫達と対峙した際に、“彼女”の姿が無かった事に何の疑問も抱かなかったのだ。

 

「ぐっ!?」

 

 突如として、背後から何者かに羽交い絞めにされる刹那。

 馬鹿な、たった今まで背後に気配は感じられなかった、だというのに何故……。

 疑問を浮かべつつ、彼はすぐさま視線を後ろへと向けると。

 

「――悪いけど、逃がすわけにはいかないのよね」

 

 そう言って刹那の身体を羽交い絞めにして拘束していたのは、今の今まで姿を見せなかった藤原妹紅であった。

 ……ずっと待っていたのだ、刹那が追い詰められるまで、妹紅は紫のスキマの中で待機し続けていたのだ。

 そしてこの男の命を奪える状況に持ち込んだ瞬間、紫は刹那の背後へとスキマを開き、中で状況を見続けていた妹紅はすぐさま刹那へと取り付いた。

 

「龍人、今よ!!」

「し、正気か貴様!? このままだと貴様まで……」

「お生憎様、私は蓬莱人、つまり不死なのよ。たとえ次の一撃でバラバラにされたとしても死なないの」

「――――」

 

 死神の鎌が、刹那の首へと添えられる。

 待て、何が起きている、オレがやられるわけがない、彼の頭に浮かぶのは現実逃避じみた疑問だけであり、そして。

 

「くらえ! 奥義――」

「ま、待て!!」

 

「――龍爪撃(ドラゴンクロー)!!!」

 

 打ち込まれる一撃、その破壊力はまさしく龍の鉤爪の如し。

 龍人の拳が刹那の胸部に触れた瞬間、肉が剥げ、臓器が吹き飛び、骨が砕ける。

 

「ぬううううう………りゃあっ!!!」

 

 更に力を込め、龍人が裂帛の気合を込めた声を上げると同時に、刹那の胸部に風穴が開き、後ろで羽交い絞めにしていた妹紅の身体が上下二つに分かれた。

 そのまま弾丸のように吹き飛ぶ刹那と妹紅、数百メートル飛び続け……巨大な岩壁に叩きつけられる。

 ゴポッと多量の血を吐き出す刹那、そして彼はそのまま動かなくなった……。

 

 

 

 

 

 

 

「…………やったのか?」

 

 桜観剣を鞘に収めつつ、戻ってきた妖忌は紫に問うた。

 蹲っていた紫はどうにか立ち上がり、妖忌の言葉に返答を返す。

 

「ええ、おそらくは。妖忌は妹紅を回収してきてくれるかしら? 多分もう再生を始めているでしょうから」

「……本当に不死身なのだな」

 

 呆れるように呟き、妖忌は飛んでいった。

 紫も龍人の元へと向かおうと動き、視界が霞み立ち眩みを起こしてしまう。

 能力開放の反動に苦しみつつ、座り込み荒い息を繰り返している龍人の元へとどうにか向かった。

 

「龍人、大丈夫?」

「はぁ、はぁ…はぁ…あ、は……」

「……落ち着いて、ゆっくりと呼吸を繰り返して」

 

 彼の背中を擦り、呼吸を落ち着かせる。

 紫の言う通りにゆっくりと深呼吸を繰り返す龍人、すると少しずつではあるが呼吸が落ち着いてきた。

 やがて普通に呼吸ができるようになってから、龍人は心から安堵するような息を零した。

 

「……勝ったのか?」

「……ええ、貴方の勝利よ」

「俺だけじゃない、紫やみんなが居たからだ。――妹紅と士狼は?」

「ごほっ……私なら大丈夫よ、まだ下半身がぶっ飛んだままだけど」

 

 そう言って現われたのは、妖忌に担がれた妹紅、だったが……彼女の下半身は完全に吹き飛び脊髄が見えるというとんでもない状態になっていた。

 刹那の後ろに居たとはいえ龍爪斬をまともに受けたのだ、とはいえ上半身だけで普通に会話する彼女は人外である紫達からしても不気味に映る。

 

「妹紅、ごめんな?」

「大丈夫大丈夫、それにああでもしなきゃ逃げられてたでしょ? 確実に倒すにはあの方法しかなかったんだから」

 

 あくまでも軽い口調で妹紅は言う、口から血を吐き出しながらだが。

 それでも彼女の反応で罪悪感が薄れたのか、龍人の表情が明るいものに変わった。

 

「ところで妹紅、刹那は……」

「死んでいるよ完全に、だって胸部辺りから上全部がまるごと吹き飛んでたんだから。灰になるまで念の為燃やしておいたから心配しないで」

「そう……わかったわ」

 

 それから十数分、紫達はその場から動かず妹紅の身体が再生するのを待ってから藍達の元へと戻ると……美鈴がうつ伏せのまま倒れている姿を目にする。

 

「美鈴、どうしたんだ?」

「……あー、龍人さんですか……? だ、大丈夫です……ちょ、ちょっと“気”の力を使い過ぎちゃっただけですから……」

 

 そう言って顔を上げる美鈴だったが、彼女の頬は痩せこけまるで生気を感じられない状態になってしまっていた。

 しかし、そんな彼女の表情は誇らしげで、彼女の近くでドヤ顔を決めているゼフィーリアと……規則正しい呼吸をしながら眠っている士狼を見て、その理由を理解する。

 彼女は立派に龍人の願いに応えてくれたようだ、ありがとうと精一杯の感謝の言葉を告げる龍人に、美鈴は嬉しそうに微笑みを返した。

 

「しかし、よもやお前達だけであの大神刹那を倒すとは……予想外だったよ」

「……でも、もうボロボロだ。早く休みたい……」

「うむ。では城に戻ろうか、すぐに城の使用人達を使って美味い食事を用意してやる」

「飯!? やった!!」

 

 食事と聞いて龍人の目に輝きが戻り、そんな彼を見て全員が苦笑を浮かべる。

 なんて単純な子なのだろう、だが嬉しそうな龍人の顔を見ていると紫は自然と頬を綻ばせた。

 

(龍哉、龍人はまた強くなったわよ……)

 

 きっと、今の龍人を見れば龍哉も笑みを浮かべているだろう。

 それだけの強さを身につけたのだ、常に彼の隣に居る紫としてはやはり嬉しさが募る。

 こうして戦いは終わり、戦士達は休息を得る為にこの場を離れようとして。

 

「――このような結果に終わるとは、驚きですわ」

 

 言葉通りの驚きを含んだ第三者の声を、耳に入れた。

 全員がすぐさま声の聞こえた方へと視線を向けると、ワインレッドの長い髪を左手で弄びながら薄ら笑いを浮かべている吸血鬼――カーミラ・スカーレットの姿があった。

 

「なんだカーミラ、決着を着けに来たのか?」

 

 紫達が身構えるより早く、ゼフィーリアは彼女達を守るように前に出てカーミラと対峙する。

 

「いいえ、弱っているお姉さまを屈服させた所で面白くもなんともありませんもの。私がここに来たのは……彼らを賞賛する為です」

「賞賛?」

 

 すると、カーミラは紫達……正確には龍人へと視線を向け、恭しく頭を下げ口を開いた。

 

「お見事でした。まさかお姉様の力を借りずに複数人とはいえあの大神刹那を打倒するとは、まったくの予想外でした。あなた方の力には敬意を称しますわ」

「……それで、私達の元に来た本当の目的は何なのかしら?」

 

 問いながら、紫はスキマを開こうと能力をしようとするが、能力を使おうとすると瞳に激痛が走り能力を使う事ができない。

 先程の能力開放と境界斬の反動は、今の紫から戦う力を完全に奪ってしまっていた。

 ……しかしそうなると、こちらの状況はあまりにも不利なものだ。

 自分も龍人も戦えず、他の者達も満身創痍、ゼフィーリアも士狼を助ける為にかなりの体力を消耗しており、対するカーミラは全快の状態だ。

 まともに戦えばこちらの敗北は必至、かといって諦めるわけにもいかず紫は瞳の痛みに耐えながら全力でこの状況を打破する為に思考を巡らせる。

 

「目的は先程も言った通りあなた方を賞賛するため、そしてもう一つは……彼を、私の眷属にしたいと思ってね」

 

 そう言ってカーミラは、視線を龍人へと向ける。

 その赤い瞳には捕食者としての色を宿し、それに気づいた龍人は嫌悪感から僅かに表情を強張らせた。

 

「人間嫌いのお前が、人間の血を引く半妖であるこの小僧を眷属にしたいとは……どういう風の吹き回しだ?」

「お姉様は浅はかですわね。既に彼の力は半妖などという範疇をとうに越えています、私の野望の為……私の力になるであろう者を眷族にしたいと思うのは、当然ではなくて?

 話を戻しましょうか。それで、どうです? 私に忠誠を誓うというのならば……そこに居る者達の命は助けてあげましょう」

 

 視線を再び龍人に戻し、カーミラは問うた。

 だがそれは決して彼に選択肢を選ばせるというものではなく、彼の答えがどうであろうともカーミラが考えを変えないというのは誰もが理解できた。

 そんな中、問いかけられた龍人は暫し沈黙を貫き……やがて、カーミラに向かって小さく笑みを作り答えを返す。

 

「言ったろ? ――紫の命を奪おうとするお前は俺の敵だ、そんなヤツの言いなりになるつもりはない」

 

 疲労困憊といった様子を隠す事もできないほどの弱りきっていながらも、龍人が放ったのは拒絶の言葉であった。

 それに対し、カーミラは一瞬だけその表情を怒りのものへと変えたが……すぐに、恍惚な色を孕んだ歓喜の笑みを浮かべる。

 

「……その目、いいですわ。半妖とは思えぬ強き意志とそこの女に対する狂おしいまでの愛情が感じられる。――その目を、私だけに向けるように調教した時の悦びは一体どれほどのものになるのでしょうね!!」

 

 頬を赤らめ、カーミラはゾクゾクと身体を震わせる。

 その狂気に満ちた様子は紫達に恐怖心を抱かせ、それによりますますカーミラの笑みは深まっていった。

 

「この私にここまでの執着を抱かせるなんて本当に罪作りな子ですわ、とはいえ……今はおとなしく退いておきましょう。どうせなら万全の状態で決着を着けたいですから」

「いいのか? 今ここで余達を始末しておけば良かったと後悔する事になるかもしれんぞ?」

「その時はその時、それもまた一興でしょう。吸血鬼の…いいえ妖怪としての本質を見失ったお姉様には、理解できないでしょうけど」

「……その本質を変えねばならない時代がやってきたのだ、だからこそ父上も母上も」

 

「――お父様とお母様の話題は出さないでいただきません? 今ここで殺しますわよ?」

 

 瞬間、何処か無邪気すら感じられたカーミラの雰囲気が一変する。

 凄まじい力と負の感情がそのままプレッシャーとなって紫達に襲い掛かり、呼吸すら困難になるほどの重苦しい空気が漂い始めた。

 

「……私とした事が、まだまだ子供という事でしょうか」

「用が済んだのなら消えろカーミラ、勝利の余韻に浸る邪魔なのだよ貴様は」

「ええ、ええ、わかっておりますわ。――龍人、ごきげんよう?」

 

 にっこりとあどけなさを残す笑みを龍人に見せてから、カーミラは霧散するようにその場から消えた。

 それと同時に先程から漂っていた重苦しい空気も消え去り、紫達は漸く通常の呼吸ができるようになった。

 

「……とんでもない女に目を付けられたのう、龍人」

「どの道戦わないといけないんだ、どうでもいい事だよ妖忌。それより早く飯食って休みたいぜ……」

「そうだな。では戻ろうとするか」

 

 ゼフィーリアの言葉に全員が頷きを返し、紅魔城へと向けて移動を開始する。

 紫もその後に続こうとして、身体をふらつかせてしまい……彼女の手を、龍人が優しく握り締めた。

 彼の行動に驚きつつも、暖かな手の温もりが自然と紫の疲労を癒して彼女の表情が少しだけ緩む。

 視線を龍人へと向けると彼も紫へと視線を向け、そのままどちらからともなく微笑みを浮かべ合った。

 

「おい、じゃれ合うのなら帰ってからやったらどうだ?」

「う、煩いわね……」

 

 ゼフィーリアのからかいの言葉に悪態を吐きつつ、紫は僅かに頬を赤らめる。

 けれど彼女は決して龍人と繋いだ手を解こうとはせず、彼が生きているのを確認するかのようにその温もりを感じ続けていた……。

 

 

 

 

To.Be.Continued...


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