妖怪の賢者と龍の子と【完結】   作:マイマイ

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玄武の沢での戦いに勝利した紫達。
束の間の休息に勤しむ彼女達であったが、豪鬼の味方をした華扇の処罰を決める事となり……。


第35話 ~救出~

「――茨木華扇、今からアンタの判決を下すよ。覚悟はいいね?」

「はい」

 

 玄武の沢の中心にて対峙する勇儀と華扇。

 その周りには固唾を呑んで見守る妖怪達、そして……今にもそこに飛び込んでいこうとする龍人を止める、紫と妖忌の姿があった。

 

「龍人、さっきも言ったが何も言うなよ?」

「だけどさ……!」

「他ならない華扇が決めた事よ。だというのに自分の身勝手な感情で干渉していいわけではないと、貴方だって思わないでしょ?」

「…………」

 

 藍を抱きかかえたままの紫にそう言われ、龍人はおもわず押し黙る。

 ――今から、今回の件に関する華扇の判決が下される。

 当然龍人は抗議した、今回華扇が勇儀達の敵になったのは久米と藍の命を握られていたからだ。

 好き好んで勇儀達と戦ったわけじゃない、だが……事はそう単純なものではなかった。

 

 如何に理由があろうとも、華扇が勇儀の命を奪おうとしたのは事実。

 その罰は受けなければならない、それが生きる者が背負わなければならない責務なのだ。

 ……そんな事を他ならぬ華扇から言われてしまえば、龍人としてもこれ以上何も言えなかった。

 とはいえ、納得できないのもまた道理である。

 万が一、勇儀が罰として華扇の命を奪うようであるのなら――

 

「龍人」

「…………」

 

 すぐ後ろから、囁かれるように紫から声を掛けられた。

 それと同時に、妖忌が持つ桜観剣の刀身が龍人に突きつけられる。

 

「全てが終わるまで、動くなよ?」

「…………」

「子供のように騒ぎ立てればいいわけじゃない。これは俺達が介入していいものじゃないんだ」

 

 だからわかれと、厳しい口調で龍人を戒める妖忌。

 

「――華扇、お前さんは久米と藍の命を握られていたとはいえ、豪鬼に加担した。

 それはこの妖怪の山の秩序を乱す行いだ、それはわかるね?」

「ええ、勿論よ。どんな理由があったとしても私のやった事は許される事じゃない、斬り捨てられても構わないわ」

「よく言った。なら華扇、アンタには――」

 

 判決が、下される。

 だが華扇には恐怖も、一片の後悔もない。

 守る事ができたからだ、自分にとって大切な家族も同意である子達を。

 だから彼女は静かに待つ、自分の最期の時を。

 ――尤も、“それ”が訪れるのは、まだ随分先のようだが。

 

「―――アンタには、あたし達と一緒に今この山で起きてる問題を全身全霊で解決してもらう」

「………………えっ?」

 

 間の抜けた声が、出てしまった。

 だがそれも仕方ないだろう、勇儀の放った判決は華扇にとってまったく予期できなかった内容なのだから。

 しかし彼女の表情に変化はない、つまり今の判決は……。

 

「みんな、異論は無いね?」

 

 周りの妖怪達に大声で問いかける勇儀。

 すると、周りからは返事とばかりに勇儀を賞賛するような拍手が巻き起こった。

 

「と、まあこういうわけだ」

「勇儀……」

「華扇、確かにアンタのやった事はおいそれと許せる事じゃないよ。

 だけどね、それと同時にアンタを失いたくないって思ってる連中がここには沢山居るんだ、それを忘れちゃいけないよ?」

「…………」

 

 勇儀の言葉を肯定するように、久米が鳴きながら彼女の肩に降り立った。

 ……おもわず、泣きそうになるのを堪えようと、華扇は俯く。

 なんて甘いのだろうか、呆れながらも……彼女の心は喜びと感謝に溢れていたのは言うまでもない。

 

「龍人、これならお前さんも文句は無いだろ?」

「勇儀……」

「本当にアンタは優しい子だよ。いつまでもその心を持っていてくれると嬉しいね」

 

 そう言って、勇儀は優しく微笑みながら龍人の頭を撫でる。

 どうして撫でられているのか理解できなかったが、その心地よさに龍人の表情が解れていく。

 

――数分後。

 

「…………いつまで撫でているのかしら?」

「おっと。いや、結構触り心地が良かったもんで、つい夢中になっちゃったよ」

「まったく……そんな事を続けるよりも、今後の事を決めるのが先決でしょうに……」

「紫、なんでそんなに怒ってるんだ?」

「怒ってないわ」

 

 怒ってるじゃないか、おもわずそう返そうとした龍人だったが、なんだか怒られそうなのでやめておいた。

 そんな光景を、妖忌と華扇が微笑ましそうに見ていたのは余談である。

 

「まあ紫の言っている事は正しいからね。本題に入るとしようか」

「豪鬼って奴をぶっ飛ばせばいいんだろ?」

「そんな単純な話なわけないだろ、阿呆」

「なんだとー!?」

「いや、そうでもないよ。

 ――あたしとしては、このまま豪鬼の所に攻め入った方がいいと思ってる」

 

 その言葉に、周りの妖怪達は驚きの表情を見せる。

 まだ四つある里は全て豪鬼側に占領されている、まずは一つずつ取り戻していった方がいいのでは……。

 

「勿論ただ豪鬼を倒しに行くわけじゃない。あいつが居る里には……親父達がいるだろう?」

「――成る程、絶鬼様達を救出できればそのまま戦力が増強する。その勢いのまま豪鬼を打倒すれば一気に収束させる事ができるわね」

 

 このまま悪戯に戦いを長引かせれば、いらぬ犠牲が増えるだけ。

 それに今の戦力を考えれば不利なのはこちらなのだ、奇襲を仕掛けて一気に戦況をひっくり返さなければ勝利は難しい。

 とはいえ、この策も決して安全なものではないだろう。

 しかし、勇儀は不安に思う事は無かった。

 たとえ戦力的に相手の方が上でも……山の仲間達だけではなく、部外者でありながらこうして協力してくれている者達も居てくれるのだから。

 

「ですが星熊様、真正面から行けば返り討ちに遭ってしまう可能性が……」

「そうだろうね。でも……今回はあえて真正面から攻め入る事にするよ」

 

 というよりも、その方が都合が良いのだ。

 確かにただ真っ向から攻めた所で返り討ちに遭うのは目に見えている、戦力では向こうの方が上なのだから。

 しかし、こちらにも向こうには無い“戦力”が存在する。

 

「龍人、紫、妖忌」

「ん?」

「今から策を説明するよ。今回の要はお前さん達だからね」

「……どういうこと?」

 

「つまりだ―――」

 

 

 

 

「――チッ、しくじったか?」

 

 隠れ里の中央に位置する屋敷の中で、豪鬼は苛立った呟きを零す。

 玄武の沢へと攻め入った鬼達からの連絡が、丸一日経っても返ってこない。

 まだ落とせないという事は考えられない、つまり……返り討ちに遭ったという事だろう。

 

(しかし解せんな……いくら勇儀が向こうを味方しているといっても、華扇に大天狗まで送ったというのに敗北したというのか?)

 

 如何な勇儀とて、あの2人を相手にすれば勝てるとは思えない。

 かといって絶鬼を慕う妖怪達では2人を打倒する力を持つ者は居ない筈だ。

 ……違和感が、豪鬼の中で生まれた。

 小さな、しかし決して無視してはならない何かが、豪鬼に警鐘を鳴らしたが。

 

「――豪鬼様、大変です!!」

 

 今の彼に、その事を悠長に考えている余裕は存在していなかった。

 

「…………なんだ?」

 

 騒々しく部屋へと入ってきた部下の鬼を睨みつつ、豪鬼は問うた。

 その眼力に萎縮しながらも、その鬼は豪鬼の苛立ちを増大させる報告を告げる。

 

「ほ、星熊勇儀と茨木華扇が率いた妖怪達が、里に攻め入ってきました!!!」

 

「…………」

「い、如何いたしましょうか!?」

「莫迦かお前? このまま黙って殺されたくないなら――殺せ」

「は、はいぃっ!!」

 

 情けない声を出しながら退室する鬼に、豪鬼は大きく舌打ちをした。

 

(やはり華扇は裏切ったか……どいつもこいつも……!)

 

 怒りが豪鬼の身体から妖力を溢れ出させ、部屋の壁や柱が軋みを上げる。

 凄まじい憤怒の表情を浮かべながら、豪鬼は屋敷から一瞬で消え。

 既に始まっている戦いの場へと赴き、先陣を切っている勇儀と華扇の前へと現れた。

 

「っ、豪鬼……!」

「……よお、久しぶりだねえ」

「…………」

 

 豪鬼を見て華扇は身構え、勇儀は身構えこそしないものの明らかに目つきが変わった。

 ……どうやら、本気で自分と戦う気概のつもりらしい。

 そんな彼女達の態度に、豪鬼の表情が益々険しくなっていく。

 

「オレに勝てると、本気で思っているのか?」

「思ってなかったら、こうしてアンタと対峙してないだろ?」

「……目障りな女共だ」

 

 もはや語るまいと言葉を切り、豪鬼は一気に妖力を開放する。

 それはそのまま突風となって勇儀達を襲い、その勢いの強さにおもわず2人は顔をしかめた。

 流石は鬼の若頭と呼ばれる事はある、単純な力は……自分達よりも上だと2人は認めざるおえない。

 だがこちらとて退けない理由があるのだ、たとえ力で敵わないとしても立ち向かわない理由にはならないのだから。

 周囲の戦いの音を耳に入れながら、3人は暫しそのまま相手を睨み続けてから。

 

「――死ね」

「し……!」

「はああ……!」

 

 まったくの同時に、地を蹴り戦いを開始した――

 

 

 

 

「――もう、始まっているようですね」

「急ぎましょう」

 

 場所は変わり、ここは隠れ里の地下通路。

 通路の中央の空間に亀裂が生まれ、そこから現れたのは――文と紫、そして龍人と妖忌であった。

 スキマを用いての移動を終え、4人は地下牢へと続く通路へと降り立つ。

 周囲には何の気配も存在しない、地上で戦いが始まっているからだろう。

 

「それにしても……勇儀自らが“囮”になるなんてね……」

「ですがそれが一番確実な方法だと思いますよ」

 

 そう、現在勇儀達は“囮”として戦っている。

 彼女達という戦力を前にすれば、さすがの豪鬼も動かざるおえなくなる。

 そうなれば、この地下牢の警備も手薄になり……その隙に、紫の能力で潜入し絶鬼達を救出。

 そのまま戦いに参入し一気に決着を着ける――そういう筋書きだ。

 

「だけどさ、文は案内役だとしても俺と妖忌は勇儀達と一緒に戦ったほうがいいんじゃないか?」

「向こうがこちらにも戦力を投入していたら救出は難しくなるわ、だからこそ龍人達も一緒に来てもらったの」

「――こっちですよ」

 

 文を先頭に、なるべく気配を殺しながら移動していく紫達。

 ……上からは既に、戦闘の音が聞こえてきている。

 それと同時に感じられたのは、とてつもない大きさを持った妖力の存在だ。

 勇儀や華扇のものとは違う、おそらくこれが……。

 

「――豪鬼って奴は、本当に強いんだな」

「ええ。四天王の1人ですが……正直、他の四天王とは段違いの力を持っています。

 星熊様と茨木様が2人ががりでも、勝てるかどうか……」

「文、そういえば萃香はどうしたの?」

「わかりません。私はもちろん星熊様もこの騒動が起こってから一度も伊吹様の姿は見ていないのでどうしているのか……」

「そう………」

 

 だとしたら、地下牢で捕らえられている可能性がある。

 それに期待しながら再び移動に集中し……程なくして更に地下へと続く階段へと辿り着いた。

 

 この先です、そう言いながら階段を降りていく文。

 紫達もそれに続き、深く暗い闇の底へと向かっていった。

 嫌な臭いが紫達の鼻腔に突き刺さり、彼女達は僅かに表情をしかめていく。

 本来ならば松明のような明かりが必要ではあるものの、人外の存在である彼女達には不要であり、けれど慎重に降りていった。

 誰もが無言のまま、階段を降りていく音だけが周囲に響くこと暫し。

 

「――――誰じゃ?」

 

 階段を降りきったと同時に、老齢の男性の声が奥から聞こえてきた。

 

「っ、絶鬼様……!」

「あっ、文!!」

 

 声を聞いた瞬間、その方向へと走っていく文。

 紫達も当然後に続き……その先には、地下牢が広がっていた。

 

「……ひでえ。こんなの」

「謀反を加わった連中より数が多いな」

「それだけ、星熊絶鬼という鬼が周りの者に慕われていたという事でしょうね」

 

 言いながら、紫は牢の中へと視線を向け萃香の姿を捜す。

 しかし中に居るのは鬼や天狗や河童、その他の妖怪だけで萃香の姿は見当たらない。

 一体どういうことなのだろうか、彼女は現在この山には居ないというのか……。

 

「皆さん、こっちに来てください!!」

 

 文に呼ばれ、紫は一度思考を中断させ彼女の元へ。

 そこは地下牢の一番奥、所狭しと何かの術式が刻まれた札を貼り付けられた一際頑丈そうな牢だ。

 

「…………」

 

 そして、その中に居る女性と……年老いた鬼の姿を見て、紫は言葉を失った。

 

(なんて、出鱈目な……)

 

 最初に浮かんだのは、そんな感想だった。

 美しく艶やかな黒髪と文以上に大きく立派な漆黒の羽根を持つ女性、彼女が天狗を統べる【天魔】なのだろうと当たり前のように理解する。

 彼女から発せられている力強い覇気と存在感が、否が応でも理解させたのだ。

 

 尤も、その強さも――隣に座る鬼を見てしまえば、なんて小ささなのだろうと思ってしまう。

 皺がれた顔、鬼の象徴である角はあるもののその顔には妖怪らしからぬ穏やかさが見える。

 だが着ている衣服の上からでもわかる無駄なく引き締まった身体と、天魔以上の覇気と存在感は見ているだけで意識を呑み込まれてしまう程に大きい。

 

(さすが五大妖、といった所かしら……)

 

 しかし、その凄まじいまでの存在感を見せられて……紫にある違和感が生まれた。

 天狗を統べる天魔や山の頂点に君臨する絶鬼からも、思ったような妖力を感じ取れなかったのだ。

 無論彼等から認識できる妖力は強大だ、大妖怪に相応しいと言える。

 それでも、紫にはどうも彼等という存在から感じ取れる妖力にしては、少なすぎると思ったのだ。

 

「……文、後ろの小娘達は何だ?」

 

 天魔がギロリと紫達を睨みながら、文へと問う。

 

「この方達は、協力者です」

「協力者? 文、余所者に力を借りるとは……天狗の誇りを忘れたのか?」

「天魔様、ですが……」

「それに協力者といっても小娘や小僧共ではないか。こんな者達に一体何ができる?」

「みっともなく牢に入れられている奴に言われたくねえな」

「なんだと!?」

 

 天魔の眼光が増した。

 だが妖忌もそんな天魔を睨み返し、一触即発の空気が辺りに漂い始める。

 

「妖忌、やめろって。大体妖怪の山の妖怪達が余所者に厳しいってお前だって知ってるだろ?」

「ああ、すまんな。天狗を統べる大妖怪様のあまりに無様な姿を見せられて口が滑ってしまった」

「貴様……!」

「妖忌、やめなさい!」

「今はこんな事してる場合じゃないだろ、今だって勇儀達が戦ってるんだからさ」

 

 とにかく、絶鬼達をここから出してあげなくては。

 そう思った龍人は牢に近づき、徐に手を伸ばして……衝撃が彼の手に襲い掛かった。

 

「いでっ!? な、なんだ……!?」

「……結界が張られているようね」

 

 龍人が手を伸ばした瞬間、牢に張られた札が反応し結界を展開し彼の手に衝撃を走らせたようだ。

 

「よーし、じゃあ紫。早速この結界解いてくれ!」

「………………残念だけど、無理ね」

「えっ、でもお前の能力なら……」

「余程強力な結界なのね、今の私じゃ境界の境目が見えない……」

 

 自分の未熟さに歯噛みしながら、紫は小さく舌打ちした。

 絶鬼達を捕らえているのだ、何かしらの結界は施されていると思ったが……予想以上だ。

 これでは彼等をここから出す事ができない、だが悠長にしていては上で戦っている勇儀達の身だって危うくなる。

 とはいえこの結界はおいそれと破壊する事も叶わない、少なくとも自分では……。

 

「――紫、“あれ”使ってもいいか?」

「えっ?」

 

 すると龍人は、左手で自身の右腕を掴み出した。

 それを見た瞬間、紫は彼が何をしようとしているのか理解する。

 

「まさか貴方……龍爪撃(ドラゴンクロー)を使うつもりなの!?」

「こいつが生半可な攻撃で壊れないっていうのは俺にだってわかる。だったらこいつを使うしかねえ」

「ダメよ! それだけは使ってはダメ!!」

 

 紫の脳裏に、二年前の光景が思い浮かぶ。

 ……使わせるわけにはいかない、あれは諸刃の剣なのだから。

 また彼がいつ目覚めるのかわからない眠りに堕ちるなど、紫には耐えられない。

 しかし、この少年はそんな紫の心中をまるで理解してくれないようだ。

 

「大丈夫だ。もうあの時みたいな事にはならねえ」

「そんなのわからないわ。何を根拠に」

「――こんな所で止まってるわけにはいかねえ。何より……こいつを使いこなせないままってわけにはいかねえんだ」

「…………」

 

「上では勇儀達が戦ってる、そして俺達がここに居るのは捕らわれてるみんなを助けるためだ。

 自分のやるべき事、果たさなきゃいけない事ができなかったら、命を懸けて戦ってる勇儀達の思いを裏切る事になるんだ」

 

 それだけは、絶対にできない。

 勇儀達は自分達を信じてくれた、お前達ならできると安心して背中を任せてくれたのだ。

 それを裏切ってしまえば、もう二度と勇儀達を友だと思う事はできなくなる。

 だからこそ龍人も、全てを懸けて勇儀達の思いに応えるのだ。

 

「紫、俺を信じろ!!」

「…………」

「紫、頼む!!」

「………………はぁ、まったく」

 

 前に、自分は龍人に甘いと散々からかわれたが。

 どうやら、それを否定する事はできなくなってしまったらしい。

 それに――彼の言葉を信じたいと思った。

 

「やりなさい、龍人」

「ああ!! 絶鬼のじいちゃん、そっちの天狗と一緒にできるだけ隅っこに移動しててくれ。

 妖忌と文も、俺からできるだけ離れろ!!」

「ああ?」

「えっ、あ、わかりました!!」

 

 怪訝な表情を浮かべながらも、妖忌と文はおとなしく後ろへと退がる。

 それを確認してから――龍人は“切り札”の準備に入った。

 

「っ、なんだ……!?」

 

 最初に驚愕を含んだ声を出したのは、天魔である沙耶。

 

「な、なんですかこの力は!?」

 

 続いて文も目を見開きながら驚きの声を上げ、妖忌は何も言わないもののその顔には確かな驚愕の色が。

 

――龍人の右腕に、凄まじい力が集まっていく。

 

 霊力でも妖力でもないその力の質量は凄まじく、到底今の彼が出せるはずのないものだった。

 右腕が黄金の輝きを放ちつつ、臨界を超えて尚その力は高まっていった。

 彼を見つめるだれもが驚き、その中で紫だけは祈るように目を閉じる。

 大丈夫、彼なら大丈夫と己に言い聞かせながら……紫はただひたすらに彼の無事を祈り。

 

「――この一撃は龍の鉤爪、あらゆるものに喰らいつき……噛み砕く!!」

 

 力ある言葉が、放たれる。

 その声に応えるように、黄金の光はより一層輝きを見せ。

 

「くらえ!! 奥義――龍爪撃(ドラゴンクロー)!!!」

 

 龍人はその右腕を、力一杯結界に向かって叩きつけた――!

 

「ぬう……っ!?」

「うあ……!?」

 

 龍人の右腕が、結界に触れた瞬間。

 凄まじい衝撃波が周囲に巻き起こった。

 

「ぐ、く……!」

 

 黄金の右腕が、結界に阻まれている。

 龍爪撃(ドラゴンクロー)の一撃を以ってしても、結界に軋みを上げさせるだけだった。

 

「無駄な事を……お前のような小僧が突破できるような結界ではないさ」

「う、うるせえ……ちょっと黙ってろ!!」

 

 小馬鹿にする沙耶にそう返しながら、龍人は更に右手に【龍気】を集めていく。

 

――パキン、という音が響き始めた。

 

「な、なんだと……!?」

 

 驚愕する沙耶、だがそれも当たり前だ。

 軋みを上げていた結界が、少しずつ破壊されていく。

 それも、まだ小僧である龍人1人によってなのだから、沙耶が驚愕するのは当然だった。

 

「く、ぐ……うおおおおおおっ!!!」

 

 激昂し、その声に呼応するように【龍気】が更に龍人の右腕に集まっていき。

 牢に貼り付けられていた札が独りでに破れ、燃え尽き。

 

 爆音と地響きを部屋全体に巻き起こしながら。

 龍人の龍爪撃(ドラゴンクロー)は、結界ごと絶鬼達を閉じ込めていた牢を破壊した――

 

 

 

 

To.Be.Continued...




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少しでも楽しんでいただけたのなら幸いに思います。

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