妖怪の賢者と龍の子と【完結】   作:マイマイ

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大切な人との別れは、紫達の心に傷を生んだ。
しかし、彼女達はまだ生きている。

生きているからこそ……前へと歩みを進まなければならない。


第二章エピローグ ~新たなる旅路へ~

「――そう、ですか。そのような事が」

 

 幻想郷、稗田家の屋敷。

 戦いが終わり、紫達は再び幻想郷へと戻っていた。

 彼女達を迎え入れた阿一が、龍哉の姿が見えない事に疑問を持ち――紫が全てを説明し現在に到る。

 龍哉の死を聞き、阿一は上記の言葉を呟きつつそっと涙を流した。

 

「……龍人さんは、どうしていますか?」

「彼はかつて龍哉と共に暮らしていた山に戻っているわ」

「そうですか。それで紫さん達はこれからどうするおつもりで?」

「正直、まだ決めていないの。とりあえず私は龍人についていくつもりよ」

 

 彼がどんな道を歩むのかはわからない。

 だが紫は、彼の傍に居る事を既に決めている。

 亡き龍哉から彼を頼むと言われたし、他ならぬ紫自身が…彼と共に居たいと思っているから。

 

「わかりました。もしもこの幻想郷で暮らす事をお望みでしたら、私達はいつでもお2人を歓迎しますよ」

「ありがとう阿一、本当にありがとう」

 

 心からの感謝の言葉を告げ、立ち上がる紫。

 そしてスキマを展開し、龍人の元へと繋げる。

 

「――お2人の未来に、幸あらんことを願います」

 

 最後に、阿一のそんな言葉を受け取ってから。

 紫はスキマに入り、一瞬で龍人達の家へと到着した。

 

「…………」

「…………」

 

 龍人の背中を視界に捉える、彼は……窓から外を眺めていた。

 無言のまま、ただ黙って外の景色を眺めている。

 その姿に、紫はおもわず彼に声を掛けるのを躊躇っていると。

 

「――おかえり、紫」

 

 いつもと変わらぬ口調で、龍人は紫を迎え入れた。

 

「え、ええ……ただいま」

「? どうかしたのか?」

 

 首を傾げる龍人、その問いはこっちがしたいと紫は心の中で突っ込みを入れた。

 

――彼は、父である龍哉を失っても悲しまなかった。

 

 勿論彼の死を聞いて驚きはした、でも……彼は泣く事もなくただ「そっか……」と寂しげに呟いただけ。

 後はそのまま妖忌に別れを告げ、真っ直ぐ自分達が暮らしていた家へと戻った。

 

 ……泣きじゃくると思った、最悪悲しみのあまり自ら命を絶つかもしれないとも思っていた。

 それだけ龍人にとって龍哉の存在は大きい筈だ、だというのに……彼はもういつもの調子に戻っている。

 だから、それを不思議に思った紫はおもわず彼に問いかけてしまう。

 

「ねえ、龍人」

「なんだ?」

「その、あなたは……」

「――とうちゃんは、もう戻らない。もう二度と会えないんだ」

「…………」

 

 そう言って、龍人はまた寂しげに笑う。

 

「だけどさ、いつまでも悲しんでたらどやされちまうよ。しっかりしろって」

「龍人……」

「だから俺は泣かないよ。それに……泣いている暇なんてないんだ」

 

 そう言って、彼は隅の方に纏められている荷物を持ち上げた。

 

「それは……?」

「――いつか、またあのアリアってヤツと戦わなきゃいけない時が来ると思う。

 だけど今の俺じゃアイツには勝てないし、きっと俺1人じゃいくら強くなったって駄目だと思う。だからさ、これから旅に出て一緒に戦ってくれる仲間を捜す!!」

「…………」

「紫は……どうする?」

 

 そう訊きながら、龍人は少しだけ不安そうに紫を見つめる。

 その瞳が「一緒に来てほしい」と告げているのがわかり、紫は嬉しくなった。

 彼は優しい、優し過ぎるくらいに。

 それでも彼はついてきてほしいと訴えてくれている、それが……紫には嬉しかった。

 

「――勿論私もついていくわ。だって龍哉からあなたの事を頼まれたんだから」

「紫……」

「それにね。私自身があなたと一緒に……」

 

 そこまで言いかけ、紫は龍人から視線を逸らす。

 ……少し恥ずかしい事を言おうとしていた事に、気がついたからだ。

 

「よーし、そんじゃ出発だ!!」

「でも龍人、まずは目的地を決めないと」

「あー……どうする?」

「もぅ……」

 

 彼らしいと思いつつも、紫はつい呆れてしまう。と。

 

「――だったら、【妖怪の山】に行くのはどうだ?」

 

 そんな声が、入口から聞こえてきたので2人は視線をそちらに向けた。

 

『妖忌!?』

 

 2人は同時に驚きの声を上げる。

 幽々子の屋敷で別れた妖忌が現れたのだ、驚くのは当然と言えた。

 

「お前、どうしたんだ?」

「――あの女に用があるのは、お前だけじゃない」

「妖忌……」

 

 その一言で、紫達は理解する。

 復讐するつもりなのだ、幽々子の命を奪う原因となったアリアに。

 

「けど、なんで妖怪の山に?」

「そこには桜観剣と白楼剣を造った妖怪一の名工が居るんだ、そいつにもっと強い刀を打ってもらう」

「へえ、妖怪一の名工かあ……」

(あ、この顔は興味を持った顔ね……)

 

 どうやら、次の目的地は決まったようだ。

 

「よーし、じゃあ妖怪の山に出発ー!!」

 

 言うやいなや、家から飛び出していく龍人。

 

「……あいつは、もう前を向いてるんだな」

「…………」

「俺も、いつかあいつみたいに前を向いていけるんだろうか……」

「それはあなた次第よ、妖忌」

 

 悲しみに暮れ、歩みを止めるか。

 それともそれを飲み干し、前に進めるかはその者次第。

 ……自分はどちらなのだろうかと、紫は己に問いかけるが…今の彼女に答えは出せなかった。

 

「おーい、何してんだよー!!」

 

 龍人に呼ばれ、2人もようやく家から出る。

 

「そういえば、妖怪の山には鬼が居るんだよな? 紫が友達になった萃香ってヤツに会ってみたいと思ってたんだー」

「ったく、気楽なもんだな……」

「龍人らしいじゃない」

 

 歩幅を合わせ、3人は並んで歩く。

 

 

――それが、始まり。

 

 長く険しい、彼等の物語。

 そして、理想郷を目指す旅の始まりであった―――

 

 

 

 

To.Be.Continued...




次回からは第三章となる「妖怪の山」編となります。
ここまでお付き合いしてくださった方々、ありがとうございました。
またこれからも読んでくださると嬉しく思います。

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