しかし、彼女達はまだ生きている。
生きているからこそ……前へと歩みを進まなければならない。
「――そう、ですか。そのような事が」
幻想郷、稗田家の屋敷。
戦いが終わり、紫達は再び幻想郷へと戻っていた。
彼女達を迎え入れた阿一が、龍哉の姿が見えない事に疑問を持ち――紫が全てを説明し現在に到る。
龍哉の死を聞き、阿一は上記の言葉を呟きつつそっと涙を流した。
「……龍人さんは、どうしていますか?」
「彼はかつて龍哉と共に暮らしていた山に戻っているわ」
「そうですか。それで紫さん達はこれからどうするおつもりで?」
「正直、まだ決めていないの。とりあえず私は龍人についていくつもりよ」
彼がどんな道を歩むのかはわからない。
だが紫は、彼の傍に居る事を既に決めている。
亡き龍哉から彼を頼むと言われたし、他ならぬ紫自身が…彼と共に居たいと思っているから。
「わかりました。もしもこの幻想郷で暮らす事をお望みでしたら、私達はいつでもお2人を歓迎しますよ」
「ありがとう阿一、本当にありがとう」
心からの感謝の言葉を告げ、立ち上がる紫。
そしてスキマを展開し、龍人の元へと繋げる。
「――お2人の未来に、幸あらんことを願います」
最後に、阿一のそんな言葉を受け取ってから。
紫はスキマに入り、一瞬で龍人達の家へと到着した。
「…………」
「…………」
龍人の背中を視界に捉える、彼は……窓から外を眺めていた。
無言のまま、ただ黙って外の景色を眺めている。
その姿に、紫はおもわず彼に声を掛けるのを躊躇っていると。
「――おかえり、紫」
いつもと変わらぬ口調で、龍人は紫を迎え入れた。
「え、ええ……ただいま」
「? どうかしたのか?」
首を傾げる龍人、その問いはこっちがしたいと紫は心の中で突っ込みを入れた。
――彼は、父である龍哉を失っても悲しまなかった。
勿論彼の死を聞いて驚きはした、でも……彼は泣く事もなくただ「そっか……」と寂しげに呟いただけ。
後はそのまま妖忌に別れを告げ、真っ直ぐ自分達が暮らしていた家へと戻った。
……泣きじゃくると思った、最悪悲しみのあまり自ら命を絶つかもしれないとも思っていた。
それだけ龍人にとって龍哉の存在は大きい筈だ、だというのに……彼はもういつもの調子に戻っている。
だから、それを不思議に思った紫はおもわず彼に問いかけてしまう。
「ねえ、龍人」
「なんだ?」
「その、あなたは……」
「――とうちゃんは、もう戻らない。もう二度と会えないんだ」
「…………」
そう言って、龍人はまた寂しげに笑う。
「だけどさ、いつまでも悲しんでたらどやされちまうよ。しっかりしろって」
「龍人……」
「だから俺は泣かないよ。それに……泣いている暇なんてないんだ」
そう言って、彼は隅の方に纏められている荷物を持ち上げた。
「それは……?」
「――いつか、またあのアリアってヤツと戦わなきゃいけない時が来ると思う。
だけど今の俺じゃアイツには勝てないし、きっと俺1人じゃいくら強くなったって駄目だと思う。だからさ、これから旅に出て一緒に戦ってくれる仲間を捜す!!」
「…………」
「紫は……どうする?」
そう訊きながら、龍人は少しだけ不安そうに紫を見つめる。
その瞳が「一緒に来てほしい」と告げているのがわかり、紫は嬉しくなった。
彼は優しい、優し過ぎるくらいに。
それでも彼はついてきてほしいと訴えてくれている、それが……紫には嬉しかった。
「――勿論私もついていくわ。だって龍哉からあなたの事を頼まれたんだから」
「紫……」
「それにね。私自身があなたと一緒に……」
そこまで言いかけ、紫は龍人から視線を逸らす。
……少し恥ずかしい事を言おうとしていた事に、気がついたからだ。
「よーし、そんじゃ出発だ!!」
「でも龍人、まずは目的地を決めないと」
「あー……どうする?」
「もぅ……」
彼らしいと思いつつも、紫はつい呆れてしまう。と。
「――だったら、【妖怪の山】に行くのはどうだ?」
そんな声が、入口から聞こえてきたので2人は視線をそちらに向けた。
『妖忌!?』
2人は同時に驚きの声を上げる。
幽々子の屋敷で別れた妖忌が現れたのだ、驚くのは当然と言えた。
「お前、どうしたんだ?」
「――あの女に用があるのは、お前だけじゃない」
「妖忌……」
その一言で、紫達は理解する。
復讐するつもりなのだ、幽々子の命を奪う原因となったアリアに。
「けど、なんで妖怪の山に?」
「そこには桜観剣と白楼剣を造った妖怪一の名工が居るんだ、そいつにもっと強い刀を打ってもらう」
「へえ、妖怪一の名工かあ……」
(あ、この顔は興味を持った顔ね……)
どうやら、次の目的地は決まったようだ。
「よーし、じゃあ妖怪の山に出発ー!!」
言うやいなや、家から飛び出していく龍人。
「……あいつは、もう前を向いてるんだな」
「…………」
「俺も、いつかあいつみたいに前を向いていけるんだろうか……」
「それはあなた次第よ、妖忌」
悲しみに暮れ、歩みを止めるか。
それともそれを飲み干し、前に進めるかはその者次第。
……自分はどちらなのだろうかと、紫は己に問いかけるが…今の彼女に答えは出せなかった。
「おーい、何してんだよー!!」
龍人に呼ばれ、2人もようやく家から出る。
「そういえば、妖怪の山には鬼が居るんだよな? 紫が友達になった萃香ってヤツに会ってみたいと思ってたんだー」
「ったく、気楽なもんだな……」
「龍人らしいじゃない」
歩幅を合わせ、3人は並んで歩く。
――それが、始まり。
長く険しい、彼等の物語。
そして、理想郷を目指す旅の始まりであった―――
To.Be.Continued...
次回からは第三章となる「妖怪の山」編となります。
ここまでお付き合いしてくださった方々、ありがとうございました。
またこれからも読んでくださると嬉しく思います。