妖怪の賢者と龍の子と【完結】   作:マイマイ

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龍人と龍哉、2人のある親子と共に暮らす事になった紫。
己の境界を操る能力を制御するため、そして誰にも負けない力を得るために、彼女は龍人と共に強くなる道を選んだ。

しかし……彼女は、己の心の弱さを鍛練の中で思い知る事になる。


第3話 ~鍛練~

――待ちやがれ!!

 

――逃がすな、追い込め!!

 

――死ね、ガキィィィィィッ!!

 

 無数の手が、私に迫る。

 捕まれば終わり、だからは私は必死に逃げる。

 

――死にたくない

 

――死にたくない

 

――死にたくない!!!

 

 誰か、助けて。

 誰か、私を――

 

 

 

 

「――いやああああっ!!!」

 

 目を見開き、紫は飛び上がるように上体を起こした。

 

「はー……はー……はー……」

 

 額から滝のような汗が流れ、息は乱れに乱れている。

 胸を押さえながら、必死に息を整えていく紫。

 数分後、ようやく息が整ってきて……紫は見慣れない部屋にいる事に気がついた。

 

「は、ぁ……ここ、は」

 

 最低限の荷物しかない、木造の部屋。

 ここはどこだろうか、未だ混乱しながらも……紫は昨日の事を思い出した。

 

「ああ……そうか」

「――おお、起きたか?」

 

 紫に声を掛けたのは、この家の主である龍哉。

 朝だからか、その表情は気だるそうであり、ボサボサの髪を乱雑に掻くその姿は少々下品だ。

 彼を見て僅かに顔をしかめる紫、しかし龍哉はまったく気にした様子もなく大きく口を開き欠伸をした。

 

「……龍人は?」

「あいつは朝飯の調達だ、もうすぐ帰ってくるだろ」

 

 龍哉がそう返した瞬間――僅かに地面が揺れ動く。

 

「えっ、何……?」

「心配すんな、龍人だよ」

「龍人……?」

 

 小屋の外へ出て、太い枝の上から遠くを見つめる紫。

 すると……小さな地響きがこっちに近づいてくると同時に、巨大な魚が引き摺られてくる光景が映った。

 

「ん? おーい、紫ー!!」

「龍人……!?」

 

 巨大魚を引っ張っている人物が、紫に向かって元気よく手を振っている。

 その人物は龍人、龍哉の息子であり……紫にとって、初めての友人だ。

 四メートルはあろう巨大魚を背負いながら、器用に木を登っていき……小屋の前に到着する龍人。

 

「……これ、妖怪魚?」

「ああ、俺もとうちゃんも凄い食うからさ」

「…………」

「紫も遠慮せずに食えよ?」

「え、ええ……」

 

 なんともいえない表情を浮かべてしまう紫。

 遠慮するなと言ってくれるのは嬉しいが、こんな巨大魚を食べるのは少々抵抗感がある。

 その後、焼いた巨大魚を3人で食べ尽くした。

 尤も、その殆どは龍人と龍哉が食べ、紫は抵抗感のせいか申し訳程度しか食べていないが。

 

「ぷはーっ、ごちそうさん!!」

「ごちそうさま……」

「紫、あんまり食ってなかったけど……食欲ないのか?」

「いいえ、ただこういった食事は初めてだったから……」

「ふーん……じゃあ普段何食って生きてたんだ?」

「ゆっくり食べれる余裕なんてなかったから、草木や木の実……人間の死体だったわ」

 

 のんびりと食事をしていれば襲われてしまう、今まで紫はそういった生き方を強いられていた。

 だからこうやってのんびりと食事をしたのは……殆ど無いのだ。

 睡眠だってそうだ、今日のようにゆっくり睡眠ができたのは一体いつ振りだっただろうか。

 ……見たくもない()()を、見てしまったが。

 

「そっかー……じゃあ、これからはずっとゆっくり食べれるな!」

「…………」

 

 無邪気な笑みを浮かべる龍人。

 その笑顔を見て……悪夢の内容が少しだけ薄れてくれたような気がした。

 

「? 紫、どうかしたか?」

「……ふふっ、いいえ。なんでもないわ」

 

 穏やかな笑みを返す紫を当初は訝しげに見つめていた龍人であったが、すぐさま再び笑顔になった。

 ニコニコと笑みを見せ合う2人、子供らしいその姿を傍目で見ていた龍哉は密かに和んでいたが、和んでばかりもいられない。

 

「おい龍人、紫、食休みが終わったら……修行の時間だぞ?」

「うん、わかってるよとうちゃん!」

「……修行?」

 

 修行と聞いて龍人の顔にやる気が満ちるが、一方の紫の表情は訝しげだ。

 当たり前だ、いきなり修行の時間だと言われても何の事だかさっぱりわからないのだから。

 

「俺が強くしてやるって言ったろ? それにお前さんがさっさと強くならんとこっちに飛び火がやってくるんでな」

「……成る程」

 

 乱暴な物言いの龍哉の言葉を聞いて、紫は納得した。

 ……いずれ、自分の命を奪いに現れる妖怪が必ず居る。

 そうなれば龍人にも龍哉にも迷惑が掛かるだろう、だからこそ……力を蓄えなければならない。

 本来ならばさっさと2人の前から姿を消さなくてはならない、けれどそれは自分を受け入れてくれた2人に対する裏切りだ。

 だから紫はその選択は選ばない、少なくとも2人が自分を受け入れてくれている間は……。

 

「それでとうちゃん、紫もいつも俺達がやってるのと同じ修行をさせるの?」

「ああ、そうだ」

「一体どんな内容なのかしら?」

「この山全体を使ってとうちゃんと戦うんだ。とうちゃんに一撃でも入れられればそれでおしまい」

「……単純ね」

「実戦形式の修行だからな。今回はお前と紫2人がかりでかかってこい、2人のどちらかが俺に一撃でも入れる事ができたらそれで終わりにしてやる」

「よーし、やるぞーーーーーっ!!」

 

 立ち上がり、素早く身構え右手で拳を作る龍人。

 そして、未だにだらしない格好で座っている龍哉へと、間合いを詰め――

 

――ドンッという大砲じみた音と家の壁を破壊する音がほぼ同時に響き渡り、龍人の姿が紫の視界から消えた。

 

 

「…………」

「――今回は2人がかりだからな。いつもよりは力を出させてもらうぞ龍人、ってか馬鹿正直に向かってくんなって言ってるじゃねえか……こうやってぶっ飛ばされて修行が始まるの何回目だよ」

 

 いつも通りの気だるげな口調で話す龍哉の右手が、握り拳になっていた。

 ……殴り飛ばしたのだ、腕の力だけで。

 妖力も使わず、ただ腕力だけで龍人の身体をまるで矢のように殴り飛ばした龍哉を見て、紫はその場で立ち尽くしてしまう。

 とてつもない力を持っている事はわかっていた、しかし今の一撃で自分の目論見が如何に甘かったか思い知らされた。

 

――彼は強いなんてものじゃない、ただただ異常な力を有している!!

 

「――たったの一撃、それで終わりだから楽勝だろう?」

「っ――――」

 

 龍哉の視線が、紫へと向けられる。

 たったそれだけで紫の身体は凍りついたかのように動けなくなりそうになったが、恐怖心を猛りで蓋をして能力を発動させた。

 紫の真横に現れる亀裂、スキマと呼ばれる亜空間の中に飛び込むように入り込む紫。

 少なくともこれですぐに追撃される事はない、だが安心もできない紫はスキマを閉じると同時に別の場所にスキマを開いた。

 開いた先は家から遠く離れた山の中、地面に降り立った紫は……傍で大の字のまま倒れこんでいる龍人の元へと駆け寄る。

 

「龍人!!」

「――いってえぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 紫が駆け寄ると同時に、右手で右頬を押さえながら龍人が起き上がった。

 瞳にはうっすらと涙が滲んでおり、よほど痛いのか「うーうー」と唸っている。

 

(……痛い、なんてもので済むとは思えないけど)

 

 ここは家から既に数キロ近く離れている、あれだけの速度でここまで吹き飛ばされ勢いよく地面に叩きつけられたのだ、普通の人間なら当然即死であり妖怪であっても決して軽傷では済まされない。

 どうやら龍人の身体は相当頑丈に出来ているようだ、大きな怪我を負っていないようで紫はほっと安堵の溜め息を零すが、すぐさま表情を引き締め龍人を立ち上がらせた。

 

「龍人、真っ向勝負じゃ歯が立たないわ。ここは2人で協力して行きましょう!」

「おーいてー……それはいいけどさ、俺そういうの苦手なんだよなあ……」

「苦手なんて言っていたら修行にならないじゃない。とにかく私達はあんな怪物相手に一撃入れないといけないんだから」

 

 紫は賢い、逃亡を続けてきた十五年間の間に普通の妖怪の数倍以上の知識を身につけている。

 そうでもしないと生き延びれないからだ、故に紫は自分達がどう足掻いても龍哉には勝てないと既に悟っていた。

 しかしこれは殺し殺される戦いではない、一撃与えればこちらの勝利なのだ。

 ならば手が無いわけではない、勝率は限りなく零に近いが……。

 

「――相談は終わりかー?」

「っ!!?」

 

 音もなく自分達の前に現れる龍哉。

 まったく気配を感じ取ることができなかったが、紫が驚いたのはそれだけではない。

 自分はスキマを用いたからこそ家から遠く離れた龍人の元へとすぐに駆け寄れた、しかし龍哉は違う。

 だというのにこの速さ、これで驚愕しないわけがなかった。

 

「あれ? とうちゃん、“()(でん)”使ってんのか?」

「ああ、今回は二対一だからな。ちょっとだけ力を解放したんだ」

「………紫電?」

 

 それは一体何なのか、聞き慣れない単語を耳に入れ首を傾げる紫。

 だが龍哉の身体に這うように発生している目で見える程の膨大な電気エネルギーを見て、紫は紫電というものが何なのか理解する。

 

「――強い電気信号を筋肉に送って、通常以上の動きを可能にしている」

「御名答。普通の人間なら筋肉にこれほどの電気信号を送れば萎縮するだけに留まらず崩壊するが、人間より頑丈な肉体を持つ者ならこんな芸当もできるってわけだ。

 その名も紫電、まあ尤も負担が無い訳じゃないんだけどな。ところで……かかってこないのか?」

「…………」

 

 自分達と龍哉との間には、およそ五メートルの距離がある。

 しかし龍哉にとってそんな距離など初めから存在しないようなものだ。

 一方の紫達は、この状況を好転させる手段も考えも思いつかない。

 龍哉は手加減しているようだが、そうだとしても彼と自分達とでは力の差が大き過ぎる。

 

――抵抗した所で、何かが変わるわけがない。

 

 既に紫からは戦闘意欲は消え去り、諦めの表情を作っていた。

 彼女は賢い、冷静に自分達と相手の戦力を理解して負けを認めている。

 ……しかし、彼女の隣にいる少年は、それをまったく理解していないようだ。

 

「紫、遠距離と近距離、どっちが得意?」

「えっ?」

「俺近距離だから、遠距離から援護してくれないか?」

「…………」

 

 彼は一体何を言っているのだろう、紫はおもわず龍哉に向かって身構えている龍人を凝視してしまう。

 相手の力量が理解できないのか、自分達がどう立ち向かおうとも一撃を入れる事すらできないというのに……。

 だというのに、龍人の瞳には一片の諦めの色も見られず、本気で龍哉に勝つ気概で居る。

 ……それが紫には信じられず、また同時に理解できない。

 

「……貴方、戦って勝てると思っているの?」

「思ってねえよ。俺は今までとうちゃんに一度も勝った事はないし、実を言うと……一撃も入れた事もねえんだ」

「だったら分かる筈よ、明確なまでの実力差が。彼がいくら手加減しているといっても私達では勝てないばかりか一撃だって当てられない」

 

 無意味だと、立ち向かうだけ無駄だと紫は現実を告げる。

 それは事実だ、格上の相手と対峙した事がある紫の観察眼は確かだ。

 ……それでも、龍人は退くという選択肢を選ばない。

 

「でも今度は当てられるかもしれないだろ? 一撃当てれば俺達の勝ちなんだからさ」

「当てられる訳がないわ、それがわからないの?」

 

 あまりに愚行だ、彼のやろうとしている事は。

 勝てないものは勝てない、それが理解できない者は愚か者でしかないのだ。

 そう訴える紫に、けれど龍人は真っ直ぐな瞳で。

 

「――紫と2人で戦えば、きっと大丈夫だ!!」

 

 そんな根拠のない言葉を、自信満々に口にした。

 

「――――」

 

 呆れよりも、驚きの方が強く紫は呆然としてしまった。

 どうしてそんな事が言えるのか、何故こんなにも……自分を信じる事ができるのか。

 実力差がわかっているのに、どうして立ち向かう事ができるのか……紫にはわからない。

 

「いくぞおおおっ、とうちゃん!!」

「おお、来い来い、諦めずにかかってきな」

「…………」

 

 龍人が、迷う事無く龍哉に立ち向かっていく。

 それをどこか嬉しそうに眺めながらも、決して容赦などせずに龍哉は龍人を軽々と殴り飛ばし大木に叩きつけた。

 何度も何度も、逃げも諦めもせずに龍人は龍哉に向かっては返り討ちにあっている。

 額から血を流し、圧倒的な力の差を思い知らせれても尚――彼は、立ち向かう以外の選択肢は選ばなかった。

 

「…………」

 

 何もできず、紫はその光景を眺め続ける。

 泥臭くて子供そのものと呼べる龍人の愚行。

 だというのに――どうして、こんなにも目が離せないのか。

 

 

 

 

「――ふむ、今日は終わりみたいだな」

 

 倒れたまま動かなくなった龍人を見て、龍哉は構えを解いた。

 既に日は沈み、半日近く立ち向かっては返り討ちにされた龍人の身体にはおびただしい程の傷が刻まれている。

 息は大きく荒げながらも意識は失っており、如何に激しい鍛練だったのかを物語っていた。

 

「……結局、戦えなかったな」

「…………」

 

 紫にそう放つ龍哉の言葉に、特別な感情は込められていない。

 鍛練もせずただ龍人と龍哉の光景を見続けていただけの紫を、彼は決して責めたりはしなかった。

 

 十五年間、生まれて間もなく逃げ続ける生き方を強いられた少女は、賢くなり過ぎた。

 だから実力差のある相手に対してはまず逃げの一手を考え、それができなければ……ただ黙って己の敗北を受け入れようとする。

 そんな考えが定着してしまっているのだろう、妖怪は人間以上に精神に依存する傾向があるのも拍車を掛けているのかもしれない。

 

――しかしそれでは、いつか紫の命は奪われる。

 

 それは予言ではなく決定された未来の姿。

 紫という将来強大すぎる力を持つ危険性がある存在は、人間からも妖怪からも畏怖され狙われる。

 故に力を付けなければならないのだ、たとえ誰であっても対等以上に立ち向かう事ができる程の力を。

 

「――あまり、己の過去に縛られるな」

「っ―――」

「お前さん、うなされてたが……自分の命を狙う妖怪達から追いかけられる夢でも見てたんじゃないか?」

「…………」

 

 紫は答えない。

 しかしその無言で身体を震わせている姿を見て、龍哉は自分の考えが肯定されていると理解しつつ言葉を続けた。

 

「いつか再び、その悪夢の中に自らの意志で入っていかなきゃいけない時が来る。

 それはお前さんの宿命だ、境界を操る力を持って生まれたお前さんのな」

「…………」

「だが悲観することはない、俺がお前を立派に育ててやる。

 それによ……お前さんの傍には、損得勘定抜きでお前さんを信じてくれる馬鹿が居るだろう?」

「――――、あ」

 

 龍哉が倒れたままの龍人へと視線を向け、それに続くように紫も視線を彼に向けた。

 ……気を失っているというのに、何故だろうか。

 彼の表情が、安らいだ子供の顔になっているように、紫は思えた。

 

「コイツの傍に居れば、お前さんは自分の力や世界を呪う事無く生きる事ができる筈だ」

「……どうして、そう断言できるの?」

「コイツが俺の息子だから……というのは冗談で、コイツは――この世の全てを平等に見る目を持っているからだ」

「…………」

「偏見も差別意識も無く、他者を他者そのままに見る事ができる。

 貴重だぞ? コイツみたいな考え方を持つヤツは世界中捜したっていないかもしれないからな」

 

 紫にそう言いながら、龍哉は龍人の体を軽々と持ち上げた。

 

「負けるなよ紫、お前さんがこれからも生き続けたいのなら……己に負けず、強くなれ」

「…………わかっているわ」

「そうかい。それじゃあ……次回は龍人と一緒にもう少し楽しませてくれよ?」

「…………」

 

――紫と2人で戦えば、きっと大丈夫だ!!

 

 思い出すのは、先程の言葉。

 信じる根拠のない、子供じみた言葉だけど。

 何故だが、紫の心の奥底まで入り込み、消える事は無かった。

 

 

 

 

「――いててて」

「これでいいと思うけど……大丈夫? きつくない?」

「ああ、ありがと紫」

 

 家に戻り、紫は怪我をした龍人の治療を施す。

 包帯(当時は(さらし)で代用していた)でぐるぐる巻きになったその姿は痛々しく見えるが、当の龍人はいつもと変わらず笑顔を浮かべていた。

 

「あー……それにしてもいつもより痛かったなあ」

「…………」

「けど次は負けないようにしないと、今度は一緒に頑張ろうな?」

「…………」

 

 どうして、貴方は私を責めないの?

 そんな言葉が喉元まで出てきたが、紫は口には出さず無理矢理呑み込んだ。

 そのような問いなどまるで意味を成さない、問いかけた所で無意味な質問でしかないのだから。

 

「……紫、どうかしたか?」

「えっ……」

「なーんか元気ないなー、ちゃんとメシを食わないからじゃないか?」

「そういうわけじゃないわ。ただ……私は、自分で思っている以上に弱いって、思い知らされたの」

 

 実力差を理解して、龍哉に立ち向かうのを諦めた。

 間違いだとは思わない、だが己の磨けない者に……未来などは待っていない。

 強くならなければ殺される、自分はそういった道の上に立たされているのだから。

 それなのに諦めた、負けても殺されるわけではない鍛練だからといって、簡単に諦めてしまった。

 

 ……そんな事をしている者に、力など宿らない。

 紫は賢い、だからこそ自分でそれに気づき……同時に、自らの情けなさを思い知った。

 

「紫は強いじゃん。あの境界って力があれば誰にも負けないって」

「でも、今の私ではその力を満足に使う事なんて……」

「だったら、今より強くなって使えるようになればいいだけだろ?」

「それは、そうかもしれないけど……」

「大丈夫大丈夫、俺と一緒にとうちゃんに鍛えられたら凄く強くなるって!!」

「…………」

 

 まただ。

 根拠のない、けれど妙に自信溢れた龍人の言葉。

 信頼できる要素など微塵も無いのに、それなのに――信じたいと紫は思った。

 ここで彼等と一緒に居れば、自分はきっと強くなれると。

 

「ふふっ……そうね、それじゃあこれから宜しく、龍人」

「ああ、こっちこそ!!」

 

 ニカッと笑う龍人に、紫も笑みを返す。

 その笑みはとても穏やかで、彼女は気づいていないが……初めて浮かべる心からの笑みであった。

 

(……よしよし、ちょっとは吹っ切れたみたいだな。

 紫の潜在能力は大妖怪級だ、これから力を引き出せば“()(たい)(よう)”に匹敵する妖怪になる筈だ)

 

 少し離れた場所で紫達を見守りつつ、龍哉はある考えを巡らす。

 

(明日は、もっと厳しくしてみるか……)

 

 愉しそうに、本当に愉しそうに龍哉は笑う。

 だがその笑みは第三者から見れば邪悪に映っており。

 

 

――龍人と紫は、その笑みに気づかないながらも無意識の内にぶるりと身体を震わせたのであった。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




紫電の原理は現実世界で考えればおそらく成立しないものだと思います。(まず身体が保たないし崩壊しますから)
まあそこは「人間じゃないから」という事で納得していただければ幸いです。

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