第105話 ~巫女さん達と夜雀さん~
「――あー、暇だわー」
愚痴を零しつつ、“博麗の巫女”と呼ばれる人間の守護者、博麗零はお茶を啜る。
里から少し離れた丘の上に立つ神社、“博麗神社”にて彼女はのんびりと過ごしていた。
少しずつ暑くなってきた、もう少しすれば夏の季節がやってくるであろうが、まだ日差しには春の陽気を残したままだ。
「…………本当に暇ね」
またお茶を啜る、そして口に含んだ茶を飲み込んでから……彼女は盛大にため息を放つ。
……平和である、平和すぎるのである。
魔界での一件が終わり、半月は経っただろうか。
聖白蓮と愉快な仲間達という新たな住人を迎えた幻想郷は、ゆったりのんびりとした時を刻ませ続けていた。
それに対して何か文句があるわけではない、平和なのは本当に良い事なのだから。
ただ、まあ、少しばかり刺激がほしいなーとも思ってしまうのもまた本音であった。
零はこの幻想郷で済む前は巫女として各地を転々としつつ、妖怪退治を生業として生きてきた。
故に彼女の半生は戦いの日々であったと言っても過言ではないのだ、そんな彼女に幻想郷の平和過ぎる空気は少々退屈に思えてしまっていた。
無論、人と妖怪が共に暮らすこの幻想郷でも妖怪退治の依頼は飛び込んでくる。
里の外には人を糧とする野良妖怪は存在しているし、内側でもいざこざが発生しないわけではない。
けれどこの半月ばかりはそれもなく、ただただ零は怠惰的な日々を過ごしていた。
「紫達も遊びに来ないし……今日はどう過ごそうかしら」
1日寝て過ごすというのはもう飽きた、というかそれをやったら翌日身体の節々が痛んだのでしたくはない。
と、そこで零は前に紫から頼まれていた事を思い出す。
それは――次代の“博麗の巫女”の育成だ。
零とて人間、いずれ老いを向かえ巫女を続ける事ができなくなる。
しかしこの幻想郷にて“博麗の巫女”の存在は必要不可欠である、故に現役である内に次代の育成を果たさねばならない。
「でもなー……子を産むとしても、相手がいないんじゃどうしようもないし……」
適当な男を捕まえて子を産む……というのは、自分としても相手にしてもあんまりである。
かといって愛を育み夫婦となるというのも、零の中では想像できなかった。
まだ若いとはいえ、悠長に構えていい問題ではないし、何より紫辺りから小言を言われるのは御免被る。
さてどうしたものかと考えに耽る零であったが、すぐに面倒になってもっと楽しい事でも考えようと思った矢先。
「――巫女殿、先程から声を掛けていたのだが、気づかなかったのか?」
縁側に座っていた彼女に、一匹の妖狐が声を掛けてきた。
顔を上げる零、そこに立っていたのが紫の式である九尾の妖狐の八雲藍だと判り、怪訝な表情を浮かべる。
「藍ちゃんだけなんて珍しいわね、どうしたのかしら?」
「……とある依頼を受けてほしいという紫様の伝言を預かってきた」
「依頼って、妖怪退治? やった、最近暇で暇でしょうがなかったのよ!!」
そう言いながら嬉々として立ち上がる零に、藍は呆れを含んだ視線を向ける。
「それで、どいつをぶっ飛ばせばいいのかしら?」
「落ち着いてくれ。それに今回は完全な退治ではないんだ」
「ん? どういう事かしら?」
「……里の外で、最近不気味な歌声が聴こえるという報告が入った。
当初は里の守護者だけで対処してもらおうと思ったのだが……紫様がな」
最近、零が巫女として働いてないから彼女に解決させなさい。
そう言って、紫は藍にその依頼を伝えるように指示を出したのだ。
それを聞いて零は不満げに唇を尖らせたが、事実ではあるのでそれ以上は何も言わなかった。
「色々と愚痴りたいけどまあいいわ、それでどうして退治じゃないのかしら?」
「いや、最終的にはそうなる可能性もあるが……調査の為に調べた結果、人型の妖怪だという事がわかってな」
「ふーん、で?」
「巫女殿も知っている通り、人型の妖怪というのは総じて知能や能力が高い傾向にある。紫様としては、そういった妖怪を“こちら側”に引き込みたいお考えなのだ」
その言葉を聞いて、零は成る程と納得する。
しかし彼女も本当に甘い……というか、本当に妖怪なのかと疑ってしまいそうになる。
自分勝手で傲慢の塊、それも力と能力が優れれば優れるほどその兆候は強く濃いものになるというのに……彼女にはそれがまったく見られない。
彼女の式である藍ですら、外見上はあくまで友好的に見せているが、内心では人間である自分を何処か下に見ているのがわかるというのに……。
とはいえそれが不快とか不気味に思っているわけではない、少なくとも零は八雲紫という妖怪を何の混じり気もない好意を抱いている。
妖怪退治を生業とする巫女が妖怪を好意を抱くなど可笑しな話かもしれないが、それだけの魅力が彼女にある何よりの証拠なのだ。
現に里の住人達の大半は彼女の事を好いている、まあ一部の人間妖怪は「裏で何か考えているのではないか?」と勘ぐっているようだが。
「とにかく了解よ。まずは説得を試みて、駄目そうなら退治って事でいいのね?」
「……引き受けてくれるのか?」
「こっちに拒否権なんかないくせによく言うわよ。それに……友人の頼みだもの、できる限り力になってあげたいと思うのは当然じゃないの?」
それに、さっきも言ったけど暇してたからちょうどいいわ。
そう言ってにかっと笑みを見せる零に、藍は少し呆れたように苦笑を浮かべるのであった。
■
――夜。
「――もう少し先だ、遅れるな」
「零さん、藍さん、足元が暗いので気をつけてくださいね?」
「あ、はい……」
里の外にある、森の中。
藍の案内で零は問題の妖怪が目撃されたという場所へと向かっているのだが……何故か、聖白蓮までついてきてしまった。
「あのさひじりん、ついてきて大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。この半月で体力も魔力も大部分取り戻すことができました、それに身体が鈍った状態では仲間達を捜しに行けませんから。……ところで、その“ひじりん”というのは?」
「あだ名よあだ名、紫が“ゆかりん”ってあだ名があるから、聖なら“ひじりん”かなって」
ちなみに、このあだ名を考えたのは零ではなく水蜜だったりする。
ただ本人には内緒にしてくれと言われているので、零は詳細を説明する事はしなかった。
それに白蓮自身少々困惑しながらも「ありがとうございます」と感謝しているのだから、特に不満というわけではないのだろう。
「……真面目にやってほしいのだが?」
「藍ちゃんは生真面目すぎんのよ。というか、なんで妖怪であるアンタまで一緒に来たわけ? そんなに私が信用できないとか?」
「そういうわけではない。……私とて、いつまでも停滞しているわけにはいかないだけだ」
「はぁ? …………あー、なるほど」
どういう意味なのか一瞬わからなかったが、すぐに理解に至った零は藍に向かって小さく笑みを見せた。
――要するに彼女、今の自分を鍛え直したいらしい。
八雲紫の式として恥ずかしくないように、成長しようと思ったのだ。
とはいえ、良い意味でも悪い意味でも式に徹しようとしている彼女の考え方を変えなくては、順調な成長は望めないだろう。
尤も、それを教える義理は零にはない、だから彼女は何も言わずに先行しようとして。
「あ」
間の抜けた声を出しながら。
木々の間をすり抜けるようにしながらこちらに向かってくる、様々な色の光弾を視界に入れた。
完全なる不意打ち、しかも迫る光弾の一つ一つには妖力が込められており、まともに受ければ死にはしないものの相当痛いのは確実だ。
しかし――零達にはそんなものは通用しない。
迫る数十の光弾を、彼女達は軽々と避け掠りもせずにそれらを突破する。
「嘘っ!?」
「あ、そこね」
奥の木々の中から聴こえた、少女の声を拾った零は懐から三枚の札を取り出し投げ放つ。
彼女の霊力が乗せられたそれは意志を持つかのように動き出し、声の聴こえた方向へと矢のように飛んでいった。
そして札が樹へと張り付くと同時に込められた霊力が爆発を引き起こし、その爆発から逃れるように1つの影が飛び出す。
「……夜雀、ですね」
白蓮が影の正体を見て、そう呟く。
彼女の言う通り、零達に奇襲を仕掛けてきたのは背中に鳥の翼を生やした――夜雀の妖怪であった。
まだ年端も行かぬ少女の姿ではあるが、人型であるが故か身に宿す妖力は並よりも大きい。
こちらに向ける敵意の視線は、言葉での説得は難しいと思わせるほどに鋭い。
こうなったら一発殴っておとなしくさせようと、乱暴な事を考える零であったが……夜雀の少女が抱えているモノを見て、その考えを霧散させた。
「ちょっと……あれ、赤ん坊じゃない……?」
「えっ……!?」
「……どうやらそのようだな」
零の言葉に白蓮は驚き、藍は視線を夜雀の少女へと向け、夜雀の少女が抱えている人間の赤子を視界に捉える。
まだ生まれてあまり日が経っていない、白い布に包まれた人間の赤子。
何故妖怪が人間の赤子を持っているのか、考えられるとすれば“喰らう”為であるが……そうではないと藍は自らの予測を否定する。
……まるで守るように抱えている姿を見れば、それはないと断言できるからだ。
「どうしますか……?」
「うーん……私が妖怪の動きを止めるから、ひじりんがその隙に赤ん坊を保護してくれる?」
「私はどうする?」
「藍ちゃんは……」
そこまで言いかけた瞬間、夜雀の少女が大きく息を吸い込む姿が見えた。
ぞわりと、3人の身体に悪寒が走る。
次に放たれる一撃の危険性を察知した3人は、各々の役割を果たそうと動いた瞬間。
「――――!!!!」
声と認識できない声が、夜雀の少女の口から放たれた。
それはそのまま衝撃波へと変わり、妖力によって威力が向上したその一手は周囲の木々を薙ぎ払いながら零達へと襲い掛かる……!
夜雀の少女にとって必殺の一撃は広範囲を蹂躙し、当然ながら零達3人にもその脅威は及んだが。
「…………えっ?」
「――なかなかの威力なのは認めるが、こんな程度では私達には通用しないさ」
あっさりと、呆気なく。
一歩前に出た藍が展開した結界によって、必殺の一撃は弾かれてしまった。
その光景に、夜雀の少女は唖然としてしまうが……その致命的なまでの隙を見せた結果。
「――零さん、後はお願いします」
「あ……!?」
大魔法使い、聖白蓮が己が最も得意とする身体強化魔法を自らに施し、雷光の如し速さで夜雀の少女から赤子を奪い取り。
「はいはい。――ちょっと痛いけど、我慢してね」
「は――――うぎゅっ!?」
上空に飛び上がった零の、右足による踵落としが夜雀の少女の頭部へと叩き込まれ。
そのあまりの破壊力に、夜雀の少女は何も反応できずに地面へと叩きつけられ、そのまま意識を失ったのだった……。
■
「――もう少し穏便に事を運べなかったのかしら?」
「あはは……」
笑って誤魔化そうとする零に、紫はジト目を送りつつ小さくため息を吐いた。
博麗神社にて、紫は3人の帰りを待っていた。
そして無事に自分の依頼を達成してくれた3人に、紫は労いの言葉を掛けようとしたのだが……。
「藍、聖、協力感謝致しますわ」
「いえ、お力になれたようで嬉しいです」
「私は式として当たり前の事をしただけですから」
「……ねえ、なんで私には労いの言葉がないの?」
「あら、今言った言葉の意味をあなたはまるで理解していないのかしら?」
にっこりと微笑みながら紫がそう言うと、零は気まずそうに視線を逸らした。
……確かに、彼女は不気味な歌声の原因である夜雀の少女をおとなしくさせた。
けれど彼女は相手を粉砕する勢いの踵落とし(霊力付き)を叩き込んだ挙句、気絶した夜雀の少女をこれでもかと封印札を用いて簀巻きにしたのだ。
いくら暴れられない為にとはいえ、同じ妖怪として可哀想になってくる。
しかもダメージが大きいのか、さっきから魘されているばかりでちっとも目が醒める様子がない。
紫としては早く目覚めてほしいのだ、何故なら……。
「……うっ、ぐすっ……」
「あ、拙い。なんか泣きそうになってる!!」
「ちょっと零、そんな大声出したら……」
「――びえええええええっ!!」
夜の神社に、凄まじい泣き声が響き渡る。
泣き声の出所は、当然夜雀の少女が抱きかかえていた人間の赤子からである。
「ど、どうしましょうか!?」
「ど、どうすると言われましても……紫さん、妖怪の賢者としてなんとかできませんか!?」
「あなた妖怪の賢者を何だと思ってるのよ! ちょっと零、なんとかできない!?」
「できるわけないでしょうが!! 紫こそそのおっきな胸から乳とか出せないの!?」
「出せるわけないでしょう!!」
一斉に慌てだす紫達。
誰もが赤ん坊の世話などした事がなく、どうすればいいのかわからないのだ。
その後も泣き声は大きくなるばかりで、それに比例して紫達の混乱も深まっていく。
――で、結局。
「……あなた達、揃いも揃って情けないと思わない?」
完全に混乱した紫が、「たすけてえーりん!!」と八意永琳に丸投げする事になった。
事情を聞いた彼女は快く承諾し、すぐさま赤子用に山羊の乳を用意し、その他諸々必要なものを準備させた。
現在は件の赤子を優しく抱きかかえながら、あやしつつ最大級の皮肉を込めて上記の言葉を紫達へと言い放っていた。
「だ、だって……子育てとかした事ないし」
「それにしたって最低限の知識ぐらいは身につけておきなさい。仮にも女でしょうに」
「……面目ありません」
「やれやれ。……まあそれはともかく、そこの妖怪……そろそろ目覚めるわよ」
永琳がそう言った瞬間。
「……んんっ……」
僅かに身動ぎしながら、夜雀の少女は目を醒ました。
「えっ!? ちょっと、何よこの状況!?」
そしてすぐさま自らの身に何が起きているのかを理解し、驚愕の声を上げる。
当然抵抗する夜雀の少女だが、これでもかと貼られた零の封印札の影響か殆ど動けていない。
「っ、何をしてるの! その子を放しなさい!!」
永琳が抱きかかえている赤子を視界に入れた夜雀の少女の表情が、激変した。
瞳は血走り、小柄な少女の身体からは考えられない程の強く重い憤怒の感情を溢れ出させている。
「落ち着きなさい。お腹が空いていたようだから食事を与えただけよ、私達の誰もこの子に危害を加えようとしない事を約束するわ」
「誰よあんた!! 偉そうに……」
声を掛けてきた紫を睨み返す夜雀の少女だったが……にっこりと微笑む紫の内側にある妖力の強大さに気づいたのか、途端におとなしくなった。
どうやら相手を図る事はできるらしい、その事実に内心満足しながら紫は言葉を続ける。
「私は八雲紫、そしてここは幻想郷と呼ばれる隠れ里。
いくつか質問をさせてもらうけれど……まずあなたの名前を教えてくれないかしら?」
「…………ミスティア。ミスティア・ローレライよ」
視線を合わせようともせず、夜雀の少女――ミスティアは自らの名を明かす。
「次の質問よ。あの赤ん坊はどうしたの?」
「……捨てられていたから拾ったの」
「拾った? 食べる為に奪ったのではなくて?」
「そんな事しないわよ。私は人間なんか食べた事ないし食べる気も起きないわ、放っておいてもよかったのだけれど……あんまりにも泣いていたから、そのままにするのは目覚めが悪かったというか……魔が差したというか……」
「…………成る程」
おそらく嘘は言っていないだろう、実力差を思い知っているこの状況で自らの立場が不利になる行動を取るとは思えない。
けれどかといって、簡単に信じられる話でもなかった。
妖怪が人間の赤子を拾った、しかも零達の話と先程の彼女の態度を見るに守ろうともしている。
「人間が好きなの?」
「嫌いよ」
即答だった。
「ならどうして拾ったの?」
「だから目覚めが悪いからって言ったでしょ?」
「本当にそれだけ?」
「………………人間は嫌いだけど、だからって生まれて間もない赤ん坊には何の罪も無いもの」
そう、だから拾った。
でも育てるつもりなど微塵もなかったので、ミスティアは困り果て……風の噂で聞いた幻想郷へと目指す事を決めたのだ。
「事情はわかりましたけど……ならば何故、あのような森の中で不気味な歌声を放っていたのですか?」
「不気味は余計よ、まあ確かに私の歌は他者を鳥目にしてしまう効力があるけど……。
しょうがないじゃないの、この子が泣き止まないからあやす為に歌っていたんだから。それにいきなり妖怪が赤ちゃんを連れてきて「育てろ」って言われても混乱すると思ってたから……」
「そういう事かー、まあでも……解決したからいっか」
不安がっていただけで実害が出たわけではないし、赤ん坊もこの幻想郷で育てればいいのだ。
誰もがめでたしめでたしと思う中で……紫は、視線をいつの間にか眠っていた赤子へと向けた。
――この赤子は、夜雀の歌声を聴いても鳥目になっていない。
それに赤子でありながら、その身に宿る霊力は大きい。
……紫の口元が愉しげに吊り上った。
「妖怪の笑みになっているわよ、紫」
「おっと、いけないいけない」
苦笑混じりに永琳から言われ、紫はくすくすと“いつも”の笑みを浮かべる。
「さて、と……夜雀さん。あなたはこれからどうするのかしら?」
「……見逃してくれるのかしら?」
「ええ、勿論。ですが……今日からこの幻想郷の住人になってくださるのなら」
「はあ?」
「ここには私を始めとして人間妖怪問わず多くの実力者がいらっしゃいます、あなたは見たところ並の妖怪よりは力があるようだけど……厄介な妖怪に絡まれたら、面倒ではなくて?」
「うっ……」
小さく唸るミスティア、どうやら過去にその面倒な事に巻き込まれた事があるようだ。
「無闇に人を襲わず命を奪わず、それさえ守ってくだされば自由気ままに生きる事を許可致しますわ。他の妖怪に対する抑止力もいるでしょうから危険も少ないですわよ?」
「むむっ……それはなかなかに魅力的な……」
「すぐに答えを出さなくても結構。まずは体験という事で暫くこの幻想郷で生きるといいでしょう」
紫がそう言うと、ミスティアは考え込みながらもうんうんと頷きを繰り返している。
これならば彼女もここの住人になる事だろう、色々とここのルールを教えてやらねばならないだろうが。
「それと零、その赤子は貴女が育てなさい」
「あー、うん………………って、はあっ!?」
「その子は高い霊力を持って生まれてきたみたいだから、次代の“博麗の巫女”として適任だと判断したのよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ紫!! 私、子育てなんてしたこと」
「そこはほら、幻想郷のみんなに教えてもらえばいいだけよ。――どうせ貴女の事だから、まだ次代の候補すら見つけていなかったのでしょう?」
目を細めながらそう言うと、零は「うっ」と小さく唸りながら押し黙ってしまった。
「永琳、零に色々と教えて頂戴ね?」
「あなたが教えてあげればいいのではなくて?」
「だってほら、ゆかりんまだ生粋の乙女だから」
「…………はっ」
「おいコラ、なんで鼻で笑った?」
――こうして、次代の博麗の巫女候補と新たな妖怪が幻想郷へと移り住んだ。
また一歩、自らが歩む道を進めたと紫は思いながら藍と共に八雲屋敷へと帰っていく。
白蓮もまた一輪達の元へと戻り、永琳も赤子を零に手渡して帰ろうとするが。
「お願いえーりん先生、助けて!!」
「…………はぁ」
そうはさせじとばかりの勢いで零に袖を掴まれ、盛大にため息を吐きながらさっさと帰っていった紫を怨んだのであったとさ……。
To.Be.Continued...