やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 片足のヒーロー   作:kue

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第15話  こうして妹は動物と戯れる

 由比ヶ浜との関係に整理をつけられた俺だったがまだ先生から部活参加不可能の状態は解除されておらず、この一週間は非常に時間が経つのが遅く感じる一週間だった。

 そして土曜日。

 俺は居間で今朝の朝刊を読んでいると1つの小さな広告が目に入った。

 ……言った方がいいか。

「小町」

「ん~?」

「東京ワン」

「東京ワンニャンショーが今年もやってくるの!? やったー! 早速お兄ちゃん行こう!」

 俺が言葉を言い切る前に小町ははしゃぎまくり、自分の部屋に戻っていった。

 ……あいつ、まさか俺が起きる前に朝刊を読んでこれがあることを事前にサーチしていたな……そして俺が言いだしたところへ敢えて知らないふりをして俺と一緒に行く……腹黒い奴め。

 そんなことを思っているとドタドタという騒がしい音が聞こえ、今に完全武装した小町が現れた。

「さ、行きましょう!」

「……うるさい。くたばれ、兄弟ども」

「「すみません」」

 母親がまるでゾンビの様に這いつくばって寝室から顔を覗かせ、騒いでいる俺たちに低い声で注意してきた。

 いや、騒いでいたのは小町さんだけなんですがね……父親も母親も小町にだけは超甘い。俺だけ昼飯のお金は500円が上限なのに小町はその倍の1000円渡される。これは格差だろう。

「2人でどこ行くか知らないけど車には気を付けるんだよ。信号は守る。斜め横断はしない。蒸し暑いせいで車の方もイライラしてるからね」

 俺が事故に遭って以来、両親は俺たちにやけに交通ルールを守るように強く言うようになった。

 まあ、息子が事故に遭って障害を抱えたって言ったら小町を心配するのも分かるし、交通ルールを強く言いつけるようになるのも分かる。

「あ、電車乗るから交通費ちょうだい」

「いくら」

「え~っと」

「往復300円。ちなみに昼飯は1000円な」

「あいあい。600円と1500円ね。じゃ、お休み」

 母親は小町にお金を渡すとふたたび寝室という名のエデンへと帰っていくが俺として小町に渡された金額がどうしても納得いかない。

 交通費に関しては良い……何故、俺だけ要望した費用の半額しかないのだ。500円ってあの餃子が有名な中華料理店でもラーメン一つくらいしか食えねえじゃん!

「じゃ、お兄ちゃん行こうか。今日、杖どうする?」

「人だらけだしな……今日は携帯用を持って行って小町杖を使うか」

 普段使っている杖とは別にもう1つ、折り畳みが可能な携帯用の杖を俺は持っている。主に人でかなり混む場所などで使うんだが1つ弱点があり、強度が弱いと言う事だ。

 折り畳みとなるとどうしても関節部分ができ、そこに力が加わると折れてしまう。

 だが込み入った場所で杖を持ったままにしておくとそれもまた周りの迷惑になる。そこで編み出したのが小町杖だ。小町の肩をずっと持つことで杖代わりにする。

 小町なら俺の歩くスピードも理解しているからコケることもない。

「じゃ、出発!」

「おぉ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京わんにゃんショーの会場である幕張メッセまではバスで15分ほど。

 目的の停留所で降りると既に会場近くには大勢の人で込み入っており、ペットを連れた人やカップル、中には親子の姿もちらほら見える。

 うちの飼い猫・カマクラもこのわんにゃんショーで小町が一目見て気に入り、お金の為だけに親父を携帯で召喚して買ったのだ。

 あの時の父さんの金を運ぶためだけに存在する人型ロボット感は見ていた哀しかった。

 ま、小町にメロメロな人だからうれしそうにしてたけど。

 このわんにゃんショーは犬や猫の展示即売会であり、それと同時にめずらしい動物たちの展示、および触れ合いができると言う事を前面に出した行事であり、結構有名だ。

 ペンギン、ハムスター、犬、猫、リス。それはもう女子が喜びそうな可愛い動物が大集合なのだ。

「ペンギンさんだ! 可愛い!」

 よちよち歩くさまは確かに可愛い……だ、駄目だ! ペンギンを見た瞬間、あのgif画像を思い出して笑ってしまう!

「次はあっちいこ!」

「鳥か」

 オウムやインコなどの鳥類が集められたゾーンに入ると近くを鷹が凄い勢いで通り過ぎていったかと思えば餌をもって厚手の手袋のようなものをしている係りの人の腕に止まった。

 鷹がが飛ぶさまって優雅だよな。あの鋭い眼光にとらえられたら逃げるのは至難の業……俺、鷹の餌になりえる動物に生まれなくてよかった。一発で食われる自信がある。ん? 逆にボッチの性質を生かしてステルスモードを駆使して生き残るかもしれん……俺って動物になってもボッチなのか。

「小町。杖使うから触って来いよ」

「え、でも」

「気にするな。俺はステルスボッチだから人にも当たられらない」

「それはそれで……良いの?」

 そう言う小町の頭を優しく撫でると笑みを浮かべ、動物たちの中へと走っていく。

 俺のせいで小町の楽しみを潰すわけにもいかんし……さて、じゃあ俺は壁際……ん?

 近くの壁際へ寄ろうとした時、ふと異彩を放っている黒髪の少女が目に留まり、なんとなく目を凝らしてみるといつもとは違い、紙を二つに結っているがあの冷たく、誰も寄せ付けようとしない空気……間違いない。

「雪ノ下」

 我らが奉仕部の頂点に立つ雪ノ下様がおられた。

 見かけに見合わず女の子らしさは健在か……これって失言じゃね? ていうかあいつが進んでる方向ってもう壁しかないよな。

 雪ノ下はホール番号を確認し、地図へ視線を落とすがどうやら見当違いだったのかすぐにパンフレットを閉じ、短く息を吐くとそのまま壁へと直進していく。

「そっちにゃ壁しかねえぞ」

「……あら、てっきりナンパ男だと思ったわ」

「俺にそんなことが出来たら今頃春だ」

「万年氷河期じゃないの?」

 うっ。痛いところを突かれてしまいましたな……あぁ、そうとも! 俺の草原は万年氷河期さ!

「で、壁に向かってなんであるいてんの」

「迷ったのよ」

 迷うってここブースごとに区切られているから場内一周したら目的の場所には着くだろ。それに目印も動物たちでできるから……あぁ、猫に会いたいのか。

 チラッとパンフレットを見てみると猫の所に大きく丸が書かれている。

「ところであなたは1人?」

「まさか。妹と一緒に来てんだよ。あいつこの行事が好きでさ。足をやった年以外は全部来てる」

「…………」

「おい、どうした?」

 雪ノ下は何故か申し訳なさそうな表情を浮かべながらスカートの裾をギュッと握っている。

「猫、会いたいんじゃねえの」

「え、ええ。会いたいけど……本来の目的は違うから」

「本来の目的?」

「ええ。ちょうどよかったわ。貴方にも付き合ってほしいの」

 とりあえず俺は小町に連絡し、数時間後に出口で集合とだけ言っておき、雪ノ下が進む方向へついていくが何故か途中で立ち止まった。

「お~い、雪ノ下?」

 後ろから覗いてみると彼女の周りには大量の子犬が集まっていた。

 あぁ、ここ犬ゾーンか……こいつの表情から察するに犬が嫌いだな? いつもの涼しい顔が今に限っては絶体絶命みたいな顔をしている……ぐふふふ。良い情報を手に入れた。これを使えば……って言っても犬飼ってないからどうしようもないんだけど。

「お前、犬嫌いなの」

「……ダメかしら?」

「別に。可愛げのある弱点だろ」

 そう言いながらなるべく傷をつけないように杖で犬を誘導させ、雪ノ下から子犬を離し、歩き出すが肝心の雪ノ下が隣に見えず、振り返ると何故か頬をほんのり赤くして狼狽えていた。

「……お~い。雪ノ下さん?」

「っっ。さあ、行きましょうか」

 俺の声に我に返った雪ノ下はいつものごとく涼しい顔をしつつ、犬たちを牽制しながら歩いていくが彼女のしいとは裏腹に子犬たちは寄っていく。

 ……何で犬に好かれるんだろうか。

 試しに俺もやってみよう。

「わん」

「ガルルルルルルル!」

 ……きゃんきゃん……きゃーん! (悲しいな……あぁ悲しいな!)

 




中々二次創作も難しいですね……お気に入り登録数は増えているんですがやはり14話前後の話は不評ぽかったです。それでは

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