やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 片足のヒーロー   作:kue

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すみません。この話だけは短いですし自信がありません


第14話  こうして俺は関係を整理する

 土曜日、それは学生達にとって最強の休みである。

 なんせ次の日も休みという安心感あるがゆえに何も気にせずに遊ぶことができ、夜遅くまで起きてゲームやネットをすることだって可能なのだ。

 起き抜けの頭で朝刊を読んでいく。どうせ両親はお昼ごろまでまるで死人のように静かに眠るだろうし、小町も土曜日の今日は友達とどこかへ遊びに行くだろう。

 ゆえに俺は1人……と言えるような精神状況じゃなかった。

 あれから1週間、由比ヶ浜は学校には来ているんだが終わればまるで逃げるかのように教室から出ていくために話しかけることなんてできない。

 読んでいる新聞の内容など全く入ってこない。

「…………最悪だ」

 拗れすぎている……もう、俺一人ではどうしようもないくらいに。

 ……どうすればいいんだ。

「お兄ちゃん! 平塚先生って人から電話!」

「え、あ、あぁ。はい八幡です」

『比企谷か。私だ』

「どうも……どうかしたんですか?」

『まあ、その……由比ヶ浜についてのことでお前に話しておこうと思ってな』

 その名前が出された瞬間、俺は子機を落としかけた。

「……それで」

『さっき、由比ヶ浜のお母さんから電話があってな。酷い目の風邪を引いたらしくてな。今はだいぶ収まったようだが様子を見ると言う事で今週は学校にはいけないかもしれないと言う事らしい』

 その風邪を引いた理由は確実に俺だろう。

 由比ヶ浜が何を考えているのかは知らないがこの前のことが彼女に精神的なダメージを与えているのは確実なことであり、疑いようのないことだ。

「そう……ですか」

『……今、学校に来れるか』

「ええ。まあ」

『よし。じゃあ1時間後に学校の校門に来てくれ』

 そう言い、通話は切れた。

 それから約束の時間の30分ほど前まで時間を潰し、約束の時間の20分前に自宅を出てトボトボと学校に向かってゆっくりと歩き始めた。

 何でいつも俺は選択を誤って最悪の結末のゴールテープを切ってしまうんだろうな……生まれた瞬間からそう言う人間と設定されたのかもな。

「お、来たな」

 20分ほどかけてようやく学校の校門前に到着した。

「で、どんな用で」

「うむ。実は今週だそうと思っていた宿題を由比ヶ浜に渡してほしいのだ」

「…………」

「勿論、家までは私が送り届ける……やってくれるか?」

 ……おそらくこれが最後のチャンスだ……由比ヶ浜との関係を修復、もしくは一区切りさせることのできるタイミングはもう今しかない。

 俺は何も言わずに先生から封筒1枚を受け取り、あらかじめ用意されていた自転車に近づいた。

 荷台に体を横にして座ると先生がペダルを漕ぎ、ゆっくりと自転車が進み始めた。

 由比ヶ浜の家に向かうまでの間、俺達の間に会話は一切なく、ただ静かに由比ヶ浜の家に向かって一定の速度で向かっていく。

 …………やはり俺の人生そのものが間違っている……人に迷惑かけるだけかけておいて自分だけが不幸な奴と思い込んでいる節がある……俺はそんな俺が嫌いだ。

 だからこうやって……傷つけてはいけないものを傷つけてしまう。最悪なレベルにまでこじらせてしまう。

「着いたぞ」

 そう言われ、顔を上げた。

 …………これが最後のチャンス。

 俺は生唾を飲み、インターホンをゆっくりと押す。

 誰かが出ることはなかったがその代わり、ドアが開かれた。

「は~い。げほっ! どちら……」

 一番最初の一番大事なところでマスクをした件の人物、由比ヶ浜結衣と出会った。

 2人して言葉を失い、見合う事数秒、一番最初に目を逸らしたのは俺ではなく、由比ヶ浜だった。

 ……違うんだ。由比ヶ浜……お前が目を逸らす必要はないんだ。

「…………ゆ、由比ヶ浜……こ、これ」

「あ、うん……ありがと」

 傍から見れば後ろ指を指されるほどにおかしな会話。

 そして自分でも嫌になるくらいの臆病さ。

「え、えっとその……えっと…………か、体……だ、大丈夫か?」

「う、うん……昨日に比べれば……よ、よかったら入る?」

 思わず後ろにいる平塚先生の方をチラッと見たがその姿はどこにもなかった。

 ……あ、あれぇ?

「…………お、お邪魔します」

 こうして予想外のお宅訪問が始まってしまった。

 由比ヶ浜に居間に案内され、テーブルの椅子に座るが誰もいないらしく、とても静かだった。

 …………何で俺ここにいるんだっけ……いかんいかん。意識をしっかり保て!

 向かい側に座っている由比ヶ浜もまるで他人の家に遊びに来たかのように顔を俯かせ、妙に肩肘張った緊張感をにじませている。

「「…………」」

 普段なら何とも思わない静寂が今はまるで遅効性の毒のように俺の精神を蝕んでいく。

「ゆ、由比ヶ浜」

「な、なに?」

 言うんだ……言わなければ俺はただのボッチからくそボッチになってしまう。

 友達がいないから……言葉を知らない。言葉を知らないから関係構築が出来ない。

 今までそう思っていた……今こそ、それを否定しよう。たとえ友達がいなくても、言葉を知らなくても、関係構築が出来ないとしても……誰かと仲直りをすることは可能だと。

「あの事故で俺は足を失った……でも、それは自分の意思でやった結果だ……例えそうだとしても由比ヶ浜。お前は優しいから責任を感じてるんだろうけど…………もう、そういうのはいったん消さないか」

「…………」

「俺の姿を見るたびに心が痛む……それは長い時間をかけたとしても消せないかもしれないけど……俺たちの間にある責任とか加害者とか被害者とかそう言うの全部ひっくるめて……消さないか」

「……でも私のせいで」

「…………今まで足を失ってから1年とちょっと。正直言って奉仕部に入る以前は自分でも最悪だと思う……でも、奉仕部に入ってお前と出会ってからの2ケ月ちょっと……。由比ヶ浜と一緒にクッキー作ったり、テニスの練習したり、チェーンメールのこと一緒に考えたりしてた時間は…………」

 最後の言葉が出ない。頭の中ではその文字が浮かび上がっているのに口に出せない。

 …………俺はもうくそボッチじゃない。

「楽しかった」

「っっ!」

「由比ヶ浜……いったん全部消して……また俺と……な、仲良くしてくれないか」

 そう言いながら俺は手をさしのばした。

「いいの? 私、比企谷君と……仲良くして」

「俺が言うんだ……いいんだよ」

 そう言うと由比ヶ浜は涙をポロポロ流しながら俺がさしのばした手を軽く握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ」

「うん……また奉仕部で」

 由比ヶ浜が扉を閉め、鍵をかけたのを確認してから振り返るといつの間にか自転車と平塚先生の姿がそこにあった。

「どうやら出来たようだな」

 ……完全修復とは言えない……でも、少なくとももうあんなことにはならないくらいには関係に整理をつけることが出来たはずだ。

「迷惑かけてすみませんした」

「気にするな……生徒は教師に迷惑をかけて成長するんだ。さ、帰るぞ」

「うっす」




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