やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 片足のヒーロー   作:kue

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第12話  こうして俺は選択をする

「んん…………」

 アラームのけたましい音が鳴り響いたことで眠っていた頭が覚醒し、枕元に置いていた時計兼暇つぶし機能付きスマートホンを手を左右に動かしながら探しているとさっきから何やらチクチクしたものが手に当たっている。

 時計……どこだよ。

 仕方なく目を開け、ふと右側を見てみるとマイシスター小町がくか~と大きな口を開けて熟睡されておった。

 その瞬間、俺の意識はフリーズし、アラームの音も止まった。

 ……ちょっと待て。なんで小町が俺の隣で寝ているんだ……確か昨日は夜の遅くに帰ってきて母さんから小一時間説教を受けた後、1人で寝たはず……。

「おい、起きろ」

「アベック……あ、お兄ちゃんおはよ~」

 軽く頭を叩くと目を細め、髪の毛をあっちこっちに爆発させた状態で小町が起き上がった。

 ちなみにあっちこっちっていうアニメ、俺は好きだ。

「なんでお前がここで寝ている」

「だって朝起きたらお兄ちゃんの御着替え手伝わないとダメだし~移動するの面倒くさいからお兄ちゃんが帰ってきてからフラフラ~と入ったの」

 片足が動かないと言う事は日常における動作が上手くできない。よって小町に介助してもらっている。

 主に下の服を履く際に手伝ってもらっている。ほんと、小町には頭が上がらない。

 小町に靴下、制服のズボンを履かせてもらい、カッターシャツを着て居間へ向かうと既に俺のカバンを持った小町がエプロンをつけ、朝食の準備をしていた。

「卵焼きグチュグチュ?」

「それで頼むわ」

 なんかグチュグチュってエロい響きだよな……我が家……と言っても俺だけだがスクランブルエッグだっけ? それをグチュグチュと言っている。

 MAXコーヒーの粉をカップに入れ、T-falで沸き上がったお湯を注ぎ、飲む。

 これが俺の毎朝の恒例行事だ。

「はい。お待ちどう様」

「おう。ありがと。いただきます」

「いただきま~す」

 我が家の朝は早い。毎朝7時に起きる。

 理由は俺が小町に学校近くまで送ってもらうためである。別に頑張れば歩いていけることもないんだが以前、リハビリを頑張りすぎて左足関節を痛めてしまい、それ以来学校の送り迎えをしてもらっている。

 むろん、小町の予定が最優先だがな。

「そう言えば今日、お兄ちゃん中間テスト返却と職業体験でしょ」

「そうだな。ちゃちゃっと終わらせて帰ってくる」

「小町は心配なのです。このままお兄ちゃんが友達がいないヒキニートヒモになってしまうのではないかと」

「安心しろ。お前のヒモにはならん。お金持ちの女の人のヒモになる」

 自信満々に高々と宣言するが小町には受けなかったらしく、ため息のもと一蹴された。

「あ、そう言えばお兄ちゃん」

「ん?」

「お菓子の人とちゃんと話してたんだね。小町安心したよ」

 お菓子の人……あぁ。俺が助けた犬の飼い主のことか。そう言えば病室でお菓子貰ったとか言ってはしゃいで看護士さんに怒られてたな。

「お菓子の人? 誰だよ」

「またまた~。結衣さんじゃん。結構、仲良くなってたの小町は見逃してませんよ~」

 その直後、俺の時間が全て止まった。

 ……由比ヶ浜が助けた犬の飼い主……だと……。

 小町は俺に対しては絶対に嘘はつかない。

 だから言っていることは真実で間違いないんだろうけど……由比ヶ浜が……。

「どったの?」

「……いや、何もない。今日もよろしく頼むぜ、小町バス」

「任せなさい!」

 楽しい朝食を終え、全ての準備を終えた俺は一足先に家の前で小町の準備が終わるのを待っていた。

 ……由比ヶ浜が犬の飼い主……由比ヶ浜は悪くない。俺が自分自身の判断と意思で走ってくる車に突っ込んだんだ……。

「……やっぱ俺、最低だわ」

「おまたー!」

「小町。そんな言葉言わないでくれ」

「てへっ★さあさあ、行くよ!」

 小町に急かされ、自転車の後ろに跨ぎスタイルではなく体を横にして座るスタイルで乗り、杖を籠にひっかけると小町バスは勢いよく発車した。

 小町バスは徐々に速度を上げていき、一気に高校へと向かっていく。

 その道中、一瞬だけだが俺たちを……いや、俺を見て笑っている女子生徒の姿が見えた。

 ……小町の学校での評価は甘々だって言っていたけどあれは先生たちからのだよな……同性代の奴らからの評価は一体どうなってんだろうか……。

 由比ヶ浜があの犬の飼い主だと言う事を聞いてからずっと嫌なことしか頭に思い浮かばない。

 …………。

「どうしたの? お兄ちゃん」

 小町の背中に顔をうずめると心配そうに聞いてきたが俺は何も答えなかった。

 …………。

「なあ、小町」

「小町バスは止めないよ」

 …………気づかれてたか。

 信号で止まると同時に小町にそう言われた。

「小町もさっき見えたよ。笑われてるの……でもそんなの関係ないよ。私は自分の意思でお兄ちゃんを手伝ってるもん。誰かに笑われても何言われても小町は揺るがないよ。先生からの評価が上がるもん」

「……そうか……ありがと、小町」

 冗談っぽくそう言う小町の頭を俺は優しく撫でた。

「ここでいいぞ」

「え、良いの?」

 校門が視界に入ったところでそう言い、小町バスを止めて杖を受け取って降りると小町は何か言いたそうな表情をしていたが頭を軽く撫で、学校へ向かって歩き始めた。

 …………ボッチ街道を突き進んできた俺も人並みに女の子に対しての欲望はある。女の子とキスしたいし、手繋ぐたいし、デートしたいし……でも、それらは全て俺を裏切ってきた。

 俺に優しくしてくる女子を見れば気にはなるし、好きになる……でも、そこまでだ。それを期に一念発起してかっこよくなろうとかイケメンになろうとかそんなものは思わない。それができるのは生まれにしてリア充因子を50%以上親から受け継いだ奴らだけだ。優しくしてくれる女の子は……。

「おっはよー! ヒッキー!」

「……おはよ」

「あれ? なんかいつも以上に目が腐ってるように見えるけど」

「気のせいだ。俺はオールウェイズで腐り目だ」

「胸張って言えることじゃないと思うけど」

 ……こんな感じに優しくされると俺だって勘違いする……だがすぐに現実に叩き起こされる。

「結衣、おはよ~」

「あ、優美子! おはよー!」

 …………ああやって赤の他人とあいさつができる奴を見るとどこか羨ましく思う。あれは中学に入って少し経った頃の話だ……後ろからおはよう、と言われ振り返りながら俺もおはよう、というと俺の横を通り過ぎていく女子。

 そして2人して俺を変な目で見てくる女子……それ以来、後ろからあいさつされた時は振り向かないことにしている。後ろからの挨拶は十中八九、前にいる奴に対してだ。ソースは俺。

「うぉ!?」

 校門を通った瞬間、カバンの持ち手が引っ掛かったのか体が後ろに引っ張られた。

 思わぬ後ろからの引っ張る力に耐え切れず、そのまま多くの生徒・教師がいる前で盛大に尻餅をついてしまった。

 クスクス笑う声が聞こえるが俺はそんなもの気にしない。俺からすれば小鳥のさえずりだ。ヘルバードという名の鳥だがな。

「ヒッキー大丈夫!? ほら、引っ張るよ」

「……あ、あぁ。悪い」

 由比ヶ浜の手を借り、どうにかして立ち、ズボンについた砂を払っていく。

「先生ももっとちゃんと門を開ければいいのに」

「……大多数の生徒に合わせてるんだろ」

「へ?」

 俺のような生徒はこの学園には俺1人だけだ。一応、情報としては伝わって入るんだろうがたった1人のせいとの情報など毎日でも合わない限りすぐに忘れるだけだ。少数派は決まって大多数派によって押しつぶされてしまう運命にある。だからこうやって門も中途半端なところで開いていることだってあるのだ。

 校舎の中へ入り、階段の前で止まり、息を吐いた。

 …………リアルに校舎内だけでいいから全ての床がエスカレーターみたいにならねえかな……でも、電気代がバカみたいにかかって授業料諸々が上がるか……自分1人で行けることはいけるが……ハァ。

「ヒッキー」

「……由比ヶ浜」

「手伝うよ。ゆきのんから聞いてるよ。手伝ってあげてって。えっと肩でいいのかな?」

「……あぁ」

 由比ヶ浜に肩を持ってもらい、右足の時に彼女に体ごと持ち上げてもらい、左足では自分で階段を上っていき、5分ほどかけてようやく階段を上り切った。

「悪いな、手間かけさせて」

「こんなの手間じゃないよ。また困ったときは頼ってね、ヒッキー」

 そう言い、由比ヶ浜は教室へと一足先に向かっていった。

「おはよう、八幡」

「あ、あぁおはよ。戸塚」

「どうしたの? なんだかいつもよりも暗いけど」

「……いいや、大丈夫だ」

 そう言い、俺も教室へと向かって歩き始めた。

「今日のテスト、点数楽しみだね。あと職業体験も」

「そうだな」

「八幡はテストどうだった? 僕、数学の最後の問題が時間が足りなくって」

 戸塚とそんな他愛ない会話をしながら教室へ入ると後ろ後方をリア充チームが占拠し、自らの会話スペースとして使用していた。

 マジで磁石みたいな特性でないかな。ボッチとリア充が近づくとリア充が吹き飛ぶ、みたいな。

 お喋りに夢中なリア充共の合間を縫うように通っていき、自分の座席へ座り、机に突っ伏そうとするが前の開いている席に戸塚が座った。

「八幡。今日の職業体験だけど一緒に回る?」

「いや、個人の好きなように回ろうぜ。どうせ班員腐るくらいにいるし」

 葉山の依頼が一旦の解決を見せた後、俺と葉山と戸塚で3人グループを作ったんだがその噂をどこかで耳にしたらしい女王・三浦が葉山の班に緊急参戦したかと思えば次々に女子が参戦し、クラスの4分の1ほどの大所帯なグループになってしまった。

 思ったね。葉山は大名で三浦が大奥だって。

 そんなことを考えているとチャイムが鳴り響き、分厚い封筒をいくつも持った担任が入ってきた。

 何故か盛り上がる席替えと同じようにテスト返却も何故か盛り上がる。それはうちのクラスも例外ではない。

 先生が答案を返却していくたびに叫びや歓声が上がる。

 ちなみに俺はひとまとまりにされて一番最初に返された。

 ……流石に全教科満点は難しいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てのテストが返却された後、俺達は海浜幕張駅へと向かう。

 この辺りは結構なオフィス街でもあるので多種多様な企業が集まっている。なのでここへ来る奴らも多いが俺たちが向う電子機器メーカーは俺達だけ……といってもここに来るやつらが全員、葉山の班員となってしまったので結局は葉山を中心としたプチ遠足になっている。

 ちなみに俺は列の最後尾につけている。何故かって? HAHA★。実に面白い! 解説しよう。これは良く4人組で起こることだが最初は横一列で並んでいたのに歩いていくと1人だけ後ろに行くことがあるだろう。

 あれを俺は悲しみのワンスポットと呼んでいる。それを拡大したVerがこれだ。

 そんなことを思っていると電子機器メーカーに到着し、係りの人ごとに班が分けられ、順番に係りの人に先導され、職場内を見学していく。

 俺は集団とは距離を空けながら見学する。

 ……由比ヶ浜結衣は優しい。故に目の前で困っていれば何もできなくても見て見ぬふりはできないだろう……もしもそれが俺に適用されているとしたら? もしも彼女が自分の責任だと思い、ボッチである俺を悲しんで仲良くしているのであったとすれば? 恐らくそれはNOだろう……だが偏屈で卑屈な俺はそう思ってしまう。

「お、比企谷。ここに来ていたのか」

「平塚先生……見回りご苦労様です」

「うむ。にしても日本の技術は凄いな」

「何で法律さえなければ全自動の車も作れるらしいですし、スマホの次は腕時計、次は眼鏡といった感じで今、技術が進化しているらしいですよ」

「詳しいな」

「妹が機械オタクで」

 毎度毎度、新発売された機械を熱く語られるのは少し困るがな。

「そうか……いつかガンダム出来ないかな」

「少年よ。大志を抱け」

「クラーク先生! って私をからかっているのか」

「すんません」

「ふぅ。とりあえず私は戻る。あ、思い出したが前に言った勝負のことだが一部仕様を変更しようと思う。変更は負って連絡する。ではな」

 そう言い、先生はコツコツと足音を立てながら去っていった。

 ……まだその設定合ったんだ。てっきり無くなってるかと。

「…………帰るか」

 平塚先生と長いこと話していたせいかすでに集団は消えており、俺だけになっていた。

 杖を鳴らしながら入り口まで戻ると入り口付近で由比ヶ浜が壁にもたれ掛って携帯をポチポチ触っていた。

「あ、ヒッキー遅い! 皆行っちゃったよ?」

「……由比ヶ浜。話がある」

「へ? は、話し?」

「…………小町から聞いたんだけどお前……あの犬の飼い主だったんだな」

「……うん」

 由比ヶ浜は遠慮気味にそう言った。

「……お前は優しいな」

「へ!? な、何言ってんの!? そ、そんなこと急に言われたら恥ずかしいよ」

 由比ヶ浜は顔をほんのりと赤くさせ、恥ずかしさを隠そうと手をブンブン振る。

「だから……俺のことは気にしなくていいぞ」

「え?」

「お前のせいで俺は足を無くしたんじゃない。俺の意思で車に突っ込んだんだ。加害者意識があるんだったらそれはもう良い。どの道、お互いの責任はどっちもどっちだ。車に突っ込んだ方も犬を放した方も」

「…………」

「……わざわざ被害者の俺にお前が優しくしないで良いぞ」

「…………」

 由比ヶ浜は何も言わず、去っていった。

 ……人のやさしさに裏がある。評価のため、名声のため……たとえそうでないと頭で考えても心の中ではどうしても相手を勘ぐってしまう。小町は良いんだ……家族だから。でも……他人に対しては俺のこの足はコンプレックスの塊でしかないんだ。この足は……俺にとっての…………癌だ。

 これまでもこれからも……ずっと俺はこのコンプレックス故に……いや、この性格ゆえに人を信じれず、勘ぐる毎日を送るのだろう……例えそれで誰かが傷ついているのを見て胸が痛んだとしてもだ。


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