やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 片足のヒーロー   作:kue

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第10話  最強の風使いは滅びろ

 俺が奉仕部の正式部員になった翌日の休み時間 俺は川崎大志から貰った情報を整理しつつ、その姉である川崎沙希という女子生徒をボケーっと眺めている。

 ちなみにただ眺めていてはただの変態だ……俺の視界は広い。だから黒板の方を向いてますよ~とアピールしながらも川崎沙希の姿を視界にとらえているのだ。これがまだ女の子との甘い青春を期待していた中学生時代に生み出した名付けて……なんだっけ? え~っと……ワイドアイ! いや、どこの太陽チャージで復活する光の戦士だ。ちなみによく勘違いしている奴が多いがあれは歴代の中で唯一、マンがつかない。そのヒーロの名を言わせてマンをつけた奴はにわかということになる。ソースは俺。

「比企谷君。おはよ」

「おはよ、戸塚」

「どこ行くか決めた?」

 職業見学なるものがうちの高校にはある。そこでは3人1組になっていくらしいが……面倒くさい。非常に面倒くさい。結局専業主夫に変えたものも返却されたし。

「いんや。戸塚は」

「僕もまだなんだ……でね、提案なんだけど……僕と一緒に行かない?」

 ……おい、今月のゼクシィはまだなのか! できればブライダルプランとか教会とかの特集を組んだ奴を出してくれ! 2000円までなら出す!

 戸塚にお礼を言われた日以来、俺達は少し話すようになった。まあ、今は戸塚主導で会いに来たり来なかったりだけど俺としてはこのくらいの関係がちょうどいい。

 休憩時間の度に机の傍に集まってベタベタ喋るようなのは友達じゃない。ただのなれ合い関係だ……そう、例えばあんな感じだ。

「隼人君どこ行くことにしたん?」

「俺はマスコミ関係か外資系関係に行きたいと思ってる」

「隼人君将来見据えてるわ~! パないわ~。俺なんて近くのスーパーとか考えてるべ?」

「あーしなんかサーティワンだし……結衣は?」

「あ、あたしもまだなんだ」

 ……三浦と由比ヶ浜の関係も修正され、少しぎこちないがそれでも普通にはなっただろう。

 相も変わらずスクールカースト上位連中はスクールカースト1位のイケメン・葉山隼人を中心にして集まっており、他の連中とは一線を画している。

 にしても何故リア充ほど下の名前で呼び合うのだろうか。俺なんかたまたま苗字が真里菜、名前が満里奈の女子を呼んだら次の日から座席を数センチ下げられたんだぞ。

 ……だが戸塚ならばそれもなかろう。

「彩加」

「……は、八幡」

 ……戸塚の指で何号の指輪が合うんだろ。俺の給料3か月分で何とか同じものは買えるかな? とりあえず帰り道にジュエリーショップの広告を貰ってこよう。

「あ、今の忘れてくれ」

「は、八幡は忘れても僕は……忘れないよ、八幡」

 さて。ハネムーンはどこへ行こうか? オーストレイリア? ユナイテッドキングダム?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、奉仕部の部室にはいつもの3人。勉強している俺と雪ノ下、そしてテストはもう諦めた様子でいつもの通り携帯をポチポチ触っている由比ヶ浜。ちなみにさっきまで材木座がいたが締切がどうのこうのと言って凄まじい勢いで帰っていった。

 締切が近いなら部室に来るなよ。

「そう言えばヒッキーさ、職場体験どこ行くの?」

「組んだ奴らが行きたいところに行く」

「うわぁ。他力本願だね」

「驚いた。お前がそんな難しい言葉を知っていたとは」

「なっ! わ、私だってその位知ってるし! なんだったら私、小学生のころ四字熟語クイーンって呼ばれたくらいなんだからね!」

 なんだ、その可愛いからいいや、みたいな2つ名は。見てみろ、雪ノ下なんかあきれてものも言えない様子で頭を抱えているぞ。

「人と人の気が合うのも合わないのも全て不思議な縁によるものだという意味の四字熟語を述べよ」

「一期一会!」

 由比ヶ浜が答えると同時に俺は参考書に集中し、雪ノ下も我関せずの態度をとると誰も反応しないことに恥ずかしくなってきたのか顔を赤くしながら由比ヶ浜は座った。

 ちなみに答えは合縁奇縁。一期一会は一生に一度の出会いのことを言う。多分、人つながりでぱっと出てきたのがそれだったんだろう……ていうか国語の試験範囲に四字熟語について書かせる問題なかったか?

「ヒ、ヒッキ~」

「な、なんだよ」

「数学教えて~」

 雪ノ下に頼めよと言いかけたがすさまじい集中力を発揮している雪ノ下を見て気の優しい由比ヶ浜では話しかけられないなと結論付け、仕方なく由比ヶ浜から分からない問題を聞いた。

「……由比ヶ浜。まさか因数分解を教えてとか言うなよ」

「そ、それくらいわかるし! 分かんないのは平方完成!」

 ……数学の先生があれだけ優しく、分かりやすく教えてくれてなお分からないと申すのか、この女子は。

 由比ヶ浜の数学のノートを見てみると平方完成の部分だけ、やたろ字がふにゃふにゃだったり、直線がミミズの様にグニャグニャになっていた。

 それを見て一発で確信した。こいつは寝ていたと。

「とりあえず教科書通りにやってみろよ」

「……うん」

 教科書を開き、例題問題を由比ヶ浜に解かせている間、俺は大志からの依頼を頭の中で考え始めた。

 恐らく大志の姉ちゃんはバイトをしていることは間違いない……ただそんなことは大きな問題ではない。隠れてバイトをやっている奴等他にもいるからな……問題は朝帰りだという点だ。俺たち高校生は条例で夜の10時以降はバイトを入れられないようになっている……ま、年齢詐称したんだろうけど。

 が、そんなことは大志だって薄々気づいているはずだ。あいつが知りたいのは何故、家族に黙ってまで働いているのかだ。

「ヒッキー出来た!」

「じゃあ、次は教科書の問題やってみろよ。例題を見ずにな」

「オッケー!」

 ……本人に聞くのが一番手っ取り早いんだけどな。

 その時、扉が軽快にノックされた。

「どうぞ」

 雪ノ下の許可の後、扉が開かれた瞬間、何故か部室内に爽やかな空気が入るとともに雪ノ下がいる方向から重い空気が流れ込んできた。

 ……この爽やかな風を操るものは学校の1人しかおらん……最強の風使い・葉山隼人!

「時間、良いかな? 中々部活抜け出せなくてさ」

「能書きは良いわ。用件は何かしら」

 どこか雪ノ下の言葉にある棘がいつもよりも鋭く、そして種類が違うように思えた。

 俺に対する棘は鋭いことは鋭いけど人を殺傷するようなものじゃない。だが葉山に対しての棘はどこか人を殺傷しかねない……どちらかというと押しのけたいような感じがする。

「あ、あぁそうだな」

 対して葉山もどこか雪ノ下に対して様子がおかしい。

「実は最近、ちょっと困ったメールが届くんだ。これなんだけど」

 差し出された画面をのぞき込むと、そこには実名を出した誹謗中傷が書かれていた。

『戸部はカラーギャングの仲間で他校の生徒から金を巻き上げている』

『大和は三股かけているクズ野郎』などなど。

「これ、お前が前に言ってたやつじゃねえの」

「う、うん。最近よく来るんだ、こういうの。名前も分からない人から」

 チェーンメール。携帯がない時代は手紙を使ってこれを送らないと不幸になりますとか呪われるだとか書かれていたけど携帯が普及しきった今の時代はそんな生易しい物じゃない。効率的に複数人に送れるようになっただけではなく、名前を書かずとも相手のアドレスさえ書いていれば顔を見せずに届く。今でも進化をし続けていると言われているものだ。

 ちなみに俺はこんなもの来たことがない……い、いや違うよ? 携帯電話の癖に携帯していなかっただけだもんね! 断じて誰からも聞かれなかったからとかじゃないもん!

「俺、こういうの嫌いでさ。誰かを誹謗中傷してるくせに自分は顔を出さない。このメールのせいでクラスの空気が今悪くなってるんだ」

 チェーンメールを潰す方法はいくつかある。1つは送られてきたメールを複製せず、そのまま削除してしまう事。2つ目はメアドを変える。3つめは非効率的だが大本を叩き潰す。

「あ、でも犯人探しがしたいわけじゃないんだ。丸く収められたらそれでいいんだ」

「つまり事態の収拾を図ればいいのね」

「あぁ、頼めるかな」

「犯人を捜せばいいのよ」

 その一言に葉山も由比ヶ浜も思考を停止した。

「そういう人間の尊厳を踏みにじる最低の行為を止めるには大本を潰すに限るわ。ソースは私」

 ちょくちょく、こいつえげつないことしてるよな。

「……分かった。それでいい」

 意外と受け入れるのが早かったな。葉山のことだからもっと雪ノ下に別な方法を模索させるのかと思ったけど……なんか観念したというか。

「送られ始めたのはいつごろからかしら?」

「先週末位からだよな、結衣」

「うん」

「何かクラスで起きたことは」

 雪ノ下の質問に考える2人だったが特に思い当たる節がなかったのか何も答えずにいた。

「貴方は?」

 ……なんか聞いてくれたことが嬉しいのやら、ボッチであることを忘れているのが悲しいのやらわからん。

「つってもな……俺、休み時間は寝てるし昼休みは外で食ってるし」

「そう。私の頭が及ばずにごめんなさい。学年1位の比企谷八幡君」

 あの日以来、俺が学年1位だと言う事を知った雪ノ下はちょくちょく、厭味ったらしく言ってくるようになり、由比ヶ浜も雪ノ下ではなく、俺に勉強を聞くようになった。

 ……やっぱ、隠してた方がよかったかも。

「……そういえばグループ分けがあったな」

 ボソッと呟くように言うと由比ヶ浜と葉山の2人は顔を見合わせた。

「そっか。ハブられた人が始めたんだよきっと! 仲の良い子と同じペアになれなかったときって意外と傷つくし、むかつくもん!」

「なるほど。では葉山君。さっき書かれていたメンバーの特徴を教えてくれないかしら」

「あ、あぁ。戸部は明るくてみんなのムードメーカーって感じだ。文化祭とか体育祭とかで先陣を切ってみんなを盛り上げてくれる良い奴だよ」

「騒ぐだけしか能がないお調子者……次は?」

 なかなか辛辣でござるなぁ。

「大和はラグビー部。寡黙だけどその分、人の話をよく聞いていてくれる。鈍重だけどそのペースが逆に接する人たちに安らぎを与えてくれる。良い奴だよ」

「反応が鈍いうえにノロマ……と」

 葉山も葉山でよくそこまで褒め称えることができるなって思うけど雪ノ下もよくあそこまで卑下した言い方でまとめ上げられるよな。逆に2人とも凄いわ。

「どの人も犯人のように見えてしまうわね」

「お前が犯人に見えるのは俺がおかしいのか」

「私なら真正面から潰すわ」

 ご立腹の様子で腰に手を当て、そう言う。

 確かにこいつはそう言うやつだ。隠れながら射撃するのではなく真正面から敵に突っ込んでいって相手が参りましたというまで武装で叩き尽す。

「葉山君じゃ分からないわ。由比ヶ浜さん、学年1位の比企谷君。明日、情報を集めてくれないかしら」

「……ん、うん」

 情報を集めると言う事はそいつの悪評を集めろと言う事。由比ヶ浜にとってそれを集めることはいばらの道を素っ裸で通っているようなものだろう。

「ごめんなさい。あまり気持ちのいいことではなかったわね。忘れてちょうだい」

「い、いや良いよ。私も奉仕部だし」

「……由比ヶ浜。俺がやるわ」

「え? でもヒッキー独立国家じゃん」

 わぉ。いつの間に2年八幡組が出来たんだ? それはそれで嬉しい……数日で滅びる可能性がほぼ100パーセントだと思うけどな。

「独立国家にしかできないこともあるんだよ。ま、見ておけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後、葉山、由比ヶ浜、雪ノ下、そして俺の4人が奉仕部の教室に集まった。

「で、どうだったのかしら? 犯人につながる有益な情報は見つかった?」

「いんや。犯人は依然として不明だ……でも、分かったことがある」

「何かしら」

「1日観察して分かったが誹謗中傷されていた奴らは葉山専用のグループだった」

「……え、えっとそれはどういうことかな?」

「葉山。お前、自分がいないグループを見たことあるか?」

 俺の質問に少し考えた後、首を左右に振った。

「葉山がいる時は楽しそうに話しているが葉山が抜けた途端、まるで他人同士の様に静かになったぞ」

「あ、それなんとなくわかる。盛り上げ役がいなくなると途端に静かになっちゃう奴だよね」

 由比ヶ浜の補足説明に葉山は唇をかみしめていた。

 こればっかりはいくらこいつでもどうしようもないことだ。自分がいない間のことなどどんな術を使ったとしても解決することは不可能だ。人の見えない部分は触れないものなんだよ。

「でも、それだけでは何の解決にもならないわ」

「解決する必要はないんだよ。問題を収束させればいい。一応、方法はあるが……聞きたいか?」

 恐らく今の俺の顔は満面の笑みだろう……腐りきったな。

 その証拠に由比ヶ浜は小さく「うわぁ」とつぶやき、雪ノ下は完全に侮蔑の色に染めた視線を俺にぶつけてくるし、葉山は苦笑いをする。

 だが、一刻も早く解決したい哀れな子羊・葉山隼人は首を縦に振らざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の休み時間、誹謗中傷されていたグループが葉山無しでも楽しそうにしゃべっていた。

 俺がやったことは至極簡単。あの3人を1つのグループに収めただけ。そうするだけであら不思議、仲良く話すまで仲良くなりました。

「ここ、いい?」

「嫌つっても座るんだろ」

 そう言うと苦笑いをしながら葉山は俺の前の席に座った。

「俺が3人とは組まないって言ったら驚いていたけど……助かったよ、ヒキタニ君」

 ……こいつ、雪ノ下が俺の名前呼ぶの聞いてたよな?

「良かったら組まないか? 俺、まだなんだ」

「適当に書いててくれ」

 葉山に任せ、俺は机に突っ伏した。


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