ちなみに、のぶたすのサブに対する好感度はカンストしてる設定です。
原作のシリアスなふたりはここにいません。実家にでも帰ったんじゃないですかね(すっとぼけ)
お廻りさん、人生ゲームする
どうもみなさん、こんにちは。
『見廻組』局長、佐々木異三郎です。
巷では誰が呼んだか『三天の怪物』なんてイタい渾名で知られている私ですが、それもそのはず、実は私は超優秀なスーパージーニアス、サラブレッドの中のサラブレッド、所謂『エリート』というやつなのです。
本来ならば、いったい私がどれほどのエリートヂカラを有しているかについて滔々と講釈を垂れてお聞かせしたいところなのですが、生憎と今日のエリートはそこまで暇ではありません。
いや、誤解を招きかねないので補注させていただきますが、別に普段は暇とかそういうわけでは皆目ありませんので。局長という身分の都合上、常に忙殺されてますから。
聞けば、どっかのビンボ臭い芋侍集団の大将ゴリラは、ピーピングだかストーキングだかによって日夜忙殺されているそうじゃないですか。
同じ公僕でありながら、そして同じ局長という身分でありながら、この差はいったいなんなんでしょう。
敢えて強引に結論づけるなら、つまりは私の方が彼らよりも何倍もエリートだということです。
調子に乗って結局語ってしまいましたが、今日が特別忙しいというのは本当のことです。
こればっかりはメールの片手間にというわけにはいかない、大事な大事な用事なんです。
そんなことを言っている内に、目的の場所へと辿り着きました。
「なんか、変に緊張するものがありますね……」
おかしい。別にそんなにかしこまる類のイベントでは無いはずなのだが、変な動悸と妙な汗が止まらない。
武者震い、なんでしょうかコレ。心象としてはむしろ、事前の予習もなしに試験用紙を手渡された学生の気分と言ったほうが適切な気がします。
このエリートに限ってそんなヘマをしたことはこれまでの生涯で一度もなかったわけですが、そうとしか言い様がないような、謎の緊張感に苛まれているのが現状なわけで。
「……いい加減、扉の前で突っ立っているのも馬鹿馬鹿しいか」
覚悟を決めて、目の前の扉を開ける。
調度も嗜好品の類も一切存在しない、殺風景なその部屋の中心。
己と同じ、純白の隊服を身に着けた少女が、部屋に入ってきた私の方を一瞥する。
「―――来たわね、異三郎」
見廻組副長、今井信女。
ぱっつん前髪に尼削ぎのヘアスタイルに、表情を小ゆるがせもしないお人形のような顔。
今日も今日とて、相も変わらずのお人形フェイス。
私もポーカーフェイスには自信がある方ですが、これに関しては彼女も負けず劣らず、いや、下手すれば私よりもずっと上手かもしれない。
彼女は、読めない。
このエリートの眼力をもってしても、彼女の内心を推し量ることは極めて難しいのです。
故に、彼女がいったいどんな理由で私を呼びつけたのか、こうして顔を合わせてみてもさっぱり見当がつきません。
黙りこくったままの私をじっと見据えていた彼女はおもむろに身を動かしたかと思えば、自身の背後に置かれていた『ソレ』を取り出し、私にも見える位置に置いた。
(えぇ……)
ほら、やっぱり。私には彼女が読めない。
置かれたそのブツは、私の予想をはるか斜め上に外したシロモノだった。
「………あの、信女さん。それは……」
「異三郎」
やっとこさ絞り出したセリフを、彼女は途中でばっさりと断ち切った。
赤い硝子玉のような目が、じっと私を見つめている。
有無を言わせない謎の気迫に気圧されて、私は口を閉ざして彼女の言葉を待った。
「私と、人生ゲームしよう」
お人形のような綺麗な顔の彼女は、鈴を転がしたような綺麗な音色でそんなことを口にしたのだった。
「まったく、突然やってきて『付き合って欲しい用事があるの』なんて言われたかと思えば、まさかこんなことになろうとは。アナタという人は、本当になにを考えているのか分かりませんね」
「ソレ、異三郎にだけは言われたくない」
彼女が用意していたのは、『人生ゲーム』だった。
おそらく誰もが一生に一度は触ったことのあるボードゲームではないかと思うソレを、どうやら彼女は私と一緒に遊びたかったらしい。
「信女さん、いちおう聞かせてくれませんか。いったい、なんでまたこんなものを……」
「別に。ただ、なんとなく遊びたくなったから」
いや、そんなふわっとした理由で私の貴重なオフを潰さないで欲しんですけど。
だいたい遊びたいなら一人でも出来るじゃ……あ。
「まぁ、ひとりで遊ぶには適さない遊戯ですよねコレ」
「そう。それに、友達いないから、私」
「寂しいことを真顔で言わないでください、擁護しづらいじゃないですか。てゆーか、その理論でいくと私は信女さんの友達枠なんですか?」
「うぅん、上司枠。でも、背に腹は変えられないから仕方なく」
「………」
どこの世界に上司をボードゲームに誘って休日を潰しておいて、仕方なくなんて言う部下が居るんですか。ここに居ましたね、ハイ。
指導が必要ですねこれは。効果があるのか甚だ疑問ですが、上司としてダメな部下は教育しなくてはなりませんし。
「……やさしく、してね」
「なにを言っているんですかアナタは。ていうか、心を読まないでくれませんか」
でもまぁ、正直なところを言うと少しだけ嬉しくもあるのです。
この娘は、いささか以上に人間味に欠けすぎているきらいがある。
『道具』として扱うなら大した問題ではないが、彼女にはより多くを期待したいというのが個人的な思いだ。
感情を排した道具なら、機械で充分。もっと人間的に潤ってこその利用価値、私の右腕足り得る能力のためには、機械人形では不十分なのだから。
「……なんて、冷酷なことを考えてみたりして」
「なにか言った、異三郎?」
「いえ、別に何も」
そんな建前はさておき、彼女がこういった娯楽に興味を示すのは喜ばしい限りだ。
私にしたって、どうせ休日も家で適当に仕事して携帯を弄ってるだけなのだし、こうしてせっかく彼女が誘ってくれたのはやぶさかではない。
彼女を楽しませられるように、精々励むとしましょう。
「さて。せっかく遊ぶのだから、なにかしらの趣向が無いと面白くないわね。異三郎もそう思うでしょ?」
「え、あぁ。たしかに、そういうのがあると盛り上がるでしょうね。信女さんはなにか考えでもあるんですか?」
尋ね返すと、あらかじめ考えてあったのか、間髪入れずに彼女は言った。
「負けた方は、勝った方の言うことをなんでもひとつ聞く。こんなのは、どう?」
「ふむ、定番といえば定番ですね」
どうせ彼女のことだ。マスタードーナッツ買ってこいだとかポンデリング買ってこいだとか、そこらへんが狙いだろうとは思っていた。
はっきり言っていつもとなんら変わりないが、そのくらいなら聞いてあげてもいいだろう。
ここは大人として、バレない程度に手を抜いてあげましょうか。
そんなことを考えていると、
「言っておくけど」
いつの間に取り出したのか、己の愛刀である仕込み長刀を手繰り寄せた彼女が、無表情で付け加えるようにボソリと一言。
「手加減とかしたら、殺すから」
暗殺の任務に向かう時のテンションで、彼女は私の瞳をじっと覗き込んできた。
部屋の温度が一気に10度ほど下がった気がした。
あ、舐めプとかしようものなら確実に斬られますねコレ。
「まさか。エリートたる者いかなる時も全身全霊乗せて、デイバイデイですからね。完膚なきまでに叩き潰してさしあげますので、覚悟しておいてください」
「望むところ」
負けられない戦いが、ここに幕を開けた。
「さて、公正なるジャンケンにより先攻は私、佐々木異三郎からです」
「……無念」
言って私は、白い車に水色のピンを刺した。エリートですからね、白い車は当然の選択です。
彼女はといえば、私と同じく白い車を選び、そこに桃色のピンを刺した。ってちょっと待ってください。
「なんで同じ色の車が二台あるんですか。それに、私と色かぶってるじゃないですか。他のにしてください」
「別にいいでしょう、女のピン刺さってるんだし。見分けはつくわ」
「そういう問題じゃ……まぁいいでしょう。好きにしてください」
なぜそうやってこだわるのかは疑問だったが、もうこの際どうでもいい。さっさとゲームを始めましょう。
先攻は私、二番目は信女さん、三番と四番はCOMの順番でゲームは開始された。
それにしても、最近の人生ゲームは進んでいるんですね。NPCが参戦するようにまでなっているとは。
「……ん? あれ、なんか今、すごく根本的な問題に気づいたような気が」
「きっと気のせいよ。いいから早く回して」
「はいはい」
急かされたところで、盤の中に鎮座ましましているルーレットを摘んでくるくると回す。
こういうところはレトロなままなんですねなんて思っている内に、カタカタと回っていたルーレットが停止した。
「おお、10ですね。早速エリート的天運が私に味方してくれたようです」
指定された数だけ、白い車を進めていく。
私の車をひょいとつまみ上げた彼女が、止まったマス目の指示を読み上げた。
「職業選択。サラリーマンへの道か、職探しの道か」
「最初の分岐路ですか。これは……」
ふたつの道のマス目を、それぞれ見比べてみる。
サラリーマンのルートは問答無用でリーマン化させられ、職探しの方は止まったマスによって職業が与えられる仕組みだ。
「ふむ、サラリーマンとして落ち着くか、高給取りの職にチャンスを掛けるか……」
「どうするの? 異三郎」
「リスクとリターンを天秤にかければ、答えは当然明白です」
あくまで勝率優先、私は職探しの方に車を進めた。
それにゲームとはいえエリートたる私が一介のリーマンなどと、許し難い選択です。
「つまらないの。ゲームくらい、違う人生を生きたっていいじゃない」
「今日の私は、あくまで勝ちにこだわるスタイルですから」
私にそう言ったものの、彼女も彼女で大人げなく職探しの道を選んだ。
自分だって勝つ気満々じゃないですか。
結局、私は『政治家』のカードを手に入れ、彼女はといえばなんと『アイドル』のカードを手にすることになった。
「信女さんはアイドルですか。ルーレットの出た目で給料が決まるタイプの職業ですね」
「アイドル……私が」
「現実のアナタとはずいぶんかけ離れた職ですが、それもまたゲームの妙というやつですね。私の方はまぁ、あまり現実と代わり映えしませんけど」
「……アイドル……」
「あのー、信女さん。次、回してもらえませんか?」
「……あっ、ごめんなさい」
らしくもなくポケーッとしていた彼女は、私に急かされて慌ててルーレットを回し始めた。
……アイドル、嬉しかったんでしょうか。
試しに、頭の中の彼女にフリフリの服を着せて、歌って踊らせてみる。
(うわぁ……)
ルックスと歌声は申し分なかったが、死んだ目とポーカーフェイスが壊滅的に致命的だった。
果てしなくシュールでどこか哀愁を誘う光景が目に浮かび、なんだか無性に泣きたくなってきた。
「信女さん、アナタはもう少し笑ったほうがいいです……。そのほうが、絶対可愛いです……」
「なに言ってるの異三郎。気持ち悪いんだけど」
ハイ、言ってて私もキモイって思いました。
それからしばらくは、私がパーティの途中で牛の大群に乱入されたり、信女さんが宇宙人と遭遇して二万ドル貰ったりと、比較的恙無くゲームは進行していった。
彼女と私は共に抜いたり抜かれたりのペースで走破し続けていたのだが、そんな折、不意に強制停止のマスに差し掛かった。
それまではそれなりに弾んでいた会話が、突然ふっつりと途絶える。
沈黙の妖精が、部屋の中を縦横無尽に飛び回り始める。
「……この、マスは……」
「………」
他のマスよりもふたまわりほどデカデカと描かれた赤いそこに強制停止した私は、そのマスに書かれた文言を前になんとも言えない心境に陥っていた。
『結婚! ルーレットを回して、出た目だけ他のプレイヤーからお祝い金をもらい、子供ピンを車に刺そう!』
分かっている、これはゲームだ。
ゲームの中のイベントのひとつに過ぎない、なにを私が気にする必要があるのだ。
横の彼女に気取られない内に、さっさと何事もないような風を装わねば。
――彼女が余計な気を回さないように、早くイベントを消化しなければ。
思いとは裏腹に、手が動かない。
体の動きが、思考に追従してくれない。
ちゃんと私はポーカーフェイスを作れているだろうか。いつもと同じ、何を考えているのか分からないと評されるような顔でいられているのだろうか。
「……異三郎」
「……なんですか、信女さん」
発せられた彼女の声に、辛うじて応答する
大丈夫、声は震えていなかったはず。いつもの私と同じ、いつもどおりの声で答えられたはず。
あぁ、それにいつまでも顔を伏せていては怪しまれてしまいますね。
ポーカーフェイスでいられる自信はなかったが、それでも顔を上げてみると、こちらをまっすぐ見ていた彼女と眼があった。
「―――私と、結婚しよう」
「……えっ」
平静を装うどころか、数段飛ばしで思考が完璧にフリーズしてしまった。
え、もしかして告白? なんで私に、ていうかなんでこのタイミング?
サブちゃんテラ混乱だお、のぶたすちょっと落ち着くんだお。まだそういうのは私たちには早いっていうか、そもそも上司と部下だし社会的にちょっとというか、待て待て一番落ち着くべきなのは私の方だろうというかなんというかアリオリハベリイマソカリ……
「ほら、こうして、私のピンを……」
「……信女さん。アナタ、人生ゲームのルール知ってます?」
「知ってるけど、なに」
「いや、なにって……」
見れば、彼女は自分のピンを車から引き抜いて、私の車へと移し替えていた。
純白の車に、水色と桃色のピンがふたり仲良く寄り添っている。
ハネムーンカーみたいですね、とそんな取るに足らない考えを頭の隅っこに押しやって、彼女に言う。
「相手のプレイヤーと結婚なんかしたら、ゲーム破綻しちゃうでしょ。そんなルールありませんから」
「いいじゃない、プレイヤーひとり消えたって。NPCいるんだし」
「そういう問題じゃ……」
「いいの。ほら、早くルーレット回して、お祝い金もらって」
強引に急かしてくる彼女の姿に、押し切られるままにルーレットを回す。
NPCのふたりから、祝い金として次々とドルが送られてくる。
拍手もなし、祝う声もなしの無機質な結婚祝い。
私の結婚を、祝福してくれている。
そう思うと、胸の奥がキリキリと締め付けられた。
私には、誰かに祝ってもらえるような資格なんて、ありはしないというのに。
幸せにしてみせる。その誓いは、嘘に変わってしまったというのに。
ハネムーンカーを、手に取って眺めてみる。
「はは……。改めて見てみると、なかなか罪な仕様ですね、コレ」
寄り添った男女のピンが、私に幻を見せる。
ありもしなかった幻を、叶わなかった幻を。
幻は、目頭が熱くなるような感覚まで私に及ぼし始めた。
無論、幻は幻でしかないから、涙なんてものは流れない。
幻覚に、そこまでの力はないのだから。
「さて、異三郎。めでたく結婚も終わったところで」
「……あぁ、そうでした。まだやることが残ってましたか」
結婚したら、子供のピンも車に載せなければならない。
載せるのは、水色のピンにしようか、桃色のピンにしようか。
えぇ、もうここまで来たらやぶれかぶれです。迷う必要なんて、ないのですから。
ピンを選び、両親の後ろに刺す。
できましたよ、と顔を上げると、
「……んしょ、んしょ」
「………」
再び、思考がフリーズ。
頭の中でワンワンと鳴り響くのは、おまわりさんの象徴、サイレンの音。
ギザヤバス、いやもうギザとかいうレベルではない。テラヤバス、ヘクサヤバス、ピコヤバス、無量大数ヤバス。
いや、なにしてるんですかアナタ。もう読めない云々を通り越して、私はアナタのことが段々怖くなってきたんですけど。
「……信女さん、なにしてるんですか」
「なにって、服を脱がないとできないじゃない」
「だから、なにが!?」
「それを、私に言わせるの?」
咄嗟に目を逸らしたが、正直、かなりヤバイ。
真っ白な隊服の下、それに負けないくらい純白の、陶磁器のようなきめ細やかな肌が妙に目に焼き付いて離れない。
おまわりさん、こっちです。全力でこっちです。
「いいわ、結構。そういう要求をされたなら、断るわけにはいかないわ」
あ、やっぱ今来られたら困ります。私、やっぱアレですかね、児ポ的な何かで捕まっちゃうんですかねこういう場合って。
ていうか、アレ? 冷静に考えてみたら、お廻りさんって私のことじゃん。
隊服で胸前を隠した彼女が、どこで覚えたのか流し目気味な視線をこちらへと送ってきた。
「―――子作り、しましょ」
地上最強のヨメ風のテンションでそう言った彼女に、私は頭の中で何かがブッチーンと千切れるような音を幻聴した。
ゆらりと立ち上がった私は、全身全霊、渾身のエリート力のあらん限りを振り絞って彼女の元へと歩み寄ると、熱に浮かされたように彼女の身体に手を伸ばした。
「信女、さん……」
「なに……?」
喉がカラカラに干上がって発声すら極めて困難な状況だったが、私は丹田エンジン全開の最後のエリート力を駆使して、どうにかこうにかソレをやり遂げることができた。
全ての力を使い果たした私は、その場に崩れ落ちながら、彼女へと囁くように一言。
「服を……着て、ください……」
それだけ言うので、精一杯だった。
どうやらまだまだ、私にはエリート力が足りないようだ。
ちなみにそのあとは、給料日マスを通過するたびに信女さんが歌って踊り出したり、私が牛の大群にパーティを襲撃されたり、『子供が生まれた!』マスが近づくたびに(主に私が)戦々恐々としたり、NPCが一位でゴールしたりと、それなりに平和にゲームは終了した。
「信女さん、今日はありがとうございました。こんなにスリリングなゲームをしたのは、久しぶりでしたよ」
「そう。楽しんでもらえたのなら、なにより」
これからは彼女の見えるところでは、読む本には気を付けよう。
そう固く決意しながら部屋を辞した私は、携帯を取り出して早速ブログを更新し始めた。
「……『今日も、マイエンジェルのぶたすは萌え萌えキュンだったお』、っと……」
子作りのくだりは、ブログには書かなかった。
ていうか、書けねーよあんなん。いろんな意味で。
一応ネタはあるので、何本かサブノブで書くかもしれません。
てか、いい加減メインストーリー進めなければ。