もしも比企谷小町が姉だったら・・・   作:fate厨

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第7話

 総武高校入学以来初めての定期考査も終わり、他の生徒がやっているテストの点数見せ合いイベントになんてもちろん参加していない比企谷八幡は、あいも変わらず部室で読書に興じていた。

 そしてその隣で、同じく読書をしているのは雪ノ下雪乃。さらに雪ノ下にくっつく由比ヶ浜結衣。テスト勉強を通じて雪ノ下と仲良くなった由比ヶ浜は毎日のように奉仕部に来るようになった。この部活も随分と賑やかになったものだ。

 

「邪魔するぞ」

 

 そんな言葉とともにノックなしで部室に入ってくるのは、我が奉仕部の顧問、平塚静先生である。

 いきなりガラガラと扉を開けられると少しびっくりするから、ノックをしてほしいのだが、何回言ってもこの人には無駄だった。

 俺の中で、平塚先生がくる=雑用をやらされるという等式ができてしまっているため、先生の顔を見ると無意識にため息が出てしまう。

 

「またなんか雑用ですか?」

 

 恨みがましい視線を添えてため息まじりに質問をする。

 

「比企谷。目が腐っているぞ」

 

 失礼な。これはそういう仕様なんだよ。

 

「ところで、人が増えているようだが、新入部員かね」

 

 由比ヶ浜のことか。彼女は、ここ2週間ほど奉仕部の部室に入り浸っているが、果たして部員なのだろうか。アニメやラノベなんかだと、気づいた時には部員になっているパターンがほとんどだが、現実の部活ではそうもいかないだろう。由比ヶ浜が部活内で問題を起こした時、それの責任を誰が取るのか曖昧になってしまう。

 

「いえ。由比ヶ浜は部員じゃありません。ただ入り浸っているだけです」

 

「違うんだっ」

 

 俺の言葉に驚いたのか、由比ヶ浜は目を丸くした。

 

「ああ。入部届はもらってないし、平塚先生の許可もないから部員じゃないぞ」

 

「書くよー。入部届ぐらいいくらでも書くよー」

 

 そう言ってバッグから紙とペンを取り出し、お手製入部届を書き出す由比ヶ浜。

 最初は俺一人だったのに、これでもう部員は3人か。当初の目的である学校内のプライベートスペースの確保からはかなり遠のいてしまった。しかし、これはこれでいいかもしれないな。

 

「それで平塚先生。何か用ですか」

 

「依頼だよ、比企谷」

 

 驚いたな。先日由比ヶ浜の依頼を終えたと思ったらまた新しい依頼とは。思っていた以上に忙しい。

 

「依頼内容は?」

 

 平塚先生は、よくぞ聞いてくれたという表情でフム、と頷き喋り始める。

 

「今週の土曜日に、総武高校の学校説明会があるのは知っているかね」

 

 学校説明会?まだ6月の上旬だというのに早すぎはしないだろうか。

 

「随分と早いんですね。学校説明会」

 

「うちは進学校だからな。進学希望の中学生には早いうちにアピールしておかないといけない」

 

 なるほど。それじゃあ依頼はさしずめ学校説明会の手伝いといったところだろうか。土曜日に学校に行くことほど憂鬱なことはない。

 

「じゃあ、その説明会の手伝いをすればいいんですか」

 

「うむ。少し違うな。まぁ手伝いに変わりはないのだが・・・君たちには部活を紹介してもらいたい」

 

 部活の紹介?この学校の部活動を俺は把握していないぞ。帰宅部になるつもりだったし、何部があるかなんて全く知らない。

 

「学校説明会で、部活を見学させることになっていてな。運動部2つ。文化部1つ選ばなければならない。そこで君たち奉仕部を選びたい」

 

 ・・・意味がわからん。なんでよりにもよってこの部活なのか。依頼人がこないとやることがない奉仕部を見学してもなんも楽しくないぞ。それよりも美術部とか吹奏楽部とかの方がよほど食いつきがいいだろうに。

 

「なにもこの部活紹介しなくても。他に文化部なんていくらでもあるでしょうに」

 

「土曜日は活動しない部活や、コンクールで出払ってしまう部活がほとんどだった。残念だが君たちしかいない」

 

 そんな馬鹿な。

 しかし、自分たちしかいないというのであれば、断れそうにない。それにこれは奉仕部顧問からの正式な依頼だ。平塚先生のおかげでこの部室を確保できているのだから彼女の依頼は断りにくい。

 

「まぁ、先生からの依頼だったら無下にはできませんし、わかりました。やります」

 

 俺の言葉に、平塚先生は満足そうに頷いた。

 

「ありがとう。助かるよ。こちらも出来る限り協力する」

 

 そう言って平塚先生は踵を返し、奉仕部を後にする。  

 つかつかと姿勢良く歩く先生の背中には、心なしか疲れの色が見える。いや気のせいかもしれないのだが。

 彼女も生活指導などを担当しているとはいえ、まだまだ若そうだ。そして若手にきつい仕事が回ってくるのは、世の理である。今回の件もそんなところだろう。

 これは奉仕部始まって2つ目の依頼だが、なかなか難易度が高そうである。

 

「それで、比企谷くん。どうするつもりなのかしら」

 

 平塚先生が出て行ったのを見計らったように雪ノ下が口を開く。

 

「依頼がないと特にすることがないしな。この部活」

 

 でも何もすることがない部活を中学生に見学させるわけにはいかない。今週の土曜日までに何かすることを見つけなくてはならない。

 由比ヶ浜は何かを思いついたのか、ポンと手を叩き、話し始める。

 

「別に依頼がなくても奉仕すればよくない?草むしったりゴミ拾ったり」

 

「そうね。草むしりやゴミ拾いだって立派な奉仕活動ではあるわ」

 

 確かにそうだ。奉仕、いわゆるボランティアとは本来無報酬で何かを手伝うことをいうのだ。依頼の有無は関係ない。しかし中学生に見せるとなるとそれらはいかんせん地味になってしまう。

 

「中学生に、高校生が草むしりしてるとこ見せるのか。全然楽しくなさそうだぞそれ」

 

 それに、草むしりというのは結構重労働だったりする。俺は問題ないが、由比ヶ浜・雪ノ下の女性陣にはなかなかつらいかもしれない。

 俺の意見への反論がないのか、二人とも口をつぐんでしまう。

 普通の奉仕ではダメとなると方法は一つしかなさそうか。

 

「依頼者をでっち上げるしかなさそうだな」

 

「その言い方は語弊があるけれど、まぁそれしかなさそうね」

 

 雪ノ下は反対するかと思っていた分、少し驚いた。

 

「反対しないんだな」

 

「ええ。特に反対する理由もないし、それしか方法がなさそうだもの。それに本当に困っている依頼者を探せば、嘘をついたことにはならないわ」

 

 なるほど。確かにそうだ。誰かに相談したいのだが、誰に相談すればいいのかわからない人間に奉仕部の存在を教えてやればいい。だがそれにしても問題はまだ残っている。

 

「困っている依頼者に心当たりはあるか」

 

 俺の問いに 二人とも黙り込んでしまった。

 まぁ人間そんなに簡単に悩みを人に打ち明けられるものじゃない。全てをさらけ出せる親友がいる人間がこの世にどのくらいいるだろうか。というかそもそも俺は友達に心当たりがない。

 

「そうなると、依頼者を探すか、俺たちの中の一人が依頼者のフリをするかだが・・・」

 

 二つ目はあまり褒められたものではない。

 

「二つ目は却下ね。依頼者を探しましょう」

 

「うん。二つ目はちょっとやな感じ・・」

 

 軽く頬を膨らませる由比ヶ浜。リスみたいだ。

 

「ああそうだな。でも依頼者を探すにしても、時間がない。早めに見つけておかないとまずいんだが、残念なことに俺は友達が少なくてな。見つけられそうにない」

 

「私も友人はあまり多い方ではないから、この件に関しては力になれそうにないわ」

 

 薄々そうだとは思っていたが、俺だけじゃなく雪ノ下もぼっちだったのか。こうなるともう頼みの綱は由比ヶ浜しかいない。

 

「私が探してみるよ」

 

 由比ヶ浜もそれを理解したように頷いた。

 

 由比ヶ浜一人に押し付けるような形になってしまって忍びないが、俺が頑張ってもどうにかなることじゃない。俺にできるのはせいぜい人間観察ぐらいだ。それで人の悩みがわかったら、もっと楽に生きられる。

「お願いするわ、由比ヶ浜さん」

 

「うん」

 

 こうして奉仕部が始まってから2度目の活動が始まったのだった。

 

 

*****

 

 

「やっはろー」

 

 相変わらずのアホっぽい挨拶とともに部室に入ってくるのは由比ヶ浜結衣。最初は違和感がすごかった独特の挨拶だが、毎日聞いていると慣れてしまう。これが洗脳か、怖い。

 

「今日は依頼人を見つけてきましたぁ」

 

 うん。前々から思ってたけどやっぱりこの子凄い。だって昨日依頼人探そうって言って、今日の放課後連れてきてしまうんですもの。なんというコミュニケーション能力。人の悩みなんてそうそう簡単に聞きだせるものでもないだろうに。

 雪ノ下も、由比ヶ浜の速さに驚いている。

 

「そう、ありがとう。では紹介してくれるかしら」

 

「うん」

 

 そう言った由比ヶ浜は、ドアの向こうにいると思われる依頼人に「入って入って」と入室を促した。

 由比ヶ浜に促されて入ってくる依頼人。上下ジャージを着ている。運動部だろうか。

 不安の表れなのか、ジャージの端をぎゅっと握りしめている。なんというか小動物みたいな女子生徒だ。

 上履きの色から俺と同じ学年であることがわかる。

 

「えっと・・1年C組の戸塚彩加です。よろしくお願いします」

 

 同じクラスだったのか。気がつかなかった。でも俺は女子と面識がほとんどないからそれも仕方のないことだろう。誰も俺を責めることはできない。

 

「よく勘違いされるけど、一応男の子です」

 

 なん・・・だと・・・!?

 そんなことがあっていいのだろうか。

 小柄で足も細く、純白の肌を持つ彼女・・いや彼が男だと?ありえない。

 雪ノ下も同意見なのか、瞠目していた。

 この場でただ一人その事実を知っていたであろう由比ヶ浜は得意げな様子だ。いやお前が胸を張ってどうする。

 戸塚の性別による驚きでしばし固まっていた雪ノ下だったが、場を正すように咳払いを一つすると、戸塚に質問を投げかけた。ちなみに俺は未だに固まっている。

 

「戸塚彩加さ・・くんね。あなたの依頼を聞かせてもらえるかしら」

 

「依頼・・なんて大したものじゃないんだけど・・・その・・僕のテニスの練習に付き合って欲しいんです」

 

 テニス、ということは戸塚はテニス部なのだろうか。

 俺はテニスは中学生の体育の授業ぐらいでしかやったことがないが、ボールを拾うぐらいはできるだろうしテニスなら大丈夫そうだな。

 

「でもなんで俺たちに?部活のやつに付き合ってもらえばいいんじゃないか?」

 

 そうなのだ。運動部に所属している人間は試合などをともにする仲間意識から、友達ができやすいと言う。戸塚みたいな可愛い子ならなおさらだ。それならばこんな得体のしれない部活に頼む必要はない。

 

「僕以外のテニス部の一年生は・・その・・・なんというか・あんまりやる気が無くて・・あっ練習は真面目にやるんだよ。でも休日までテニスをやりたいっていう人はいないんだよね」

 

 なるほど。テニスに対しての熱量が噛み合っていないわけか。

 

「土曜日に学校のコートを借りたんだけど、一緒にやる人がいないから、奉仕部の皆さんにお願いしようと思って・・・」

 

 上目づかいで目をうるうるさせる戸塚。なにこれ可愛い。

 でもまぁ、この依頼なら問題はないだろう。別に奉仕部に勧誘しているわけではないのだから、総武高校では奉仕部みたいな、依頼があればテニスもやってしまう斬新な部活があると思わせられれば上出来だ。

 

「なぁ戸塚。多分俺たちの練習の様子を何人かの中学生に見られると思うんだが、問題ないか?」

「うん、それぐらいなら大丈夫だよ」

 

 よし。これで大丈夫だ。最初は難しいと思われた依頼だったが、由比ヶ浜の助力のおかげでなんとかなりそうだ。

 確認のため、由比ヶ浜と雪ノ下に目配せする。

 

「ええ。問題ないわ」

 

「うん。大丈夫!」

 

 よし。   

 

「戸塚の依頼。承った」




戸塚彩加登場です。戸塚は俺ガイルでもかなり好きなキャラなので、早期に出してしまいました。今回は小町姉は出ません。申し訳ありません、誤字などあったら報告お願いします。

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