岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
と言う訳で原作のあの回です。
な、なんでヴァーリの奴が仲間のアザゼルを攻撃しているんだ!?
上空でヴァーリの一撃を辛うじて回避したアザゼルが、露出の高いセクシーなドレスを纏った女悪魔のお姉さまと並ぶヴァーリを睨む。
「――っチ。このタイミングで反旗かヴァーリ?」
「そうだアザゼル。もっとも、宣戦布告の先制攻撃はかわされてしまったが」
フルヘルムのフェイス部分が収納されて顔が露になる。あっ。あれってそんな事も出来るんだ。俺の『赤龍帝の鎧』でもできるかな?
「……もっと早く裏切ってもよかったのではなくて白龍皇? それに当初の作戦と違って正直慌てたわよ」
「ちゃんと奇襲の準備はしたし、俺はそちらの軍勢を誰も殺していない。気絶させてそちらのアジトに転送しておいた。不備の償いは十分だと思うが?」
お姉さまが不機嫌そうに隣に立つヴァーリを睨むが、ヴァーリは気にした様子も無く肩を竦めてそう反論する。
「……たく、俺も焼きが回ったもんだ……いつからだ?」
アザゼルが後頭部を掻きながら問い質すと、ヴァーリは素直に答えた。
「コカビエルの身を預かって帰還する途中でオファーを受けた。悪いなアザゼル。こっちの方が面白そうなんだ」
「よくアルビオンがオーフィスの下に就くのを許したな?」
「俺はただ協力するだけで正式に降る気は無い。魅力的なオファーをされてね。『アースガルズと戦ってみないか?』なんて言われては、自分の力を試したい俺としては協力せざるを得ない。和平が成立すれば俺が戦う機会も減ってしまうだろうしな」
アースガルズ……どっかで聞いたような?
「アース神族。つまりオーディン達ヴァルハラの神族達よイッセー」
俺がヴァーリの言葉に首を傾げていると、俺の内心を察してくれたのか隣に立っていた部長が俺と同じように上空の三人を警戒しながら説明してくれた。
「ってことは、あいつ別の土地の神様に喧嘩売ろうってことですか!?」
「ええ。まあ『禍の団』の目的が新世界の構築だから、他の神々とぶつかるのは必至でしょうけど、そんな事になったら人間界もわたし達三陣営にも多大な被害が出るわ」
マジかよ。物騒な発言が多い奴だとは思ったけど、どこまでバトルジャンキーなんだよ! 他人を巻き込むなよな!
「俺はお前に『強くなれ』と教えはしたが、『世界を滅ぼす要因だけは作るな』とも言い聞かせたはずだ」
「関係ない。俺は永遠に戦えればそれでいい」
ヴァーリの返答にアザゼルの顔が一瞬曇ったあと、大きな溜息を吐いてどこか寂しそうに苦笑した。
「まあ、こうなる可能性はあったわな。お前は出会った頃からずっと強い者との戦いを望んでいたもんな」
「彼の本質を見抜いておきながら放置とは、あなたらしくない。結果、自分の首を絞めることになりましたわね」
お姉さまが嘲笑を浮かべ、アザゼルは苦笑する。そんな二人のやり取りを見ていると、突然ヴァーリが自分の胸に手を当ててこちらへと向き直った。
「俺の名はヴァーリ……ヴァーリ・ルシファーだ」
そう言って奴は光る翼の他に複数の悪魔の羽を出現させた。
……え?
コイツは今なんて言った? ルシファー? え、だってルシファーは部長のお兄さんが……。
困惑している俺を無視してヴァーリは続ける。
「俺は死んだ先代魔王ルシファーの孫である父と人間の母の混血児だ。そして半分人間だった為に俺は神器、それも『白い龍』を宿して誕生した。奇跡や運命があるとしたら俺のことかもしれない――なんてな」
最後に苦笑して見せたヴァーリ。奴の出生を聞いて俺自身驚いているが、それ以上に隣の部長が慄き、困惑していた。
「……そんな、嘘よ……」
「いいや事実だリアス・グレモリー。はっ、転生チートでも貰ったって言われた方がまだ納得できちまうくらいの冗談みたいな存在が、こいつだ。おろらくこのまま行けば過去未来含めて最強の白龍皇になるだろうさ」
最強。そんなのが俺の宿敵なのか? 勘弁してくれ。こっちはようやく戦えているって段階なのに。つーか神器持ち多くないか? 特別なんじゃないの? それとも俺の周りが特別おかしいの?
……止めよう。とりあえずおっぱいを見て落ち着こう。
俺はパンクしそうになった頭を冷やす為に視線をお姉さまの方へと向ける。うん、ナイスおみ足! ナイスパンチラ! そしてナイスおっぱい。下乳最高!!
「……厭らしい視線を感じるわね。あの残念なのがあなたの宿敵?」
「ああ残念ながらそうだ」
「ざ、残念残念言うな! 俺だって必至に生きてるんだぞコノヤロウ! つーかいい加減そのお姉さま系悪魔さんの名前くらい教えろ!」
「……本当に残念な子みたいね。今ここで殺すのかしら?」
こちらを侮蔑するように睨むお姉さま。自分にM属性は無いので普通に心に突き刺さる。
「正直迷っているところだ」
ヴァーリが真剣な表情で考え込む。おい待てこら! 人の生き死にを勝手に決めんじゃねぇ!
「まあいいわ。アザゼルはわたしが相手します。白龍皇はそのあたりを見定めてみては?」
「……そうするとしようか」
ヴァーリがゆっくりと地面に降り立ち悪魔の翼を消してこちらに近付く。
「「イッセー!」」
「「一誠君!」」
ヴァーリが足を進めた瞬間、オカルト研究部のみんなとイリナ、ゼノヴィア、そして人型に戻ったギャスパーと一緒に白野達が俺の周りに集まる。
全員で身構えると、ある程度距離を保ってヴァーリが足を止める。
「兵藤一誠……君は運命は残酷だと思わないかい?」
「――は?」
奴は突然そう口にした。意味が解からずに訝しむ。
「俺のように伝説の悪魔に伝説のドラゴンという思いつく限り最強の組み合わせの存在が居る反面、君のようにただの人間にドラゴンが憑くこともある。いくらなんでもこの偶然は残酷だ。ライバル同士のドラゴンは同等の力だというのに、その宿主の力の溝はあまりにも大きい」
ヴァーリは心の底から同情するようにこちらを見詰めてくる。正直ライザーみたいに笑って馬鹿にされた方がまだましだ。地味に傷付くだろうが!
「君の事は調べた。君の両親や血族の祖先まで遡ったが、君の家系は怪異や魔術に一切関わりの無いただの人間だった。君の両親も父親はただのサラリーマンで母親は専業主婦でたまにパートに出るだけのごくごく普通な夫婦だ。もちろん息子の君も悪魔に転生するまでただの一般人だった……そう、特別なのは『赤龍帝の籠手』を宿したという一点のみだ」
ヴァーリは哀れみの視線をこちらに向けながら呆れたように嘲笑した。
「君の事を調べつくした時、俺はそのあまりの普通さにつまらなすぎて落胆より先に笑ってしまった。『ああこれが俺の生涯のライバルなのか。まいったな』とね。正直に言えば……そっちの三人の方がまだ心が踊った」
そう言ってヴァーリが指差したのは俺の左右にいる木場と白野、そしてギャスパーだった。
「ギャスパー・ヴラド。吸血鬼と人間のハーフで更に強力な神威具の神器を宿している。その神器が『赤の龍』だったのなら、まさに俺達は互いにぶつかり合う宿命を宿していたと、俺は思っただろう」
「ひいいいい! こんな危ない人に一生狙われるなん嫌ですぅぅ! お巡りさんストーカーですぅぅぅ!!」
ギャスパーは涙目で白野の背中に隠れる。気持ちは解かる。こいつは本当に戦いのことしか考えていない。
「……ま、そんな性格じゃ俺も興ざめでさっさと殺してしまっていただろうがな。そして次は君だ木場祐斗。君は生まれこそ兵藤一誠と同じだがその後の過程が違う。幼くして同士を殺され、悪魔となり、あのサーゼクスの眷属に師事し鍛え続けた。君の神器が『赤い龍』ならば期待して見守る選択を即決していただろうな」
「……どうやら今代の白龍皇は地雷を踏み抜くのが好きみたいだね」
木場の瞳が鋭く細められ、全身から殺気を迸らせて聖魔剣を正眼に構える。
「ああ心地良い殺気だ。きっと楽しい戦いが出来ただろうに残念だ。そして……君だ月野白野」
木場の殺気を受け流して、ヴァーリが白野を指差す。
「君の事も調べた。君も転生者と言う一点を除けば兵藤一誠と同じく特別な家系ではなく、その身に神器を宿しただけの人間だ。しかし唯一彼と違う点がある。それは君が戦う運命にあるということだ」
「……どういう意味だ?」
白野が鋭い視線でヴァーリを睨み返す。その鋭い気配にヴァーリの口元に笑みが浮かぶ。
「自覚は無いのか? 君ほど特別な人間は居ないだろう。転生者として生まれ。神器を宿して成長し。その過程で妖怪の黒歌と出会い仙術を学び。更に堕天使のレイナーレを篭絡させて光力を手に入れた。挙句に先の戦いで聖剣と義手まで三陣営から施された。君は確実に戦う運命に有り、そして戦う度に力を得ている。俺が特別な生まれだとするなら、君はまさに特別な人生を持った存在としか言いようが無い」
ヴァーリが興奮気味に断言する。その言葉に……俺は少しだけ納得してしまった。
見れば他のみんなも自分と似たような表情をしていた。否定したいのに、どこかで納得してしまっている。そんな複雑な表情を。
唯一白野だけは、その言葉を受けても顔色一つ変えずにヴァーリだけを見据えていた。
「そこで俺はあるプランを考えた。兵藤一誠の可能性も確かめられて、彼がダメだった時の為の保険にもなるプランだ」
ヴァーリが自信に満ちた顔を浮かべる。正直この戦闘狂の事だ。ろくな内容じゃないだろう。
「まず木場祐斗の例を鑑みて、兵藤一誠の大切な者を殺そうと思う。とりあえず両親、そしてアーシア・アルジェントの三人だ」
………………あ?
「大切な者が死んで木場祐斗は強くなった。それで君が『赤い龍』の後継者として強くなるなら人間二人、悪魔一人の命も安いもんだろう?」
…………何言ってんだ?
「それで強くならないのなら君を殺し、月野白野を殺して悪魔の駒で転生して貰おう。人間のままよりもずっと強くなれるはずだ」
……誰の何を殺すって?
おかしな話だ。頭はどこまでも冷めているのに、奴の言葉が、意図が、何もかもが理解できない。
ただ唯一理解できたのは、その冷えた思考すら吹き飛ばす程のどす黒い何かが、心の底から湧き上がって来ている事だけだ。
そしてその何かが溢れた瞬間にその正体に気付くと同時に――口が勝手に動いていた。
「――殺すぞテメェ」
『Welsh Dragon Over Booster!』
俺の『殺意』に呼応するように禁手は発動し――俺はヴァーリ目掛けて突撃した。
ぶっちゃけると、このお話時点の原作のヴァーリは喋り方が一々芝居かかっていて、自分に酔っている感じがしてかなり小物臭が酷いです。
そのせいか三陣営の会談以降の天然で落ち着きのある彼とは正直印象がまるで逆で、同一人物かと言いたくなります。
その為この作品では原作後半の彼の口調に変えてあります。