岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
という訳で乱戦と彼の裏切り回。そして若干のタイトル詐欺。原作でも彼はフラグビンビンでしたから意外でもなんでもないというね。
この世の地獄が開園しちゃったよ!
天上ではハルマゲドンなみのドンパチが始まり、地上では血生臭い戦争である。これを地獄と言わずなんという――って、愚痴っている場合じゃない!
味方に向けて攻撃態勢に移ろうとした複数の一団を見つけて二人に指示を出す。
「黒歌と朱乃は三時と六時の集団に攻撃! レイナーレはあの一帯に威嚇攻撃を!」
「了解よ! 特大の魔弾をくらいなさい!」
「わたしの新たな力、雷光の力に沈みなさい!」
「わたしだって光の槍を複数出せるようになったのよ!」
黒歌が強力な魔弾で敵を吹き飛ばし、朱乃が敵の頭上から光と雷の力が宿った稲妻で焼き尽くし、レイナーレがサイズは小さいがその分数の多い小型の光の槍を飛ばしてこちらの陣営を攻撃しようとしていた魔法使い達を牽制する。
不意に敵意を感じてそちらに振り向けば、魔術師の一人がこちらに魔法で造り上げた角錐型の大きな岩を飛ばしてくる。
「ふっ!」
その攻撃を『豊穣神の器』を発動して左腕で止めて分解吸収する。そしてそのまま身体に流れ込んできたエネルギーを食べ物に変換せずに左腕に送って蓄積させる。
やっぱり便利だな、この左腕は。
『豊穣神の器』は既存のエネルギーを『分解吸収』し、その後『再構築』を経て生命力や体力を回復する食べ物や飲み物に変える。
だったら食べ物をイメージせずに能力を行使したらどうなるのか?
結果は単純だ。分解吸収で自分の肉体に生命エネルギーが吸収されるのだ。
だが、この方法には一つ問題がある。
エネルギー量が多い場合その生命エネルギーをすぐに消費するならいいが、肉体に蓄えてしまうと自分の肉体に異常をきたしてしまうのだ。
乗り物酔いしたみたいに気持ち悪くなったり、感覚が鋭くなり過ぎて逆に体の動きが鈍くなったり、体が燃えるように熱くなって気絶したりする。何事も一度に一気には良くないと言う事だな。
しかし今の自分にはそのデメリットを解消する左腕が有る。吸収された全身に巡る余分なエネルギーを左腕に送って『蓄積』させる。
いわばこの左腕は予備バッテリーの様なものだ。こいつのお陰で『物質制御』や『コードキャスト』の行使がしやすくなった。
「《code:
エクスカリバーを振り抜き三日月形の斬撃を飛ばしてこちらを攻撃した魔術師を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた魔術師への追撃はせずに視線を動かして空からの攻撃や、形勢不利な者達を目指して動き回る。
「三人共こっちに落ちてくる。掴まれ!」
エクスカリバーの柄を口で噛み、両手を伸ばして左右を走っていたレイナーレと朱乃の手を掴み、『加速』で一気にその場を駆け抜ける。黒歌は自分と並走して付いて来る。
直後に自分達が居た場所に魔弾が落下して近くに居た魔術師と三陣営の戦士達がまとめて吹き飛ばされる。
ちっ。やりたい放題だなあの女悪魔。
先程から地上の者を気にせずに攻撃しているのはアザゼルと戦っている女悪魔の方だ。アザゼルはさすがに同盟を結ぼうって時に自分が仲間や同盟相手を殺す訳には行かないのか、地上へ及ぶような攻撃は行っていない。むしろ積極的に相手の攻撃を防いでこっちの被害を減らしてくれているように見える。
改めてエクスカリバーを再度手に取って指示を出そうとしたその時、大きな蝙蝠が自分の肩に降り立った。
大きさは違うこの姿は――。
「先輩! 僕も戦いますぅぅ!」
蝙蝠から発せられたのは予想通りキャスパー君の声だった。よくよく見渡してみれば、傷付いた仲間を避難させている者達を護る様に蝙蝠が一、二匹追走して敵の攻撃を止めていた。
どうやらあの蝙蝠全てがギャスパー君の分身でこの蝙蝠が本体か。というか分身でも神器が使えるって、凄いなギャスパー君。
「ギャスパー君、能力は安定しているかい?」
「はい。先輩の血を飲んで、この装置を着けたら自分で使えるようになりました!」
「それとあの戦い方は自分で考えたのかギャスパー君?」
「は、はいぃ」
「そうか……頑張ったなギャスパー君、よくやった」
蝙蝠になっている彼の頭に手を乗せ、戦闘中と言うこともあって短く、それでもはっきりと想いを込めて告げた。恐怖を乗り越えてこの場に立つことを選んだ彼の勇気を称えるために。
「うう、うわあああああん! 先輩!」
ギャスパー君が突然大泣きし始める。蝙蝠の姿なのでなんともシュールだ。
「す、すまない。何か気に障ることを言ったか!?」
褒めたつもりだったのだが。
慌てている自分に、ギャスパー君は『違いますぅぅぅ』と泣きながら否定した。
「僕、自分のした事で褒められたの初めてなんですぅぅぅ!」
……うん。もしも彼の親族に会う事があれば一言言ってやろう。
「つうかリアス先輩達は何をやってんの。悪魔の業績上位なんだから褒めようよ」
「褒めていましたよ。でもギャスパー君自身がそれは相手と直接会わないからだって、卑屈になっちゃって」
「……あ~」
確かにギャスパー君ならそうなるだろうなと、納得してしまった。
「……まあいい! とにかく嬉し泣きなのは分かったよ。でもギャスパー君、まだ戦闘は終わっていない! 期待しているから……付いて来てくれ」
「――っずぅぅ! はい! 頑張りますぅぅぅ!!」
ギャスパー君が鼻を啜り、羽で涙を拭ってしっかりと返事をする。なんか仕草が可愛い。
「よし! ギャスパー君、訊くが魔術師から血や魔力を吸えるかい? それとそのエネルギーは君に還元されるか確認して貰えるかな?」
「や、やってみます」
蝙蝠が停止中の魔術師に噛み付く。噛まれた魔術師は徐々に顔を青くさせて仕舞いにはまるで体力を奪われたかのように力無くその場に倒れこんだ。
「で、できました! それと力が溢れてきますぅぅ!」
やっぱりか。
浄眼を通して見たその光景に自分の仮説が正しかった事に無言で頷く。
「よし。ならこれから一匹は停止した魔術師から血と魔力を適度に補給するんだ! そうすれば君は現状の強さを維持できるはず――っ全員後ろに下がれ!」
魔弾が落ちてきたので『豊穣神の器』で吸収する。自分が吸収している間に黒歌、レイナーレ、朱乃が周辺の敵を一掃し、急いでその場から離脱する。その最中にギャスパー君が先程の行動の意味を尋ねてくる。
「先輩、さっきの言葉の意味はどういうことですか?」
「……君が吸血鬼の力を使えなかったり、神器の力を上手く扱えなかった要因の一つは……栄養不足だ!」
「「えええええ!?」」
自分の発言に全員が驚きの声を上げた。
「君は才能が有りすぎたんだ。神器はどんどん強くなるのに、君は吸血鬼の力、つまり肉体に直結する力を得ることを恐れて生きる上で必要最低限の血だけしか採らなかった。その結果、器の方の肉体が神器に追いつけていなかったんだ」
そう。浄眼には彼の分身が魔術師から血と魔力を吸う度に、それを吸収したギャスパー君の魂の輝きが増すのが見て取れた。まるでその姿こそが本当の彼の魂の形だと言う様に。
「……なるほどねぇ。だから御主人様は自分の血を『豊穣神の器』を使って生成したのね。この子に足りない血と生命力を補わせる為に」
「正確には血を摂取して能力が安定するか見る為に用意したんだけどね。神器のエネルギーを下げる事で能力が安定するなら、逆に肉体を強化することでも安定すると思ったんだ」
黒歌に苦笑しながら以前自分が立てた仮説を説明する。
さて、彼がつけている装置がどれだけ持つか判らない以上、彼の力を出し惜しむ理由は無いな。
「ギャスパー君、君の力が持続すればするほど沢山の人が助かる! だから回復できるときは回復するんだ。それが敵から遠慮はいらない!」
「はい!」
これで地上の被害はだいぶ押さえられるな。問題はあっちか。
目の前の魔弾を吸収し、驚いている隙に魔術師を力任せに斬り裂きながら空へと視線を向けた瞬間――女悪魔の力がいきなり増大した。
なんだ?
パワーアップしたのは間違いないが、その前に何かを飲んでいたような気がする。
『戦っている皆さん、転送術式の封印に成功しました。結界が破られない限りもう増援は来ません!』
この声はガブリエルさんか!
多分魔法によるものだろう。戦場に響いたガブリエルさんの声に戦っている者達の志気が一気に上がる。
女悪魔のパワーアップについては気になるが、アザゼルなら――っ!?
不意に、おかしな動きをした者を見つけ、その者が行おうとしている行動に驚きつつも咄嗟に大声で叫んだ。
「避けろアザゼル!!」
自分の声が聞こえたのか、それともアザゼルが気配に気付いたのか、アザゼルはすんでのところで新たな襲撃者の一撃を回避することに成功した。
「そんな、なんであいつが……ヴァーリがアザゼル様を攻撃するの!?」
レイナーレが不可解そうな表情をしながら、そう叫んだ。
という訳でヴァーリ君裏切るの巻!
うん、まぁ予定調和です。あと、ギャスパー君の解釈は完全にこの作品の独自設定です。
原作読むと分かるけど、彼のポテンシャルだと、そもそも神器が扱えないということ自体がありえないんだよねぇ。なので、肉体と精神が弱っているからという理由にしました。