岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
タイトル通りバトルへの導入回。あ、あと流血注意報。
「えっと、つまり白野はギャスパーが敵に狙われた場合を考えて、『透過』の能力でギャスパーを透明にして連れて来た。という事でいいのね?」
「ええ。以前フリードが使っていたのを覚えていたので。よく我慢してくれたねギャスパー君」
「はいぃぃ。知らない人が一杯で怖かったですぅ」
そう言って頭のダンボールの端を詰まんで更に深く被るギャスパー君……うん、怪しい人にしか見えない。
「それにしてもよく襲撃に気付いたじゃねぇか」
「気付いたんじゃなくて、もしもそうなったらと危惧したんです。そしてギャスパー君の事を敵が知っていたとしたら会議をぶち壊すついでに彼の能力を狙うかもしれないと、そう考えただけです」
そうアザゼルに答えると、彼は愉快そうに笑って確かにな、と答えた。
「さて、となると先手はこちらが取った形になるね。っと、来たようだね」
サーゼクスさんの言葉と共に校庭に黒いローブに身を包んだ連中が現れると同時に、こちらに向けて魔弾を放ち始める。
「これはまずいね。ミカエル、アザゼル」
「ええ。了解です」
「ああ」
三人が頷き合って魔方陣を展開させると新校舎が光り、校舎に魔弾が当たると同時に軽い衝撃が伝わる。
「僕ら三人で防げるレベルか。最低でも一人一人が中級悪魔程の強さを持った魔術師といったところか」
「外からの連絡は無し。どうやら結界内に直接転移しているようです」
「てことは、誰かが予めこの学園に転移術式を施していたってことか……案外この中に裏切り者がいるのかもな。仕方ない、ちっと激しく揺れるぞ」
そう言ってアザゼルが別の魔方陣を展開させて、窓に向かって掌を翳す。すると空に無数の光の槍が現れ、アザゼルが無言で掌を下に振るうと、光の槍もまた天から地へと向けて降り注いだ。
……おう。
「はわはわわわわ」
「うげぇ」
一瞬にして校庭は串刺し死体と血の池という地獄絵図に変わってしまった。串刺しにしていた光が消えると遺体だけが無残に残る。そして威力が強いせいか校舎の一部にも被害が出ていた。
しかしすぐにまた新たに魔術師達が大量に現れる……というか、遺体が邪魔であいつら動けないんじゃないか?
「ちっ。きりがねぇな。かと言って俺が同じ事をしていたら校舎がもたねぇし。しゃーない。外の連中を呼ぶぞ。次に一掃したら転移させろ。どうやら相手は物量作戦みたいだしな」
「確かにそれしかありませんね。ガブリエル、グレイフィア殿、お願いします」
ミカエルさんの言葉にグレイフィアさんとカブリエルさんが頷いて別の魔方陣を展開する。そしてアザゼルが再度光の槍の雨で魔術師達を一掃すると同時に、天使、悪魔、堕天使、それとオカルト研究部のみんなと生徒会のみんな、そして聖剣使いの二人が校庭や空に姿を現す。
……この光景を見て、みんなは大丈夫か?
自分が心配した通り、目の前の光景に生徒会の一部の者とアーシアや小猫ちゃんが顔を青くさせて絶句している。
祐斗は嫌な表情をさせているが怯える二人を気遣うように話しかけ、元士郎も顔は青いが周りの震えている生徒会の女の子達の方が心配なのか、祐斗と同じように声を掛けている。
二人が居ればとりあえず彼らは大丈夫だろう。やはり二人共頼りになるイケメンである。
「ガブリエル、それとグレイフィア殿は敵の転移魔方陣を見つけ次第解析、その後封印してください。校舎や学園の結界はわたしとサーゼクスが担当します」
「うっし、それじゃあ全面戦争と行こうか。俺がコイツらを守ってやるから、お前らも行って来い。ヴァーリもだぞ。いいか、仲間を巻き込むなよ」
「やれやれ、周りに気を遣う方が大変だな――
『
ヴァーリが背中に光る翼を展開して禁手化と唱えると、背中の翼から一誠の籠手と同じように音声が響き、ヴァーリを白い
そしてそのままヴァーリは会議室の壁を破壊して飛び出す。その行いに蒼那先輩とリアス先輩が怒りの表情を浮かべるが、それどころではない為に二人はヴァーリを止める事はしなかった。
「あうう僕はどうすれば……」
「アザゼルさん。神器を抑制する道具とか持っていませんか?」
「あるぞ。ほれ」
そう言ってアザゼルは懐から二つの文字列が幾重にも刻まれた腕輪を取り出してこっちに一つ、もう一つを一誠に放り渡した。
「兵藤一誠、お前はまだ自力で『禁手化』に至っていないんだろ? そいつを使えば一時的に対価無しで『禁手化』に至れる。ついでにお前の封印されている『兵士』の力も全部解放される。ただ体力と魔力の消耗は激しいだろうから使うなら計画的に使えよ」
「分かった」
「そっちの吸血鬼も嵌めれば神器の力を抑えられるから扱えるはずだ」
「ああ助かる。それとギャスパー君、これを飲んでくれないか」
そう言って『豊穣神の器』で作っておいた赤い液体の入った瓶を作り出して手渡す。
「なんですかこれ?」
「自分が『豊穣神の器』で生成した血だ。実は少し考えていたことがある。とりあえずこれを飲んでこの腕輪を着ければ、君も自分の身くらいは守れるようになると思う」
そう言って二つの道具を手渡す。
「……先に行ってるわ」
「俺も行きます!」
「わたしも行きますわ」
「黒歌、レイナーレも先に行ってくれ」
「了解にゃん」
「ええ、分かったわ」
ヴァーリが空けた穴から自分達以外のみんなが飛び出して行く。
「ううぅ。い、いきなり実戦なんて。もしも、もしも僕の神器が間違って味方を止めちゃったら」
ダンボールを被ったまま震えるギャスパー君が縋るようにこちらを見上げてくる。
「……ギャスパー君」
自分は彼と視線の高さを合わせ、その肩に手を置く。
「今日まで君は出来ることをやって来たと思う。だからといって戦えなんて言うつもりはない。そもそも個人的には戦いなんてモノに関わって欲しくないからね。それはあくまで君の身を守る為の手段として渡しただけだから」
それだけ伝えて立ち上がり彼に背を向ける。
「あの!」
そんな自分をギャスパー君が大きな声で呼び止める。
「先輩は……どうして戦うんですか! 怖くないんですか! 人間なのに、関係ないのに! あんな戦場に行こうとしてる!」
「……怖いよ。死ぬのは怖い。誰かを傷つけるのも怖い。傷付くのも怖い。自分の指示で傷つけてしまうのも怖い。戦いなんて怖い事だらけさ。特に命を賭けた戦いなんてやりたくもないし関わりたくも無い」
「じゃあどうして!」
「……知っているから」
虚空へと手を伸ばす。そこに小さな焔の灯りが見えた気がした。
「自分が傷付く以上に、痛くて、苦しくて、悲しい事があるって事を……自分はもう知っているから」
その焔を強く握り締めると同時に、誰よりも最初に自分の無様な足掻きを称賛してくれた愛すべき皇帝の言葉が過ぎる。
「だから傷付くと分かっていても、拳を握って、顔を上げて、踏み出すんだ。自分と自分の大切な者を護る為に」
拳を握り締めたままギャスパー君へと振り返り、ずっと伝えたかった言葉を贈る。
「大丈夫だよギャスパー君。君はもう……一人でも踏み出せるよ」
それだけ伝えて今度こそ自分も戦場に向けて駆け出す。
「《code:gain_all(d)》」
個別強化を一つに纏めた全能力強化のコードキャストを発動させつつ地面に着地し、帯刀していたエクスカリバーを抜く。
収得した状態で使える能力が一つである以上、神器の方は『豊穣神の器』の能力を使うしかない。というよりも他の選択肢を選べないほどに、この能力は防御面で優秀だ。あとはエクスカリバーの能力二つを状況に合わせて使って行く事が出来れば生存率はかなり上がるだろう。
頭の中で戦術を組み立てながら『加速』の能力を使って一気に加速する。目標はこちらに気付いて魔弾を放とうとしている魔術師だ。
放たれたのは巨大な炎の弾。それを強く踏み込み斜めに前進しながら回避し、相手が次ぎの攻撃を行う前に『破壊』で威力を上げたエクスカリバーを相手の首目掛けて横に水平に振り斬る。
「がっあぁ――!?」
魔術師の首が苦悶の表情を浮かべながら短い悲鳴と共に地面に落下し、残された身体が力無く崩れ落ち、切断面から壊れた噴水の様に不規則な血飛沫をあげる。
まるで野菜を切るかのように殆ど抵抗を感じぬまま切断できてしまった。
それでも聖剣の切れ味に驚いたのは一瞬だった。柄から感じた感触。目の前の凄惨な光景を前に、なんとも言えない気持ちが押し寄せる。
フリードに続いてこれで二人目か……やっぱり慣れないな。
迷いは今もある。それでも、躊躇いはない。何故なら――。
「御主人様!」
「白野!」
「白野君!」
――自分には守るべき者がいるのだから。
すぐに自分に気付いて周りを固めてくれた黒歌とレイナーレ、朱乃の姿に頼もしさと愛おしさが溢れる。
「朱乃はこっちに来て良かったのか?」
「こんな状況です。好きな殿方の傍に居たいと思うのが普通でしょう?」
彼女の言葉にそうだね。と笑って答えて改めて気を引き締める。
「三人共、乱戦になるから周囲の警戒を怠らないように。念話での情報伝達を密に!」
「「了解!」」
三人に指示を出しながら走り出す。平和を望む仲間を一人でも多く救うために。
という訳で本編では二人目の被害者は名も無きモブ魔術師でした。
余談だが、後半の嫁集合のシーン……朱乃を入れるどうするかで一日悩んだ(リアスの傍にいないとまずいとも思ったので)
オリジナルコードキャストその①
【《code:gain_all》】
解説:本編で語ったように『攻撃力』『防御力』『速力』『魔力』の強化を
一纏めに行うゲームに無いオリジナルコードキャスト。
個別強化よりも魔力の消費量は格段に高くなるが効率は良い。