岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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という訳で後編です。



【三陣営会談 後編】

「何かおかしな質問をしましたか?」

 

 場の空気が少しだけ緊迫したものに変わった中で、ミカエルさんへと視線を向けながら尋ねる。

 

「いえ……そうですね。良い機会なのではっきりと申しましょう――既に我々天使を束ねていた聖書の神は存在していません。そもそも聖魔剣を作れたのは聖と魔のバランスが大きく崩れたが故に生まれたイレギュラーな禁手なのです」

 

「なっ!?」

 

「神様が、既にいない!?」

 

 三陣営のトップとその脇に控えている者達以外が驚き目を見開くが、自分はやっぱりという気持ちの方が強かった。

 

 前回の事件でバルパーが今際の際に放った『バランスが崩れた。神もまた……』という言葉とミカエルさんがやって来た事を考えると『神の不在』という結論が一番納得が出来た。

 

 もっとも、まさか死んでいるとは思わなかった。そりゃ創造神の一人が亡くなればバランスは崩れるよなぁ。

 

「この事実は今まで三陣営でも一部の幹部しか知らない機密情報でした。特に我々天使は死活問題に直結しますから」

 

 そしてミカエルさんが今の天界について教えてくれた。

 

 なんでも天界には聖書の神が使っていた『システム』が存在し、今は天使達が扱っているらしい。

 

 しかし元々は神様仕様のシステムな為に十全には扱えず、いくつかの機能は使用不可。さらに使用できるシステムも効果を及ぼす範囲がかなり狭まってしまっているらしい。

 

 しかもそのシステムは物凄く繊細で、『熾天使(セラフ)』と呼ばれる幹部や上位天使以外の者で神の不在を知る者が近くに居ると不具合が出るらしい。

 

 その為天界は元々幾つかの層に分けられていたのだが、不具合がおきないように一定の層に防壁の結界が張られ、特定の者以外の立ち入りを禁止する事になったらしい。

 

 他にも一部の神器はシステムに影響が出てしまと教えられ、一誠が溜まらずに声を上げた。

 

「じゃあ、アーシアが追放されたのはそのせいで?」

 

「いえ。神器のせいではあるのですが、彼女の場合は彼女の行いその物がまずいのです。信徒が敵対者である悪魔や堕天使を癒す。その行いが知られれば信者の信仰に多大な影響を及ぼしてしまいます……言い換えれば我々天使や信徒の為だけに力を使っていただくのなら問題は無いと言うことになりますが……アーシア・アルジェントには無理なお願いだと思ったので追放するしかなかったのです」

 

 まぁそりゃそうだろう。そもそもアーシアは悪魔と知りながら助けてしまう優しい子なのだ。きっと同じような説明をされれば自分から教会を出て行ったに違いない。

 

 にしても神様がいない、か。

 

「良かったんですかそんな重大な情報を自分達に教えて?」

 

「確かに重大な事ですが天界の特定の階層に入らなければ問題ありません。それに今回の和平に伴い、全ての天使には知らせてありますし、教会所属で信頼できる者にも伝えてあります。むしろ疑問を抱いたまま大勢の人の前で神がいないことが露見され、それが広まる方が厄介なのですよ」

 

 なるほど。システムの安全も大事だが、同様に天使の存在に関わる信仰も大事と言うわけか。天使も大変なんだなぁ。

 

 ぶっちゃけ自分が信仰してるのは生前お世話になったり戦った英雄達への信仰だけである。あ、その流れで天照と御狐様も信仰しているか。

 

 とりあえず神様が来なかった理由は分かったので本命の話題に移る。

 

「あと天使の方々に尋ねたいのは聖剣計画です。現在はどういう形になっているのですか? イリナ達の話では死者は出ていないようですが」

 

 聖剣計画については祐斗も気になっているはずなので遠慮せずに尋ねると、ミカエルさんはこれにはすんなりと答えてくれた。

 

「やっている事はバルパーと同じです。戦闘職ではない者からきちんと事情を説明し、その上で正規の手順で聖なる因子を抜き取ります。ただ聖なる因子は兎も角その因子に耐えられる者を鍛える必要もありますから、現在の我々の技術では数年に一人か二人得られれば、と言ったところですね。もちろん命を奪う真似はしていませんよ」

 

 一応バルパーとは違って人道的に処置してくれているみたいだな。

 

「答えて頂きありがとうございます。次に悪魔陣営ですが……サーゼクさん、今冥界では転生悪魔はどういった扱いになっているのですか?」

 

 次にサーゼクスさんへと向き直り、そう尋ねる。

 

 彼は困ったような表情をしながらしばし思案したあとに口を開いた。

 

「純血や混血の翁達は悪魔の駒による転生悪魔を自分達より下位の存在と見ている。というのが現状だね」

 

「……改善は?」

 

「黒歌君の一件が明るみになって、ようはく転生悪魔への待遇改善に向けての政策に乗り出せた段階だよ。正直厳しい状況だ。僕に出来るのは精々僕と繋がりのある者達で可能な限り不当な扱いを受けている転生悪魔の保護を行う事ぐらいだ。何せ戦争では彼らに協力して貰った立場だからね。蔑ろにする訳にも行かない」

 

 なるほど。過去の大戦での恩がある故に今の悪魔の有り方に強く反発できないのか。その辺はなんというか貴族や商人を蔑ろにできない王族みたいだ……というかまんまか?

 

「……黒歌から転生悪魔について色々聞きました。神器持ちと言う理由で無理矢理転生させられた者もいると。もちろん転生した者達全てが不幸だとは思いません。ですが同時に上級悪魔の身勝手で節操の無い行いで苦しんでいる者、不遇な待遇を受けている者がいるのも事実です」

 

 少なくとも自分には現魔王には苦しんでいる転生悪魔を救う責任があると思っている。何故なら悪魔の駒を作ったのが彼らだからだ。

 

 故に『使われる側』として、そして何よりも『知り合いに使われた者』として、はっきりと言わなければならない。

 

「悪魔の駒はもっと厳選した上で渡すべきですし、最悪取り上げるべきだと思います。それと場合によっては眷属から開放し、ちゃんとした上級悪魔への斡旋や保護等の法もしっかりと作るべきかと」

 

 個人的には悪魔の駒を軽はずみに使うのもどうかと思うが、それは人間としての立場の話なので今回は口にしないでおいた。今大事なのは既に転生してしまった人達の安全や生活の改善だ。

 

 サーゼクスさんにそう尋ねると彼とグレイフィアさんは難しい顔をしてしまう。まあ当然だろうな。先にこの手の問題は難しいと言われたばかりなのに、こちらはそこに要求を突きつけたようなものなのだから。

 

「……分かった。今君が行った内容を踏まえて、草案だけは作らせて貰うよ。幸いにして今回の同盟が成れば戦力を増強する為に転生悪魔を増やすと言う当初の政策は見直す事が可能だ。僕自身も、せっかく転生してくれた同胞が傷付くのは気分が良いモノではなかったからね」

 

 サーゼクスさんは一度大きく頷いて真剣な表情で顔を上げると最後にそう了承してくれた。政策に期待できるかは微妙だが小猫ちゃんを助けてくれた実績もあるから最後の言葉はきっと本心だろう。あとは任せるしか無い。

 

 さて、最後は。

 

 アザゼルの方へと視線を向ける。彼はこちらがどんな発言をするのか楽しみにするかのように腕を組んで不敵な笑みを浮かべていた。

 

「……堕天使陣営について訊きたいのは神器の抜き取りについてです。命を失わずに神器を抜き取るのは可能ですか?」

 

「可能か不可能かで言えば『解からない』だ。そもそもそこに到達するのがその技術の目的だからな」

 

 アザゼルの言葉に会議室がザワつく。

 

「で、でも実際にはアーシアは死にかけた! それに俺だってその、レイナーレに殺されたんだぞ」

 

 一誠の言葉にレイナーレが顔を強張らせる。一誠も一瞬躊躇ったが、それでも口にせずにはいられなかったのだろう。

 

「同じ組織でも一枚岩じゃねーのはコカビエルの件で理解しただろ。そもそも対象の命を気にしなければ多少の実力と術式さえ知っていれば無理矢理剥ぐ事自体は誰にでも出来るんだ。その情報が堕天使内で流出しちまった結果、力欲しさに無理矢理奪う奴が出てきたって訳だ」

 

 まぁ、レイナーレの最初の反応を見る限り、堕天使からすれば人間なんて羽虫程度の扱いだろうから、そりゃこっちの命の考慮なんてしてくはくれないだろう。

 

「で、次にお前を殺した理由だが、お前の神器は抜き取り不可だ。なんせ神器その物にドライグが宿っちまっている。つまり、お前がただの人間の時点で殺すしか無かったのさ」

 

 確かに強大な力、それこそ悪魔になってようやく『赤龍帝の籠手』を扱えている一誠だ。人間のままだったら逆に力に飲み込まれて暴走していたかもしれない。

 

「だがそのせいで俺は悪魔だ」

 

「嫌か? 少なくとも今のお前の生活は随分と充実しているようじゃねぇか」

 

 アザゼルの言葉に一誠は難しい表情をさせたあとに口を開いた。

 

「嫌じゃない。悪魔になったお陰で色々経験できたし、嬉しい思いや楽しい思いもしている。けど――」

 

 理屈じゃないと言いたげに一誠が拳を握る。それは多分人間である彼の部分が納得できていないのだろう。

 

「……今更謝るつもりはねぇよ。そのアーシアって子にもな。代わりに俺にしか出来ない事でお前らへの貸しを返してやる。まあ期待してろ」

 

 そう言ってアザゼルは自信に満ちた笑みを浮かべて一誠の話を終わらせる。

 

「で? 赤龍帝に話を折られたが、神器の抜き取りがどうかしたのか?」

 

「……その技術、もっと進めて貰えませんか?」

 

「理由を聞こうか」

 

 アザゼルが興味を示したようで、彼は背凭れから離れて机に肘を付いて前屈みになる。

 

「今日まで自分が出会った神器持ちは、みんな神器に翻弄されて不幸な目に遭っています」

 

 一誠、アーシア、祐斗、そして自分に起きた出来事を思い返す。

 

「自分の周りだけでもそれだ。きっと、神器のせいで同じ人間に化物扱いされたりして普通の生活を送れなくなった者もいると思うんだ。だから、可能ならそういった者達から神器を取り出して普通の、当たり前の人間の世界に戻してあげて欲しい。抜き取った神器は三陣営で分配すればいいし、そちらとしても損は少ないはずだ」

 

 自分の提案に、アザゼルが口から笑みを消して真剣な表情で思案する。

 

「力を手放すのを拒んだら?」

 

「そしたら三陣営で戦力として組み込めば良い……どうせ悪魔の駒のデータで今後は転生天使や堕天使だって出てくるだろうから本人が望むなら転生させればいいし、転生させずにグリゴリや教会の戦士にしても良い……同じ境遇の者がいるだけでもだいぶ違うと思う。とにかく居場所を作ってあげたいんだ。自分らしくいられる居場所さえあれば、人間は立ち上がれるから」

 

 一誠や元士郎に居場所をくれたリアス先輩と蒼那先輩達へと視線を送ったあと、もう一度アザゼルへと視線を戻す。

 

「なるほど、悪くない話だ。悪魔側からの悪魔の駒の情報や神器を生み出した天界の神のシステムの情報が揃えば、また新しいアプローチも可能だろう……いいぜそっち方面の研究も進めておいてやる」

 

 アザゼルの言葉に神器を持つ一誠、そして何故か真羅先輩が嬉しそうな表情をした。もしかしたら彼女も神器持ちだったのかもしれない。

 

 とりあえず現状で言っておきたい事は言い終えたので最後にお礼を述べて頭を軽く下げる。

 

「白野が他に言っておきたい事が無いなら次は今代の白龍皇と赤龍帝に訊こうじゃないか。お前らは世界をどうしたい?」

 

 アザゼルが次に問いかけたのはその身にドラゴンを宿した二人、一誠は突然のことに慌て、もう一人は興味無さそうな表情をしながら閉じていた目を開ける。

 

「俺は戦えればそれで良い」

 

 それこそが自分の全てだと言いた気に、ヴァーリは短くもはっきりと答えてまた目を閉じる。

 

「やれやれ相変わらずか。で、赤龍帝は?」

 

「俺の名前は兵藤一誠だ」

 

 いい加減名前を呼ばれないのを不快に思ったのか、一誠が不機嫌そうな表情でそう言って訂正を求める。

 

「分かった分かった。じゃあ一誠、お前は世界をどうしたい?」

 

「俺は……ハーレム王になる!」

 

 大声でそう宣言する一誠。その姿に全員が目を開いて驚いている。もちろん自分もだ。

 

「んでもってハーレムの嫁さんみんなも! 俺の家族も! 仲間も! 全員もれなく笑ってる世界が、俺の欲しい世界です!!」

 

 力強く宣言して拳を握る……良かった。ハーレム王だけで台詞が終わっていたらどうしようかと本気で心配した!

 

 内心で焦りを抱いているとまずアザゼルが大笑いし、次にサーゼクスさんが笑い、ミカエルさんも控えめにだが小さく笑った。

 

「あはははは! なるほど単純だが好い世界じゃねぇか」

 

「ははは。本当にイッセー君は面白子だね。うん、リーアが気に入るのも分かるよ」

 

「ふふふ。しかし単純ですが中々に心躍る未来ですね」

 

 どうやら三陣営の印象はそれほど悪くは無いみたいだ。

 

「さて、二天龍を宿した二人の意見も聞けたし次は――っ!?」

 

 サーゼクスさんが次の話題を振ろうとしたその時――爆発音が響き渡った。

 

「どうしたの!?」

 

 来たか。嫌な予想ばかり当たるのはどうにかならないもんかねぇ。

 

 自分と黒歌とヴァーリ、そして三陣営のトップ以外の全員が立ち上がって窓側に近寄る。

 

「旧校舎から煙が!?」

 

「やっぱり狙ってきたか。『禍の団』、テロリスト共め」

 

 アザゼルが忌々しそうに吐き捨てる。

 

「っ!? まずいわ旧校舎にはギャスパーが!」

 

「なるほど。敵の狙いはギャスパー君が持つ『停止世界の邪眼』の力か」

 

 リアス先輩が顔を青くして旧校舎で待機しているギャスパー君の事を思い出して叫び、眉を顰めながらサーゼクスさんが旧校舎が狙われたであろう理由を口にする。

 

「わたし達の襲撃のついでに時止めの能力を奪う算段でしょうね。急いでそのキャスパー少年を救出に向かうべきだろうね」

 

「わたしが行きます!」

 

「俺も!」

 

 ミカエルさんの提案にギャスパー君の主であるリアス先輩と仲間の一誠が名乗り出る。

 

「いや、二人共大丈夫だ」

 

 そんな二人をそう呼び止め、立ち上がる。

 

「大丈夫ってどういう意味なの白野?」

 

「こういう意味です。出てきていいよ」

 

 そう言って『透過』の能力を解除する。

 

 瞬間――自分の胸元から一匹の蝙蝠が飛び出してその場で変化を解くと――頭にダンボールを被ったギャスパー君が現れた。

 

「「ええぇぇ!?」」

 

「ヒイイィィごめんなさいいぃぃ!!」

 

 一誠とリアス先輩が盛大に驚いてくれた。うん、その顔が見れて大満足である。これでギャスパー君を落ち込ませた件はチャラにしてあげよう。

 

 自分は三人の反応に満足気に頷きながら、全員へ事情を説明した。

 

 




神のシステムは原作と少し変えております。正直原作の設定だろ色々矛盾が出るので。

というか原作はアーシアはまだ信仰に影響が出ちゃうから分かるけど、ゼノヴィアは人間なんだから追放しなくても良かったと今でも思っています。

仮にゼノヴィアの行動範囲内が既に不具合お及ぼす範囲だと、テロリスト達がそこに押しかけた時点でシステムダウンで天使陣営が負けが確定しちゃうんですよねぇ(テロリストはほぼ全員神の不在を知っていたみたいだし)


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