岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
翌日からギャスパー君を交えたグレモリー眷族のみんなと一緒に早朝訓練が始まった。因みに場所は駒王学園の旧校舎の傍だ。一応黒歌に頼んで旧校舎周辺に人払いの結界は施して貰った。
「うう眠いですぅ。太陽が~日光が~」
ジャージ姿で文句を言うギャスパー君。にしても、まさかパジャマまで女の子みたいなのだとは、まあ棺桶で寝ていたのは吸血鬼ぽかったな。
「こいつ本当に男にゃん?」
眠そうにしながら愚痴るギャスパー君を指差しながら黒歌が訝しむ。
「まあ気持ちは分かる。だが男だ」
「で? 今日はどうするの?」
レイナーレの言葉にとりあえず周りを見回す。
「自分はギャスパー君の訓練を見るから黒歌はみんなを頼む」
「了解にゃん。じゃあみんなまずはランニングで身体を温めるにゃん」
黒歌の号令と共にみんなが学園を出てランニングへと向かう。
「さて、じゃあ自分達は神器の特訓だね」
そう言って蒼那先輩の許可を貰って借りておいたバスケットボールをスポーツバックから取り出す。
ギャスパー君が不可解そうな表情でボールと自分とを交互に見詰める。
「自分がボールを持っているから、ギャスパー君はこのボールだけを止めるつもりで力を使ってくれ。十秒ごとに落として止められているか確認するよ」
「で、でももしボールじゃなくて月野先輩を止めちゃったら……」
「それはそれで構わない。とにかく今はギャスパー君が能力を使ったかどうか自分で知覚できるようになるのが目的だからね。さ、それじゃあ始めよう」
「は、はい。頑張りますうぅ!」
こうして早朝訓練が始まった。
ボールは一回。自分の腕が左右合計で五回。全身が一回。発動失敗が九十三回か。
昼休み。朱乃に作って貰ったお弁当を食べながら、ノートを広げて早朝訓練で百回程ギャスパー君に能力を使って貰った結果を纏める。
結論から言えば予想通りギャスパー君は意識して能力を使うのが下手だった。
何か魔術と同じでキーワードを決めてそれを宣言しながら発動して貰うか。
ノートに色々と考察や今後の方針等をあれこれ書きつつその日のお昼は一人で過ごした。
「
放課後、猫の姿で来て貰った黒歌に今朝同様に人払いの結界を張って貰ってギャスパー君との訓練を開始する。
「ああ。自分が以前浄眼を制御する時に使っていた詠唱、所謂発動の為の自己暗示だな。それと今回はオーラの流れを見て貰うために黒歌にも来て貰った」
「にゃん。今朝振りねギャー君。よろしくにゃん」
そう言って頭の上に乗っていた黒歌が軽く前足を上げる。可愛い。
「か、可愛いですぅ」
やはり可愛い物が好きなのか、ギャスパー君は少々怯えながらだが、その眼は少しだけキラキラしているように見えた。
「さて、それじゃあ練習するか。神器の特訓のあとはギャスパー君の運動神経も見るよ」
「運動は苦手ですぅ」
「大丈夫だ。小猫ちゃんが追い回してくれる。逃げるだけでいい」
そう言って隣でニンニクの入った籠を高らかに掲げる小猫ちゃんを紹介した。
「ひいいぃぃガーリックいやああぁぁ!」
「あ、逃げたにゃん! 追うわよ白音!」
「はい!」
……猫の習性か?
逃げ出したギャスパー君を黒歌と小猫ちゃんが笑顔で追いかけていった……まぁこれも勉強だ。頑張れギャスパー君。
順序は逆になったが折角なのでストップウォッチを起動させてギャスパー君がどれくらいのスタミナがあるかを調べる。というか二人から逃げられている時点で素早いのは間違いないな……必至なだけか?
とりあえず三人を見守りながらノートに色々とメモする。やはり身を守る際の発動率は高く、小猫ちゃんも黒歌も停止させられる回数が多かった。
それと力の差によって停止時間が異なるという仮設はどうやら正しかったようで、黒歌の方が小猫ちゃんよりも停止時間が短かった。この辺りも今後は詰めて行った方がいいだろうな。
結局追い回されたギャスパー君が疲れてダウンしてしまったので、その日の放課後訓練はお休みする事になった。
特訓二日目の朝。やはり悪魔で吸血鬼の為かギャスパー君が日光に対して愚痴るので、苦笑と共に軽く励ましてから訓練を開始する。
「今回は対策を考えようと思う」
「対策ですか?」
「ああ。ギャスパーの能力を防ぐ方法だな。昨日の黒歌と小猫ちゃんとの追いかけっこを見た限り、ギャスパー君との力の差によって神器の効果時間に違いがあるのは間違いない。と言うわけで一誠に協力してもらう事になった」
「おう! 頑張ろうなギャスパー!」
「は、はい!」
一誠が元気一杯に答えると、ギャスパーも釣られて大きな声で返事をする。うん、自分が見れない時は一誠にまかせれば大丈夫そうだな。
普段のエロ発言で誤解されがちだが、一誠は面倒見が良いしコミュ力も高い方だ。朱乃の話だと夜の仕事の時などは部室で待機しているギャスパー君に自ら話しかけて気遣っているらしい。
「まずは倍化無しの一誠の停止時間を計って、次は倍化状態の一誠を止める。その後は自分が『祝福』で身を守った状態。それとオーラで身体強化したり、纏って守った状態ではどうなるかも調べよう。意図的に相手を止めるから、ギャスパー君には辛いかもしれないけど頑張って」
ギャスパー君に向かって激励する。
「は、はいぃ。頑張ります!」
少し動揺はしているようだが、彼も必要な事だと分かっているのだろう。小さくしかしはっきりと頷いてくれ。
「それじゃあ訓練スタートだ」
早朝訓練を終え。今日も今日とて昼休みにギャスパー君の情報を纏める。
まず神器への対策だが、自分が立てていた仮説通りだった。
通常時の一誠は数分間停止していたが、倍化で強化されて行く度に一誠の停止時間が短くなって行った。
れと『破壊』で効果を上げなくても『祝福』だけでも防ぐ事ができた。これは個人的には嬉しい結果だ。正直能力を二つ使ってしまうのは自分の事情としても厳しい状況だったのでありがたい。
もっとも、彼が力をつければいずれは『祝福』だけでは防げないかもしれないが。
それとついでに『豊穣神の器』で防げるか試したが、こっちでは防げなかった。
他にも黒歌にオーラを纏って貰った状態で停止できるか試して貰ったところ、普通に防げた。
これらの情報から、多分ギャスパー君の神器は目から魔力等を飛ばしているのではなく相手に直接干渉して止めている事になる。
ただしその際に『行使された力』よりも『対象側の耐性や力量』が上回っていれば効果が弱まる。といった感じだろうか。
こう考えるとなんか護符的なもんで防げないものか……いや、防ぎ方が解かっただけ良しとしよう。
それにしても、やっぱり発動キーを決めたのは大きいな。
今朝の神器百回使用で、停止箇所は安定しなかったが、発動ミスが初回よりも十回も減った。訓練初めて二日目なら上々の結果だ。
ギャスパー君をその事で褒めたら、恥ずかしそうにしながらそれでも嬉しそうにはにかんでいた……だが男だ。一瞬、本気で可愛いと思ったが男だ。
自分に言い聞かせ、とりあえず放課後の訓練プランを考える。
「『開眼』」
ギャスパー君の言葉の後にボールから手を放す。ボールは見事に宙で停止している。
「うん。じゃあ今日はこれでお終い」
「え? じゃあ今日はもう終わりですか?」
少しだけ期待の篭っている彼の視線に首を横に振る。
「いや、このあとは吸血鬼の力について教えて欲しい。何が出来るのかとか」
「は、はい。えっとですね」
近くの木陰に並んで座り、吸血鬼に出来る事を尋ねる。
まずは変化の能力。これは逸話でも多い。狼や無数の蝙蝠等に化ける奴だ。
次は影を操る能力……凄い反則技だ。もっとも、自分の影以外を操るのはかなり難しいらしい。
あとは月の満ち欠けによる再生能力。満月の日はほぼ不老不死に近い再生能力を有しているんだとか。ただギャスパー君はハーフな上に悪魔なのでこの能力の恩恵は低いらしい。
あと魅了や暗示の魔眼。ギャスパー君はこれも神器のせいで上手く使いこなせないと教えてくれた。普通に魅了が使えていたらきっとそっち系の趣味の人達は一瞬で虜だったろうなぁ。
吸血鬼の能力について説明を終えたギャスパー君は、何故か溜息を吐いて肩を落としてしまった。
「でも、僕はそれらヴァンパイアの能力が上手く扱えません。たぶん血を最低限にしか摂取していないから」
訊けば吸血鬼の力は血の吸い方でだいぶ変わるらしい。
生きた存在から血を十分に飲んでいる者ならその力は安定して振るえ、高威力を発揮できる。ただ生きて行く分には輸血用のパックでも十分なんだとか。
そして逆に血が足りなければ発動すら出来なくなり、仕舞いには栄養失調のように身体を動かす事もままならなくなると教えてくれた。
「ん~じゃあギャスパー君は今はどれも安定して使えないってことか?」
「はいぃ」
「……ふむ。なら自分の血でも飲んでみるか?」
「えええ!? いい、いいです遠慮します! それに血って生臭くて好きじゃないんですぅぅ」
……血が好きじゃないって、もう吸血鬼として致命的じゃね?
血よりも甘い物が欲しいです。と愚痴るギャスパー君を眺めながら、本人が嫌がっているのだから無理強いはよくないと判断し、とりあえず吸血鬼の能力に関してはそれ以上尋ねずに話題を変え、色々と質問したりされたりしながら残りの時間を過ごした。
正直原作よりも訓練をぬるくしてます。
というか原作の訓練って完全にギャスパーが能力を使える前程だったり、無理矢理能力発動させようとしたりで、正直能力制御の訓練としてはどうなの? という疑問があったのでこうなりました。