岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
授業参観という名の羞恥刑から数日経ったある日、朱乃に放課後に予定を空けておいて欲しいと言われたので教室で待っていると、笑顔の朱乃が迎えに来て腕を絡められた。
そのまま腕を絡めたままクラスを出た瞬間に男子からは『爆発しろ!』、一部の女子から『木場君とは遊びだったの!』と言う叫び声が上がった。前半は甘んじて受け止めたが後半は全力で否定した。若干祐斗が落ち込んでいるように見えたのは気のせいだと思いたい。
そんな事もありつつ朱乃に事情を尋ねると、どうやら彼女の実家にお客さんが来るようで、そのお客は自分にも用事がある為、出来れば会いたいと向こうから頼まれたんだとか。
「確か朱乃の家、神社に行くんだよね?」
「ええ、その通りですわ」
朱乃だけは家で暮らしていない。添い寝の日は泊まって行くが、それ以外では彼女が暮らしている神社に帰っている。
朱乃がこちらに暮らす事になった時に家主が死んで放置されていた神社をグレモリーが買い取り改築して悪魔でも参拝できる神社に改築してくれたらしい。
境内には鳥居と、拝殿本殿と母屋が一体となってる建物が一つ。小さな神社だが一人で暮らすには大き過ぎると寂しげに笑いながら朱乃が話してくれたのを覚えている。
「お客様……悪魔関係ですか?」
「いいえ。今回は天使陣営の方々です」
朱乃の言葉に驚き目を見開く。
「え、いいの?」
「……どうやら会談の場所は駒王学園に本決まりになったようですわ。天使の長が今日やって来たのは和平を結ぶ為の下見なのでしょう。悪魔も訪れられる神社なら何かと便利ですから。そのついでに白野君に渡したい物があると言うので、家主のわたしが応対する事になったという言う訳ですわ」
なるほど。一応筋は通っていると思うが、いったいなんの用だろうか。
「そのあとに兵藤君にも用事があるらしく、彼の家に赴くと仰っておりましたわ」
……そう言えばアザゼルも依頼人の振りして一誠と秘密裏に接触していたらしいし、サーゼクスさんも授業参観にかこつけて一誠の家に泊まって接触したって言うし、そんなに自由に動いていいのか幹部の皆様。
そんな事を考えている間に神社の境内に到着すると、意外な人達が出迎えてくれた。
「あ、ハクノン! こっちこっちー!」
「……え? イリナとゼノヴィア?」
そこに居たのは巫女服を着て笑顔を浮かべるイリナとゼノヴィアだった。
「久しぶりだな白野」
「ああ。ところで二人はなんで巫女服を?」
「あら? こっちでのシスターの制服はこれでしょ?」
……いや、間違ってないけど。そもそも信仰の対象が違うんじゃ?
そんな事を考えいると空中に魔方陣が浮かび、そこから黄金に輝く二枚の天使の翼を生やした金髪の男性が現れた。
サーゼクスさん達と同じ気配が肉体を刺激する……もしかしてこの人が。
「初めまして。わたしはミカエル。天使の長をしております」
「今回は急な訪問に応じて頂きありがとうございます」
「いえ。その、いったい自分になんの御用でしょうか?」
朱乃に母屋の客間に案内され、座卓を挟んでミカエルさんと向き合う。
イリナとゼノヴィアは彼の横に控え、こちらは万が一の為に黒歌も転移して貰って黒歌と朱乃が両隣に座っている。これで一応数の上では五分だ。レイナーレは仕事の為に呼ばなかった。
「そうですね。まず最初の用件ですが……我々天使陣営は今度の会談で和平を求めるつもりです」
アザゼルと同じか。やっぱり今の穏健派のトップの行動方針は同じみたいだな。
「アサゼルやサーゼクスも同じ思いでしょう。でなければこのタイミングで三陣営の会談を行おうなどと言うはずがありませんからね。しかしそうなると一つ問題があります。それは三陣営が初の和平を結んだこの地の守護です。一応和平交渉が上手くいった時に悪魔、堕天使、天使それぞれから信頼出来る者をこの地に派遣する旨を各陣営に提案するつもりです」
そこまで話したあと、ミカエルさんは一度言葉を切って朱乃が淹れたお茶で口を潤すと、真剣な表情を浮かべた。
「そしてこここからが本題なのですが、この街に暮らすあなた達にも、どうかこの街の守護に協力して頂きたいのです」
やっぱりか。アザゼルと同じ内容にどう返事したものかと考えていると、ミカエルさんもアザゼルと同じように自身の組織に属する必要はない。あくまで自衛の範囲で構わないと言ってきた。
「……分かりました。自分達が自分達の意思で動けるのなら」
「ええ、それで構わないですよ」
ミカエルさんは嬉しそうに表情綻ばせながら頷く。
「では次の用件に移りますね」
そう言ってミカエルさんがお茶を脇にどかして手を前に軽く翳すと、彼の傍に二つの魔方陣が浮かんで、そこから白銀に輝く義手と僅かに聖なるオーラを放つ刃渡り五、六十センチの鞘に収められた短剣が座卓の上に現れる。
「こちらは今回の一件であなたを巻き込んだ事への三陣営トップからの謝罪と感謝を込めた贈り物です。悪魔や堕天使からでは色々あるので、わたしが代表として贈らせていただきます」
ああ、これがアザゼルが言っていて贈り物か。確かに人間世界だと悪魔や堕天使からの贈り物だと色々騒ぐ組織が多いもんな。
「こちらが悪魔、堕天使からの贈り物でる『
ヌアザ・アガートラーム……自分のダグザ・グラールと同じ、ダーナ神族に肖った名前が付けられた義手を見る。
外見はなんと言うかSFチックな銀の腕に、籠手としてプレートや装飾を軽く施したようなシンプルな造りだ。腕を差し込む部分には穴が空いている。ここに左腕の切断面を入れろという事だろうか?
「その穴に腕を入れることで、まず月野君の肉体の神経とオーラが流れる経絡をリンクさせます。それと普通の人間には義手が人間の腕と同じ外見に見える術式が埋め込まれているので生活に支障はないはずです」
「それは嬉しい機能ですね。お気遣いありがとうございます」
実際問題こんな精巧な義手を身に着けて学園に行ったらどこで手に入れたのか質問攻めに会いそうだし、普段の生活で凄く目立つのは間違いないので素直に喜び、お礼を伝える。
「ではどうぞ。あ、装着時に一度痛みがあるらしいので、それだけはご容赦を。との事です」
「……あ、やっぱり着ける流れですよね」
なんか上手く嵌められた気がしないでもないが左腕が使えるようになるのは正直に言って嬉しい。
……よし!
目の前の義手を手に取り覚悟を決めて嵌める。
瞬間、左腕に電気のような衝撃と痛みが一度駆け抜けて顔を顰める。
「御主人様!?」
「大丈夫ですか白野君!?」
「あ、ああ。言われた通りちょと痛みが走っただけだ」
心配する二人に答えながら義手を二度三度手を閉じたり開いたりする。
……うん。自分の腕を動かすのと同じ感覚だな。
動作感覚の確認のあとは自分の身体や畳に触れ、右手で腕の部分に触れたり撫でたりする。
うん、触感も自分の腕と変わらない。でも触り心地はやっぱり硬いな。
こちらの様子を見て問題無いと判断したのか、ミカエルさんが満足気に頷く。
「その義手は月野君の弱点である肉体の脆さとエネルギー不足を補う為に可能な限り義手自体の強度を上げ、更にエネルギーを蓄積しておく機能と、エネルギーを消費して義手の破損を自動修復する機能もついているそうです」
……なるほど。いざと言う時の盾にもなるってことか。あとで黒歌と色々試してみよう。
「そしてこちらは我々かの贈り物です」
義手の説明を終えたミカエルさんは今度は隣の鞘に納められた聖なる気配を感じる短剣をこちらに寄せる。
「妖精族に依頼してエクスカリバー六本の核である欠片だけで打ち直した文字通り純正の六つの能力を有したエクスカリバーです。剣の種類で言えばグラディウス程度の刀身になってしまいましたが、不純物を取り除いた分、剣自体の強度と聖なるオーラは増しています。つまり聖剣として本来の格へと戻ったという訳です……それで月野君、この剣の能力を複数同時に使えるか試していただけますか?」
「えっと、フリードがやったみたいな透過と擬態の同時使用みたいな感じですか?」
「ええ。元々エクスカリバーの所有者は保有する複数の能力を同時に使用することができます。口伝によれば全盛期のアーサー王は七つの能力を同時に使用できたそうです」
……え? 何そのチート性能。七つの能力同時使用って、どんだけハイスペックだったのさアーサー王!?
もう一度ミカエルさんへ視線を向けると、彼はどこか期待した眼差しで自分を見詰めていた。
……何か思惑があるのだろうが別に能力が使用できるかどうか確認するくらいなら問題ないだろう。
そう思ってエクスカリバーを手にして鞘からは抜かずにそのまま能力を発動する。
まずは『加速』。
身体に不思議な力が満たされる。以前感じたものと同じだ。
次にゼノヴィアが使っていた『破壊』。
更に身体に力が満ちる。現状では問題無い。
次にイリナが使っていた擬態を――っ!?
擬態の能力を発動しようとした瞬間、聖剣から強い抵抗を感じて能力の発動が強制的にカットされた。
「駄目ですね。自分では『二つまで』が限界です」
「……そうですか。『二つも』発動できるのですね」
あれ? 思っていた言葉と違う。
ミカエルさんの前に剣を置いて下げていた視線上げれば、そこには期待通りと言った顔をするミカエルさんと驚いている聖剣使いの二人が居た。
「先ほど説明しましたよね。以前と違ってエクスカリバーは真なる聖剣と云われた頃の格に戻ったと。現状、エクスカリバーの能力を『二つも』扱える者は……教会にはいません」
「……は?」
「因みにゼノヴィアもイリナもそれぞれ適性のある『破壊』と『擬態』を辛うじて扱えるレベルです。それも制御に集中を要する為、逆に戦力が下がる始末です」
そこで一度言葉を切ったミカエルさんは大きく頷きこちらを見据える。
「ですがあなたは二つも能力を行使できた。多分今後鍛えれば同時に行使できる能力の数も増えるはずです……やはりこの剣はあなたに託すのが一番のようですね」
そう言ってミカエルさんはエクスカリバーをもう一度こちらへ寄せる。
「……えっと、いいんですか? 聖剣ですよ?」
「とても言い難いのですが、現状我々では以前のようにバラバラに管理すれば今回の事件の二の舞いになりかねません。しかし貴方の神器ならばエクスカリバーを安全に保管できますし、エクスカリバーの力を活かせることも判りました。以上の理由から、それはあなたが持つべきだと判断したまでです」
つまり宝を腐らせるくらいなら使える者に使って貰おうという事か。この街を守りたいと思っている自分なら立場的にも都合が良かったのだろう。
「この力があなた達に向くかも知れませんよ?」
そう答えた瞬間にゼノヴィアとイリナの表情が険しくなるが、ミカエルさんは気にした様子も無く優しく微笑みを浮かべる。
「どのように振るうも月野君の自由ですよ」
「……はあ。分かりました。受け取っておきます」
そう言って義手と同じくエクスカリバーを受け取る。
「では我々は今度は兵藤一誠君の家に向かいます。今後ともよろしくお願いしますね。あ、それと聖剣の鞘には聖なるオーラが漏れない様に細工しておきましたからお嫁さん達も安全だと思いますよ。気配までは無理でしたが」
「ではな白野」
「またねハクノン!」
三人はその場で転移で姿を消す。それを見届けたあと、鞘に納められたエクスカリバーを見詰めながら、とりあえず『収得』で仕舞う。
その瞬間に六つの能力の情報が送られてくる。
いっきに送られて来た情報に軽い頭痛が起きたがすぐに収まった。
「ふう。なんというか……三陣営はどうしても自分を戦力として考えたいみたいだ」
「ま、力添えするかどうかはこちらが決めるってちゃんと言質取ってあるから大丈夫だとは思うわよ」
「そうですね。贈り物にしても白野君は別に固執している訳ではありませんから返還してしまうのも一つの手ですわ」
黒歌と朱乃がそう言ってこちらを気遣ってくれる。
「ありがとう二人共。向こうが色々言ってきたらそうしよう。さて、それじゃあ帰るか」
「あ、そうですわ白野君。実はわたしも相談があるんです」
立ち上がって帰ろうした時に朱乃が申し訳なさそうな表情でそう告げる。
「相談? 別に構わないよ」
「実は今回のコカビエルの対応への功績が認められ、上から神器を制御できないが故に軟禁状態だった『僧侶』の軟禁解除のお許しが出たのです」
「ああ、そう言えばフェニックスとのゲームの時に言っていたっけ」
「にゃ~大丈夫なの? そんな自分の力を制御できない奴と御主人様を会わせて?」
「むしろそのせいでその子は心を痛めているんです。これまで白野君は色々な人に影響を与えてきました。もしかしたら彼もあなたに会えば何かが変わるかもしれない。わたしとリアスはその変化を期待して一緒に来て欲しいとお願いする事にした。という訳ですわ」
「彼? あ、男ならいいわ。一発かましてくるにゃん御主人様」
気にしていたのはそこかい黒歌?
そんなホイホイ女性とそういう関係になると思われている事に若干ヘコみながら、朱乃のお願いを了承して三人で帰宅した。
帰宅したときに自分に腕が生えている事にビックリした両親に事情を説明すると、二人は喜んでいたが『だからって無茶しないように』と忠告された。その気遣いが嬉しくて笑顔のまま『うん頑張る』と、なんとも矛盾した返答をして二人を苦笑させてしまった。
という訳でようやく義手登場。
あと以前一時だけ投稿していた義手の設定と変更しました。
そして聖剣の設定は原作の聖剣の脆さをカバーする為に考えた独自設定です。そして聖剣はまだ残り一本あるので、まだ強度が上がる設定だったりする(正直そのくらい硬くて良いと思うんだ。アロンダイトと同じ強度なんだから)
そして次回、ようやく彼が出ます。