岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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という訳で授業参観回。メインはタイトル通りです(笑)




【魔王少女が繋いだ絆】

 ヴァーリとの邂逅から数日が経った。

 

 今でも思い出す度に背筋に寒気が走る。

 

 白竜皇のヴァーリ。奴は間違い無く強者だ。それも……やっかいなタイプ。

 

 サーゼクスさんやグレイフィアさんも存在するだけで『あ、勝てない』と思わせる気配を放っているが、彼らはそれを極力抑えている。

 

 しかしヴァーリは違う。奴は自然と漏れるその気配を隠すつもりすら見せなかった。つまり戦う気があるということだ。一誠が手を出していたら間違い無くあの場に自分や祐斗が居ても戦闘を始めていたかもしれない。

 

 まぁ軽くあしらわれて終わりだろうけど。

 

 それくらい、自分達と奴との戦闘力には差がある。

 

 ただし差があるからと言って勝てないわけじゃないけどな。問題は一誠だったが、なんとか持ち直したようで良かった。

 

 一誠はアーシアやリアス先輩の励ましでなんとか気持ちを持ち直したらしい。というよりも持ち直さないとやってられない行事がもうすぐ自分達に降りかかろうとしている。

 

 そう、公開授業の日だ。

 

 忘れがちだが駒王学園には高等部の他に中等部が存在する。

 

 その中等部の後輩や親御さんが高等部の授業の見学に来るのが公開授業なのだが……何故か高等部の生徒の御家族も見学できるようになっている……故に自分達高等部は公開授業とは呼ばず『授業参観』と呼んでいる。

 

「ふんふ~ん♪なに着て行こうかしら、あなた♪」

 

「ふふ、君は何を着ても可愛いけど、僕は無難にスーツだから逆に君が明るい服を着るのはどうかな?」

 

 なんて感じで今日も家の両親はイチャイチャと明日の授業参観に着て行く服を選んでいます。

 

「……わたしも行った方が良いかしら?」

 

「わたしも行きたいにゃ!」

 

「勘弁してください」

 

 期待した目を向ける二人に土下座して勘弁してもらう。どう紹介しろと言うのか。

 

 

 

 

「そして当日がやってきてしまった」

 

 誰にともなく呟く。

 

「今日は白野君のご両親も来るんだよね?」

 

「ああ……そう言えば今日うちがやる授業ってなんだっけ?」

 

 何故かド忘れてしまって少し慌てて祐斗に尋ねる。

 

「歴史だよ。因みにイッセー君のクラスは英語だね」

 

 ああそうだ思い出した思い出した。

 

 慌てて歴史の教科書を取り出す。

 

「ありがとう祐斗」

 

 お礼を伝えると祐斗は気にしないでと言うように笑って手を軽く上げて答えてくれた。最近の祐斗はだいぶ明るくなったと思う。

 

 前はどこか一歩引いて自分からは近付いてこない印象だったが、今はそういう気後れと言うものが無くなった。そのおかげか、クラスのみんなと話す姿をよく見かける。

 

 祐斗のそんな姿を確認していると、予鈴が鳴って教師がやってくる。そして後ろのドアから中等部の後輩達と見知った両親が入ってきた。

 

 ……母さん。桜色のワンピース、似合い過ぎです。

 

 周りから『え? なんで子供が』って感じの視線を向けられているにも拘らず二人は笑顔でこちらに手を振ってくる。

 

 さすがは数十年その視線を向けられていただけあって、二人共鋼の精神の持ち主だ。

 

 そんな両親に自分も手を振り返す。するとクラスメイト達がさすがに驚いてた。気持ちは痛いほど解かる。

 

 そして二度目のチャイムが鳴り、授業が開始される。

 

「さて、今回は少し趣向を変えます。隣では何故か英語なのに粘土を題材にしていますが、わたしはちゃんと歴史を踏まえて題材を出したいとも思います」

 

 ……何故英語なのに粘土?

 

 クラスメイト全員が首を傾げた。

 

 その間に先生が黒板に文字を書く

 

「せっかくですので本日は『英雄と歴史』についてです。大きな事柄には必ず後に英雄と呼ばれる程の偉業を成す者達が現れます。例えば源義経。彼は後に源氏の英雄的存在として語られますが、当時の彼は同じ源氏によって悪とされ裁かれてしまいます。しかし彼の行いは……」

 

 先生の授業はその後も英雄と歴史は切っても切れない存在である事を主軸として、日本や海外の有名な歴史の背景を主要人物の人生を主軸とする事で解かりやすく解説し、中等部の子達は面白そうに話に聞き入っていた。

 

 そして授業が終わった途端――クラスメイトから質問攻めに合った。

 

「あのロリっ子お前の妹か!?」

 

「あの男性はお兄さん!?」

 

 そいて自分はお決まりの台詞を言う。

 

「いいえ父と母です。もうすぐ四十後半です」

 

 そして恒例の一瞬の静寂……そして誰かが真顔で呟く。

 

『え? マジ?』と。

 

 こういう時のために家から証拠写真として自分が中学生の頃の家族写真を見せる。

 

 クラスメイト全員が愕然とする。

 

「馬鹿な。まさか噂の永遠の幼女(エターナルロリータ)が実在し、クラスメイトの母親だと!?」

 

「街の駅で噂の微笑みのリーマンがクラスメイトの父親だと!」

 

「おいなんだその二つ名は! 息子の自分も知らないぞ!」

 

「究極ロリと極限のイケメンの遺伝子……はっ! だから白野もモテる!」

 

「「それだ!!」」

 

 どれだ!?

 

 まだ後輩が全員退室していないのに、そんなの関係ないとばかりに騒ぐいつものクラスの状況に、頭がくらくらした。

 

 

 

 

「はあ、疲れた」

 

 紅茶のパックを飲んで一息入れる。昼休みに入って母さん達は一誠の両親と学園を見て周ると言って分かれた。

 

 レイナーレお手製のお弁当を祐斗と一緒に食べ終えたあと、ちょっと一息つきたかったので購買の自販機でお茶を買ってその場で飲み乾し、自分の教室へと向かう。因みにお弁当は日替わりで明日は黒歌のお弁当だ。

 

 黒歌は必ずお弁当にハートを描くからクラスで爆ぜろ祭りが繰り広げられるからなぁ。

 

「――でさ、さっき上の階の廊下で魔法少女の撮影会が行われてたみたいだぜ」

 

「いや魔法少女ってなんだよそれ。イタ過ぎるだろ。ところで――」

 

 通り過ぎ様に生徒達の噂話の断片が聞こえ、思考がお弁当からそちらに切り替わる。

 

 魔法少女……母さんはその辺りの分別はしっかりしてるからさすがに無いか。

 

 一瞬ヒラヒラの桜色のゴスロリファッションで関西弁の人形を連れた魔法少女の母親の姿が脳裏を過ぎったが、さすがにそれは無いだろうと苦笑と共に頭から追いやる。

 

「うお!?」

 

「きゃっ!?」

 

 そんな馬鹿な事を考えていたせいか、曲がり角から勢いよく飛び出してきた誰かとぶつかってしまい、不意打ちと相手の勢いが思いの他あったせいか、そのまま崩れるように仰向けに倒れる。

 

「ぐっ!」

 

 なんとか相手を抱き止める事に成功するが代わりに後頭部を打ち付けてしまう。物凄く痛い。

 

「あ、ごめんなさい」

 

「あっと、その声は支取先輩?」

 

 まだ視界が軽くぼやけているので尋ねると首を縦に振る仕草が見えた。

 

「え、ええ。本当にごめんなさい。すぐに保健室に行きましょう」

 

 自分の身体の上で支取先輩が上半身を起こす。その時、遠くから何かが落ちる音がした。

 

「そんな……」

 

「あ、お、お姉さま!?」

 

 んん? お姉さま?

 

 ようやく視界がはっきりして見上げると、自分にまたがり上半身を起こして驚いた表情で振り返っている支鳥先輩を捉える。

 

 何事かと首だけ動かしで彼女の視線の先を見ると……顔を青くさせた魔法少女らしき格好の女性がいた。

 

「どういうことなのソーナたん! わたしと言うお姉ちゃんがいながら白昼堂々と男の子を襲うなんて! 不純異性交遊反対! 不純同姓交遊賛成!」

 

 えぇぇ……。

 

 目の前で支取先輩の姉と名乗った女性は、涙目になりながらそんな見当違いなことを堂々と叫んだ。というかなんだ不純同姓交遊って! この学園でそんな発言したら本気にする奴が多発するから止めろ!!

 

「ちちちち違います! 月野君とは廊下でぶつかって!」

 

「ぶつかったらお互いに尻餅をつくもんだよ! なんで馬乗りなの!」

 

 ……確かにこの格好はまずい。

 

 冷静に考えると確かに今の自分達の格好はヤバイ。

 

 自分の腰の上に跨っている支取先輩の姿は確かに端から見ると誤解されそうである。

 

「これは、わたしが勢いをつけ過ぎて前のめりになったのを月野君が抱きしめて庇って――」

 

「抱きしめた!? 最近じゃわたしも全然して貰ってないし、していないハグを……よし、人間界を滅ぼそう」

 

 女性は先ほどまで子供のように喚いていたかと思ったら突然目から光を消して冷笑を浮かべながらとんでもない事を言い放った。

 

「ちょっ!? 支取先輩とりあえず自分はもう大丈夫なんで彼女を宥めに!」

 

「あ、ええそうね!」

 

 珍しく、本当に珍しくいつもの毅然とした表情を失って動揺した表情のまま慌てて自分の上から退いた支取先輩が女性の元に駆け寄る。

 

「お姉さま落ち付いてください!」

 

「……ハグしてくれた止めたげる☆」

 

 困った顔で詰め寄った支取先輩に、女性は表情を一変させてウインクしながらそう要求してきた。瞬間、支取先輩の表情が険しいものへと豹変した。

 

「……はあ。これでいいですかお姉さま?」

 

 呆れた表所で軽く抱きつく支取先輩。そんな先輩に抱きしめられた途端に相手は表情を破顔させる。

 

「ムハー! ソーナたんエナジーがガンガン補充される~☆」

 

 ……とりあえず危機は去ったかな。

 

 女性の気配が一気に緩いものに変わったのを感じて立ち上がって二人に近寄る。

 

「支取先輩、今更ですけどその人は? お姉さんって言ってましたけど」

 

「わたしの姉のセラフォルー・レヴィアタンです」

 

 レヴィアタン……てことは魔王の一人か……そうか魔王なんだ。

 

 イメージとしては確かにこの欲望に忠実な姿は悪魔の魔王っぽい。気配から只者では無いのも理解できる。先程なんて本気で死を覚悟したくらいだ。

 

 ……まぁプライベートだからこれだけ緩いのだろう。うん、きっとそうだ。

 

 無理矢理己を納得させる。その間に支取先輩はセラフォルーさんから離れる。

 

「あ~んもう少し」

 

「お姉さま本当に勘弁してください。何度も言いますがわたしにも立場があるんですよ?」

 

 心底疲れた表情で溜息を吐く支取先輩。なんというか、今後はもっと何か手伝える事があったら手伝おう。

 

 そんな風に支取先輩に同情しつつ、一応自己紹介くらいはした方がいいかと思い、先に名乗る事にする。

 

「えっと、初めまして月野白野です」

 

「あっ。君がサーゼクスちゃんが言ってた人間ちゃんか。きゃは☆ セラフォルー・レヴィアタンだよ☆ さっきはゴメンね~わたしソーナちゃんの事になると周りが見えなくなっちゃうんだよね」

 

 落ちていたステッキを拾い直してポーズをとってこちらにウインクしながら自己紹介してくれたセラフィルーさん。似合っているからいいが、さすがに身内のいる場所にこの格好で来るのはどうか。

 

「あの、セラフォルーさん。失礼を承知で尋ねしますが、その格好は?」

 

 周りには現在誰も居ないが、いつ誰が来るか解からないので一応声を抑えて尋ねる。

 

「役職は魔王だけどわたしは魔法少女に憧れてるの☆ きらめくステッキで天使も堕天使もまとめて抹殺なんだから☆」

 

 あかん。それ魔法少女ちゃう。ただの魔王や。

 

 なぜかエセ関西弁でのツッコミが脳裏を過ぎったがそれもぐっと堪える。なんせ変なツッコミを入れて先程みたいにヤバイ雰囲気になられても困る。

 

「えっと、その魔法少女の衣装には何か特別な能力が?」

 

「ううん無いよ☆ ソーナちゃんの学園に行くから気合入れたの☆」

 

「あ、衣装に特に意味は無いんですね」

 

 そうか。これが気合を入れた一張羅かぁ……キツイなぁ。

 

 隣の支取先輩に視線を送ると、もはや諦めの局地とでも言うべき表情をして落ち込んでいた。小声で『だから呼びたく無かったのよ』とまで言っていた。苦労してるんだなぁ。

 

 よし。支取先輩には日頃の恩もあるからそれを少しでも返すとしよう。

 

「えっと……そ、そうですか。でも衣服がただの服なら、せめて支取先輩の前では魔法少女の衣装ではない服で過ごされては? ほら、支取先輩ってまじめですからこの学園に居るときはセラフィルーさんで言うところの『仕事中』な訳で、場を混乱させる相手はたとえ身内でも怒ったり否定しないといけないと思うんです。つまり……」

 

「つまり?」

 

 小首をかしげるセラフォルーさんにここからが大事とばかりに真剣な表情で答えた。

 

「逆に場に合った衣装で現れれば支取先輩も『自慢の姉』と紹介しやすい!」

 

「――!?」

 

「更に運が良ければ魔法少女お決まりの変身シーンも行える!!」

 

「――――!!」

 

 まさに驚愕と言った表情で固まるセラフォルーさん……そんなにですか?

 

「月野ちゃん……あなたまさか……天才!?」

 

「いえ。ただの凡夫です。雑種です。非才の身です」

 

 そんな方面の天才なんて嫌過ぎるので即答した。

 

「支取先輩だって別に魔法少女に憧れるのは否定してないし、お姉さんを自慢の姉だって紹介したいですよね?」

 

 最後の止めの為に支取先輩に話を振ると、彼女は瞬時に状況を把握したのか力強く頷いた。その瞳には期待と希望が宿っていた。

 

「ええもちろんですお姉さま。わたしもせめて『格好』と『目立ちすぎる行動』さえなんとかしていただければ、今回のように授業参観の日を隠したりしませんし、一緒に歩いて友人達にだって紹介いたします!」

 

 あ、今日のこと隠したんだ。気持ちは分かるけど、ちょっとそれは家族として酷い……でもあの格好でこられる事を考えるとなぁ。

 

「そう。分かったよソーナちゃん! 今度から衣装は魔法少女コスじゃない普通の私服にするね!」

 

「っそ、そうですか! ではお姉さまは先にサーゼクスさま達の元へお戻り頂けますか? わたしは彼を保健室に連れて行きますので」

 

「う~ん一緒に戻りたかったけど仕方ないか。それじゃ月野ちゃん、良い助言ありがとね☆」

 

 そう言って手を振ってスキップしながら去って行くセラフォルーさんを見届けながら溜息を吐くと、支取先輩に肩を思いっきり掴まれて体の向きを変えられた。

 

「ありがとう月野君! 本当に、本当にありがとう!」

 

 そして目尻に涙を溜めながら、長年の悩みから開放されたような安堵した表情をした支取先輩に感謝された。

 

「いや……そんなに悩んでいたんですか?」

 

「ええ。もはや生涯解決しない悩みだと諦めていたわ。だから本当に感謝しているわ。ありがと月野君……そうね。よければ何かお礼をさせて頂戴。今回のお姉さまとの件もあるけど、この前の件でわたし達の手伝いをしてくれたのに、お礼の一つもしていなかったし」

 

「いえ。自衛の為にしただけですから」

 

 そう言って否定すると支取先輩は溜息を吐いて苦笑した。

 

「そうね。あなたはそう言うわね。では言い方を変えます。わたしが個人的にお礼をしたいのよ。わたしに出来る範囲で何かないかしら?」

 

 そう言われては断り難いな。

 

 組織的なお礼ではない以上、ここで断っても支取先輩は諦めないだろう。

 

 ふむ。となると……。

 

「えっと一つお訊きしますが、支取先輩は自分の事をどう思っていますか?」

 

「どう? そうねぇ……頼りになるけど無茶するから心配になる後輩、かしら?」

 

 おう。嬉しいのと申し訳ない気持ちになる返答だ。でもそっか、それなら。

 

「じゃあ自分と『友達』になってください。自分も支取先輩とは友達と知り合いの間柄みたいな感じでしたから。これからは友人として接して欲しいです」

 

「そんなことでいいの?」

 

「ええ。それに友達なら自分も遠慮無くがんがん頼れますから。支取先輩もどんどん頼ってください」

 

 そう言って笑顔で右手を差し出すと、支取先輩は何が可笑しかったのか、小さく笑った後に微笑みながら右手を握り返してくれた。

 

「なるほど。友人にはずうずうしいのね月野君は。それじゃあ遠慮無く接させて貰うわ」

 

「あ、じゃあ名前で呼んでくれると嬉しいです」

 

「あら、ならわたしは……そうね、蒼那と読んで貰おうかしら。偽名でも折角考えたのにリアスがソーナと呼ぶせいでほとんど呼んでくれないのよ。生徒会のみんなは会長だしね」

 

「分かりました蒼那先輩」

 

 お互いに手を握ったまま声に出して笑う。

 

 セラフォルーさんには感謝かな。おかげで蒼那先輩と友達になれたし。

 

 ひとしきり笑ったあとに保健室で一応診て貰ってから教室へと戻った。あとでクラスメイトに聞いたが、昼休み中リアス先輩が泣きながら走りまわり、蒼那先輩はずっと上機嫌だったらしい。

 

 そして帰宅後にリビングで盛大に自分の授業の様子が映された映像の鑑賞会が開かれ、その日は部屋の鍵を閉めて早々に現実から逃げ出した。

 




という訳でソーナとの絆ランクが上がりました。さて、小猫同様にいつでもフラグは立てられる状態にはしたぞっと(立てるかどうか分からないけどな!)


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