岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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お待たせしました。
ようやく新章である会談編に入ります。




【堕天使総督との邂逅】

 聖剣事件から既に数十日。季節は夏へと移っていた。

 

 その間は特に目立った事も無く平和な日々を送っていた。

 

 黒歌とレイナーレと朱乃と早朝訓練したり、学園でみんなと笑い合ったり、朱乃のセクハラに対抗して黒歌とレイナーレのスキンシップが一時期過激になったり、以前よりもさらに親しくなった祐斗と自分を見てクラスメイトの一部が発狂したりと、まぁ特に変化の無い日々だ……あれ?

 

「どうしたにゃん御主人様?」

 

「何かあったの?」

 

「何か気になることでも?」

 

 休日の早朝訓練を終えた帰り道、平穏な日常の回想のはずなのにおかしな部分があったような気がして首を傾げる自分に、頭の上の黒歌と隣を歩くレイナーレと朱乃が訝しげな表情をする。

 

「いや、なんか感覚が麻痺しているような気が……うん、深く考えるのは止めよう」

 

 少なくとも命のやり取りがあった訳ではないのだから問題ないはずだ。

 

 そんな風に結論付けて考えるのを止めて視線を前に移す。

 

 すると目の前から透明な堕天使の翼を生やした黒髪の前髪に金のメッシュをいれ、顎鬚を蓄えた浴衣姿の男性がこちらに歩いてくるのが見え、足を止める。

 

 ここは悪魔の管轄だぞ。なんで堕天使が?

 

 コカビエルの件があるのでその場で注視していると、黒歌も気配に気付いたのかそちらに視線を向け、自分と黒歌の反応から何かあったのかとレイナーレが視線を向けた瞬間――彼女の目が驚愕に見開いた。

 

「そんな……なんであの御方が……」

 

「レイナーレ?」

 

 驚いた表情のまま固まる彼女に声を掛けるが、レイナーレは殆ど反応しない。

 

「ようレイナーレ、久しぶりだな。元気にしてたか?」

 

 声の届く距離まで男性が近付くと、彼は気だるげな表情のまま口元に笑みを浮かべて軽く手を振る。

 

 ……レイナーレを知っている? いや、堕天使なんだから当たり前か。

 

「なあレイナーレ、あの人は知り合いか?」

 

 とりあえず強めに彼女の肩を揺すって問いかけると、彼女は呆けた状態から意識を取り戻すと慌ててこちらへと振り返った。

 

「し、知り合いも何も! あの御方が堕天使達の総督であるアザゼル様よ!」

 

「ははは! ま、そういうことだ。興味深い人間」

 

 レイナーレの言葉を肯定しながら笑う男性。そうか、こいつがアザゼルか。

 

 ならばやることは一つ!

 

 ノーモーションから思いっきり拳を叩きつける。が、それはあっさり回避される。

 

「おいおい、いきなりなんだよ?」

 

「……自分に殴られているべきだったな。アザゼルさん」

 

「なに――ぐは!?」

 

 訝しんだ表情をしたアザゼルの横顔に黒歌のネコパンチ(本気(ガチ))が炸裂する。因みに本気と書いてガチと読むらしい。

 

「あ、アザゼル様ぁぁ!? ちょっと何してるのよ二人共!?」

 

「ふっ。わたし達は誓ったにゃん。いつかアザゼルと出会ったら……」

 

「とりあえず一発殴っておくと!」

 

 黒歌と共に倒れ伏すアザゼルを指差す。

 

「だからって殴り飛ばすことないじゃない!」

 

「でも本人もノリノリで吹っ飛んだぞ?」

 

「え?」

 

「そうにゃん。わたしのパンチが当たった瞬間に自分から後方に跳んで威力を減らしたにゃん。つまり、あそこで大げさに倒れてるのは演技にゃん」

 

 黒歌の拳は確かに当たっていたが、当たると同時にアザゼルは自分から後方に思いっきり跳ぶことで威力を軽減させた。その上であんな派手に吹っ飛んで見せたのだ。意外に芸人気質なのだろうか?

 

「おいおい人が折角ノってやったのにネタバラしするなよな」

 

 そう言って苦笑しながらアザゼルは立ち上がって浴衣の埃を落す。

 

「さて、とりあえず満足したかいお二人さん?」

 

 アザゼルの言葉に黒歌と共に頷く。

 

「それで? 堕天使の総督がいったい何の御用でしょうか?」

 

 朱乃が警戒心全開と言った感じで目を細めて尋ねると、アザゼルはとくに気にした様子も無く頭をかきながら答える。

 

「いやなに、今度この街で三陣営の会談を行う事になったからな。ついでに元部下の様子や赤龍帝、そして神器だけじゃなくて聖剣まで扱え、しかも妖怪、悪魔、堕天使を嫁にした奇特な人間を見に来たって訳だ」

 

 ふむ。敵情視察のようなものだろうか。一応この街は悪魔の支配圏な訳だし……って、なに?

 

「この街で三陣営の会談を行うのか!?」

 

「おう。場所はまだ決まってないがこの街で行うことだけは決定済みだ」

 

 それがどうかしたのかって顔で顎鬚を撫でるアザゼル。しかしこちらはそれどころではない。

 

 おいおい、そんな重要な事をこの街で行ったらこの街は更に危なくなるじゃないか。

 

 例えば三陣営の会談そのものに否定的な感情を持っている奴とかもいるはずだ。そいつらが攻めて来る可能性だってある。

 

「さて、話は変わるがまだ朝飯を食ってなくてな。どこかで落ち着いて食える店を教えて貰えるか? なんなら奢ってやるから一緒にどうだ?」

 

 どうやら堕天使の総督様はすんなり家には帰してくれそうにないみたいだ。

 

 はぁ。とりあえず話が長くなるようならファミレスでいいか。

 

 

 

 

 母さんに電話で友人とフェミレスでご飯を食べる事になったと伝え、気前良く奢ってやる発言をしたアザゼルさんと共にファミレスでモーニングを頼みながら向こうの質問に答えて行く。

 

 まぁもう周知の能力に関しては説明しても問題ないだろう。牽制にもなるし、細かい部分は言っていないしな。

 

「かあ~面白い研究材料が目の前にいるのに手を出せないっていうのは歯痒いぜ。いっそウチに来ないか? ウチは人間でも大歓迎だぞ?」

 

「お断りします。そもそも自分は三陣営のやり方には人間として思うところもあるので」

 

 例えば悪魔だが、彼らは力があるからという理由で『悪魔の駒』を使って他種族を悪魔に転生させている。

 

 天使は教会の人間を使っているが、アーシアやバルパーの対応、そして一誠から聞かされたゼノヴィアの来訪時の対応を見るに、正直一般人を護る気があるのか疑わしい。

 

 堕天使も神器を持つ人間を殺したりもしていることを考えると、人間としては三陣営のどこかに属するのは正直遠慮したい。

 

「ふむ。まぁ、人間のお前の立場だと俺達のような存在に思う所も多いだろうな。じゃあ良い話を一つ。実は俺は今回の会談で和平を申し出るつもりだ」

 

「なっ!? 本気ですかアザゼル様!」

 

 レイナーレがアイスの乗ったスプーンを落すほど動揺しながらアザゼルに再度尋ねると、彼はしっかりと頷いてみせる。朱乃先輩も驚き固まっている。関係の無い黒歌だけはもくもくと目の前のアイスを頬張っている。

 

「おう、本気も本気よ。つーか、他の二人、ミカエルとサーゼクスも口にはしてないか同じ考えだろうぜ。ぶっちゃけ和平自体は全員前々から考えていたのさ。だがその為の切っ掛けが足りなかった。しかし今回の一件には三種族全員が全員に『落ち度』があるって事に出来るわけだ」

 

「……堕天使が犯人であること、天使側の聖剣の管理不足、悪魔側が事が起きるまで事件を解決できなかった。こんなところかな?」

 

「……なるほど。それで現状の管理体制の脆さを理由に和平に持ち込んでしまおう。というのが所謂各陣営の穏健派の考えってことね」

 

 自分の言葉を引き継いで朱乃が答える。

 

 そういうこった。と言って笑うアザゼルはドリンクバーで作ったオリジナルミックスジュースを飲み、『う、これは失敗だな』と苦い顔をする。

 

「しかしアザゼルさん。穏健派が手を組む以上、過激派だって手を組むんじゃないか?」

 

 自分の言葉にアザゼルが、ごもっとも。と答える。

 

「白野の言う通りさ。でもだ白野、実は既に過激派の連中が種族間の枠を超えて手を結んでいたとしたらどうだ?」

 

 アザゼルさんの言葉に自分を含めた全員が目を見開く。だが……なるほどと納得も出来る。

 

「……その場合だとむしろこちらは後手に回っている以上、多少強引にでも理屈を作って協力関係を結ぶ必要がある。ということか?」

 

「ははは! ま、そういうことだ。そいつらの名は『禍の団(カオス・ブリゲード)』。種族の垣根を越えて互いの利害が一致していれば協力し合う所謂テロリストどもだ」

 

 頭が痛くなった。つまり何か? そいつらがもしかしたらこの街に責めてくるかもしれないのか?

 

 会談の場所がどこになるかは分からないが、少なくともリアス先輩が暮らしているのだから狙われる可能性はあるだろう。

 

 こちらが今後に不安を抱いているとアザゼルが苦笑する。

 

「さて、これは本来オフレコなんだが、近々お前に俺達三陣営から贈り物がある」

 

「……どうして人間の白野君に三陣営が?」

 

 朱乃が険しい表情でアザゼルに尋ねる。

 

「まず公的理由だが、今回の事件は三陣営に多大な被害を与えかねない事件だった。その手助けをした人間に褒美を与えるのは当然だろ? ま、褒美をやるから黙っててくれって意味もある」

 

 まあ当然と言えば当然の処置か。だがそれなら記憶を消したりすればいいと思うが……嫌な予感がするな。

 

「で、次に私的な理由だが……はっきり言う。俺達三陣営のトップは互いに口にはしてないが、お前が得ている戦力をこの街を守る為の一つの戦力と考えている。贈り物はその為の戦力増強って訳だ」

 

「なっ! そっちの事情に勝手に御主人様を巻き込むんじゃないわよ!」

 

 今まで興味を示さなかった黒歌が、初めて怒鳴り声を上げてテーブルを叩くが、アザゼルは苦笑して肩を竦めて見せる。

 

「安心しろ。別に組織に属しろとか、積極的に関われだとか、こっちの命令を聞けって言う訳じゃない。さっき白野は感付いていたが、この街はこれから色々荒れる可能性がある。お前らだって自分が住む街で問題が起きたら動かざるをえないだろ?」 

 

「そりゃ、そうだけど……」

 

 黒歌が言い淀む。そんな黒歌の変わりにアザゼルさんを見据える。

 

「つまり自分達は自衛として動くだけでいい、と言う訳ですね。それが結果的に事件解決に繋がれば良し、といった感じですか?」

 

「おう、その通りだ。お前らはただお前達の守りたいもんを守ってくれればいい……んじゃ、今後ともよろしくな」

 

 最後にそう言ってアザゼルさんは去って行った。

 

 やれやれ贈り物って、何を送ってくるつもりなんだか。

 

 だんだんと後戻りできない場所に踏む込みつつある不安を感じながら、みんなで溜息を吐いた。

 

 




個人的にはアザゼルは三陣営のトップでもかなり理解のある人だと思う。というか三陣営のために積極的に働いてるの、この人くらいな気がしてしょうがないのは私だけ?


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