岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】   作:雷鳥

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はい。タイトル通りの祐斗回です。



【そして少年は光を得る】

 グレモリーのみんなと黒歌達がケルベロスを引き付けてくれている間に、自分と祐斗は加速してバルパー達の下へと一気に詰め寄る。しかし突然正面に現れた自分達を見ても、バルパーは興味を示さず、フリードは愉快そうに笑って出迎えるだけだった。

 

「おやおや~? グレモリーの騎士の木場キュンに~生意気なバッドボーイ君。君達が俺達の相手かなぁ?」

 

「お前の相手は自分だ」

 

 そう言って握っていた聖剣を突き付ける

 

「おいおいやる気だねぇ~でもざ~んねんでした! 俺は今武器が無いからこの結界から出るつもりはありませ~んギャハハハハ!」

 

 舌を出してこちらを馬鹿にして大笑いするフリードにイラっと来たが、ガトーや慎二との友好で鍛えた鋼の精神で耐え抜く……あとで覚えてろよ。

 

 とりあえず剣を振って魔方陣から溢れる光の壁を攻撃するが、弾かれてしまう。

 

「……防壁か。破壊するか?」

 

「そうだね。僕達が全力で攻撃すればあるいは」

 

「止めておきたまえ」

 

 こちらを制止したのは呪文を詠唱していたバルパーだった。

 

「術式は既に発動した。後は聖剣が統合すれば完成する。そして完成後、二十分でこの街の霊脈へとエネルギーが送られる。その結果暴走した霊脈によって大規模な地震が発生し、この街は崩壊する。解かるかね? つまり今この魔方陣にはそれだけのエネルギーが込められているという事になる。それを不用意に壊せば……ふむ、少なくとも外にいる悪魔共も含めてこの一体が消し飛ぶだろうね」

 

「……説明どうも。性質が悪いな」

 

 なんてことはない。つまり術式が完成するまで手を出すなと言うことだ。

 

 自分の『豊穣神の器』ならいけるか……いや、リスクの方が高いか?

 

 今まで結界関係でこの力を使用した事がない。それに結界その物のエネルギーに作用させるなら術式が完成してからでも同じはずだ。

 

「手が出せないというのなら、こちらから幾つか質問させて貰おう」

 

「ふむ、構わんよ。わたしも君には少し興味があった。わたしをそんな親の敵のように睨む君にね」

 

 祐斗が魔剣を握ったまま一歩前に出る。

 

「僕は聖剣計画の生き残りだ」

 

「ほう、あの計画の。これは数奇な運命もあるものだ。それで、何が聞きたいのかね?」

 

「どうして僕の同士達を殺した」

 

 祐斗がバルパーを睨みつけながら質問する。しかし当人のバルパーは気にした様子も無く顎に手を当てて首を傾げる。

 

「どうして? 必要な事だったからだが。殺した方が手っ取り早い」

 

「なん、だって……」

 

「ちょっと待て。まさか聖剣計画には彼らを殺す事にも意味があったと言うのか?」

 

 絶句する祐斗に変わってバルパーに質問すると、彼は嬉しそうに笑いながら答えた。

 

「ああもちろん。では最初から説明するとしようか」

 

 そう言ってバルパーは訊いてもいないのに自身の半生を語り出した。

 

 子供の頃から聖剣に、特にエクスカリバーに強い憧れを抱いていたこと。

 

 聖剣使いになる為に訓練したこと。

 

 しかし自分には聖剣を扱う適性が存在しなと知り、絶望したこと。

 

 その後、自身が使えないが故に使える者に憧れたこと。

 

 その憧れはいつしか目標となり、バルパーは使える者を人工的に造る研究に没頭したこと。

 

「……そしてわたしは研究の末に突き止めたのさ。聖剣を使うには『聖なる因子』と呼ばれる生まれながらに持った素質が必要だと。そしてそれが一定値以上の数値が必要だと」

 

 ――おい、まさか。

 

 これまでの情報と、今のバルパーの『一定以上の数値が必要』という情報から、ある結論に達する。

 

「まさかお前――奪ったのか? 殺した連中から」

 

「ほう、そちらの少年は優秀だな。その通り、単純な事だったのだよ。足りないなら足せば良い。それだけのことだったのさ」

 

 だからか。だから……こいつは子供のまま祐斗の仲間を殺したのか。

 

 愉快そうな笑みを浮かべたバルパーが懐から一つの青白く輝く結晶を取り出す。

 

「これは君が居た実験場で作り上げた聖なる因子の結晶だ。これを人間に植え付けることで、その者を聖剣使いへと至らせる」

 

「ヒャハハ。もっとも、俺以外の奴は因子に耐えられずに死んじまったがな。う~んやっぱり俺様ってば生まれながらのスペシャル!」

 

 やはりリスクもあるのか。

 

「……聖なる因子への適性等は調べないのか?」

 

「必要あるまい。適応できるなら良し、ダメなら死体からまた聖なる因子を取り除いて再利用すればいいだけだ」

 

 ……だろうな。

 

 性格的にそう答えるのは分かっていたが、それでも疑問に思った事は尋ねてしまう自分の性格を呪う。

 

「お前達はどこまで多くの命を弄べば気が済むんだ」

 

 祐斗が射殺さんばかりにバルパーとフリードを睨む。

 

「ふん。ならばこいつは貴様にくれてやろう。既に量産の目処は立っている。研究用にと取って置いた物だが、もう用済みだ」

 

 そう言って、バルパーが結界越しに結晶をこちらに向かって放り投げると、結晶は結界に弾かれる事なくこちらにすり抜ける。マジかよコイツ!

 

 まるでゴミでも捨てるかのように投げ寄こしたそれを慌ててキャッチする。

 

「――お前っ」

 

 祐斗の同士達とも言える物をぞんざいに扱うバルパーを睨むが、奴は気にした様子も無く肩を竦める。

 

 頭にきたが……今は無視する。そして浄眼を開眼して結晶を見る。

 

 ――やっぱりだ。

 

 結晶の奥底から僅かに、本当に僅かにだが魂が視えた。この魂こそ、今祐斗がもっとも必要としている答えな気がした。

 

「祐斗、よく聞いてくれ。この結晶に、魂が宿っている」

 

「白野君……?」

 

「浄眼を通して見えるんだ、この結晶に宿る魂が。お前の同志は……ここにいる」

 

 そう言って結晶を祐斗に手渡す。

 

「みんな……僕は、僕はっうう」

 

 祐斗が結晶を握り締めて涙を流す。その涙が結晶に当たった瞬間、結晶に宿っていた魂が突然輝きを増したかと思うと、視界が一気に白く塗りつぶされた。

 

 

 

 

 ここは……。

 

 白野君から同志達の結晶を受け取り、それが輝いたかと思うと僕は見慣れたその場所に立っていた。

 

「ここはどこだ? それに……あの墓のように刺さった剣は?」

 

「白野君?」

 

 隣には『青い眼』、浄眼を完全開眼させた時の瞳の色をさせた白野君が立っていた。彼は不思議そうに目の前のそれを見詰めていた。

 

 僕は立ち上がって彼の隣に立って説明する。

 

「……君の考えている通りアレはお墓だよ。かつて僕が同志達への想いを込めて一つ一つ作り上げた墓標だ」

 

 見晴らしの良いその場所には同志達それぞれへの弔いの想いを込めて造り上げた魔剣がいくつも地面に突き刺さっている。

 

 そう。ある意味ここから『今の僕』は始まったと言っていい。

 

「それにしてもいったい何が……っ!?」

 

 白野君と共に現状に悩んでいると、墓の前に人型の光が集まる。

 

「……そうか。君達が祐斗を呼んだのか」

 

 白野君は何かに気付いたのか警戒を緩める。

 

 彼が警戒を解いたので、悪いものでは無いと判断して僕も視線を前に戻し――その光景に息を呑んだ。

 

 人型の光は次第にその姿を明確にし、墓の前に、一人、また一人と懐かしい姿が現れ始めた。

 

「みんな……」

 

『この結晶に、魂が宿っている』

 

 白野君の言葉を思い出す。僕の目の前に青白く半透明ではあるが、当時とまったく同じ姿で同士達はそこに立っていた。

 

 彼らは皆、優しく微笑んでいた。まるで僕を案じているかのようなこちらを気遣う笑顔だった。

 

 そんな同志達の優しさに、僕は溜まらず涙を流しながらその場で蹲った。

 

「僕はっ、ずっと、ずっと思っていた。僕だけが生きていていいのかって。僕だけが幸せになっていいのかって」

 

 僕よりも夢を持っていた同士がいた。

 

 僕よりも生きたいと望んだ同士がいた。

 

 僕よりも強い意志を持った同士がいた。

 

 僕よりも優しく頼もしい同士がいた。

 

 ただ運が良かった。それだけで僕は今日まで生かされて来た。

 

「良いに決まってる」

 

 強く断言するその声に、僕は声のした方へと振り返る。

 

「……白野君」

 

 そこには真剣な表情で僕を見詰める彼の姿があった。

 

「幸せを望まない生にいったいなんの価値がある。祐斗、お前は……もっと笑っていて良いんだ。彼らもそれを望んでいる」

 

 そう言って白野君が指差した先で、同士達は彼の言葉を肯定するように力強く頷いた。

 

「っくっ。あぁ、ああぁぁ!!」

 

 僕の中で燻っていた黒い何かが涙と共に流れてゆく。

 

 同士達は復讐なんて望んでいなかった。いや、考えてすらいなかった。

 

 ただ……ずっと僕を心配してくれていただけだった。

 

 それが嬉しくて、そして長年の苦悩の答えを得た安堵感で止めどなく涙が溢れてくる。

 

 そんな泣きじゃくる僕の耳に、懐かしい歌が聴こえた。

 

「うう、これ、は……聖歌?」

 

 顔を上げれば同士達が歌っていた。かつて研究所で互いに支え合う為に、明日を信じて生きる為に歌った詩だ。

 

 また慰められてしまった。

 

 ごめんみんな……ありがとう。

 

 僕は涙を袖で拭い、立ち上がって彼らと共に聖歌を口ずさむ。あの日のように、もう一度自分の為に明日を生きる為に。そして彼らに『もう大丈夫だよ』と伝える為に。 

 

 いつの間にか涙は止まっていた。同士の笑顔に釣られたかのように、僕も笑って聖歌を歌っていた。

 

 そして聖歌を歌い終えた僕は同士達をしっかりと見据えて頷いた。

 

「大丈夫だよみんな。僕は、生きて行くよ」

 

 僕の答えに満足したのか、同士達が一人、また一人と光の粒子となって一つになって行く。

 

 そして最後の一人消えると共に、墓の正面の地面に光り輝く一本の光の剣が突き刺さっていた。

 

「……祐斗、今のお前なら受け入れられるさ」

 

「……うん、僕にも聴こえたよ。彼らの声が」

 

 悪魔の自分に聖なる因子に耐えられるかは分からない。それでも、あれを誰かに譲るなんて選択肢は僕の中には無い。

 

 何よりも僕は……あれを僕に託してくれた同士達を信じる。

 

 だって最後に同士達は言ってくれたから。

 

『大丈夫だよ。僕らの心は、いつだって一つだから』

 

 僕はその光の剣の柄を握る。

 

「僕は――聖剣を受け入れる!」

 

 前に進む為に、そして今の僕の大切な人達を護る為に!

 

 新しい決意と共に、僕は光の剣を一気に引き抜いた――。

 

 

 

 

 ――気付けば元の場所、駒王学園へと戻っていた。

 

 先程までのは奴らが足止めの為に見せた幻覚か何かとも疑ったが……自分の中に生まれた暖かい力を感じて、その考えはすぐに吹き飛んだ。

 

「行けるか、祐斗?」

 

 そして隣に立っていた白野君が期待を込めた眼差しで僕に問いかけた。そんな彼に僕は頷き、はっきりと答えた。

 

「……ああ、もちろんだよ白野君!」

 

「それじゃあそろそろ始めよう。どうやら向こうも完成したみたいだしな」

 

 彼と共に倒すべき相手へと振り返る。そこには光り輝く一本の聖剣があった。

 




大変だ。祐斗が士郎してる!!

というか、彼の生い立ちや能力を考えるとまんまな気がしなくもない。きっと正義の味方になるマンに拾われていたら士郎と同じ道を辿った可能性もあったでしょうね。


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