岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
朱乃との話し合いが済んでリビングに向かうと二人が作り終えた夜食を用意して待っていた。
「お疲れにゃん。やっぱりハーレムに入れたのね」
「まあ分かっていた事だけどね。ただあんたはいいの? わたしは堕天使で黒歌は元悪魔殺し。色々とグレモリーには不利になる情報だと思うわよ?」
「心配ないわ。それに――その程度の妨害なんて蹴散らせるほどの力を持てばいいだけですわ」
あ、朱乃のSっ気が発動してる。
目を怪しく光らせて、ふふふ。と笑う彼女に恐ろしいモノを感じながらテーブルにつく。
それと朱乃には家では素で居て欲しいと言ったら喋り方がだいぶ砕けてくれた。代わりに朱乃と呼ぶように強くお願いされてしまったが。
「とりあえず、すぐに動けるようにおにぎりとお味噌汁にしたわ」
「味噌汁はわたしで、おにぎりは黒歌ね……ちゃんと鮭以外も作ったわよね?」
「残念ながら鮭フーレクが足りなくてツナマヨとオカカもあるにゃん。梅干が無かったから漬物を切っといたわ」
……あれ? 黒歌さん、よく考えるとおにぎりの具の三分の三、元は魚じゃないかな?
黒歌がさらっと話題を終わらせたせいで心の中だけでツッコむ。
「そう言えば白野君はお味噌汁やおにぎりは何が好きなかしら?」
「美味しければなんでも」
自分の即答に朱乃が笑顔で口元を引くつかせる。
「あ~ダメよ姫島朱乃。白野は美味しければなんでも大好きな、ある意味で味音痴だから」
「にゃはは。まあ不味い時は不味いって言ってくれるから安心して。それに多少のゲテモノや激辛激甘激苦も行けちゃうから、失敗作もちゃんと食べてくれるしね」
「当たり前だよ。自分の為に作ってくれたんだから最低でも一口は絶対に食べて感想を言う」
それにエリザの一件でかなり鍛えられたからな! ただ不味いだけの料理なんて脳を、内臓を、肉体を揺さぶってくる物理衝撃攻撃型金星料理に比べれば可愛いもんだ!
「な、なるほど。それでも好物はあるのでは?」
「う~ん。あんみつと飴かな」
思えばデザートはあんみつがある時は頼む事が多いし、疲れて甘い物が欲しい時は飴を舐めている事が多い気がする。
「なるほど、覚えておきますわ。にしても、結構話し込んだと思いましたが、まだ相手に動きは無いみたいね」
言われてみれば。
おにぎりを口にしながら時計を見れば一時間は経っている。少なくとももう魔王はこの地にやってきている事になる。
ちょうどいい。少し色々調べてこよう。
「黒歌、すまないが少しアレを試してみる。一緒に来てくれ……何かあったらよろしく頼む」
「アレって……大丈夫にゃん?」
「……疲れるとは思う」
そう言って最後におにぎりを一個頬張り、味噌汁を飲み干し『ごちそうさま』と二人に感謝してから部屋へと向かう。
「あ、何かお手伝いしましょうか?」
「あ~、ゴメン。これは自分と黒歌でしかできないから大丈夫だよ。終わったらちゃんと説明するから」
慣れた黒歌の方がこちらも安心できるので断ると、朱乃が物凄く落胆する。申し訳ないと思いつつも、いつ襲撃があるか分からないので私室へと向かう。
私室に戻った自分は部屋の中央で座禅を組む。そして己の精神を可能な限り落ち着かせる。
さて……やるか。
「じゃあ黒歌……意識の引き上げは頼んだ」
「了解。それにしても、『回路』を開拓するのを早めるなんて……やっぱり聖剣が気になるの?」
さすが、付き合いが長いだけはある。
「ああ……どうにも引っかかる。それにコカビエルの件もある……心象世界と繋がるついでに自分の神器の情報を調べてくる。到達まであと少しだ……一時間経つか連絡あったら無理矢理起こしてくれ」
瞑想によって己の内面世界へ意識を沈ませる。黒歌と修行を始めて数年間続けてようやく出来るようになった『魔術の基礎』の一つだ。
気持ちを落ち着かせ、意識をゆっくりと沈ませて行く。
音が無くなり、目蓋から感じていた光が無くなり、次第に五感の感覚が薄れ――次に目を開けた時には澄んだ青い海の中だった。
よし、成功だ。
水中にいるような浮遊感の中で、自分はその海中に通った一筋の『光の道』の中にいた。
この光の道こそが己の意識と心象世界とを繋げて情報を引き出し送る為の大事な一本の回路。この道が開通し、機能したその時から、ようやく岸波白野の魔術は始まる。
よし、行くか。
意識は徐々に暗い深海へと突き進む。しばらくして光の道が途切れて強い抵抗感が襲う。
まだ途中までしか進めていなかったからな――ここからは忍耐の勝負だ。
体を動かして潜った瞬間、剥き出しの意識にあらゆる情報が送られてくる。
いつ。どこで。誰と。誰から。どうやって。どのようにして。どういったもので。どういう構造で。どういう意味で。どういった用途で。どういった物で。
感情を廃した無機質にして詳細で厖大な情報が縦横無尽に襲ってくる。
常に鈍痛のような重い痛みを受け続ける。
常に鋭く強烈な痛みが襲い掛かってくる。
苦しいし痛い。これだけの痛みを受けながら、進んだ距離はわずか数cm。
割に合わないと叫びそうになるが……それでも、その先に求める物があると信じて、意思は光の道を開拓して行く。
………………深海を沈む。
………深海を進む。
――そしてついに――――岸波白野の意思は――底へと至った。
「っがはっ! はぁ、はぁ……」
「御主人様、大丈夫?」
「ああ、ありがとう黒歌」
仙術による気付けで意識が無理矢理覚醒させられる。
さすがに疲れたな。
黒歌に感謝を述べながら袖で汗を拭って呼吸を整える。その間に『回路』が繋がったかを確認する。
……よし。
身体と魂と精神に一本の筋が通ったような感覚を感じて拳を握る。
「それでどうですか、パスは繋がったの?」
「ああ。ギリギリだったが、これで情報を引き出す事ができる。それと聖剣についても理由が分かったよ」
「それは――っ!?」
黒歌が口を開いた瞬間――あまりにも強烈な気配に、二人揃って息を呑む。
「っ、黒歌外は!」
「大丈夫、誰の気配も感じないわ!」
黒歌に気配を探させながら、急いで一階に降りて下の二人と合流して全員で外に出て様子を伺う。
「……おいおい、なんだあれ?」
見ると学園の方で何やら光が迸っていた。それを確認すると同時に全員の携帯が鳴る。緊急招集の合図だ。
「すぐに準備をして転移するぞ」
傍にあるとみんながピリピリするので自室に置いておいた聖剣を取りに向かう。
私室で聖剣と他の準備を整えてリビングに戻ると、黒歌はいつもの黒い着物を、レイナーレは着慣れた際どいラバースーツ、朱乃はそのまま巫女服でリビングで待機していた。
「準備はいいですね。それでは転移します」
全員が懐からスクロールを取り出して転移と告げると、スクロールから魔法陣が浮かび上がり一瞬視界が白くなる。
次の瞬間には学園の正門前に立っていた。すぐ近くにリアス先輩達が居たので朱乃が話かける。
「部長、状況は?」
「……コカビエルは現在お兄様と異空間で戦っているわ。グレイフィア及び数名の上級悪魔がその空間の維持を行っているわ」
「コカビエルが見付かったんですか?」
「その辺りは全員集まってから説明するわ」
確かに説明する手間もおしいか。みんなもすぐに来るだろうし。
自分のその予想通り、数分の内に生徒会の面々、そしてオカルト部の全員、そして驚くことにアーシアと一誠と一緒にゼノヴィアまだ現れた。
「ゼノヴィア、良かった無事だったか。イリナは?」
「……彼女は戦線離脱だ。命に別状は無いが、正直アーシア・アルジェントに回復して貰わなければ危なかった」
事情を訊くと、どうやら二人は途中でコカビエルと遭遇し、戦闘になって聖剣を奪われてしまったらしい。その際にイリナが自分を庇って怪我をし、アーシアの存在を知っていた彼女はイリナの治療の為に一誠の家へと向かい、治療を頼んだそうだ。
「恥知らずなのは承知している。だが他にイリナを助ける方法がなかった。アーシア・アルジェント、この戦いに生き残ったら、わたしに出来る形で貴女への暴言の罪と、仲間を癒してくれた感謝をさせて欲しい」
「そそ、そんな。わたしはただ、わたしに出来る事をしただけですから」
ゼノヴィアの態度にアーシアが困惑した表情で慌てて拒絶する。
「……まあ考えておいてくれ。今は奴らを止めるのが優先だ」
そう言ってゼノヴィアは突然詠唱を始める。するとその手にエクスカリバーが霞むほどの光り輝く大剣が現れる。
「それは……聖剣か?」
「御名答。聖剣デュランダル。わたしが本来使用する聖剣だ。イリナがわたしを庇った理由はエクスカリバーを無くしてもわたしならまだ戦力になると考えたからだろう」
なるほど。確かに逸話通りの本物のデュランダルならば、大抵の者なら退治出来る気がする。
「と言うわけで、ゼノヴィアとも一時的に共同戦線を張るわ。それじゃあ時間が無いから手短に状況を説明するわよ」
部長が全員に聞こえるように説明する。内容としては部長の家にサーゼクスさん達が到着して三十分後くらいにコカビエルが姿を現してサーゼクスさん達に決闘を申し込み、サーゼクスさんがそれを承諾し、今は悪魔側が用意した異空間で二人が戦っているらしい。
そしてコカビエルが消えてから数分後にイリナを連れたゼノヴィアが現れ、彼女から彼らが何をしようとしていたのかを聞かされたらしい。
なんでもバルパーとコカビエルは聖剣同士を結合させて、その際に生じる強大なエネルギーによってこの土地を破壊して再度の戦争を引き起こすことが目的だったらしい。
そしてコカビエルがいなくなって更に三十分後に駒王学園から光が迸って今に至る。と言うわけだ。
「……ちょっと待った。ならなんでコカビエルはサーゼクスさんと戦っているんだ?」
「分からないわ。自分が居なくても問題ないのか、それとも魔王なんて倒せると思っているのか、それとも足止めか、とにかくわたし達のやるべき事は一つ。この先にいるバルパーを倒して儀式を止めることよ」
リアス先輩がそう締めくくり、いまだ光を迸らせる学園の校庭へと視線を向ける。
「……確かに校庭の方に人間の魂が二つ。それと変な魂があるな」
完全開眼で遮蔽物を無視して校庭の方を視ると、そこには人間の魂が二つに、見たことの無い魂が二つ存在していた。
「どうやら向こうもきっちり迎撃の用意はしていたみたいね。ソーナ」
「ええ。わたし達シトリー眷属が学園に防壁を張ります。グレモリー眷属はバルパーの撃破を。それと大変心苦しいですが、白野君達もバルパーの撃破をお願いします」
「「了解」」
支取先輩の指示に従って、全員がそれぞれのやるべきことの為に駆け出す。
「……うっわぁ。ケルベロスって本当にいるんだな」
校庭にやってきた自分達の目の前には巨大な光り輝く魔法陣と、その中央に光り輝く四本の剣、その脇には詠唱するバルパーと、その隣に控えるフリード。
そして彼らを守るように二匹の巨大な三叉の首を持った犬の魔獣……そう、神話なんて知らない人でも名前くらいは知っているだろう有名な魔獣――魔犬ケルベロスが、狛犬の様にそこに鎮座していた。
「あれって本物ですか?」
「ええ。冥界の地獄の門周辺に生息しているわ」
冷や汗を流す一誠に部長が険しい表情で頷く。というか生息って、そんなに沢山いるのかよ。フィールドモンスター扱いじゃないですかヤダー。
冥界は恐ろしい所だと、改めて思い知った。
「アレをどうにかしないとバルパーを止められそうにないな」
ゼノヴィアの言葉に頷きながら策を考える。
「……ここは三手に別れよう」
「というと?」
興味深そうにリアス先輩が尋ねてくる。
「まずバルパーとあのフリードと言う神父だが……自分と祐斗で相手する」
「白野君……」
祐斗が意外といった感じに目を見開く。
「……それは祐斗の為かしら?」
リアス先輩が探るようにこちらを見詰める。そんな彼女に頷き返す。
「それもありますが、正直人間の自分があれを相手にするのは……いささか厳しい」
十メートルはありそうな巨体に鋭く尖った爪や牙、更にはあの硬そうな体毛だ、攻撃が通るか怪しい。というかあれの相手をするって、恐竜を相手にするようなもんだろ。リアルジュラシックパークとか洒落にならん!
「アレを相手にするなら、まだ人間のフリード達を相手にした方が戦えると思う。幸い、加速能力のある聖剣は自分が持っているしね」
自分の言葉にリアス先輩が、なるほど。と言って頷く。
「ケルベロスの方の指揮はリアス先輩に任せます。どうでしょう?」
「そうね……分かったわ。白野の作戦で行きましょう。祐斗」
「はい」
リアス先輩が真剣な表情で祐斗の肩に手を置く。
「終わらせてきなさい。そして……帰ってきなさい。いいわね?」
「……はい!」
リアス先輩の言葉に、祐斗はしばらく目蓋を閉じ、開けた時には強い決意の炎が宿った瞳をしていた。
……これなら自分がもう何か言わなくても大丈夫かな。
「黒歌、朱乃、悪いけど二人はケルベロスの一体を相手に時間を稼いで。その間にわたし達は全力でもう一体の方を片付けるわ。光力を使えるレイナーレと聖剣を持つゼノヴィアを主軸に戦うわよ。アーシアは怪我をした相手を回復。一誠は譲渡やドラゴン・ショットで援護。小猫とゼノヴィアが前衛、レイナーレとわたしは空から攻撃する。いいわね!」
リアス先輩の指示に全員が頷く。
「全員作戦開始!」
そしてリアス先輩の号令と共に戦いの狼煙があがった。
黒歌達を指揮してケルベロスと戦わせるか最後まで悩んだけど、結局聖剣VS聖剣の方にしました。