岸波白野の転生物語【ハイスクールD×D編】【完結】 作:雷鳥
「……いったい何が?」
一誠が口を開いた瞬間。廃屋の中から派手な音が響いた。
「だあああもう許さねえぇぞ! このビッチ&バッドボーイが!」
廃屋から出てきたのは口から血を流しながら血走った目でこちらを睨む神父だった。黒歌のあれをくらって生きてるとか、あいつも化物じみてるな。
「フリード!」
「あ゛あ゛? っておいおいおいおいおい! ここに来てイッセー君に木場きゅんに知らない人に、更にはオチビな悪魔にア~シアたんのご登場ですって? 何この主人公のピンチに颯爽と仲間が駆けつけるみたいなシチュ、ゲロ吐きそうなんでやめて貰えませんかねぇ?」
一誠がフリードと呼んだ神父は不満気な表情で髪を掻き毟りながら頭を振る。ところで知らない人と言うの元士郎の事か?
「いったいなんの騒ぎだフリード……ん?」
そんなフリードの背後の廃屋、フリードが突っ込んで開けられた穴から、フリードと似たような神父服を纏った初老の男が現れる。どうやら廃屋で見えた魂は彼のモノらしい。
「バルパーのじいさん、見りゃ解かんでしょうよ? おいら達ぜっさん包囲網の中って訳ですよ」
「バルパーだと!?」
「てことはアイツが木場の仲間を!?」
祐斗が親の仇といわんばかりにバルパーと呼ばれた男を睨み、一誠は驚きと戸惑いの表情を浮かべる。
どうも自分の知らないところで色々と動きがあったようだな。
「貴様がバルパー・ガリレイか?」
「いかにも」
祐斗の言葉に頷きながら、バルパーと呼ばれた老人がこちらに視線を向ける。
「ふぅ……どうやら聖剣の一本を奪い返されたようだな」
「いや~油断しちった。テヘペロ」
そう言いながら舌を出して一切反省の色を見せないフリードに、バルパーが溜息を吐く。
「まぁいい。時間も押している。そいつが持っている剣は捨て置け。【
「ほほいのほいっと。んじゃ、みなさん次回をお楽しみにってね! ばいちゃ!」
フリードが着ていたコートを広げると、そこにはもう一本の剣が存在し、それを握った瞬間にやつらの姿が消えていく。
一瞬驚いたが――どうやら自分の眼の前では無意味だったようだ。
「黒歌! 右上の屋根の上だ!」
「はい!」
黒歌が魔弾を作って指示した場所に放つ。
「うおおおい!? なんで見えてんですかバルパーのじいさん!?」
「解からん。が、どうやらあの男には我々の姿が見えているようだ」
声は聞こえるし、魂も見えるが、やはり姿は見えない。あれは厄介な剣みたいだな。
「待てバルパー!」
祐斗が騎士の恩恵を使って加速して追いかけようとした。
まずい! 今祐斗を向かわせてもきっと勝てない!
だが今の自分では祐斗に追いつけない。
なんとか止めないと。そう思った瞬間、持っていた聖剣が光り、聖剣から力が流れ込み、手にした聖剣の『能力』が頭に送られてくる。
「待つのはお前だ祐斗!」
「っ!? 白野君、どうして!?」
突然目の前に現れた自分に、祐斗が驚いた表情で足を止める。
「え? 白野いま……」
「加速……まさか御主人様、奴と同じように聖剣の能力を使ったの!?」
黒歌の言葉に全員が目を見開き、次にこちらに視線を向けてくる。
「……ああ、どうやらそうみたいだ。理由は解からないが聖剣を使えるらしい。というかエクスカリバーって一つじゃないのか?」
加速能力のエクスカリバーなんて聞いたことが無いぞ? それともガラティーンと一緒でこの世界では『聖剣』という意味でエクスカリバーと名乗っているのか?
「先輩、あのですね……」
小猫ちゃんがやってきて聖剣について教えてくれた。
なんでも真の聖剣エクスカリバーは大戦時に折れてしまったらしい。
当時は打ち直す技術が無かったのか、それとも他に事情があったのかは分からないが、その後エクスカリバーは折れた刀身と備わっていた能力を七つに分ける事で、今のエクスカリバーシリーズとして蘇った。
エクスカリバーが七本もあるって……なんというか、ちょっと冷めるな。
生前自分が見た二本のエクスカリバーは担い手はもとより、聖剣その物に美しさと尊厳が備わった輝きを放っていた。
しかし今手元にある聖剣からはそれが感じられない。まるで『殺す為』だけに作り直されたような、そんな鈍い輝きを放っている。
まあ戦争中だったって話しだし、どんだけ言い繕っても聖剣も剣である以上は武器なんだから在り方としては間違ってないんだけど……なんか納得できない。
「ところで、みんなはどうしてここに?」
「俺達は聖剣使いを探していたんだ。その途中で争う音が聞こえて向かったらお前達がいたって感じだな」
一誠が軽く事情を説明してくれた。纏めると、彼らは祐斗の為に独断でイリナ達と共同戦線を張る為に探していたが、その途中でリアス部長に招集を受け、事情を聞き、正式にイリナ達に共闘を持ちかける為に探していたんだそうだ。
「で? これからどうする?」
事情を聞き終えた自分が一誠達にそう尋ねると、一誠と元士郎が難しい顔をする。
「とりあえず部長達に報告しないと、あと悪いんだけど白野達も来てくれ」
「そうだな直接戦ったのは白野達だし、俺達よりも詳しく説明してくれるだろう……ところで白野」
「ん? どうした元士郎?」
元士郎が真剣な表情でこちらに詰め寄り、肩を掴む。
「その後ろのお二人とは、どういう関係だ!」
……この緊迫した場面で訊く事か?
「どんな関係って……」
まあ良い機会か。
「結婚を前提とした恋人だけど?」
「「――え?」」
「御主人様からそんな言葉が! ニャアアアア! テンション上がってキタァァ♪」
「ちょ、そんなはっきり……まあ悪くないけど」
黒歌が胸を押さえて喜色満面の笑みを浮かべ、レイナーレは恥ずかしそうに顔を赤くしてそっぽを向くが、口元には嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「コノヤロウ!」
「ごふ!」
なぜか一誠に涙を流されながら殴られた。馬鹿な見えなかっただと!?
「ちくしょう!」
「げふ!?」
さらに追い討ちをかける様に涙を流した元士郎に殴られた。そしてこちらも動きを見切れなかった!
「な、何をする!?」
「「うるせー! お前なんて刺されて死じまえこの女たらしがぁぁ! 羨ましいぞちくしょぉぉおお!!」
二人は叫び声を上げながら一目散にその場から駆け出して行った。
「自分がいったい何をしたと……」
「あの、その、おめでとうございます」
「……これからは
アーシアが顔を赤くしながらも興味津々と言った顔で拍手し、小猫ちゃんが真顔で顎に手を当てて考え込んでいる。
「……祐斗、どうすればいい?」
「……とりあえず部室に帰ろうか」
周りのカオスっぷりに、さすがに祐斗の毒気も抜かれたのか、溜息を吐いて大人しく歩き出す。
それを見届けて、自分も立ち上がって体を伸ばしながら溜息を吐く。
「ふう。やれやれ結局合流か」
「なぜかしら。遠回りに遠回りを重ねた結果、結局同じ道に戻って来たこの疲労感は……」
「仕方ないにゃん。もはや御主人様の業ね。巻き込まれた以上は被害を最小限に抑えるように頑張るしかないわ」
三人揃って改めて盛大に溜息を吐きながら、自分達も祐斗達の後に続いて学園へと向かう事になった。
「結婚を前提に付き合ってください」
「―――」
部室に入った瞬間に朱乃先輩に詰め寄られ、開口一番にそう告げられた。
「…………」
周りに視線を向けるが、誰もが視線を逸らす。
どうしろと?
背後から黒歌とレイナーレから強烈なプレッシャーを受ける。
「えっと……冗談で――」
「冗談じゃありませんよ♪」
「ア、ハイ」
物凄く怖い笑顔で否定された。
ええぇぇ? だって朱乃先輩は自分の事が好きなような素振りなんて見せなかったじゃないか。セクハラしかされてないんだぞ。っは! まさか……。
「身体目当て!!」
「違い……いえ、最終的には致すのですから目当てと言えば身体も含まれますわね。あ、でも誤解しないでくださいね白野君。わたし、あなたの全てが目当てですわ♪」
………うああああ! 桜達と似たタイプだあああああ!?
嘘だ! あの大和撫子だけどちょっと子供っぽい悪戯好きのおちゃめなお姉さん属性の朱乃先輩がなんでこうなった!?
「ちょおおおっと待った! 御主人様のハーレムに加わりたいと言うのなら!」
「こちらが提示する条件を満たして貰うわよ!」
どこかのご隠居のお供よろしく、自分を庇うように前に出る黒歌とレイナーレって、ハーレム入りに条件なんてあるの? 本人が知らないよ!?
「……いいでしょう。まずはその条件を聞きましょう」
「それじゃあここで話したらみんなの迷惑になるからあっちで話すにゃん」
「じゃあちょっと隣の空き教室を借りるわねリアス・グレモリー」
それだけ言って三人は部室を去っていった。
「……こ、これから重要な会議があるんじゃないのか? というか、その、もしかして、アレが朱乃先輩の素ですか?」
「……まあ、少なくともあなたに対してはアレが素の朱乃よ。そりゃまぁ、ずっと狙っていた恋人候補が既にハーレムを持っているって知ったら、ああなるわよね」
ちょっと待って欲しい。あれが自分に対しての素って、え? これからあの朱乃先輩と接していかないといけないの?
「若干病んでいた気もしないでもないですが……とりあえず我々だけで会議を再開しましょう。ほら、他の皆さんも怯えてないで着席しなさい」
生徒会長らしく場を纏めた支取先輩が、数回手を打ち鳴らして先程の修羅の空気に怯えていたみんなを正気に戻す……でも当事者の自分にとっては問題を先送りにしただけにすぎない。
「こえぇ。あれが修羅場か、俺もハーレム持つときは気をつけないと」
「いやホント、さっきは殴って悪かったな白野。お前だけ絶賛別の事件の真っ最中だが、まあ頑張れ!」
「お前ら……」
同情するなら助けろよ!
同情したように優しく笑う一誠と元士郎を睨みつつ、今はコカビエル達が優先と我慢して二人への仕返しはせずに木場の隣に座る。
「さて、現在我々の申請で魔王様がこちらに向かっています。リアスの話では到着は早くても今から一時間後。そのあとは直接この地で指揮を取る事になりました。その間に我々は可能ならコカビエルを達を見つけ出してその動向を監視する予定でしたが……」
「まさかバルパーに聖剣を使うフリードまでいるなんて……今後の行動を見直さないと」
「その事なんですけど、少し疑問があるんです」
リアス先輩と支取先輩の話しに割り込む。
「疑問ですか? いったい何に疑問を?」
「ええ。どうしてバルパーはまだこの街にいるんでしょうか? 自分と聖剣使いの二人、イリナとゼノヴィアはコカビエルはあくまで陽動であり、バルパーが聖剣を持って街を脱出していると、当初は考えていました。ですが……」
「……なるほど。その当のバルパーはいまだにこの街に潜伏している。更に言えば奴らはこちらを見ても慌てて逃げる素振りも、焦った様子も無かった。その行動に納得ができないって事だね」
木場が自分の推理を引き継いで口にする。合っているので首を縦に振って肯定する。
「俺達悪魔と聖剣使いの監視で逃げられないからじゃないのか?」
「それだったらそもそも聖剣使いが来る前や、悪魔の監視が厳しくなる前に逃げるだろ?」
一誠の問いにそう反論すると、一誠がそりゃそっか。と言って納得する。
そう。逃げるなら早い方が良いに決まってるのに、なんで今日まで逃げなかったのか、それが問題だ。
「……もしかしたら彼らには何か別の目的があるのかもしれませんね」
「ええ。でもいったい何が目的なのかが解からない」
支取先輩の言葉に全員が難しい顔で唸る。
「……とりあえず魔王様が来るのを待つしかないわね。後手に周るのは癪だけど、今は彼らが動いた時にすぐに動けるように警戒しておく事しかできないわ」
「と言う事は一時解散ですか?」
一誠の言葉にリアス先輩が頷く。
「ええ。学園に寝泊りとも思ったけど、襲撃されて誰かに被害があるといけないわ。ここがわたし達の拠点だという事は向こうにもバレているでしょうけど、生徒会のメンバーやわたし達が寝泊りしている場所までは把握していないはずよ。だから魔王様もわたしが寝泊りしている一誠の家に転移して貰う様に頼んでおいたわ」
おお、以外に考えられている。確かに拠点に待機していて、空から攻撃されたら終わりだ……やっぱ制空権って大事なんだなぁ。
「そういう訳で、学園には使い魔と感知結界を配置して監視します。全員学園に転移できるように正門前に転移術式を施しておきました。これから転移用のスクロールを渡します。全員召集の連絡が着たらこれを使って学園まで転移すること。いいですね?」
「「了解!」」
リアス先輩と支取先輩の言葉に彼らの眷属が力強く返事を返す。
ただ一人、祐斗だけはまだ浮かない顔をしていた。
……ま、それは自分もなんだけどね。
聖剣の件……何故自分が使えたのかが、どうしても気なっていた。
みんなは偶々適正があったと思っているみたいだが……以前、一度だけ別の聖剣を持った事がある。
紫藤イリナの家にあった聖剣だ。
あの聖剣の名前は知らないが……今回のようになんらかの反応を示すなんて事は無かった。
それに聖剣を使った時に感じたあの感覚は『豊穣神の器』を使った時と同じだった……ありえるのかそんな事?
これは一度確かめる必要があるな。
聖剣について真剣に悩んでいる自分の耳に、扉が開かれる音が聞こえる。
そして振り返って――そもそもそんな聖剣なんてどうでもよくなるくらいの問題が、目の前に現れた。
「不束者ですが、よろしくお願いしますね白野君♪」
そこには笑顔の朱乃先輩と呆れた表情の黒歌とレイナーレが立っていた。無意識に頬が引きつり血の気が引いた。
いつから、エクスカリバー編の主役が祐斗や聖剣組だと錯覚していた……いやホントに、どうしてこんな流れに、作者が鏡花水月を喰らった気分だ!
でも流れ的に朱乃がここで行動しないのはおかしいので、仕方ないね!